今どきの子どもたち、公園でどう遊ぶ?
昼休みのサラリーマン、あるいはホームレスが占拠する今どきの公園。シーソーやジャングルジムなど定番遊具もない。略取・誘拐の危険も隣り合わせ。子どもたちは公園でどう遊ぶのか!?
独身時代はさして気にも留めなかったのに、子どもを産んだ途端、トラウマのように心にひっかかる場所。それが〈公園〉だ。
「長男が生まれてまもなく、雑誌とか読み漁って持ち物からファッションまで完全装備で行ったの。いわゆる公園デビューってやつね。そしたら昼休みのサラリーマンしかいなくてさ。肩透かしくらっちゃったわ~(笑)」
先日、親しい母親友達とお茶をしていたときに耳にしたエピソードである。『公園デビューなどくだらん!』というのは簡単。現に、出産前の私もそういう考えの持ち主であった。ところが、産前・産後の約1年間、一般社会と離れているとそれまでの人間関係がどうにもぎこちなくなってくる。ホルモン・バランスの不安定な身体、慣れない子育て。孤独を深めるママ一年生にとって、同類に出会う確率の高い公園は、救済を求める特別な場所なのだ。
しかし、公園に救済を求めても救われるとは限らない。特に、少子化に悩む東京23区のヘソともいわれるわがS区では、前述のようなケースは決して珍しくないのだ。遭遇したのが、昼休みのサラリーマンならまだしも、ホームレスのシマになっている公園も多い。バブルの爪あとなのかなんなのか、大小やたらと区立公園はあるのだが、そこで世間話する公園ママたちや子どもたちの姿を見かけることはまずない。
公園デビューにつまずいた過去を持つ母親たちにとって、次なる課題は〈子どもたちの公園デビュー〉だ。かくいう私もホームレスに出端をくじかれた負け組なのだが、そのせいかどうも公園にいいイメージが持てない。だが、公立小学校に入学してまもなく地域の友達が増えると、双子たちはさっそく言い始めた。
「ねー、○○公園行ってもいい?」
きたーっ! 公園デビューだぁ! 子ども同士で約束をして近所の公園で遊ぶ。これぞ小学生ライフの決定版ではないか。しかしそんな子どもたちの成長がうれしい反面、薄暗く人気のない公園のイメージが頭をよぎる……。このご時勢、放課後の公園遊びは、決して安全とはいえない。でも、ここは〈子どもたちの約束〉を尊重すべきだ、と思った。公園遊びに始まる拙い約束を守ることから、子ども時代に培われる大事な何かがはじまるような気がしたのだ。
あれから一年。
連日のように公園に繰り出すときもあれば、約束しても誰も来ないと肩を落として帰ってくる日もあった。泣いたり、笑ったり、ケンカしたり、上級生に守られたり……公園ではいろんなことが起こっているらしい。そのうち、彼らの約束は公園を飛び出し、雨の日でもOKな地元博物館の無料ラウンジを探し出したりもしている。
そこで、彼らは公園でいったいどんな遊びをしているのか? 実は、いまどきの公園には遊具がほとんどないのである。
「ママ、シーソーってどういうのだっけ?」
つい先日、息子に尋ねられて愕然とした。
「ほらギッタン、バッコンするやつだよ」
「えー、そう?」
なんとなくわかったようなわからないような息子。『あれだけ公園で遊んでいてシーソーもわからないのか? 大丈夫だろうか、うちのは……』といくつかある近所の公園を思い浮かべてみると、あいやー、確かにシーソーはない。昔は公園の定番遊具だったが、ケガしてはいけないという管理局の配慮だろうか。いまの定番は滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場くらいのものだ。ジャングルジムは、木製のアスレチック風遊具に変わり、小さなお友達でも安全に楽しめるようになっている。
遊具の少なさだけではない。ボール禁止、自転車乗り入れ禁止。サッカーの練習はもちろん、キャッチボールもできない。ただでさえ、ボール遊びできる路地などないのに、広いフィールドを持つ公園でもボール禁止となると、現代っ子の体力が落ちてもしかるべし……という気になってしまうほど、いまどきの公園は禁止事項のオンパレードなのだ。嗚呼、ひどい。
しかし、それでも子どもたちは「公園に行ってくる」と出かけていく。彼らは禁止だらけの公園で何をして遊んでいるのか? ある日、こっそり覗いて、思わず笑いを噛みしめた。なんと近くの薬局からダンボールをもらい、公園に落ちていた角材を巧みに使ってダンボールハウスならぬ〈秘密基地〉を作っていたのだ。こりゃあ、いい!
子どもたちの意趣返し。
身近なホームレスに学び、子どもの魂の結晶〈秘密基地〉を作り上げた彼ら。考えすぎな大人には想像もつかない面白いことが、公園遊びにはあるのだ。子どもの安全は大事。だが、小学生になったら彼らを信頼して、ときに手と目を離してやることも大事。そんなとき子どもたちは、大人の想像を超えた創造力を発揮する。そして時代とともに様変わりはしても公園は〈子どもたちの大切な場〉に違いない。
(イラスト:Yoko Tanaka)
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