2004.04.27
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なにぃ~!?60人のはずの新入生が39人!? (はじめての公立小)

突然の学校選択制試行で奔走し、考えに考えた末、入学を決めたA校。そのてん末は前回号に詳しいが、そのA校の入学説明会で衝撃の発表が! 双子の母、テラダの学校探しは振り出しに戻るのか!?

 2月半ば、バタバタと幼稚園の卒園準備が進むなか、入学予定のA校で入学説明会が行われた。初めての公立小学校入学、男・女の双子、学校選択制……と、進路に迷いどおしだった私が最終的に選択したのは、学区・隣接区でもっとも入学希望児童数が多かったA校。昨秋行われた入学児健診に参加したのは60名近く。片道25分の徒歩通学は子どもの足には辛いだろうが、それでも双子を同じクラスにも、また別々のクラスに分けることもできるという<選択>の魅力は捨てがたい。周囲にはA校以外、複数クラスになる可能性のある学校はなく、距離に目をつぶっての最終決定だった。

 ところが、である! A校の入学説明会の当日、受付で名前を告げると、心なしか名簿が薄い……。嫌な予感。すると、校長先生が挨拶に立った。

「保護者の皆様が一番気にしておられるのは、児童数かと思われますが、現在のところ新1年生は39名……」
「エエーッ!?」

 会場となった図書室がどよめく。なかでも誰より大きな声を上げてしまったのは私だった。2クラス編成になるには、41名の児童が必要だ。それが39名……あと二人足りない。結果、新1年生は1クラスということだ。いったい、健康診断に来ていたあと20名もの児童はどこに消えてしまったのだろう。国立か? 私立か? 駅向こうにある名門公立小学校への越境か? いやいや、消えた20名のことも、ましてや学校を恨むのも筋違いだ。お受験に受かれば私立に進学するだろう。公立小学校に児童流出を防ぐ手立てはない。しかし、それでもうらめしいのは、入学説明会のその日まで、児童数の増減が一切知らされなかったことだ。教育委員会には、事前に最終選択結果を送付してある。とすれば、委員会が入学証明書を郵送する年始の段階で、ある程度の児童数を把握していたはずだ。学校選択制がスタートした昨春から、人一倍、児童数に敏感だった私は、コツコツと区の広報紙やHPをチェックしてきた。ところが希望児童数の増減に関して情報が更新されることは一度としてなかったのだ……。

 入学説明会は淡々と進んでいく。冊子が配られ、ベテランの生活指導教諭による説明が行われ、保健、栄養の解説、通学路別によるリボンの配布、帽子のサイズ確認……ひととおり聞いてはいたが、頭のなかを占めていたのは『どうするA校???』。複数クラスの希望がついえたいま、残るのは片道25分の遠距離通学。たしかに100周年を迎える伝統校だけあって、学校経営に前向きな校長・教頭、教諭もベテラン、校内も美しく、A校には魅力がいっぱいある。いっぱいあるが、1年生の小さな体に、片道25分を背負わせるだけの『もう一歩』がない。双子の我が家にとって、それが複数クラスだったのだ。おまけに、1クラスというのなら、我が家から徒歩10秒。まさに目の前に、少人数制のB校が存在するのだから……。
 とりあえずの手続きを終え、外に出た私は迷いに迷っていた。あと2人増えさえすれば、2クラスになるA校。3月は異動シーズンとはいえ、流入の保証などもちろんない。保証はないが、2人くらいなら可能性がないこともない。でも、流入がなければ、残るのは雨の日も雪の日も片道25分。一方、クラスは20人程度。1~6年まで全学年1クラスしかないが、チャイムが鳴ってから家を出ても間に合う目の前のB校。これ以上ないぐらい通学路は安全かつアットホーム。地元に愛され、地元に守られた学校だ。さて、どうするか。私の学校選択は、入学説明会まできて再び白紙に戻ってしまった。
 しかし、二人が初めて学ぶ小学校を軽々しく決めることはできない。度重なる家族会議の結果、区の教育委員会に申し入れをし、双子の特別措置として、3月半ばまで最終決定を待ってもらうこととなった。春の異動・引越しによる、児童の流出・流入が落ち着くのがその頃という委員会のアドバイスに従ったのだ。3月に入り、卒園式の予行練習が始まった。1週間たっても、人数に変動はなかった。卒園式は3月18日。進路を決めずに、幼稚園を出るわけにもいかない。そうして迎えた3月17日。卒園式を翌日に控え、我が家は最後の最後にB校への入学を決めた。『やっぱり近いほうがいいよ』という息子の軽~い一言と、『どこの学校に行っても、私が私としてがんばるだけだから』という娘の重~く真理を突いた一言が決め手だった。一年の歳月を費やした私の学校選択がようやく終わった。

 4月6日。ちょっぴり大人っぽい正装に身を包み、我が家の双子はB校への入学をはたした。講堂の中央に並べられた22個のイス。その新入生席を丸く取り囲むように、5年生、6年生、職員、そして60名近い多数の来賓。2年生ははじめての下級生のために学校生活を芝居仕立てで好演し、その舞台にも、講堂の花道にも、パンジーの花が揺れていた。パンジーはこの日のために、卒業生が育てていってくれたのだという。校長も、教師も、児童も、来賓も、卒業生も、ひとりひとりの顔が見える手作り感いっぱいの入学式。学校選択の説明会では見えなかった学校の顔。東京・S区。オフィスビルの谷間の小学校は、新入生たった22名。されど22名。イキイキとした子どもたちの笑顔に、迷いはふっきれた。さぁ、小学校生活が始まる。

(イラスト:Yoko Tanaka)

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