2021.08.04
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やりたいことが見つからない子が心配です

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「やりたいことが見つからない子が心配です」。親としては子どもの夢を応援したいですよね。でも、肝心の本人にやりたいことも好きなこともないようなときにはどうしたらいいでしょうか?

子どもをよく観察して、たくさんの経験をさせましょう

もし、子どもに聞いても将来の夢がなく、やりたいことが見つからない様子だったとしたら、焦らずまずは普段の様子をよく観察しましょう。きっと何かあるはずです。何をやっているときが一番楽しそうにしていますか。探す気持ちがあれば見つかると思います。
いろいろなことを経験させて、好きなものを探すこともいいですね。私は美術館や科学館、公園など新しい体験ができる場所には、子どもたちを連れてよく行きました。どんなものにふれたときにウキウキしているのか、やってみないと分かりません。
世の中にはたくさんの仕事がありますから、様々な職種の人たちと会うことも大切にしていました。記者や外交官、スポーツ選手、ボランティア活動などをしている知人にお願いして子どもと友達になってもらったり、職場を見学させてもらったこともあります。子どもの周りにいる大人が直接、仕事の話をすることが一番分かりやすいですよね。学校でも親の仕事についてインタビューしたり、保護者が学校にきて仕事について話したりする授業があると思います。保護者の中にも消防士や建築家などいろいろな職業の人がいますから、もしそういった授業がなければPTAで企画するのも面白いかもしれません。

やりたいことは変わるのが当たり前

長男のときは、私も初めての子育てなので本当に迷いました。「コックになりたい」と言うので、料理はたくさん教えました。でも、9歳になったときに突然、「コックになるのはやめた」って言ったんです。
長男は魚が好きで釣りも上手だったので、私は知っている限りすべての水族館に連れて行きました。実は、長男は政治家に向いていると思っていました。彼はリーダーシップや組織力があって、社会を良くすることにも関心が高いタイプだからです。実際に大学生のときに、インターンシップとして政治家のところで働いてみたこともあります。結局、政治の仕事には興味は持てず、今はアメリカでCOOをやっています。社員のやる気を引き出したり、世の中を変えるようなシステムを作っているのをみると、なるほど彼に合っている役割だと思います。
結果的にコックにはならなかったし、魚関係の仕事にもつきませんでしたが、興味あることに取り組んで、身に付けたことは一つも無駄になっていません。彼は今でも料理が上手で、奥さんや友人に手料理を振る舞って喜ばれているし、釣りが大好きで魚にも詳しいです。大きな趣味ができて人生が豊かになっています。
子どもはやりたいことや興味がコロコロ変わるものです。「あんなに応援したのに」「将来は〇〇になると思ったのに」ってがっかりするのは無し!子どもに才能を感じたり、将来の夢を聞いたりすると、親はつい喜んでしまいますけど、所詮は勝手な思い込みです。親にできることは、子どもの様子をよく見て、いろいろな経験をさせること。せっかく始めたことをやめてしまっても、「これは天職ではないんだね」「早く分かってよかった」と思って、次の夢を応援しましょう。
スタンフォード大でも、将来の進路や希望を変える学生がたくさんいます。スタンフォードのデータを調べたところ、3年生になって専攻を決める際に、入学時に考えていた専攻と変わった学生が80%もいます。親元から離れて世間を見て、本を読んだりインターンを経験したりして、やりたいことが変わっているんですね。


一生をかける仕事に出会えなくても素敵な人生

子どもが将来どんなことをするのかというのは、生活環境にも影響されるし、先天的な能力や運もあって、正直なところ誰にも分かりません。私も声に特徴があるからということで偶然スカウトされて、歌手の道が決まりました。イチロー選手のような天才だったら、野球選手になるのは必然でしょう。でも、普通は何になりたいのかなんてすぐには分からないんです。
でも、大きな機械の歯車として漫然と過ごすより、自分が興味を持って打ち込めることがあったほうが人生は楽しいです。それは、別に仕事でなくてもいいと思います。仕事は生活費を稼ぐためのもので、プライベートでは好きなことに命を懸けて取り組むのも、ひとつの人生です。昼間はセールスマンをして、夜は家で野球チームを応援することが何よりも生きがいっていう人もたくさんいます。もちろん医師や看護師、学校の先生など使命感がなくてはできない大変な仕事もたくさんあります。でもみんなが、好きなことを仕事にして無我夢中で生涯をかけて働かなくてもいいんです。地元のお祭りが大事で、地域をおこしていくっていう人も必要です。ボランティア活動に参加することや、趣味の旅行や写真、音楽、ダンス……で、友達を作って思いっきり楽しむのも、その子にあった人生。
子どもが好きなものに出会えて人生を楽しんでくれれば、親としてはうれしいことです。


アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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