2021.07.07
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10代の子どもに生活習慣を注意しても聞いてもらえません

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「10代の子どもに生活習慣を注意しても聞いてもらえません」です。中高生になると子どもは自立し始める反面、夜は遅くまで起きていて、朝はなかなか起きてこない、注意しても親の言うことを聞かないなど生活習慣の管理も難しくなります。子どもの意志に任せていては生活習慣が乱れる一方、こんなときどうしたらいいでしょうか?

生活習慣とは「管理する」ものではなく、「育てる」もの

親が子どもの生活習慣を「管理する」、まずこの考え方が違います。
植物を育てるのと同じように、親は子どものためにできるだけのことをやって、自然に成長していくのを見守るしかないんです。そうしないと、親が一日中、子どものことを監視して「こうしなさい」「ああしなさい」って言わないといけなくなります。子どもも周りから言われなければ何もやらなくなってしまいます。
子どもを管理しやすいように規則正しい生活をさせるのではありません。将来、自分の力で生活ができるように、生き生きと力強く生きていくための習慣を育てるんです。

良い生活習慣を身に付けるためには、小さなときから、その子にとっての優先順位を決めてあげることが大切です。
朝起きてから、夜寝るまで、すべてのことがきちんと決まっているなんて、つまらない毎日だと思いませんか。だから、「これだけはやらないといけないよね」っていう優先順位を決めて、やるべきことをやれば、全てを規則通りにやらなくてもいいと思うんです。朝起きたら顔を洗うとか、学校に遅刻しないとか、子どもの年齢に合わせて良い習慣を育てていきましょう。

ティーンエージャーになってしまったらもう手遅れ?

中高生なら自分で判断できる年齢ですから、「あなたが今、生きていくためには何が必要?何をしないといけない?」と、何を優先するのか一緒に考えてみましょう。
お風呂だって、毎日入りたい子と、一日おきでも構わない子がいます。朝の身支度に時間がかかる子もいれば、ぼさぼさの髪のまま登校する子もいます。朝10分でも多く寝たいのか、それとも早く起きてシャワーを浴びたいのか。自分で考えて優先順位を決めてもらいましょう。そして、子どもがどうしても優先したいことについては、悪い習慣だと決めつけずに理解してあげたいですね。
例えば、髪の毛をきちんとセットしてから出掛けたい子の場合、毎朝、時間をかけて髪の毛をブローするので、家族が洗面所を使えなくて困るかもしれません。でも、「早くしなさい」「みんなの迷惑です」と否定せずに、廊下や子ども部屋に鏡を置いて、そこでドライヤーを使ってもらえばいいんです。
我が家では次男がお風呂で本を読むので、みんながお風呂に入れなくて困っていました。だけど、彼はどうしても湯船に浸かりながら本を読みたいらしいんです。そこで、彼は考えて「他の人が途中でお風呂に入ってきてもいい」って決めました。だから、私たちも彼のことを邪魔しないよう「ちょっと失礼」といってお風呂に入ります。その子が大切にしていることを否定せずに、お互いに許しあえるのが家族だと思うんです。髪を丁寧にセットすることも、お風呂で読書することも、悪いことではないですよね。

「朝、子どもがなかなか起きない」というのもよく聞く悩みです。成長期の子どもが眠いのは当然だと思います。心と身体が急成長しているときですから、睡眠はたっぷり必要です。睡眠時間を確保するためには、早く寝たほうがいいですけど、現代では夜も電気に明るく照らされていて、身体のリズムは混乱しています。農耕社会だったころのように、日が沈んだら寝て、日の出とともに起きるっていうわけにはいかないんです。ライフスタイルが変化しているのに、子どもを無理に早起きさせるのは成長に良くないのではないかという研究もされています。実際に、アメリカの高校では始業時間を遅らせるところも出てきています。実施した学校では、生徒たちの機嫌もよくなり、集中力もアップしたそうです。

とはいっても、今の日本では朝は起きて学校に行かないといけません。
私も子どもたちには「早く起きることは自然に反していてつらいかもしれないけど、社会のシステムが変わるまでは仕方ありません。頑張りましょう」と話していました。
案外、子どもに任せてみたらうまくいくかもしれません。我が家では親を起こすのは、子どもの役目でした。長男が小学校2年生のときに、私たちが寝坊して、子どもを起こせなくて遅刻したことがあるんです。そのことで長男が文句を言ったときに、パパが「学校に行きたいのは君です。明日からは、君が私たちを起こさなければ学校に行かなくていいです」といって、彼に目覚まし時計を渡しました。もし私たちが早く起きても、子どもが呼びに来るまではベッドからは出ません。子どもを起こさないと決めてから、遅刻したことはありません。子どもは自分で自分の生活を管理する能力を持っているんです。大人に言われてやるのではなく、自分で納得していればやるべきことを自分でやることができます。

小さな目標から少しずつ、子ども自身の力で達成していきましょう

もし、子どもが自分で決めた生活ルールを守れていないとしたら、「少し目標が高すぎるんじゃない?」と聞いてみましょう。遅くまで起きているのをやめたいんだったら、「23時50分」「23時45分」「23時40分」と少しずつ目標を変えていって、子どもが自分自身の力で達成することが大切です。
高い山をふもとから少しずつ登っていくように、少しずつ自分の人生をコントロールする力を身に付けていく。そのほうが子どももたくましく育ちます。
親がいろいろやりすぎると、育つ花も枯れてしまいます。よい生活習慣が育っていくのを見守るという気持ちで付き合いましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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