2021.03.03
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子育て中に病気になったらどうする?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「子育て中に病気になったらどうする?」です。突然の事態に慌てないように、普段からできることについて考えました。

夫婦はお互いに助け合う子育てのセーフティネット

子育て中の親が倒れるというのは、家族にとっての一大事です。家事や育児を夫婦のうちのどちらかが担っていた場合、家の中はいきなり大変な状況に陥ってしまいます。だから、健康なときからセーフティネットは考えておくべきです。夫婦というのは「保険」です。いざというときにお互いが助け合い、子どもを育て、生活を支えるための存在なんです。子育ては一日では覚えきれなので、日ごろから経験して、夫婦がお互いに親として成長しておくことが大きな保険になります。

大事なのは「家事」ではなくて、「育児」ができるようになっておくこと。掃除や洗濯、料理といった家事は、実はやらなくても生きていけるんです。料理ができなくても外食すればいいし、部屋が散らかっていても、服がしわだらけでも何とかなります。でも、子育てだけは誰かがやらないといけないことです。

「子どもの下着はどこにある?」「そろそろ買い換えなきゃいけない靴下はどれ?」「何時に学校に行く?」といったことを知ることができるのは、一緒に暮らしている保護者だけなんです。こうしたことを夫婦がともに把握していますか? 保険証がどこにあるとか、外出するときは日焼け止めを塗るとか、本当に小さいこと。そういうことが、生活の中ですごく大事なんです。

「家事」ではなく「育児」ができる親になるために

もし、夫婦のどちらかに育児を任せているようだったら、一度練習してみましょう。普段、子どもの世話をしている方が24時間留守にしてみるのはどうですか。子どもを預けて遊びたいとか息抜きしたいっていう意味ではありませんよ。これも訓練です。食事を作り置きしたり、細々と書き置きをしたりしなくても大丈夫。1日くらいコンビニで買ったお弁当を食べてもいいんですから。でも、子どもが何を食べたいかも分からない、電子レンジも使えないようでは困りますよね。

子どもと二人だけでお出掛けしてみるのもいいですね。自分で持ち物を準備したり、外出先で何か起きたときにどうしようって考えたりするのはいい経験になります。子どもと一緒に出掛けるのに、ティッシュも持ってない人もいますよね。特に仕事一筋の人の場合は危険です。

ほかにも、学校からのお知らせメールや習い事の通知など、夫婦のどちらかだけが受け取っていませんか。パパとママ、両方のアドレスを登録して、両方に届くようにしておくといいですね。学校の電話番号や担任の先生の名前などをリストにした「育児必要帳」も作っておくと安心です。交通事故や突然の発作などの場合は意識がないので、子どものことをあれこれと確認することはできません。

真面目で責任感が強い人ほど、「子育ては自分がやるべきことだ」と、とにかく人に迷惑を掛けないようにします。だけど、パートナーのことも良い親に育てましょう。それは自分のためではなくて、家族のためでもあります。自分ひとりですべてをやろうとすることは愛情の掛け間違いです。いざというときに、お互いがきちんと対処できたほうが家族にとってもストレスは少ないんです。ですから、子育てについて最低限のことはできるようにしておくこと。これは一番のアドバイスです。

でも、もし家族があまり協力的でない場合は別のセーフティネットを考えておきましょう。子どもにとっての祖父母や叔父、叔母など、頼れる人はいますか。身内が高齢だったり、遠くに住んでいたりして難しいようなら、助け合えるような子育ての友達を作りましょう。それも無理なら、いざというときにお願いできるベビーシッターや公的な制度を調べておきましょう。

家族の優しさを素直に受け入れましょう

親が病気だって知ったら子どもは不安になるかもしれませんね。でも、私は自分の病状については子どもたちに正直に話すようにしています。病気を隠したり、「大丈夫だよ」「治るよ」と言ったりしても、子どもは信じません。「もう会えないのかな」「痛いのかな」「いなくなったらどうしよう」って、想像がエスカレートしていくことが危ないんです。だから、隠さずに直接、顔を見て話すことが大事です。たとえ良い結果でも悪い結果でも、子どもたちには、大切な人のことを知る権利があります。

それと、もう一つ。病気になった自分のことを責めないでほしいんです。病気って誰のせいでもないし、自分のせいでもないんです。家族に対して迷惑を掛けてしまった気持ちが強くて、つい「ごめんなさい」って言ってしまう場合があるんですけど、それは避けた方がいいです。自分を責めても病気はよくならないし、謝ってばかりいると夫婦間もぎくしゃくしてしまいます。

そうではなくて、「ありがとう」の気持ちで家族の優しさに素直に感謝しましょう。誰でも病気にはなるし、人生の中で必ず経験するものです。治る病気もあれば、治らない病気もある。それを受け止めるしかないんですよね。

地震のような自然災害と一緒だと思います。地震が来るのは誰のせいでもないし、地球を責める人もいません。病気に備えて準備することは、防災訓練と同じです。対策しておけば慌てずにすみます。私たちだって一日で子育てを覚えたわけではないですからね。必死でできるようになったんです。子育てをマスターするのは時間がかかると思いますので、早め早めに準備しておきましょう。

もし、子育ては任せっきりだという人がこの連載を読んでいたら、パートナーが入院したらどうなるか想像してみてください。朝はどうする?残業のときは?病院に差し入れしたり、看病もありますよね。自分ひとりでは絶対無理だと思うかもしれません。だからこそ、普段からお互いに支え合える存在になれるように備えておきましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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