子どもと一緒にパンデミックを乗り切ろう!

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「子どもと一緒にパンデミックを乗り切ろう!」です。先の見えないコロナ禍における子どもの心理的負担とその対応について考えました。
不安の渦の中にいる子どもたち
長引くコロナ禍で私が一番心配しているのは、メンタル面です。たくさんの人がダメージを受けているのではないかと思います。ロックダウンのような自粛生活をしていると誰にも会わないし、話す相手もいないので、心が弱っていても周りは気が付けません。日本でもここ10年ほどは減少傾向にあった自殺者数が2020年から増えつつあるように、これは世界中の問題です。
新型コロナウイルスによる影響は仕事やお金など大人の問題だと思っているかもしれませんが、とんでもありません。子どもたちは周りのストレスを一身に受け、「今、何が起きているのか」「自分に何ができるのか」「いつまで続くのか」って、大人よりも不安の渦の中にいるんです。この不安な気持ちが何なのかも分からないし、聞かれてもよく分からない。よく分からないんだけど何かがおかしい、分からないけどつらいっていうことが一番、耐えにくい状況なんです。
だから、子どもにも分かる言葉で、今の状況をはっきりと話すことをおすすめします。「なんで外出できないのか」「なんで皆マスクをするのか」、正しい情報を選んできちんと説明することが大切です。
今、私たちは100年ものあいだ一度も経験したことがないパンデミックの中で、答えを探しながら毎日を過ごしています。少しでも良くなるための手段を探る中で、唯一の救いが子どもは感染しても重症になる確率が低いと言われていることです。だから、子どもたちの存在が、みんなの希望になっているんです。「君たちが元気でいれば大人は頑張れるんだよ。一緒に頑張ろうね」と、前向きなメッセージを子どもに伝えてください。家族と一緒にこの戦いの中にいる、そうすると、子どもは目標ができるんです。どんなに小さな子どもでも、目標ができて有意義な毎日を過ごしていると思うと力が湧いてくるんですね。子どもと相談しながら、一丸となって乗り越えていくのは、すごく大事なことです。
大人にとっても、子どもの一言がすごく救いになります。私もコンサートや講演会が急にキャンセルになって、この先もどうなるか分からない状態で、焦っちゃったことがありました。でも、長男が「ママ、こういう年だよ。全然焦る必要ないよ」って言ったんです。当たり前の話なんですけど、子どもから言われると「そうだ、落ち着かないと」って自分に言い聞かせられる。周りから言われるよりも胸にドーンと来ました。子どもは力になってくれる存在なので、信じて付き合っていけば大丈夫です。
ステイホームはレベルアップのチャンス

好きな紙にシールを貼ってマスクケースに
この状況を明るく乗り越えるために、今だからできることを一緒に考えるのもいいですね。
最近、手洗いも段々慣れてきて30秒も洗っていないのではないでしょうか。「さいた さいた チューリップの花が……」と、「チューリップ」の歌を1回歌うとちょうど30秒なんです。歌いながら手を洗うといいですよ。さらに「じゃあ、君はどういう曲が30秒だと思う」ってゲームにして、「今日はなんの曲にしようか」って、とにかく楽しくやっていきましょう。
使い捨てのマスクケースを作ることも最近のお気に入りです。適当な紙を折って、面ファスナーやクリップで一カ所留めるだけで作ることができます。紙には好きな言葉を書いてもいいし、シールをいっぱい貼れば子どもも喜びます。子どもってシールが好きですよね。

ハンドバッグみたいに持つこともできます
家の中でご飯を食べる機会も増えるから、子どもと一緒に普段は作らないメニューに挑戦するのもいいですね。自家製のドレッシングやジャムを作ったり、パンケーキミックスでカップケーキを焼いたり、レベルアップのチャンスです。私も頑張っていますよ。発声練習したり、久しぶりにギターを出して、昔の歌を練習してコードを覚えたりしています。
このパンデミックが終わったら「まあ、久しぶりに会った君はなんて輝いているんでしょう」って言われることを目指しましょう。
変化を柔軟に受け入れましょう
世の中はこのパンデミックによってものすごく変わっていくと思います。「コロナ前に戻れなくて大変」じゃなくて、進化だと思ったほうがいいですね。テクノロジーがこんなに進んでいるんだから、私たちも進化するしかない。子どもたちはこの変わっていく世の中を自然な形で取り入れて、楽しみ、その中に溶け込んで成長していくでしょう。
だから、家庭での対応も大切です。お父さんやお母さんが変化を嫌がって、子どもがオンライン授業を受けているときに「大変そうだね」「会えなくてつまらないね」なんて声を掛けたら子どもの足を引っ張ってしまいます。ネガティブな言葉は飲み込んで、「今日の先生はどんな感じ?」「リモートで授業を受けられるなんてうらやましいな」と楽しく盛り上げたほうがいいですね。この時代を生きていく彼らのために、今を受け止める前向きな気持ちが大事です。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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