2021.01.06
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"浮きこぼれ"の子どもの能力を伸ばすには?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「"浮きこぼれ"の子どもの能力を伸ばすには?」です。学校の授業が簡単すぎて物足りない、精神的な成長が早く興味関心が周囲と合わないなど、学力やその他の能力が周りの子より高い子が学校で浮いた存在となってしまう「浮きこぼれ」問題を考えました。

クラスメイトより少し早く生まれた長男の場合

実は長男が小学校に入学したとき、周りの子たちよりも少し成長が早かったんです。インターナショナルスクールは9月から学年が始まるので、11月生まれの彼はクラスメイトの中でも大きく、できることも多くて優秀に見えました。そこで、私は学校がつまらないんじゃないかな、チャレンジできる環境に移ったほうがいいんじゃないかなと思って、長男に相談したんです。すると、長男は「今の友達が好き」とこのままのクラスで過ごすことを選びました。

私は親ですから、「アメリカのように飛び級できたらいいのに」とか「もっと難しいことに挑戦してほしい」とか思ったこともあります。でも、彼は少し早く生まれているので、スポーツでも勉強でも上手にできて有利なんですよね。だから、「勉強は難しくない」「勉強するのは嫌じゃない」という印象で、のびのびと学校に通うことができました。学業にプレッシャーがない、それだけで人生がすごく楽しくなります。それを見ていて、私もこれでよかったと思うようになりました。

得意なことは家庭で伸ばそう

ただ、家庭では好きなことを進んで学ばせるようにしました。学ぶのは学校がすべてではありません。違うところで知識を得て、チャレンジすればいいんです。自分で学ぶという習慣を小さなときから身に付けることも大切だと思います。学ぶ意欲さえ下がらなければ、自分で学び続けることができますよね。

興味のあることを伸ばすために、美術館や水族館、科学館、歴史館など本当によく連れて行きました。そういった場所で子どもたちは刺激を受けたり、疑問を感じたり、学校以外からも学ぶことができるって分かるんですよね。

あと、コンピューターが好きだったので、詳しい知人にお願いしてプログラミングやコンピューターグラフィックスも教えてもらっていました。自分で考えたゲームを作ったり、キャラクターを動かしたりできるんだから楽しいですよね。三男が小学生のとき参観日にいったら、みんなが絵や文字を書いたレポートを見せて発表している中、一人だけコンピューターを使って動画や音声を交えたプレゼンテーションを始めてびっくりしたこともあります。好きなことだったので夢中になって覚えたんでしょうね。

だから、運動が得意な子だったらスポーツをさせて、絵が好きな子だったら美術館に連れて行くなど、家庭でできることはたくさんあります。学校はみんなができる平均レベルを教えるところです。その中で知識量に満足できない子が生まれてくるのは当然のことです。私は家庭教育が基本、学校はパートナーだと思っています。学校は学習のすべての責任を持つ場ではないんですね。学べる状況を作っていくのは親しかできないんです。

優秀な子どもを持った親がしてはいけないこと

絶対にやってはいけないことは、学校を見下すこと。先生や友達を馬鹿にして、自分の能力を認めない周りが悪いと思って過ごすのは不幸なことです。ですから、親が子どもと一緒になって、先生を侮辱するようなことを言ってはいけません。「社会の教育システムはあなただけのために作られたものではないのよ」と教えるべきです。

たとえ知能が高くても、学校での態度が悪いと友達も作れないし、進学の際の調査票や推薦にも響いてしまいます。「自分はもっとできるのに」という挫折感がついて回るような人生にならないためにも、優秀な子どもを持つ親は気を付けたほうがいいですね。

学校はその先に進むための鍵をもらうところです。子供がもし希望する高校や大学に行きたいのなら、先につながるドアを開くためには鍵が必要なんです。そうすると、学校でのルールは守らないといけないし、いい成績を取ることも必要です。残念ながら、これは社会のシステムです。勿論学業以外に夢がある子供は、その道に進めばいいのです。勉強が人生に成功する唯一の道ではないのです。さらに学校は勉強するだけのところではありません。人間関係を学んだり、友だちを作ったり、スポーツをしたり、勉強はその中のひとつです。うちの子どもたちは学校が好きで、学校に行きたくて仕方がない様子でした。もし学校の勉強が簡単だと感じているとしたら、子どもも気楽に通えるのではないでしょうか。物足りない部分は家庭でも十分に補うことができます。子どもたちが学校で過ごす時間は長いので、楽しめたほうが絶対いいですよ。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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