教育トレンド

教育インタビュー

2005.03.08
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小林カツ代 「安全」や「自然」より、「おいしい」料理がいちばん大事

子どもたちの食生活が荒れている。日本スポーツ振興センターの調査によると、朝食を食べない子は約20%、夕食を一人で食べる子は16%。夕食がファーストフードのハンバーガーだけだったり、お昼のお弁当にコンビニ弁当を持ってくる子どもがいたりと、食事の内容も随分寒々しいものに変わってきている気がする。「食の荒れは心の荒れ」と言われるが、子どもたちを健全に育てていくために、「食」という視点からどのようなことを心がければいいのだろうか?

食は子育ての要。でもそれだけじゃない

息子のケンタロウさんとともに料理研究家として活躍している小林カツ代さんに、食と子育ての関係について話を伺った。

学びの場.comまず最初に、子育てと食との関係について、どのように考えていらっしゃるか教えていただけますか?

小林カツ代私は、子育ての要は食にあると思います。でも、最近はやりの「食育」という言葉は好きではありません。「食育」という言葉には、どこか人を上から見下しているような響きがあります。それに食が子育ての要だといっても、それがすべてじゃありません。だから、食を中心とした教育、というのが正しい言い方かもしれません。 聖書に、「人はパンのみにて生きるにあらず」という言葉があるように、食のほかにも大切なことがあります。たとえば子育てでは、子どもを自立させること、人間性を育てることが大事です。それに食にばかりこだわる人は、安全性や栄養のことばかり気にかけて、「おいしい」「楽しい」ということをないがしろにしているんじゃないでしょうか。

「安全」より「おいしい」ほうが大事

学びの場.com家族でおいしく楽しく食べられれば、手作りとか自然食にこだわる必要もない?

小林カツ代「手作り」という言葉も嫌いですね。だって、料理は手で作るに決まっているじゃないですか。自然食にこだわる人もどうでしょう。何でもかんでも「自然」にこだわる人にはユーモアが感じられません。だいたい発想が「あれもいけない」「これもいけない」なので、おいしそうな感じがしません。そうではなくて、「これもいい」「あれもいい」という発想のほうがおいしい料理を作れると思うんです。 病気でもない限り、減塩とか減油といってぼけた味の料理を作っている人は、その人の人生もぼけていくと思います(笑)。そういう引き算の考えでは、おいしい料理は作れません。玄米が本当においしいならば、今でもみんな玄米を食べているはずなんです。でも実際はそうじゃない。自然かどうかじゃなくて、「おいしい」料理が元気を作るんです。「おいしい」と感じるだけで、体の免疫力が高まる、という調査結果もあるくらいです。 ただ、食の基本はやはり家の料理です。でも、必ずしも母親が作らなくてはいけない、ということはありません。いまだに日本では「料理=女性」という考えの人が多いようですが。だって、「男の料理」という言葉はあるけれど「女の料理」って聞いたことがないでしょう? 母親は料理が苦手ならば、父親でもいいしおばあちゃんでもいい、誰でもいいから家の人がおいしい料理を子どもに作ってあげることです。それが子どもの記憶にしっかりと残るんです。

学びの場.comおいしければ、ファストフードでもかまわない?

小林カツ代今の大人も、子どもの時は駄菓子屋に行きたかったと思います。それと同じで子どもはファストフードが大好きなんです。だからうちでも、カップラーメンやフライドチキンもたまに、みんなで食べました。いつもはそういう食事というわけではないですから、イベントのような感覚で子どもと楽しめばいいと思います。それにファストフードだって、すべて命が元になっていることに代わりはありません。
最近は食というと「スローフード」と「食育」がはやっていますが、どうも食に限らず、日本では言葉だけが先行しているような気がします。世の中で言葉が先行することで、自分の頭で考えなくなってきています。たとえば子どもが学校に行かないことを、昔は「ずる休み」といっていました。それが「登校拒否」という言葉になり、今は「不登校」といって子どものことをわかったような気になっている。でも、ちょっと考えてみれば、みんな同じことなんです。
言葉が先行した例として、あるとき「今の家庭は10軒に1軒包丁がない」といわれたことがあります。それを聞いてほとんどの人が、今の母親はろくに料理をしない、と思いこんでしまいました。でも、「10軒に1軒は出刃包丁がない」というのが本当だったんです。昔から料理をしなかった母親はいたし、今でもほとんどの家庭では料理をしています。母親がファストフードばかりで料理をしなくなったとは、私は信じません。だって考えてもみてください。日本には料理研究家や料理教室の先生が数え切れないほどいるんですよ。つまりそれだけの需要があるということです。

学びの場.comそうすると、今の子どもが荒れていると言われるのは、別に食のせいだけではないということですか?

小林カツ代東京都では、カラスが増えすぎたといって、殺すようになりました。こういうことが子どもに与える悪影響はとても大きなものです。人間に邪魔なもの、いらないものは殺してしまって構わないと教えているようなものだからです。また狂牛病騒ぎのときはBSEの牛が処分されました。それは仕方がないとしても、“処分”という言葉の中には、殺されるものへの哀れみや、悲しむ心がまったく感じられません。

自分の子育てでよかったと思うことがふたつあります。ひとつは食を大事にしたこと。もうひとつは、生き物を大事にしたことです。うちでは子どもが小さい時、拾ってきた猫をすべて受け入れました。最初は生き物の飼えないマンションでしたが、命を救うことが第一です。それから、もらってくれる人を探しました。でも多くの家庭ではどうでしょう、せっかく子どもが助けようとした命を拒否する場合が多いのではないでしょうか。でもそれでは命の大切さを子どもに教えることはできないと思います。

子どもの生き方にとやかく言うのは傲慢だから

学びの場.com今、学校を卒業しても定職に就かないフリーターが増えて問題になっていますが?

小林カツ代自分の子どもがフリーターになるといったら反対する親が多いと思いますが、それは本当にそんなにいけないことなんでしょうか。仕事をしないニートでは困りますが、フリーターというのは仕事を持って働いている自由人じゃないですか。昔から定職に就かない人はたくさんいたし、私の店でもたくさんのフリーターが働いていますが、みんな立派です。自由でいるためには、自分で制約を持って生きていかなくてはなりません。不自由を選ぶ人は、人に「ああしろ」「こうしろ」といわれることが楽で、そのほうがいい人もいますし、それぞれが選べばいいことです。 私の知人で、子どもが「音楽の道に進みたい」というので反対した人がいます。そういうことを言えるのは、親は子どもより偉くて、何でも知っている、と思い込んでいるからじゃないでしょうか。たとえ食べていくのは難しくても、子どもはそれで幸せかもしれないじゃないですか。だいたい人は自分以外のものについてとても傲慢だと思います。「自分はちゃんと料理をしているけれど、最近ほかの人は料理をしていない」という人は、ほかの人を上から見下ろしているんです。子育てにしても、「きちんとしろ」とか「自分を伸ばせ」というのは、人を上から見下ろしているから言えるんじゃないでしょうか。 私は、絵が好きだったのですが、普通科の高校に入学した後に工芸高校があることを知って、本当に行きたくてたまらなくなりました。でも単位の関係で、そちらに移ると1年間遅れてしまうので結局はあきらめましたが、そのとき私の母親が、「長い人生でたった1年なんだから行ったら」といってくれたことが今でも忘れられません。 日本という国はみんなひとつの方向に向かっていて、違った道を進むと、落ちこぼれと言って、切り捨てているように見えます。でも落ちこぼれといわれる子どもが、どんな才能があるかわからないじゃないですか。だからひとつの方向を決めてそれ以外を認めないのではなく、多方面の生き方を認めるのが正しい教育のあり方だと思います。切り捨てるのでなく、伸ばす方向に親身になることが子どもへの愛情だと思います。 今、学校ではいつ不審者が侵入してくるかわからない、というので柵を作ったりしていますが、今のままでは防げないと思います。学校は、人を殺さない人間を作ることが何より大事じゃないですか。そのことがちっとも論じられていません。ハードな面も現状では大事かも知れませんが、ソフトな面である心づくりに総力をあげるべきでしょう。

小林 カツ代(こばやし かつよ)

大阪生まれ。料理研究家。大阪帝塚山学院短期大学卒後専攻科修了。1969年『お料理さんこんにちは』を出版。以後現在までの著書は約170冊。近著は『おかずですよ!』(PHP文庫)。吉祥寺にキッチン雑貨の店「GOODS」を開いている。
著名人が多数参加する「神楽坂女声合唱団」団長。今年は12月20日に東京ロイヤルパークホテルにてディナーショー。

聞き手:高篠栄子/構成・文:堀内一秀/PHOTO:岩永憲俊

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