2009.03.19

特別支援教育のバックヤード（舞台裏）

東京都立港特別支援学校教諭　川上康則

今年度も、たくさんの学校・学級に伺わせていただきました。特別支援学校のコーディネーターという立場で、地域の幼稚園・小学校・中学校・高校などへの支援を行うようになって３年あまり、この間に私もずいぶんたくさんのことを学ばせていただきました。

「ここを変えれば良くなる」というトピックはとかく多くの方の話題を集めますが、物事はそれほど単純にできているわけではありません。私自身がどんなに特別支援教育の理解推進に意欲を示したとしても、最終的には、教育の最前線に立つ先生方一人ひとりの気持ちが特別支援教育に向いていなければ、小さなことの実行すらかないません。コーディネーターという仕事の成否は「自分とは反対の考えをもつ人がいるという現実を認められるかどうか」にかかっている、そう感じています。

これまでの特殊教育（障害児に対する教育）に携わったことがない方々に向けて、いくら声高らかに「特別支援教育を進めましょう！」と訴えても、伝わるはずがありません。オリンピック選手のデモンストレーションを見せられて、「はい、同じようにやってね。そうすればうまくいくから」と言われたところで、「そんなの無理！」と思わせるだけなのと同じです。その人の考え方や指導方法に合わせた接し方が求められていると私自身が気づけた頃、ようやくコーディネーターとしての仕事に手応えをつかめるようになってきたように思います。

子どもたちや保護者の皆さんには見せることのない「舞台裏」での先生たちの素顔に接する仕事を続けていると、時に先生方の意外な一面に出くわすことがあります。直前におじゃました教室ではあれほど明るく元気に振る舞っていた先生が、話しているうちに大泣きしてしまったり、屈強そうな男性の先生が「誰にも相談できなかった」と苦悩の日々を告白してくださったり･･･。あらためて、教育現場がすべて合目的的にできているわけではないことを実感しましたし、「これさえやれば大丈夫」という万人向けの特効薬は存在しない、という現実にも直面しました。でも、だからこそ教育はおもしろいのだ！とも思います。

今回で、私の「つれづれ日誌」は最終回です。毎回読んでくださった読者の皆さん、どうもありがとうございました。なるべく多くの方々の目にとどまるよう、専門的な用語を使わずに身近な言葉で特別支援教育を語る、というスタンスを貫いてきたつもりです。まだまだ課題の多い特別支援教育かもしれませんが、私は、旧来の教育に対して一石を投じるだけの価値が特別支援教育にはあると思っています。２年間に書きためた５２回の記事のうちいずれか一本でも、皆さんの琴線に触れることができれば大変うれしく思います。

４月からは、北海道真駒内養護学校で特別支援教育コーディネーターとしてご活躍されている遊佐理先生が、つれづれ日誌の執筆陣に加わっていただけることになっています。また違った視点からお話しを聞かせていただけるのではないかと、今後は読者の立場で「学びの場.com」を楽しみたいと思います。

最後になりましたが、サイトの企画・運営に携わる関係者の皆様にもお礼申し上げます。学びの場.comではいち早く特別支援教育をトピックとして取り上げていただき、情報発信にも力を入れていただきました。本当にありがとうございました。