教育トレンド

教育インタビュー

2006.08.29
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ヤン・ヨンヒ 思想への反発と家族・教育の在り方(3)

ドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』で朝鮮総聯の活動に人生を捧げた両親と、北朝鮮に"帰国"した3人の兄達ら自らの家族を、10年にわたり追い続けた映像作家・ヤン・ヨンヒ氏。思想への反発心を持ちながら育った彼女自身の在り方や家庭教育の在り方、そして自身にとっての学校教育の存在、さらには北朝鮮の教育事情や人権教育の必要性などを率直に、且つ熱く語っていただいた。3回連載の最終回。

さまざまな国の人々の中でたった一人になっても明るくしなやかに生きていける子をはぐめればいいですね。

学びの場.com子どもは成長過程において、他民族の思想や習慣を知る必要性はあると思いますか?

ヤン・ヨンヒ絶対必要だと思います。今の世の中、資源にしろ文化にしろ、人々の流れにしても自国のモノだけで成り立っている国はまずありません。そういった他国から入ってきたモノや人を目の前にした時、「互いにわかりあうためのキャッチボールができる訓練」くらいは最低必要ではないでしょうか。たとえば、日本人がアメリカで「出身どこ?」と聞かれ、「仙台」と答えたら、「それ、中国のどこ?」と言われたらムッとしますよね。そうならないよう、ある程度は知っておいたほうがいいわけです。  また、もっと悪いのは、私が「コリアンなんです」と答えると、「ああ、あちらの方ね、ごめんなさいね」と、まるで相手を透明人間のように見えなかったことにするパターン。これは非常に失礼な態度です。人間は他者に無視された時、最も傷つくもの。相手がいくら知らない民族だからといっても、きちんと見なくてはなりません。私は「自分と違う者と出会った時に、どう接するか」で、人の真価が問われると思うのです。  NYの小学校ではいろいろな人種や民族の子どもがいるので、「家でお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんに故郷の話を聞いてきなさい」という宿題があります。それを「うちの親は中国から来ました」「韓国から来ました」というふうに、クラスメイトの前でしゃべらせるというわけです。すると、子ども達は「自分の周りの人達はいろんな所から来ているんだ」という感覚を身につけながら育つことになります。そういう子達は「おまえら、自分の国へ帰れ!」というような大人にはならないでしょう。  日本でも、世の中は違う者同士がいっぱい集まって成り立っていて、自分から見て違う人がいるように、自分も相手から見たら違う人なんだということを、当たり前のように教えられたらいいのになあと思います。そして、さまざまな国の人々の中で、自分がたった一人になったとしても、明るく伸び伸びと、しなやかに生きていける力を育むような、本当の意味での民族教育がなされればいいなと思いますね。

梁英姫(ヤン・ヨンヒ / Yang Yonghi)

大阪市生まれ。〈在日〉コリアン2世。東京の朝鮮大学校を卒業後、教師、劇団女優を経てラジオパーソナリティーに。NYニュースクール大学大学院コミュニケーション学部メディア研究科修士号取得。現在、学習院大学非常勤講師、テクノスカレッジ客員教授をつとめる。

1995年からドキュメンタリーを主体とした映像作家として数々の作品を発表する。「What Is ちまちょごり?」「 揺れる心」「キャメラを持ったコモ」などの作品は、NHKなどのテレビ番組として放映された。また、テレビ朝日・ニュースステーション他で、ニュース取材・出演するなどテレビの報道番組でも活躍。タイ、バングラディシュ、中国などアジアを中心とした様々な国で映像取材。現地に長期滞在し当事者の視点で取材を続ける。1997年渡米。約6年間ニューヨーク滞在し、様々なエスニックコミュニティーを映像取材する。2003年に帰国後、日本での活動を再開する。

写真:言美歩/インタビュー・文:宝子山真紀/映画写真提供:シネカノン

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