教育トレンド

教育インタビュー

2020.01.15
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道草あほくさ <2020新年スペシャル企画>児童文学作家たちの魅力と実像に迫る(後編)

文学作品は、物語を通して子どもたちに成長の機会を与えてくれます。作家さんたちはどのように子どもたちと向き合い、物語を紡いでいるのでしょうか。どのような原体験を持ち、どのような衝動によりペンを走らせているのでしょうか。子どもたちへのメッセージや現代における読書の価値について、対談形式で児童文学の魅力に迫りました。後編では、子どもたちと本の関係性やご自身がどのように作品に向き合っているかをお聞きしました。

  • 佐藤 佳代(さとう かよ)著書に『初恋日和』(岩崎書店)など。

  • 田部 智子(たべ ともこ) 著書に『幽霊探偵ハル』(角川つばさ文庫)1~4等多数。

  • にしがき ようこ  著書に『ぼくたちのP(パラダイス)』(小学館)など。

  • 濱野 京子(はまの きょうこ)著書に『ぼくが図書館で見つけたもの』(あかね書房)等多数。

本を読むことでしか得られないものがある

新しいメディアと本の関係性を考える

田部さんの想い出の一品: 幼稚園に通っていたころに買ってもらった絵本の現物。とても大切にしているそうです。『ぐりとぐら』はなんと初版でした。

学びの場.com 新しく出てきているメディアとの向き合い方について、どうお考えになっていますか?

田部 私たちが子どものころは楽しむコンテンツが限られていたので、自然に本に向き合っていたということだと思うんです。今はいろいろな楽しみがあって、それぞれ好きなものを個別に楽しめる環境がありますよね。そこで「本」って言われると、その中でひとつのジャンルとしての地位をどうやって守っていくのか、難しいところがあるな、と感じます。

にしがき 難しいよね。

濱野 以前は「本を読まなければいけないか」って聞かれれば、そんなことはない、なぜなら本を読まなくても生きていける、食べ物を食べないと生きていけないけれども、本を読まなくても生きてはいけるから、読まなければいけないということはないが、「もったいない」ということをずっと言ってきたんですね。
でも、最近ちょっと気持ちが変わりました。もう少し積極的に本を読んでほしいなと思っています。本を読むことでしか得られないものがあって、それは映像を観ることでは得られない何かだと感じています。

濱野さんの想い出の一品: 小学校6年生のときに文芸部の仲間たちと作った想い出の文集。「どんなお話なんですか?」との答えには「それは秘密です」とのこと。

佐藤 本は落とし込む時間が自分で决められますよね。理解するまでの時間って人によって違うけど、テレビをはじめ受動的なコンテンツは、すごい速さで伝えられてしまうから、受け取ってすぐ違うもの、違うものと流れていってしまいます。本は一冊一冊自分の速さで読んで、落とし込んでいくことができます。紙の本の独特のペースや、時間、雰囲気は体験してほしいと思います。

田部 頭の中で言葉を使って考えるのが読書のよいところです。映像で感じる事も大事なことなんだけど、思考を深めるということは文字を介さないとなかなか難しいところがあると思います。文字を読んで頭の中で考えるということが必要だと思うんですね。だから、私は文字をなにで読むのかっていうのは、あまり考えなくなりました。なんでもいいや、文字を読んでそれを自分の中に入れていけばいいかなって思うんです。

濱野 意外と紙の本のほうが長持ちするかもよ、という気持ちもあります。いずれ「スマホ?なにそれ?」っていう時代がきます。その時に実はデータを移し替えるのが厄介だったりするかもしれない。紙の本は意外としぶとく残っているかもしれない。何千年も前の昔の紙の本だって残っていますよね、そんなふうに考えるのも面白いかなと思います。

にしがき 私はあまり興味がないという感じです。デジタル版はデジタル版で進んでいくんだと思っています。本物を追求するような子どもたちはいつの時代もいると思うので、その子たちにとっては紙の本は宝物に近いものになるんだろうと思います。何度も読み返して、血となり肉となっていくのはそういうものだろうなと思うんですよね。
学びの場.com デジタル配信されることによって、オーディオ・ビジュアルなどにすぐに展開できる。これまで読みたくても読めなかった人たちにすぐに届けられるメリットもありますよね。

にしがき 朗読されると心に染みてくるという文学作品はたくさんあって、私も入院中は「朗読の時間」というラジオ番組を楽しみに、それを聴いて育っているんです。ですが、字で読むのと、音で聴くのとはまた格段の差があるのかなという気がします。だから両方あるといいなと思います。
私の作品を点字にしてくださっている図書館もあります。私たちが書いたものをいろいろな方法で読者に届けてもらえるというのは、本当にありがたいことだなと思います。そうできるような世の中であってほしいなと思います。

作者が書きたいものを楽しく書くからこそ子どもの心に届く

学びの場.com 子どもたちには、こういうふうに読んでほしいという思いで書いていますか?

にしがき 作者が「ここを読んでほしい」って書いちゃうと臭くなっちゃうんですよね。そこは意図しないで主人公の中に入ってしまうような書き方をします。みんなもそうかな? ―(一同うなずく)

田部 「こう読んでもらいたい」とか「これを伝えたい」ていう思いが作者の方に強いと、それが透けて見えちゃうんですよ。そうすると説教くさくなっちゃったりとか、押し付けがましくなっちゃったりとか、どうしても読む方は感じてしまいます。子どもも作者の意図があまり強いような作品だと嫌になっちゃうというところがあるんじゃないかな。それよりは作者が書きたいものを楽しく書いて届ける、という方が読み手も楽しんでくれるんじゃないかなと思います。

にしがき 子どもっていうのは本当にすごく敏感なので、作者の意図が見えるとパタンと本を閉じられてしまうんですよね。すごく気をつけています。

濱野 あるテーマやメッセージは持ちながら、物語をどう面白くしながら伝えていけるか、そこが頑張りどころなんです。

にしがき そう、踏ん張りどころだね。言いたいことはあるけど、それをそのまま言っても仕方ないんですよね。「世の中、多様性が大事です」って言葉で言っても仕方がない。物語を通じてそのメッセージを感じ取ってもらうようにどう書くかっていうのが大事なんです。書けているかは分からないんですけど(苦笑)。
学びの場.com 佐藤さんの『初恋日和』は読んでいてキュンキュンしました。

佐藤 そう、キュンキュンしてほしいです。うれしいです。読み手によって感想や受け取り方は違うと思うけど、読んでよかった、と思ってもらえると本当にうれしい。

田部 創作教室のときにも、話題になったもんね。「キュンキュンする」って。

ゆっくり本を読む時間を大切にしてほしい

学びの場.com 保護者や学校の先生に向けて、一言いただけますか。

にしがき 先生は子どもたちにとって身近な大人のモデルのひとつだと思うんですね。だから、先生はそのままの自分に自信を持っていいと思うんですよ。ひとりの人間なんですから、そのまま子どもにぶつかっていいと思うんです。

濱野 私の姉が小学校の先生をしていたのですが、本当に大変そうでした。先生がこどもたちと一緒に読書を楽しめるような、そんな余裕の持てるような環境になればといいのにな、といつも思っています。

佐藤 比べないことがどれだけ大切か、ということを日々感じています。どうしても同じクラスの子とか、友だちとか仲良しの子と比べてしまう自分がいて、いけない、いけないと思うんですけれども、比べてしまうところをどう抑えるか。あなたはあなたっていう事だけで素晴らしいんだっていうことを日々、伝えたいと思っています。

田部 以前は教育の現場も、職員室ももっと牧歌的な雰囲気だったと思うんです。今は保護者にも、先生にも余裕がない。教育にいろいろと求められているのに、人もお金もない。ゆっくり本を読んで楽しむっていうのもなかなか無くなってきているような世の中なので、なんとかどこかで余裕が作れるようになるといいんですけど。

プロフィール

佐藤 佳代(さとう かよ)

北海道生まれ。
2006年、「ご近所の神さま」で福島正実記念SF童話賞に入選。
2008年、『オリガ学園 仕組まれた愛校歌』(金の星社)でデビュー。
著書に、『魂(マブイ)』(金の星社)、『初恋日和』(岩崎書店)など。

田部 智子(たべ ともこ)

東京生まれ。
2007年『パパとミッポの星の3号室』(岩崎書店)でデビュー。
著書に『パパとミッポ』1~3、『とびだせ!そら組』1~2(以上岩崎書店)、『ユウレイ通り商店街』1~5(福音館書店)、『手のひらにザクロ―秘密のささやきがきこえたら』(くもん出版)。『ハジメテノオト』(初音ミクポケット・ポプラ社)、『幽霊探偵ハル』1~4、『エジソン』(以上角川つばさ文庫)、アンソロジー等多数。

にしがき ようこ

名古屋市生まれ。
2010年『ピアチェーレ 風の歌声』(小峰書店)でデビューし、第8回児童文学者協会・長編児童文学新人賞、第21回椋鳩十児童文学賞受賞。2013年『おれのミューズ!』(小学館)、『ねむの花がさいたよ』(小峰書店)、2015年『川床にえくぼが三つ』で、第65回小学館児童出版文化賞受賞、2018年「ぼくたちのP(パラダイス)」(小学館)など」。

濱野 京子(はまの きょうこ)

熊本県生まれ。
2006年、『天下無敵のお嬢さま!① けやき御殿のメリーさん』(童心社・シリーズ全4巻)でデビュー。
『フュージョン』(講談社)でJBBY賞を、『トーキョー・クロスロード』(ポプラ社)で坪田譲治文学賞を受賞。その他の作品に、『アカシア書店営業中!』『ビブリオバトルへ、ようこそ!』(以上あかね書房)、『くりぃむパン』(くもん出版)、『バンドガール!』(偕成社)、『この川のむこうに君がいる』(理論社)など。日本児童文学者協会理事。

記者の目

今まさに活躍中の児童文学作家の皆さん。駆け出し時代から10年以上も交流が続いているため、会話もはずみ、笑いの絶えない座談会となった。そんな皆さんの自己評価を伺うと、「ヘタレ」「悲観的」「マイナス思考」など、意外な言葉ばかり続く。自らの弱さや苦しさから目をそらさず、包み隠さず表現しているからこそ、作品が子どもたちの心の友となり、共感をよんでいるのかもしれない。作品のジャンルはミステリーや恋愛などそれぞれだが、子どもたちに寄り添い、応援する姿勢は共通している。児童文学にふれて、大人も懐かしい、みずみずしい気持ちを取り戻してはいかがだろうか。

構成・文・写真:学びの場.com編集部

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