2002.04.16
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子どもとアーティストのワークショップ 小学校と芸術NPOエイジアスの連携プロジェクト

「子どもたちに本物のアートに触れて欲しい」その思いを実現すべく「芸術家と子どもたち」(ASIAS:エイジアス Artist's Studio In A School)というNPOを設立した堤康彦さんにお話を聞きました。

 「言葉を使わずに”叫び”でコミュニケーションをする」「日常の動きを逆回しで行ったものをビデオに撮り、それをさらに逆回しで再生する」など、私達が考えもつかない発想の授業。「エイジアス」が行った授業の一例だ。本物のアーティストとのコラボレーションが子どもたちに伝える感動は、計り知れないものに違いない。今回は、このプロジェクトの仕掛け人、堤康彦氏にお話をうかがった。  


■サラリーマンからの転進

「感受性の豊かな子どもたちに、本物のアートに触れて欲しい」  その一心で、10年間勤めた会社を退職し、「芸術家と子どもたち」(ASIAS:エイジアス Artist's Studio In A School)というNPO(民間非営利組織)を設立した堤康彦さん。大学では経済学を専攻し、就職した東京ガスでは経理部門に籍をおいていた堤さんだが、たまたま、同社が運営する「新宿パークタワー」内のホールの舞台公演やコンサート、展覧会の企画を担当するようになったことが転機となった。

「多くのアーティストとのネットワークができましたが、せっかく優れた芸術を紹介しても、一部の芸術好きの人にしか見てもらえない。もっと広く、さまざまな人に見てもらいたいと思ったんです」

 1年の準備期間を経て、活動を開始した2000年度には、東京都内の小学校を中心に7校、翌2001年には16校でワークショップを開催。図工の時間や「総合的な学習の時間」などを利用したもので、参加したアーティストは、舞踊家、音楽家、映画監督など、20数名。参加した子ども達の数は、2000人にのぼる。

■与えるのではなく、子どもたちから引き出す。それがワークショップ

 エイジアスでは、実際にどんな活動をするのだろうか。

 簡単に説明すると、学校の先生とプロのアーティストが共同で授業のプランを作り、授業当日には、子どもたちとアーティストが一体となってワークショップを行うというもの。

 堤氏は、事前の先生との打合わせ、授業の主旨に合ったアーティスト探し、先生とアーティストとのお見合い、といったコーディネータ役を勤める。

 ワークショップの内容は、堤氏と担当の先生、アーティストがその都度話し合う中から固まっていくので、一つとして同じものはない。

 「言葉を使わずに“叫び”でコミュニケーションをする」「日常の動きを逆回しで行ったものをビデオに撮り、それをさらに逆回しで再生する」など、私達が考えもつかない発想の授業がこれまでに展開されている。

「先生によっては、きちんとした授業プランや指導案を作る方もいらっしゃいますが、それだとどうしても、“いっしょに作り出す”というより、“一方的に教える”という姿勢になってしまいますよね。それに対し、アーティストの方は、成りゆきにまかせて、子どもたちの中から出て来るものを待つタイプの方が多いんです。それが先生たちにとっては新鮮だったりするようですね」

 参加した子どもたちからも「最初は恥ずかしかったけど面白かった」、「また参加したい」、「普段気づかなかったことにも注意して見るようになった」、「(有名なアーティストと)握手できたことを一生忘れません」などの意見が寄せられている。

「子どもたちも、本物のアートというのはわかるんです。ざわざわしていても、アーティストがパフォーマンスを始めると、その動きにくぎ付けになりますね」

「でも、正直言って、こちらから子どもたちに何かを与えようという意識はないんです。むしろ、子どものほうで、感じ取っていると思います。実は、ワークショップに対して、子ども達みんながみんな食いつきがいいというわけではない。遠巻きに後ろの方で見ている子もいるんですよ。でも、言葉や態度に出さなくても、きっとその子の内面で何かが起こっていると思うんです」

■芸術NPOの将来

 今後は、ワークショップの質を上げること、開催校をもっと増やしていくことが目標、と堤氏。図工の2時間という短時間ではなく、総合的な学習の時間に組み込んでもらい、長期にわたってアーティストと子どもとの関係を深めたい。将来的には、全国の芸術NPOと連携していきたい、と意欲を燃やしている。

 そこで問題となるのは、運営資金。

 現在エイジアスの活動資金は、堤氏がかき集めた企業からの協賛金や財団などからの助成金でまかなっているが、潤沢とは言いがたい。アーティストへの謝礼以外、授業自体に、ほとんどお金をかけられないのが実情だ。しかし、最低限必要な道具や紙などを負担してもらうことはあっても、基本的に学校側から報酬を受けることはない。

「ちゃんと学校で予算化してもらえればありがたいですが、現状では、企業のメセナ(文化活動・文化支援)という方向に、解決の糸口を見い出しています。企業メセナの方法として、大きくは、自社が主体的にボランティア活動を実践する、協賛イベントのようにお金だけ出す、という2つのパターンがありますが、今後は、NPOとの連携というパターンも増えてくると思うんですよ」

 バブル崩壊以来あまり聞かなくなった「企業メセナ」だが、一過性の流行とは一線を画して継続している企業も健在である。エイジアスのような、地域と学校、芸術、子どもを結ぶ活動は、「地域ぐるみの子育て」「心の教育」が叫ばれる昨今、もっと支援されてしかるべきだろう。ぜひとも援助の手を差し伸べて欲しいものだ。

堤康彦氏

「叫び」を体験する授業のひとこま

アーティストとともに「逆回しすると面白い動き」を探しに出発!

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