2014.04.08
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予定通り? 修正された教育委員会改革案

今国会中の法案提出を目指している教育委員会制度の改革案が、与党協議でまとまった。しかし与党合意案は、昨年12月の中央教育審議会答申とは違う案になった。その裏には何があったのか。

答申段階から「両論併記」だった訳

中教審の教育制度分科会の審議過程で、教育行政の執行機関を首長に代える「A案」と、これまで通り教育委員会を執行機関とする「B案」を支持する委員の間で対立していたことは、昨年の本欄で紹介した(2013年11月13日記事「教育委員会制度見直し、両論併記の背景」)。激しい対立は最後まで解けず、答申では結局、A案を「制度改革案」として正式な提言とする一方で、B案を「別案」として付記するという、中教審答申としては異例の形が採られた。

答申案を最終的に固めた12月10日の制度分科会終了後、分科会長の小川正人・放送大学教授は記者団の質問に答えて「慎重に法案作成を行うようメッセージを込めた」と説明していた。実は答申自体が、答申の制度改革案だけではなく別案も考慮するよう含みを持たせていたのだ。

通常、有識者や教育関係者で構成される中教審の答申が政府や与党の力で修正されたとなれば、「政治介入だ」と批判したくなる向きも分からないでもない。しかし今回の中教審では、A案を支持する首長系委員とB案を支持する教育畑出身の委員という対立の構図に加え、政権の意向を反映して(政権はA案支持、公明党と自民党一部議員は慎重姿勢だった)最初からA案を優位に置くという政治力が働いたと見られる点でも異例だった。そうした中で逆に、自民・公明の与党協議で答申の制度改革案が修正されることに期待を掛けたのだった。

3月15日に筑波大学東京キャンパスで開かれた教育関連学会連絡協議会のシンポジウムで、制度分科会の臨時委員だった村上祐介・東京大学大学院教授は中教審答申について「サッカーや野球に例えれば、後半ロスタイム2点か9回裏の満塁ホームランで同点延長に持ち込めた」と表現した。言い得て妙だ。

教委制度は「守られた」

同シンポでは、もともと教育行政学の研究者である小川教授はもっとはっきり「現行の教育委員会制度を守ることができた」と述べ、与党合意案を評価した。合意案では教育長と教育委員長を一本化した新「教育長」を置くことや、首長が主宰する「総合教育会議」で教育行政の大綱を策定するという、中教審答申にはない案を盛り込んでいる(その他、▽教育行政の最終的な権限は従来通り教委に残る。▽教委の専管事項は教職員人事や教科書選定などに限定する。▽問題が発生した際は首長が主宰する「総合教育会議」で速やかに対応を協議する。首長に責任を持たせ、主体的に問題の原因究明や再発防止に取り組ませる。――などが盛り込まれている)。

そうした点が政治介入の強化と批判される向きもあるが、一方で合意案は「教育委員会は執行機関とする」と明文化しており、中教審答申のA案とは正反対の合意になっている。戦前の体験から教育の国家統制に警戒感の強い公明党と、冷戦構造下で革新系首長に悩まされた自民党ベテラン文教族の思惑が一致した格好だ。そしてそれは、教育の政治的中立性・継続性・安定性を何より確保したい教育関係者の意向とも一致することになった。

シンポでの小川教授の説明によると、戦後の地方自治制度は首長に大統領並みの強い権限を与える一方で、議会との「二元代表制」でチェック・アンド・バランスを取っただけでなく、公安委員会や選挙管理委員会、人事委員会といった「行政委員会」を首長から独立した執行機関と位置付けて、首長への権力集中を抑制した、とのことだ。行政委員会の一つである教育委員会も、行政委員会としてその一翼を担っていることは言うまでもない。守られたのは、そうした地方自治の権力分散の制度的保障だということになろう。

ただ、現行制度でも「首長はかなりのことができる」と、教育長出身の臨時委員である門川大作・京都市長は中教審制度分科会で指摘していた。大阪府・市の事例が、それを裏付けている。与党合意案を基本に制度改正が行われても、結局はどう運用されるかにかかっている。もっと言えば、どのような首長を選ぶかという有権者の判断にかかっているのだろう。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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