2013.11.12
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教育委員会制度見直し、両論併記の背景

教育委員会制度の在り方の検討が、中央教育審議会で進められている。しかし10月11日に公表された審議経過報告では、教育長の任命や指揮監督を従来の教育委員会(合議制教委)から首長に替える案と、任命権は首長に移行するものの指揮監督はこれまで通り教育委員会が行う案の両論が併記された。一本化できなかったのはなぜか。

現行制度見直しは、こうして始まった…

 現行の教育委員会制度では、議会の同意を得て首長が任命した5人前後の教育委員(非常勤)による合議制の教育委員会(いわゆる「狭義の教育委員会」)が、首長から独立した行政委員会として教育行政の責任者となっている。そして、教育委員の中から選ばれた教育長(常勤、非常勤の「教育委員長」とは別)が合議制教委の指揮監督を受け、事務局による具体的な執行に当たるという体制になっている。

 しかし、一般には教育委員会と言えば事務局を含めた「広義の教育委員会」を指し、教委のトップは教育長だと自他ともに受け止められている実態があるのも確かだ。

 そうした実態に対して、滋賀県大津市の中学生いじめ自殺事件などで教委の対応が問題視され、▽教委の責任者が教育委員長にあるのか教育長にあるのか不明確なことが一因ではないか、▽もっと首長の関与を強めるべきではないか、▽非常勤の教育委員では責任が取れないし、審議も形骸化し迅速さや機動性に欠ける――などの指摘があったことから、政府の「教育再生実行会議」は4月の第2次提言で、首長が任免を行う教育長を教育行政の責任者とするなど現行制度を見直すよう提案。さっそく中教審に諮問が行われ、6年ぶりに再開した教育制度分科会で5月から審議が始まった。

首長らの委員と、教育関係者らの委員の意見が対立

 来年の通常国会に改正法案を提出したいというのが政府の意向で、スケジュールを逆算すると年内に答申を得る必要がある。教育再生担当相を兼ねる下村博文文部科学相は「実行会議と中教審は、屋上屋を重ねる議論をするのではなく、役割分担を明確にすべきだ」というのが持論。“役割分担”とは、「実行会議でそれぞれのテーマにおける目指すべき方向性について議論し、中教審で法律改正につながるような部分を更に深掘りをして議論する」ということだ。従って、同分科会にも実行会議の提言を「深掘り」した制度設計の議論を期待していた。

 しかし、分科会委員からは教育関係者を中心に「現行制度のデメリットだけでなくメリットも踏まえて議論すべきだ」との意見が相次いで出され、下村文科相も「教委の抜本改革案は中教審のマター(担当)」と認めざるを得なかった。月2~3回のペースで会合を開いても、分科会の意見が一致する雰囲気は見られない。それでもスケジュール上「秋」までに中間まとめを行う必要があり、9月26日の会合に審議経過素案が提示された。

 そこでは、教育長を地方教育行政の責任者とすること、教育委員会の審議事項は政治的中立性の確保や地域住民の意向の反映が必要とされる事項に限定し、一歩離れた立場から教育長の事務執行をチェックすることなど、実行会議の提言に沿った「新しい教育委員会」の在り方を打ち出した。

 その一方で、首長を教育行政の「執行機関」、教育長を「首長の補助機関」、教育委員会を「首長の附属機関」と位置付けるA案を「改革の必要性についての国民の期待に応えるという観点から、最も抜本的な改革案」としながら、教育委員会を「性格を改めた執行機関」、教育長を「教育委員会の補助機関」とするB案も併記した。ただし、B案は「現行制度との違いがわかりにくい」ともしている。

 これには、会合の当初から顕在化していた首長らの委員と、教育関係者らの委員の意見対立が反映している。主な対立点は、教育の政治的中立性、継続性・安定性が担保されるかどうかだ。首長らは「首長は選挙公約に教育政策を掲げているし、予算を付けるのも、裁判が起こされた時に訴えられるのも首長だ。選挙で住民の判断を仰いだ方が、より民意を反映できる。イデオロギー対立の時代ではないのだから、中立性にも問題はない」などと主張。

 これに対して教育関係者らは「選挙の度に教育政策の基本方針が急激に変わってしまっては、落ち着いた教育ができない。教育委員には任期4年間の身分保障があり、首長が代わっても毎年1~2人しか交代しないという現行制度の良さを生かすべきだ」としている。また、両論のどちらにも課題があるとして折衷案や別案を主張する委員もいる。

審議経過報告書でも意見は対立、検討課題も山積

 素案に対しても教育関係の委員から異論が出され、10月10日の会合で出された報告案ではA案を推奨するニュアンスだった先の部分が「教育委員会の現状に対する国民の問題意識を踏まえると、最も抜本的な改革案」と改められたが、依然として両者の意見がぶつかり合い、分科会長一任で「一両日中」に成案を決定することが了承された。

 翌日公表された報告書では、焦点の教育制度改革について主な変更箇所は2点あった。一つは、A・B案の図示(※「今後の地方教育行政の在り方について(PDF)」p11、p13参照)を執行機関(A案では首長、B案では教育委員会)と補助機関(いずれも教育長)の上下関係が明示されるようナナメ位置をタテ位置に改めたこと。もう一つは、B案について「現状がどう変わるかわかりにくく、現状との違いを明確にする必要があるとの意見が多く出された」とあった部分を、教育関係委員の批判を受けて「多く出された」を「~複数出された」という表現になったことである。報告書は、連休を挟んだ15日の中教審総会に提出されたが、そこでも対立の構図は変わらなかった。

 両案とも指揮監督者が「教育長の事務執行について日常的な指示を行わない」としているが、こうした制限が法的に可能かどうかの整理はまだなされていない。他にも教育長を罷免する際の要件など、積み残しの検討課題は山積している。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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