2022.12.07
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意外と知らない"大学キャンパスの都心回帰"(第2回) 工場等制限法とキャンパスの立地

皆さまがお住まいの街やご出身の街には、近くに大学はありますか? 大学があると、大学を中心とした学生街が形成され、活気がある街になってくると言われています。前回は、学生確保のために、キャンパスの都心回帰が進んでいることをご紹介しました。今回は、どういった背景で都心からキャンパスが離れ、また戻って来たのか、制度的な話も交えてお話したいと思います。

工場等制限法により、都心から郊外へ

古くは大学のような高等教育機関は都心部に多くありました。これはより人が集まりやすく、研究もしやすいためです。

そのため、古くからあるような東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学等はいわゆる山手線の内側、つまり都心部に位置していました。また関西圏でも京都大学や同志社大学等はいわゆる京都御所の周辺のような一等地にキャンパスを構えていました。

風向きが変わってきたのが1959年。この年に「工場等制限法」という法律ができました。工場という名前が使われていますが、中身は「首都圏及び近畿圏の既成都市区域において制限施設の新設、増設をしてはならない」というものです。この「制限施設」には、1,500㎡以上の床面積を持つ大学の教室が該当します。「首都圏及び近畿圏」には、東京都区部、武蔵野市の全域、埼玉県川口市、東京都三鷹市、神奈川県横浜市、川崎市、京都府京都市、大阪府大阪市、守口市、東大阪市、堺市、兵庫県神戸市、尼崎市、西宮市、芦屋市の一部が指定されました。

折しも戦後のベビーブームで今後18歳人口が増加することが想定される中、この法律のため、大学側は既存のキャンパスの拡張ができない状況となりました。このため、多くの大学は教養教育系を行う1、2年生のキャンパスと3、4年生のキャンパスを分けることになります。例えば下表のような移転がありました。

学校 概要
1973年 筑波大学 前身の東京教育大学から改編し、茨城県つくば市にキャンパスを新設。
1977年 東洋大学 文系学部の1年次を東京都文京区の白山キャンパスから埼玉県の朝霞キャンパスに移転。
1978年 中央大学 全ての文系学部を東京都西部の多摩キャンパスに移転。
1979年 共立女子大学 家政学部、文芸学部の1、2年次を東京都西部の八王子キャンパスに移転。
1982年 青山学院大学 文系学部の1、2年次、理工系の1年次を神奈川県の厚木キャンパスに移転。
1982年 二松学舎大学 1、2年次を千葉県の沼南校舎(現柏キャンパス)に移転。
1984年 法政大学 経済学部、社会学部を東京都西部の多摩キャンパスに移転。
1986年 同志社大学 1、2年次を京都府南部の京田辺キャンパスに移転。
1986年 実践女子大学 大学、大学院を東京都西部の日野キャンパスに移転。
先述の通り、この1970年代~1980年代にかけてはベビーブーム~高度経済成長期に産まれた子どもが大学生になるタイミングであり、各大学とも定員を増やす等行っていた時期で、既存のキャンパスだけでは飽和状態になっていました。

郊外のキャンパスに学部学科を新設

次のターニングポイントは1991年の大学設置基準の大綱化(大学制度の弾力化・柔軟化)になります。

先述の通り、多くの大学では1、2年次を教養系科目の学習、3、4年次を専門科目の学習と位置付けていましたが、学年の縛りがなくなり、教養科目も専門科目も学年関係なく学ぶことができるようになってきました。

このため、各大学は時代に合わせて新しい学問を学べる新たな学部を作っていくことになります。下表のように1990年代、郊外のキャンパスに新しい学部学科を作り、多くの学生を集めるといったことがおこりました。「東京の大学に入学したら地元より田舎だった」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。

学校 概要
1987年 早稲田大学 埼玉県に所沢キャンパスを開設し、人間科学部を新設。
1989年 近畿大学 農学部を奈良キャンパスを移転し、1991年に工学部の一部を広島キャンパスに移転。
1990年 東京電機大学 千葉ニュータウンキャンパスを新設し、情報環境学部を開設。
1990年 慶應義塾大学 神奈川県に湘南藤沢キャンパスを開設し、総合政策学部、環境情報学部を新設。
1990年 立教大学 埼玉県に新座キャンパスを開設し、1998年に観光学部を新設。
1994年 立命館大学 滋賀県にびわこ草津キャンパスを開設し、理工学部の中に生物工学科や環境システム工学科、情報学科といった学科を新設。

工場等制限法の廃止による都心回帰

先述の工場等制限法ですが、実は大学とは別のところで多大な影響を及ぼしていました。具体的には80年代から90年代にかけて製造業の生産拠点が海外に移転してしまうということが多く起こっていました。このため、国内への工場立地促進を行い、国内回帰を行うためにこの工場等制限法は2002年に廃止となります。

この後、下表のように徐々に大学も都心への回帰を図っていきます。

学校 概要
2005年 東洋大学 文系学部を白山キャンパスに集約。
2012年 東京電機大学 東京都足立区に千住キャンパスを開設。
2013年 青山学院大学 2003年に厚木キャンパスから相模原キャンパスに移転していた文系学部を青山キャンパスに集約。
2013年 同志社大学 文系学部を今出川キャンパスに移転。
2014年 実践女子大学 文学部、人間社会学部、短期大学部を東京都の渋谷キャンパスに移転。
2016年 東京理科大学 経営学部を埼玉県の久喜キャンパスから神楽坂キャンパスに移転。
2016年 杏林大学 東京都西部の八王子キャンパスから三鷹市の井の頭キャンパスに移転。
2017年 大阪工業大学 大阪府中心部に梅田キャンパスを開設。
2019年 桜美林大学 東京都郊外の町田市にあるビジネスマネジメント学部を新宿キャンパスに移転。
2019年 中央大学 東京都新宿区に市ヶ谷田町キャンパスを開設し、2023年に法学部を茗荷谷キャンパスに移転予定。
2021年 日本女子大学 神奈川県川崎市の西生田キャンパスを廃止し、東京都の目白キャンパスに移転。
2021年 千葉大学 東京都墨田区にサテライトキャンパスを開設。
このように法律や文部科学省の規律に応じて、時代によって大学の立地は変わっていくこととなりました。生き残りをかけて、都心回帰の動きがしばらく続きそうです。

構成・文:内田洋行 東日本第一営業部 係長 井土 真宏

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