2016.10.05
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意外と知らない"学校図書館"(vol.1)

学校図書館・図書室の役割は、物語の読書をして心を豊かにする場と考えられてきましたが、現在は言語活動や探究活動等を行い思考力・判断力・表現力や情報活用能力等を育成する場としての役割が大きくなってきています。そのため、学校図書館に必要とされる蔵書や人材の期待像も変わってきました。学校図書館・図書室について、2回にわたって紹介します。

学校図書館の法的根拠

学校には必ず図書館・図書室があるのでしょうか。

学校教育法(昭和22年3月31日法律第26号)に、定められた学校を設置しようとするものは

第三条 (略)学校の種類に応じ、文部科学大臣の定める設備、編制その他に関する設置基準に従い、これを設置しなければならない。

とあります。では、どのような設備が必要なのかというと学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)に、

第一条  学校には、その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館又は図書室、保健室その他の設備を設けなければならない。

とあり、学校図書館または図書室が必要だとされています。

学校図書館法(昭和28年8月8日法律第185号)においては、

第一条 (略)学校図書館が学校教育において欠くことのできない基礎的な設備である(略)

とされ、

第三条 学校には学校図書館を設けなければならない

と設置義務が定められています。学校図書館がない学校というものは存在しないというわけです。

近年、確かな学力や豊かな心を育み、言語活動を充実するといった教育の課題に対し、学校図書館が果たす役割が注目され、学校図書館を充実、活性化しようという気運が高まっています。

制度、施策の動き

学校図書館をめぐる動きを概観してみましょう。

昭和28年
(1953)
学校図書館法で、学校図書館は学校に必置とし、学校図書館には「司書教諭」を配置するよう規定されるが、司書教諭は当分の間、置かなくてもよいという猶予がつけられた。そのため、学校図書館に「人」がいない学校が多数ある状態が続く。
平成5年
(1993)
「学校図書館図書標準」が文部科学省より示され、学校図書館の蔵書整備を急ぐ必要に光があたる。
平成5年~9年
(1993~1997)
第1次学校図書館図書整備5か年計画で、小・中学校の学校図書館の蔵書を1.5倍にすることを目標に総額500億円が交付される。
平成9年
(1997)
学校図書館法一部改正が行われ、司書教諭の配置猶予期間を、平成15年3月31日までとされる。(11学級以下の学校を一部除く)
平成10~13年
(1998~2001)
図書整備に対し、毎年150億円ずつ交付される。
平成13年
(2001)
子どもの読書活動の推進に関わる法律が制定され、学校図書館を含む国の基本方針が出される。これを受けて政府は、「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を2次にわたって策定し、都道府県でも「子ども読書活動推進計画」が立てられるようになった。
平成14~18年
(2002~2006)
第2次学校図書館図書整備5か年計画で、毎年約130億円、総額約650億円を「増加冊数分」として交付する。
平成17年
(2005)
文字・活字文化振興法が制定され、学校教育の中で言語力の涵養の重要性が示される。また、司書教諭とともに、学校図書館に関する業務を担当する人材配置に対する努力が、国や自治体に求められる。
第八条 2  国及び地方公共団体は、学校教育における言語力の涵養に資する環境の整備充実を図るため、司書教諭及び学校図書館に関する業務を担当するその他の職員の 充実等の人的体制の整備、学校図書館の図書館資料の充実及び情報化の推進等の物的条件の整備等に関し必要な施策を講ずるものとする。
平成19~23年
(2007~2011)
第3次学校図書館図書整備5か年計画で、「学校図書館図書標準」の達成を目指し、毎年200億円、総額1000億円を交付する。
平成24~28年
(2012~2016)
第4次学校図書館図書整備5か年計画で、「学校図書館図書標準」の達成に毎年200億円、加えて新聞配備を目指し毎年15億円、総額1075億円を、学校司書配置のために単年度約150億円を交付する。
平成26年
(2014)
超党派で学校図書館の改革・改善を目指す、学校図書館議員連盟が結成される。
平成27年
(2015)
改正学校図書館法が施行される。この改正で「司書教諭」とは別に「学校司書」という人材について明記された。
第六条  学校には、前条第一項の司書教諭のほか、学校図書館の運営の改善及び向上を図り、児童又は生徒及び教員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため、専ら学校図書館の職務に従事する職員(次項において「学校司書」という。)を置くよう努めなければならない。
2  国及び地方公共団体は、学校司書の資質の向上を図るため、研修の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

このように、平成になってから学校図書館の機能が、読書センターとしての機能だけではなく、学習センター、情報センターとしての機能を十全に発揮できるよう充実を図る施策が国を挙げて行われています。

蔵書整備

平成5年に制定された「学校図書館図書標準」とは、学校図書館に整備すべき資料の目標値を示したものです。制定当時は数量的な目標値が示され、蔵書のジャンル構成比には言及がありませんでした。

次のように定められており、例えば、小学校で18学級の場合10,360冊、中学校で15学級の場合10,720冊となります。特別支援学校では、少し少なくなります。

小学校 中学校
学級数 蔵書冊数 学級数 蔵書冊数
1 2,400 1~ 2 4,800
2 3,000 3~ 6 4,800+640×(学級数- 2)
3~ 6 3,000+520×(学級数- 2) 7~12 7,360+560×(学級数- 6)
7~12 5,080+480×(学級数- 6) 13~18 10,720+480×(学級数-12)
13~18 7,960+400×(学級数-12) 19~30 13,600+320×(学級数-18)
19~30 10,360+200×(学級数-18) 31~ 17,440+160×(学級数-30)
31~ 12,760+120×(学級数-30)

「制度、施策の動き」で述べたように資料の充実を図る財政措置が行われ、現在進行している第4次学校図書館図書整備5か年計画では、学校図書館図書標準の達成を目指し、5年間で総額1000億円を地方交付税措置しています。第1次5か年計画の500億円、第2次5か年計画の650億円に比べて増額されているのは、資料数が不足する学校図書館では使えない古い資料も廃棄しない現実があるという指摘から、図書の更新費用を5か年で570億円と見込んで措置したからです。第4次学校図書館図書整備5か年計画の特筆すべきこととして、これに加えて、学校図書館で各校新聞を1紙配備する経費として5か年で総額75億円が措置されています。また、物語以外のジャンルの蔵書の重要性から、図書標準の見直しを求める声も上がっています。

文部科学省では平成20年より隔年で「学校図書館の現状に関する調査」を行っており、平成26年度調査の結果では、図書標準の達成率は、小学校で60.3%、中学校で50.0%でした。蔵書整備はまだもう少し推進しなければ、目標に達しません。これまでの整備計画の財政措置が地方交付税であるため、自治体の予算化がカギとなっています。2016年全国1,741市区町村教育委員会への公益社団法人全国学校図書館協議会の悉皆調査(回収率45.0%)によると、地方交付税による財政措置に基づく当初予算に学校図書館の図書費を予算化した自治体は258市区町村(33.0%)、補正予算での予算化の予定も11市区町村(1.4%)にとどまりました。自治体が予算化しなければ、交付された措置金は学校図書館充実以外の、道路やごみ処理などの他の支出に回されてしまうかもしれないのです。

学校図書館を用いた教育の充実の必要性を各地方自治体や教育委員会が明確に認識し、整備充実のためのビジョンを持ち、ビジョンに基づいた予算化が必要とされています。

平成26年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果

小学校 中学校 高等学校
学校司書を配置している学校 54.4% 53.1% 64.4%
学校図書館図書標準を達成している学校 60.3% 50.0% -
学校図書館に新聞を配備している学校 36.7% 31.8% -
全校一斉読書活動を実施している学校 96.8% 88.5% 42.9%

まとめ

第1回では、学校図書館の法的根拠、制度・施策の動き、蔵書整備についてご紹介しました。次回は、学校図書館の機能と役割、「司書教諭」「学校司書」という人材についてご紹介します。

参考資料

構成・文:内田洋行ユビキタスライブラリー部 土井美香子

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