2006.02.07
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リモコン型レスポンスアナライザ「エデュクリック」の可能性 杉並区立東原中学校

教育の情報化が進んでいるとはいえ、地域・学校によってはまだまだ劣悪な情報環境に悩むところも少なくない。そんな中、簡単に導入でき効果的な授業が実現できるICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)ツールが人気である。簡単なリモコン操作で生徒たちの反応をダイレクトに表示できるリモコン型レスポンスアナライザ「エデュクリック」もその一つ。

生徒たちが積極的に授業に参加できるツール

 お訪ねしたのは、杉並区立東原中学校で理科を担当されている横井弘先生。横井先生は、昨年の4月から使っている、リモコン型レスポンスアナライザ「エデュクリック」が大のお気に入りで、毎時間使用しているという。レスポンスアナライザとは、質問に対する解答状況をリアルタイムに集計できるシステムのこと。エデュクリックは、内田洋行が学校向けに開発したシステムで、「教師用リモコン」「生徒用リモコン」リモコンからの赤外線を受ける「赤外線レシーバ」からなる。受光器はUSB端子により、コンピュータに接続でき、生徒がリモコンで回答した結果を瞬時に集計・グラフ化してCRTやプロジェクタに出力することが可能だ。

 「今の生徒は手を上げないとよく言われます。ICTを活用して生徒が積極的に授業に参加できる方法はないかと探して見つけたのがエデュクリックです。授業中に生徒たちに何か質問をするときに、エディクリックを使うと、日頃手を挙げない子でも、ボタンを押すこと自体が楽しいと言って、必ず全員がボタンを押します。誰が何と答えたかはわからないので、人と違うことを言ったら恥ずかしい、と思う生徒でも答えやすい。また、生徒たちに聞くと、他の子が何を考えているかがわかる、と好評です。」と横井先生。

エディクリックは授業でこう使われる

席番号がふられたリモコンを持って着席

席番号がふられたリモコンを持って着席

 さて、実際の授業を見学させていただいた。

 チャイムとともに生徒たちがやってくる。入り口そばの机には、45台の生徒用リモコンが並べられている。生徒たちは、自分の出席番号と同じ番号リモコンを持って席に向かう。席は、毎週入れ替わり、生徒たちは黒板に記された座席表を毎回確認して席につく。

「たびたび席を入れ替えるのは、同じ席だと実験の時、実験をする人、記録する人、などの役割が固定化してしまう。すべての生徒にいろいろな役割をさせたいから。」

こんなところにも、生徒を積極的に参加させたいという、先生の工夫が隠れている。

「出席をとります。男子は(1)を女子は(2)を押してください」

教師用のリモコン

教師用のリモコン

先生の声に、子どもたちは、リモコンを教室前方に向け、数字ボタンを押す。すると、教室に設置されたディスプレイに画面に移った数字ボタンが点滅。その1分後には、棒グラフが現れる。棒グラフは、ボタンを押した人数。このようにして、出席が瞬時に取れたわけである。
  • ボタンを押すと番号が赤く点滅

    ボタンを押すと番号が赤く点滅

  • 回答結果を瞬時にグラフ化

    回答結果を瞬時にグラフ化

 続いて前回の授業の復習。前回は水の沸騰する温度を調べた。
 「実験した結果、何度になった? 100度になった人は(1)、100度にならなかった人は(2)を押してください。」
(2)ならなかったと答える人が多い。
 「教科書に100度って書いてあるからといって、それが正しいとは限らないよ。実験した結果のほうが正しい。実験の結果に間違いはないんだよ。大切なのは、どうして100度にならなかったのだろう、と疑問をもつことだよ」

 復習に続き、今日は、固体が液体になる様子を実験・観察し、1分ごとの温度を記録する。試験管の中の白く結晶化したバルミチン酸を湯銭で熱して、何度で溶け始めるのか、熱し続けるとどうなるのかを観察する。

  • 図1

    図1

  • 図2

    図2

「グラフの形はどうなった?」(図1) 
横井先生が黒板にグラフを描き、選択肢を与える。生徒たちは(1)上がった、(2)変わらなかった、(3)下がったの中から一つを選んでリモコンのボタンを押す。ほとんどの生徒たちが(1)を選択したことがグラフで一目瞭然。
「では液体が溶け始めたのは?」

再び黒板にグラフが描かれ、選択肢が示される。(図2)
グラフを見ると、ほとんどの生徒が(2)と答えている。

「本当?みんな教科書を見たのかな?教科書的には(2)が正しいけど、実際に見てたらそうじゃない人が多かったよ。もう1回、正直に答えてみて」

実験装置の状況や実験環境により、教科書どおりの結果が出るとは限らない。しかし、自分だけ違う結果になったのではと思うと不安になるのだろう。再調査の結果、今度は(1)と答えた人が最も多いという結果になった。生徒たちの本音を引き出すのはなかなか大変だ。

現状に則してできるだけシンプルな活用を

 エデュクリックは、質問をあらかじめ入力しておき、選択肢を選ばせることもできる。しかし横井先生は、口頭で質問をしたり、黒板に選択肢を描くなど、その場で質問することの方が多いという。

「最初は、あらかじめ質問を用意したこともありました。操作は質問文を打ち込むだけで簡単なのですが、毎回の授業のたびにやるとなるとなかなか大変。また、パワーポイントで板書する内容をあらかじめ全部書いておいて、エデュクリックの集計画面とパワーポイントの画面を両方映しながら授業をしていたこともありましたが、それでは、生徒たちがノートを取れない。生徒たちはこちらが板書するタイミングに合わせていっしょにノートをとっていきますから。また、授業の展開によって、臨機応変に質問をしたいので、現状のような形になったのです。選択肢も通常ではYES、NOの2択かせいぜい3つくらいまでしか使いません。本当は10個まで設定できるのですが、たくさんの選択肢を作るということは、誤答をたくさん作らなければならないということ。無駄な手間だし、間違わせるための質問ではない。わかっているかどうかの確認のための質問ですから」

 エディクリックで生徒が答えた履歴はすべて保存される。それを確認すれば、どの生徒がどこでつまづいたかもすべて把握することができる。

「授業にメリハリをつけるために時々必ずしも必要のない質問もすることはありますが、1時間の授業の中でキーとなる質問は1つか2つです。どうしても頭に叩き込んで欲しいポイントだけをエディクリックで質問する。たくさんの質問をしてたくさんのデータを残してもすべてを分析できるわけではない。後で、分析できなければ意味がない。」

 お聞きしていると、横井先生は、デュクリックの機能を知り尽くして、必要最小限の機能のみをフル活用している、という印象である。よく、デジタル教材やICTツールについて「便利だけど機能がありすぎて使いこなせない、使うために準備に時間がかかりすぎる」という声を現場の先生から耳にすることがあるが、ぜひ開発者たちは、こうした現場の声に耳を傾けるべきであろう。

生徒が面白がることならなんでもやる。どんな道具でも使う

横井弘先生

横井弘先生

 ところで、情報教育といえば、プロジェクタで画像を映し出したり、生徒がパワーポイントを使って発表したり、という授業を思い浮かべがちだが、これまでお伝えしたように、横井先生の授業はそれらとは一線を画している。

 「ICTを使うことばかりに囚われてしまって、それを使って何をやりたいのか、生徒たちをどうしたいのか、という狙いを見失ってはいけません。大切なのは授業の中身であって、何時間パソコンを使った、ということではない。私は、子どもたちの理解が高まるのならどんな道具でも使う。逆に言えば、どんなに目新しいものでも、手間がかかって肝心の授業がおろそかになったり、それほど授業に効果的でなければ使わない。今はエディクリックが効果的だと思うからたまたま使っているのです。
 授業でのICT活用を促進するためには、よく使うパソコンやツールは出しっぱなしにして、いつでも使える状態にしておける、移動するのも簡単というものがいい。そうすればもっと気軽に有効な使い方ができるのではないでしょうか。エデュクリックは、配線もいらないし、自分のノートパソコンとリモコン、赤外線レシーバを運ぶだけでどこの教室でも使えるところも気に入っています」

 遅れているとはいえ、教育の情報化は確実に進んでいる。便利なツールやコンテンツも次々と開発されている。これからの教師は、それらの中から本当によいものを見つけ出し、子どもたちのための最善な活用法を考える、というあらたな仕事も抱え込むことになる。教師の多忙化に拍車がかかるばかり。ベンダー側の企業には、できるだけ現場に即したシンプルで効果的な製品を開発をしてくれるよう、ぜひお願いしたい。(2005年12月19日取材)

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