教育トレンド

教育インタビュー

2007.11.06
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『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソン 氾濫するメディア社会で、ディズニーらしさを失わない作品づくりとは?

子ども向けの珠玉の作品を提供し続けるディズニー・アニメ。その最新作『ルイスと未来泥棒』には挫折した子どもや自信が持てない子どもたちが前向きに生きるためのヒントがたくさん込められている。そこで監督を手掛けたスティーブ・ジョンソンさんに、作品テーマやエンターテインメント業界におけるディズニースタジオの役割等について語っていただいた。

テーマは挫折を乗り越え”前へ進み続ける”こと

学びの場.com『ルイスと未来泥棒』は発明好きな少年・ルイスが、いつか自分を捨てた母親に会いたいと願いつつ、養護施設で好きな発明をしながら暮らしています。でもルイスは自分のやっている事にまるで自信が持てず、すぐに「もうダメだ」とくじけてしまいます。主人公が“ちょっとダメなコ”という点が特徴的ですね。

『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソンもともと原作は人気絵本作家ウィリアム・ジョイスの『ロビンソン一家のゆかいな一日』なんです(内容は、発明をして夢を追う風変わりなロビンソン一家に出会った少年の心躍る一日を描いたもの)。でもアニメ化するに当たり、僕らなりのテーマを作ることにしたんです。  そのテーマとは“前へ進み続ける”ということ。このテーマにしたことで、主人公ルイスを未来に向かって進み続けられる、成長するキャラクターに設定することになりました。そのため、ルイスは過去に大きな障害があり、それに囚われており、最終的にその過去や障害を乗り越えるキャラクターにする必要性があったのです。彼がすぐ弱音を吐き、夢を途中で諦めようとするところは、このような背景から生まれました。  こういう弱い部分って誰にでもあるものです。どんな人からも理解されやすく、共感できるでしょ? だから、良いテーマだと思ったんですよ。ちなみに僕自身もルイスに似た部分はありますからね。

学びの場.com監督自身もこれまで、ルイスのように「もうダメだ!」と途中でくじけたことがあるのですか?

『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソンもちろん! そもそも僕は両親に連れられて子どもの頃からディズニー作品を観にいっていました。それでアニメーションに心惹かれるようになったんですよ。小さい頃はしょっちゅう、紙切れにディズニーのキャラクターを描いていたものです。  そこから理屈抜きにアニメが好きになり、大学はカルアーツ(正式名称はカリフォルニア芸術大学。ディズニーのトップアニメーター養成機関としても有名)に入ることにしたんです。偉大なアニメーターを目指してね。  ところが勉強するうちに自分は皆と比べて画がヘタなことがわかって(笑)。それはもうショックだったし、納得いきませんでした。でもやがて「アニメーターじゃなくてもアニメに関わることができるのではないか」と思い直したんです。つまりストーリーテリングに回ればいいのではないかと。

「アニメーターは過程の一部分しか見ないけれど、ストーリーは全体を見ることができる。それはそれで面白そうだ!」と気づいたのです。それで脚本やストーリーボードといった方向に自分の道を変えることにしたのです。

時代が変わっても伝統を貫くディズニースタジオの姿勢

学びの場.comなるほど、今のお仕事に至るまでは決して順風満帆ではなかったのですね。  ところで、監督は今の子どもたちをどうとらえ、どういう作品を作っていきたいと考えているのでしょうか?

『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソンとにかく技術が進歩したことで、子どもを取り巻く環境はめまぐるしく変わったと思います。映画でも音楽でもダウンロードさえすれば瞬時に手に入れられるし、いろんなメディアが子どもたちの周りにはあって、すぐに触れられるものとなっていますよね。そんな彼らの関心や注目を得ようと、ありとあらゆるものが散乱している……これが現代の状況です。  エンターテインメント業界にいる者たちにとっては、そんなメディアが氾濫する中で自分たちの作品をどれだけ目立たせるかが重要事項となっています。

このような状況においても、私たちディズニースタジオの素晴らしい部分は、“ディズニーらしさ”を忘れずに、感情に訴えられる、魅力あるキャラクターを作りあげ、観る側が感情移入できるものにしているところです。  ただジョークがキツいだけのアニメとか、シニカルっぽさしかない作品とか、そういったものは一切作らず、今までディズニースタジオがやってきたこと――つまり伝統ですね。その誇りを持ったアニメーションを作っていこうという姿勢を貫いているんです。だから素晴らしい作品に仕上がるのだと自負しています。それはピクサーの最高責任者のジョン・ラセターが関わるようになってからも変わりません。

子どもは早い時期から前向きな姿勢を持つことが大事

学びの場.comちょうどディズニースタジオがピクサーを買収し、ラセターさんがウォルト・ディズニー・ピクチャーズのアニメーション部門で最高責任者になっての初作品が『ルイスと未来泥棒』なんですが、彼が入ったことで何か変わった部分はありますか?

『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソンラセターが実際に関わることになった時点で『ルイスと未来泥棒』は85%くらいの完成度でした。でもラセターらが参加したことで、すごくいいアドバイスをもらったんですよ。幸いなことに十分にそのアドバイスに取り組める時間があったので、それから60%ほどやり直しをしました。映画が本当に良くなったので、これはありがたいことでしたね。

学びの場.comでは最後に監督自身が『ルイスと未来泥棒』でどんなメッセージを伝えたいか、それを教えてください。

『ルイスと未来泥棒』監督 スティーブ・ジョンソン作品のテーマは“前に進み続ける”ということだと最初に申し上げましたが、そのことが子どもたちの心の中に残ってくれたら……と思っています。  もし何かがうまくいかなかったとしても、前に進み続けようとする心がけを持つことが大事なんです。とにかく諦めず、もし失敗してもこだわらない、それが大切です。  ロビンソン一家の台詞で「失敗を受け入れなさい」というのがありますが、失敗を終わりと思ってはならないんです。むしろ、“始まり”として受け止めること。つまり失敗を一つのチャンスにすることが重要なんです。  僕には7歳の息子がいます。この映画を作る時に息子をよく観察しながら作っていったのですが、その結果、子どもは早い時期から「前に進む」という前向きな姿勢を持つことにより、成長後も人として何事もよりよい考え方を持つことができるようになるのではないかと実感したのです。  前向きな人が多くなれば、結果として社会全体もよくなるのではないでしょうか。この作品を観て、子どもたちにそういう想いを感じてほしいですね。

関連情報
12歳のルイスは赤ちゃんの頃に養護施設に置き去りにされた。そんな彼は行方のわからぬ母親を探すための“メモリー・スキャナー”の開発に必死。だがそのマシンのことで未来からウィルバーという少年がタイムトラベルをして現われた。どうやらこのマシンは未来でとんでもないことの引き金になるようだ。ところがそのマシンが盗まれてしまい……。頑張ればどんな未来も築けるという可能性を示唆した物語。なかなか自信のもてない子どもたちにも勇気を与えてくれる作品だ。 監督・声の出演/スティーブ・ジョンソン 声の出演/ジョーダン・フライ、アンジェラ・バセット、トム・セレックほか 12月22日(土)より丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー 配給/ウォルト ディズニー スタジオ モーションピクチャーズ ジャパン (c)Disney Enterprises,Inc.

スティーブ・ジョンソン(すてぃーぶ・じょんそん)

1970年6月5日、テキサス州プラノ生まれ。95年より『ターザン』(99年)のストーリー・アーティストとしてウォルト・ディズニー・フィーチャー・アニメーションに参加。その後ストーリー・スーパーバイザーとして『ラマになった王様』(00年)、『ブラザー・ベア』(03年)の製作に関わり、本作で長編映画監督デビュー。

インタビュー・文:横森文 写真提供:ウォルト ディズニー スタジオ モーションピクチャーズ ジャパン

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