教育トレンド

教育インタビュー

2007.07.03
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吉田照美 伝える心、伝える力。ラジオが育てる想像力

今年4月から『ソコダイジナトコ』で教育問題をはじめ時事ネタを中心とした朝の情報番組を始めたラジオパーソナリティの吉田照美さん。また、父子の心の交流を描いた絵本『バルサの翼』を同じく4月に出版。アナウンサー人生をリスナーとともに歩んできた吉田さんが今、新境地で思うこととは?

新番組では教育問題の比重もより重く

学びの場.com文化放送の昼の顔から朝の顔へと変わったわけですが、生活などはだいぶ変わられましたか?

吉田照美生活のサイクルはそんなに変わりません。もともと朝3時すぎに犬の散歩に行くのが習慣になっていたので(笑)。散歩から帰ってすぐに仕事に行くようになり、かえって楽かもしれませんね。番組内容は、リスナーが通勤途中のお父さんや家事に忙しい主婦の方が多いので、時事問題がメインになりました。昼間の番組ではかなりおバカな話をやっていましたが、今は生活実感のある話がいいなと思っています。

学びの場.comそれでは教育問題ついての関心も高く?

吉田照美やはり子どもの将来のことなどを考えると仕事でなくても関心は高いですよ。最近いちばんショックだったのは給食費の不払い。僕らが子どものころには生活が苦しくて払えないというクラスメートはひとりかふたりいました。けれど、今問題になっているのはそういうのではないんでしょう? お金があっても給食がまずいから払わないとか。さらに驚いたのは、子どもが朝起きないからといって先生にモーニングコールを頼む親! それを引き受ける先生もどうかと思うけど、親がどうにかなっちゃっているのかなあ? しかも、そんな親が見過ごせないくらいの数いると聞いて本当にびっくりしました。

学びの場.com学校と家庭の関係や役割が変わってきているのでしょうね。

吉田照美僕が子どものころは、先生というのは尊敬すべき存在であり、リスペクトする気持ちはつねにありました。親に対しても、僕のために一生懸命心を砕いてくれているというのを実感していました。貧しい時代だったこともあるのでしょうが、母親が内職している姿などを見ると、子ども心に「グレるわけにはいかないな」と思っていましたよ。貧しいなりに一所懸命頑張っている親の姿を自然と見せられていましたから、自分も頑張らないと、てね。最近言われる家庭教育力の低下は、やはり親自身の問題なんでしょうね。

日常のなにげない親との接触が大切な思い出

学びの場.com4月に絵本『バルサの翼』を出版されましたが、吉田さんとお父様の温かい交流がさりげなく描かれていました。

吉田照美あのころは、子どもはみんな、新聞紙で紙ヒコーキやカブトなんかを作って遊んだ時代ですよ。まず親が作ってくれて、それを真似て自分でやってみる。そんななかで、バルサ材でできた新品の飛行機は当時は高価なおもちゃでした。あるとき親父と一緒に空き地に行って、その飛行機を飛ばして遊んだんです。そんななんでもない光景ですが、すごく印象深くて、絵本に残したくなったんです。どんな家庭でも、子どもとの接触の時間を親がきちんともってあげれば、子どもには必ず心が伝わりますし、教育効果というのは計り知れないほどあるはずです。親から子への、そういう伝達がうまくいかないと、何かがヘンな方向にいっちゃうんじゃないかな。

学びの場.com吉田さんも息子さんがいらっしゃいますが、やはりそのような心配りを普段からされているのですか?

吉田照美学校行事に参加したり、夏休みに旅行したりというのは毎年やっていましたね。でも子どもはどこに行ったか全部覚えてないって言うんですよ! せっかく連れて行ったのに~(笑)。今はもう高校3年なので照れているのかな。小学校の高学年くらいから親と過ごすのを避けたがるようになりましたね。まあ思春期ですから。でも、作家では重松清が好きだとか、ギターに夢中になっている様子だとかを見ると、方向性は間違っていなかったなと思います(笑)。

学びの場.com正しく成長してくれたと。

吉田照美そうですね(笑)。あと、大事だなと思うのは一緒にゴハンを食べること。朝でも昼でも夜でもいいから一緒にゴハンを食べるというのは家族として大事なことですよ。今やっている番組のコメンテーターのジェフ・バーグランド(帝塚山学院大学教授)さんがおっしゃっていたのですが、「子どもと一緒に食事をしながら、親が話題を提供しなさい」と。最近こんな本を読んだとか、こんなところへ行ってきたとか、何でもいいんです。まず、親が自分の話をして親子の対話のきっかけを作る。日本の親は食事のときといえば大抵、「勉強はどうだった?」とか、「誰と遊んだの?」とか、子どもを質問攻めにするけど、それでは子どもの口は閉じてしまいます。そういえば僕自身も学生のとき、朝出がけに母親から「晩御飯、何が食べたい?」って聞かれてゲンナリした記憶があります(笑)。

今も昔もリスナーとの濃密な関係は変わらず

学びの場.com吉田さんは深夜の『セイ! ヤング』や夜の『てるてるワイド』のころから若い方たちの圧倒的な支持を得てきましたが、今も当時のリスナーの方たちが聴いてくださっているようですね。

吉田照美コアリスナーは今40代なんですよね。本当にありがたいことだと思います。たまに「昼の番組を復活してくれ」なんて言われたりしますが(笑)。長く番組をやっていると、やはり愛着が生まれますね。  最初にパーソナリティをやったのは『セイ! ヤング』で、聴いていたのは中高生・大学生・社会人という年齢層でした。それを2年半やって、次が夜9時から12時までの『てるてるワイド』。このときリスナーは中高生がほとんどで、ヘタすると小学生が聴いているんですよ。当初、ちょっとやりづらいかなと思ったのですが、やってみると年齢は関係ないことがわかりました。
 それから昼の番組へと。仕事中の人や家庭の主婦を相手に面白くやれるかと心配だったのですが、これが実際やってみるとイケル! そして今度は朝。  僕は年齢や対象に関係なく、リアルタイムで聴いている人に向け、一個人として喋ることが楽しいんです。リスナーも「吉田照美が自分に語りかけてくれている」、そんな感覚で聴いているんじゃないかな。僕自身いろんな番組を聴いている“一人のリスナー”でもあるので、わかるんです。

学びの場.comラジオはパーソナリティとリスナーの関係が深いですよね。でも最近若い人がラジオを聴かなくなっているようですが。

吉田照美ラジオはリスナーとの関係が優しいんです。多少間違っても許してくれる。テレビではそうはいきません。すぐにクレームがくるし、非常にクールですね。今の若い人は、好きなテレビ番組はHDDに録画して見るという習慣が身についていますし、ケータイやゲームに時間を取られて、ラジオを聴く習慣が身についていないんですよ。それがすごく残念。僕自身、他局でも必ず聴く好きな番組がありますし、もっとたくさんの若い人に聴いてもらいたいですね。
 ラジオは聴く側が想像力を鍛えることのできるメディアで、他ではできないような脳の使い方をしていると思うんです。ラジオで誰かが喋るということは、リスナーは喋り手のフィルターを通して話を聴くわけです。それが素晴らしい喋り手であれば、その肉声にはたとえようがないほど多くの感動が存在しています。志ん生の落語がすごかったというのと同じように、ラジオも「聞き逃すと損だよ」という番組があるんです。

ラジオは人に行動する力を呼び起こす

学びの場.com吉田さんも数々の伝説を残されていますよね。

吉田照美いろいろとくだらないことをしてきましたね。『セイ! ヤング』を始めたころ、どのくらいの人たちが聴いてくれているのかな? と思って、深夜の生放送で「原宿に集まってくれ」と呼びかけたら10人くらいしか来なくてガッカリ。でも考えてみたら、当時高校生が深夜に原宿に来られるわけがないじゃないですか(笑)。  その後、 “乾杯おじさん”というのをやりました。これは、隠しマイクをつけて帰宅ラッシュの電車に乗り込み、ボストンバッグに隠しておいた空のジョッキをいきなり出して「サラリーマンのみなさん、今日も一日ご苦労様でした。カンパーイ!」っていうもの。「これをまたやるから、新宿駅総武線下りホームの最後尾にボストンバッグにジョッキを入れて集合!」と告知したら、当日新宿駅にボストンバッグを持ったヤツがうろうろしていて…。まさかと思い電車に乗り込んだら、ほぼ全員ボストンバッグを持っている。僕が「カンパーイ!」と言うと、あちらこちらで「乾杯!」、「乾杯!」、「乾杯!」。ちょっとしたパニックでした(笑)。  『てるてるワイド』のときは「ティッシュペーパー空箱投げ大会」というのをやりました。自宅にあるティッシュの空箱を持ってきて、ただ遠くに投げるというくだらない企画に3000人も集まりました。
 昼の番組に移ってからは、公開生放送を埼玉のむさしの村でやったとき、ずい分都心から離れた不便な場所にも関わらず、これに1万人も集まっちゃって。「渋滞が起こっています」と交通情報が流されましたが、これは僕の番組が起こしたものだったんです(笑)。でも嬉しかったですね。

学びの場.comリスナーに「自分が行ってあげなきゃ」という気持ちがあったのでしょうか(笑)。

吉田照美さっきも言ったようにラジオは「自分だけに放送してくれている」という感覚を生じさせるメディアなのです。「オレが応援してやらなきゃ誰がやる」という気持ちにさせるホットな瞬間がラジオにはあるんです。
 例えば街に出ると人々は、テレビ番組のレギュラーのときは「あ、テレビに出ている人だ」というような、ちょっと遠巻きにした冷めた反応なんですが、ラジオのリスナーはスッと近寄ってきて「ねえねえ、この間こんなこと言ってたけどさ」って、いきなり話の中身をふってくるんです。影響力の大きさは断然テレビが勝ちですが、個人を動かすことにかけてラジオはすごく熱いメディアですよ。  僕など喋りがうまいわけではないけれど、一生懸命伝えたいと思ってやっていれば拙い表現方法でも確実に伝わるものです。反対にいくら滑らかな喋りでも、ビジネスと割り切ってやっていると絶対に見破られる。それはラジオの世界だけではないですよね。親でも先生でも政治家でもそう。格好ばっかりつけて心が入っていない言葉や態度は、相手にはわかるものです。不器用でも相手のことを、子どものことを、一生懸命思いやって語りかけ、一緒の時間を持つようにすれば、いつか通じ合えるのではないでしょうか。

関連情報
『バルサの翼』 さく・え 吉田照美
(ランダムハウス講談社 1890円)
「お父さん、ボクは忘れない。あの時を。」 吉田照美さんが描く父と子の物語。遠く置き去りにしてしまった子どもの日々と、そしていま子どもの親になった男の切ない心。吉田照美さんの詞を井上陽水さんが作曲した『バルサの翼』 オリジナルCD付き

吉田 照美(よしだ てるみ)

1951年1月23日生まれ。東京都出身。早稲田大学政経学部卒。74年文化放送にアナウンサーとして入社。深夜放送『セイ!ヤング』を担当後、80年から若者向け番組『吉田照美の夜はこれから てるてるワイド』へ。85年退社しフリー。テレビ番組『夕やけニャンニャン』の司会も務めた。87年4月からの昼の番組『吉田照美のやる気MANMAN!』で長らく聴取率王者に君臨したが、今年4月からの朝の番組『ソコダイジナトコ』を担当。本業以外でも映画監督やCD発売、絵画など幅広く活躍。今年4月、絵本『バルサの翼』を出版し、話題を呼んでいる。

写真:言美歩/インタビュー・文:柴田浩子

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