教育トレンド

教育インタビュー

2007.02.27
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スペシャル対談 ICT活用「日常化」へのヒント たくさんの先生に「はじめの一歩」を届けるために

教育現場へのICT機器の導入が進んでいます。「教員のICT指導能力」を伸ばすために、どんな活動が必要になるのでしょう?今回は、堀田龍也先生と皆川寛先生による対談です。

「活用イメージ」と手軽に使える機器が必要

堀田文科省の調査によると、コンピュータが使える先生はすでに97%近くに達していますが、授業で普段からICTを使っている先生は少ないのが実態です。その原因はどこにあるのでしょう。

皆川授業でどう使うと効果的かという良い事例を知らないことが大きいと思います。実践を見ることは最初の一歩として大切ですが、そのあと自ら体験するまでに時間がかかってしまうことも多いようです。見てすぐに体験すると効果的なのですが。

堀田すでにほとんどの先生はコンピュータを使えるのですから、授業で使う際にも操作技能面ではさほど困らないはずです。すると問題になるのは、どういう場面でどう使えばいいかという「活用イメージ」の有無と、短時間で準備できて誰でも使えるような道具が揃っているかどうかという点になるでしょう。
活用イメージについては、普段から実践できるようなICT活用の授業をどれだけ校内に見せていくかということでしょうし、道具については、校内でどう整備していくかが課題になる。つまり、学校のなかで中心になっている情報担当の先生の工夫や、普及への努力がキーになります。

皆川そうですね。しかし担当者ひとりの努力ではなかなか普及しませんから、周囲の先生方やICTに興味を持ちはじめた先生方をうまく巻き込みながら、学校全体の取り組みとして広めていくことが大切だと思います。

ICTの使いどころと効果を見きわめて

堀田校内へ広めていくときには、ICTの活用場面や効果が一目でわかる資料があると便利です。そういう意味でも、皆川先生が2006年の日本教育工学会全国大会で発表された「プロジェクタ活用の効果的な授業場面に関する分類表の開発」は興味深い研究だと思います。

プロジェクタ活用の目的と効果的な授業場面を整理した分類表

プロジェクタ活用の目的と効果的な授業場面を整理した分類表

皆川この表は、1単位時間内のどの場面でどのような目的でICTを活用すれば効果的かを整理したものです。1時間の授業の流れを「導入」「展開」「まとめ」に分け、提示する素材を「アナログ」と「デジタル」の2つに分類しました。

堀田1時間の授業を対象にしている点がポイントですね。毎日の授業でICTを使うときに、「つかみ」ではどう使うか、まとめではどう使うかがわかりやすくまとめられています。各場面で、それぞれどのような活用が効果的なのか説明してください。

皆川導入では、「課題の提示」「動機づけ」「知識の確認」といった使い方が有効です。大きく映すことによって子どもは引きつけられますし、その時間の学習課題も把握できます。たとえば授業の冒頭に教科書の該当ページを映し、その日の課題をみんなで確かめるのは、非常に簡単ですが大事なことです。「教科書の何ページの何行目を見て」と口頭で説明するだけでは伝わらないこともありますが、大きく映してあげれば、「今日はここを勉強するのか」と全員が意識できます。 展開では、「情報の共有・比較」が重要です。子どもたちは学習を進めるなかで自分の考えをノートにまとめていきます。それをみんなに知らせる際に、口頭で説明するのと、ノートを大きく映して伝えるのでは、共有のさせ方が変わってきます。 まとめの場面は「知識の確認」が中心になります。ノートや教科書を提示するだけでなく、学習した内容を整理できる数十秒のコンテンツを見せて定着を図るといった使い方も効果的です。

手近なアナログ素材が「最初の一歩」に

堀田冒頭で、ICT活用の最初の一歩が大切だというお話がありました。授業でICTを利用した経験のない先生方は、まずどんなことから取り組むべきでしょうか。

皆川私が行ったアンケート調査では、デジタルよりもアナログの素材のほうが扱いやすいと感じる先生が多かったので、まずは教科書やノートなど手近なアナログ素材を実物投影機やプロジェクタで提示してみることから始めるといいと思います。「素材を大きく映す」という簡単な活用でも、ICTの効果は十分に実感できるはずですから。次のステップは、この分類表なども参考にしながら、授業のどの場面で使うのが効果的か、使いどころを意識しながら活用してみること。その過程で、デジタルコンテンツも試してみるという流れではないでしょうか。

堀田ひとつ注意してほしいのは、表にある場面すべてで使うわけではないということです。ICTに頼りすぎないというか、授業として子どもの意欲を持続させることに配慮しながら、ポイントをしぼって使うことが大切です。
アナログ素材の提示が活用の入口として適しているのはわかりましたが、そこからデジタルへとスムーズに移行していけるものですか。

皆川アナログの素材を扱うなかで、使いどころや、こういう提示の仕方がいいというポイントが体感できますから、デジタルコンテンツの使いどころも経験的にわかってくると思います。

堀田アナログからデジタルへ移るときには、デジタルコンテンツならではの良さを知ってもらうことが大切ですが、先生はどういう説明をされているのですか。

皆川実際に観察したり体験したりできないものを見せられるというメリットがありますし、手軽さという特長もあります。たとえば校外学習の様子を撮影したデジカメの画像を、次の授業の導入時に提示して活動を想起させるといった使い方も、デジタルだからこそ手軽にできるのです。また、繰り返し見せられることも大きなポイントです。短時間のコンテンツを、見せ方を変えて繰り返し提示することによって定着を図ることができます。

堀田繰り返し提示できるのはデジタルの強みですね。授業で使いやすいコンテンツが学校に揃っていれば、繰り返し見せながら、少しずつ知識を増やし理解を深めていくといった指導が簡単にできる。そうした質の高いコンテンツと、動画などをクリアに見せられる提示装置が学校にあると、ICT活用はぐっと身近なものになると思います。

皆川提示した画面に文字を書き込んだり、一部を拡大・縮小したりする機会も多いので、電子情報ボードも便利ですね。

一人ひとりの活用レベルに合わせたサポートを

堀田校内でICT活用を広げていく情報主任の先生方へアドバイスはありますか。

皆川学級担任の先生にとっては機器の準備の手間がネックですから、電源をつなぐだけですぐに使えるように準備した機器を、校内の各フロアに1セットずつ用意しておくといった気遣いが大切だと思います。また、情報主任自身がICT活用の参考になる実践を校内へ示していくことも必要です。ICT機器を使い尽くすような高度な事例ではなく、最初の一歩になりやすい手軽な実践ですね。

堀田あえてアナログの素材を使って、初心者の先生に「なるほど」と思ってもらえるような授業を見せていくことは重要だと思います。

皆川見せる機会については、校内研修の模擬授業でもいいですし、授業研究もICTを使う導入の15分に限定して見てもらうなど、いろいろな工夫ができるはずです。さらに、先生方の要求に対応できるような「引き出し」を数多く用意しておくことも大切です。

堀田CT活用の方法や効果はもちろん、デジタルコンテンツにはこういうものがあって授業で使うと効果があるとか、こんな新しい提示装置があるとか、さまざまなソフトやハードの情報を知っておく必要もあるでしょう。最初の一歩を踏み出した先生から、場面と効果を見きわめながら使う先生まで、一人ひとりの活用の段階に合わせて適切な情報提供やサポートをしてあげてほしいですね。

写真:言美歩/文・構成:栗林俊晴

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