教育トレンド

教育インタビュー

2002.04.30
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大窪修二さん これから親、PTAが担う役割とは

いよいよ4月から始まった新指導要領。3割削減、ゆとり教育、完全週5日制、総合学習......。さまざまな声をはらんで動き始めました。導入するまでの数年間、現場の教師はもちろんのこと、PTAにもかなりの部分で変化が求められました。そのPTAを束ねる全国PTA会長である大窪さんに、PTAとして新指導要領に期待すること、担う役割などをお伺いします。

子どものいろいろな可能性が開ける総合学習

学びの場.com新指導要領がいよいよ始まりましたね。そのことによって、保護者から見て、どういった面が大きく変わると思いますか。

大窪修二さんこれまではテストが何点とか、リコーダーがうまく吹けるとか、そういうことが学校での評価の中心でした。ところが、総合的な学習の導入によって、保護者や地域の方々が、ゲストティーチャーとして子どもと関わる機会、また、外へ出てさまざまな体験学習をする機械も増え、今までより、幅広い視点から評価がされると考えられます。
 保護者の方も、「自分の子どもはこんなことに興味をもっているんだ」「こんなことができるんだ」といういろいろな尺度で子どもを見られるようになると思います。  いままでは教科書を開けばそこに答えがあって、ペーパーテストで何点というように計れました。それが学力だったわけです。これからは教科書に答えがない部分も出てくるでしょう。その時は、自ら外に出て行って、いろいろな人に聞いたり、いやな経験もしなければならないかもしれません。しかし、その中から得るものは大きいと思います。
 従来、「みんながそうだから」「こうしないと笑われるよ」と言われていたものが、複数の人と関わりを持つことによって、いろいろな評価が出てくる。子どもたちは、失敗を恐れず、外に出たり、チャレンジ精神を発揮するようになるでしょう。これがプラスになると考えています。

学びの場.com親はどのようにこの新指導要領を受け止めていかなければならないと思いますか

大窪修二さん完全週5日制も始まりましたね。いままでは6日間、学校が見ていました。今度は保護者が子どもを見る時間が増えたわけです。今日、子どもたちは何をやっているのか、今日はどこに行っているかを保護者は意識しなければならないと思います。  「ゆとり教育」と言いますが、ゆとりというのは、達成感があって初めて満足できるものなのです。計画性に基づいてどのくらい今日一日を過ごせたか、今日はこれだけやったという満足が、心のゆとりになると思います。そういう部分を保護者が意識することが必要です。物理的にそばにいなくても、子どもに対して意識を向けること、気配りをすることが大切になってきます。  それでも心配だということになれば、地域です。「こどもセンター」が全国に設置され、これからは地域の中で子どもたちをみられるようなシステムづくりがされるでしょう。それは丸投げするという意味ではなく、保護者の方でも、「こういう人が住んでいる」「こういう人が関わってくれている」というのをしっかり認識していく必要があります。その代わり、自分も地域の一人として、何か一役を担うということも必要ですね。

「学校との連携」が大きなポイントに

学びの場.com学校とPTAとの結びつきがさらに強くなるのですか。

大窪修二さん学校とPTAの関係も、規制やしばりはたくさんあります。でも、もしもそれを予想して最初の1歩が踏み込めないのであれば、大変残念なことです。いま、その垣根を越えてお互いが理解できる組織づくりをしておけば、いろいろな問題が出たときに速やかに対処できるようになっていると思います。とにかく自分たちの責任を明確にしていく姿勢を、「いま」示さないと。  そういう意味では、学校側にはいま、総合学習を通して、パートナーシップという形で地域の力を借りましょう、という体制ができていますからね。先生方はコーディネーター的立場になって、子どもたちにより体験を生かせる授業をつくっていくことができますから。一部では、総合的学習を導入したら、先生方にも活気が出てきた、という話も聞いています。そういう意味では、先生にとってもいいチャンスだったのではないかと思います。  家庭と学校と地域、まだまだ連携は達成されていません。自分のやるべきこと、責任をどこかに追いやってしまっていて、相手に要求ばかりを言っている部分が相当あるのではないでしょうか。自分たちのやるべきことをしっかり見つめて、相手に提案したりする姿勢がないと、相手との協力体制は得られません。

学びの場.com先生方の受け入れ意識はどこまで進んでいると思いますか。

大窪修二さんそれを疑問視する前に、PTAが組織として先生側の情報をしっかり受け止め、どこからどこまでをみなさんに発信し、どこは組織で解決していくかを明快にしておく必要があります。組織としてしっかりした受け皿ができていれば解決できる問題は多いと思いますよ。
 要求する前に、いま、PTAは、学校と連携をとれる組織になっているのかを確認する。裏を返せば、学校でなにかあったときに、学級PTAの方をクラスの保護者とのパイプ役として先生が受け入れられるようになっているかどうか。
 それでも、だんだんそういうふうになってきていますが。

学びの場.com総合学習は地域と学校とで作り上げていくものという話ですが、PTAはそれにどこまでかかわっていくつもりなのでしょうか。

大窪修二さん総合学習でなにをやるかは、基本的には子どもたちと先生方が決めることです。「なにを学びたいか」「自分は何を調べたいか」。「これをやりなさい」では総合学習の意味がありません。そのときに、保護者にはいろいろな職種の方がいらっしゃいますし、知識も持っていらっしゃいます。もちろん、保護者以外の方の知識も必要になるかと思います。そのときに、その受け皿としてPTAの組織が動ければというように考えています。そういう意味では積極的に総合学習に取り組んでいくべきだと思います。

学びの場.comPTA活動はこれから活発になっていくと思いますか。

大窪修二さん いままでのように、自分の子どもにしか目がいかない、というのはよくありません。自分の子どもだけ無菌室で育てようというのは無理があります。いろいろな外部の人と関わってこそ子育てでしょう。保護者も、地域の子ども全部に目を向けなければ。
 PTA活動でも「ひまになったらやりますよ」「そのうちやりますよ」という人はまずいません。忙しい中で作る30分、1時間が貴重なのです。だからこそ、そういう姿を子どもたちに見せてあげてほしいですね。
 お父さん、お母さんが、忙しい中で、大変ですけれども、自分のために時間を割いてくれている、そういう親の姿を子どもたちはきちんと受け入れてくれると思います。
 いろいろな関わり方があると思いますが、社会の中で責任を果たすという意識で関わっていただければいいかと思います。
 親のほうが、「子どもの犠牲になっている」「言いなりになっている」という気持ちでは、子どもは将来に夢や希望は持てません。社会の中で生き生きと活動している親を見て、あるいはそういう社会人を見て、子どもたちも、将来の夢を見られるのです。

大窪 修二(おおつか しゅうじ)

社団法人 日本PTA全国協議会 会長
茨城県日立市在住。平成4年に「日立市塙山学区住みよいまちを作る会」で「さんさん祭り」の実行委員長を務めたことが、地域活動に関わりはじめたきっかけ。翌平成5年に、PTA役員となり現在に至る。PTA会長には、平成13年に就任。
平成11年まで、日立市塙山スポーツ少年団の野球部で監督を務め、多くの子どもたちと接したことは、PTA活動に多いに役立っている。
3人の男児の父でもあり、休日は野球を通じて密接に関わるなど、子どもとの会話を大切にしているという一面も。仕事を持ちながらPTA活動に多くの時間を費やしてこられたのは、家族の協力があったからこそ。

取材・文:長橋 由理

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