教育トレンド

教育インタビュー

2006.05.01
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三田紀房さん・佐渡島庸平さん 受験って、努力の量が計られているわけだから公正で公平。納得がいくシステムですよ。

2005年ドラマ化された『ドラゴン桜』。偏差値30台で落ちこぼれの高校3年生が、学校再建に乗り込んできた弁護士の指導のもと、東大合格を目指す、という話だ。マンガの中で明かされる受験のノウハウは、実際に東大生の体験を元にしているとあって、受験生やその親までも夢中にさせ、関連の受験本も多数出版された。今回は、その『ドラゴン桜』の原作者、三田紀房さんと、担当編集者の佐渡島庸平さんにお話を伺った。

勉強ができる子はカッコ悪い!?

学びの場.com三田さんはこれまで『甲子園に行こう!』とか、『クロカン』など高校野球を題材にした作品が多かったように思いますが、今回は「東大」がテーマですね。

三田基本的には、"スポ魂"なんですよ。頑張る高校生がいて、それを応援する教師や監督がいて。頑張る姿が胸を打てば応援したくなります。一緒に力を合わせて目的を達成した時には、カタルシスを味わえると思うんです。
われわれの年代は、勉強ができる子はカッコ良かったんです。学級委員長とか生徒会の役員とかをやって、壇上に上がっているわけですから。それがいつのまにか変わってきて、勉強が得意ということが堂々と言えない風潮になってきた。
勉強はテクニック的なものに見られがちですが、僕は勉強ができるのはひとつの個性だと思っていますから、それを周りがきちんと認めてあげたほうがいいと思います

佐渡島僕がいたのは進学校でしたから、勉強ができてカッコ悪いということはありませんでした。でも、東大よりは、早稲田とか慶応のほうがおしゃれというか、勉強だけじゃないぞ、という感じはありましたけどね

三田東大を目指すというと、エリート意識の強いやつ、みたいなネガティブな感じがないですか? 東大を目指すことをはっきり言えない風潮があるように思います。たとえば、東大に行って弁護士になりたいなんていうと、集団からちょっと離れてしまうような感じ。野球選手になって大リーグに行きたいとか、サッカー選手で活躍したい、というのは『夢があっていい』と周りは応援するんですけど、東大に行って官僚になりたい、なんて言うと、妙に現実的な子ども、というふうに取られてしまうんですよね。いまは、勉強することにアレルギーを持ち始めた時代。一部のエリートを育てるシステムはよくない、突出することを嫌う社会風潮があるように思います。

編集者の佐渡島庸平さん。 ご自身も東大出身で、 『ドラゴン桜』には佐渡島さんの 経験やアイデアも多く生かされている

学びの場.com回を重ねるごとに、実際に東大に入った人にヒアリングして、合格するためのノウハウを集めたと聞きますが、東大生に会って東大のイメージは変わりましたか。

三田東大生というと、勉強しかしていないイメージがありましたが、実際会ってみると、普通な子が多かったですね。受験勉強は高3の夏から、みたいな子も意外に多くて。もちろん、それまでに鍛えられてはきているんでしょうが、けっこうバランスがとれていると感じました。  実は、もともとは倒産しかけた学校を立て直すという方向の話を考えていたんです。ですから最初は学校再建というのがメインで、東大に合格させるというのは「核」ではなかったんですね。ところがいざ連載が始まったら、「東大にどうやって入るんだ」というプロセスの方に読者の関心が集まった。そこで、徐々にいまの路線になってきたというわけです。読者層も30代が多いし、受験というのは読者の多くが通ってきた道ですし、30代・40代には、教育のことに興味がある人も多いのでしょうね

『ドラゴン桜』流・学校経営術

学びの場.com学校経営を立て直す、学校に企業の経営手法を取り入れる、という話はとても興味があります。また、やる気のない先生、諦めてしまう先生、評価されるのを嫌う先生、新しいことを嫌がる先生……というのも多く登場しますね。これは実際にモデルがいらっしゃるのでしょうか。

佐渡島先生のモデルがいるというわけではないです。ただ、教え方というのは、いろいろ取材したり、集めたりしました。読者の方からも「役に立った」というハガキをたくさんいただくのですが、連載の雑誌で読んでくださっているのはサラリーマンの方が多いですから、サラリーマンの方に支持されるような演出は考えています

学びの場.com実際に『ドラゴン桜』に出てくるような学校があるのか、というのは非常に気になるところですが。

三田取材している中で、偏差値40から1年で東大に合格したという人はいましたね。こんな生徒なんているはずがない、と思いがちですが、実際に埼玉にあるそれほど偏差値は高くない女子校で、たった一言「特別進学クラス作る」と言っただけで、5人、10人は集まったそうです。それでその高校は外部から受験の専門家を呼んで1年間勉強させて、大学進学者を出したりしているんですよ。 大人が「どうせ、やる気のある生徒なんていないだろう」と思っているうちは、絶対に変わりません。さすがに子どもから「特別進学クラスつくってくれ」とは言い出しませんよ。大人がある程度、環境を用意してあげれば、変わる子どもが出てくるんです。そして、一人でも出てくれば、「俺も」というのが必ず続きます。勉強したい、という子が学校の中でも増えてくると思います。 こんな話ありえない、という声もよく聞きますが、「マンガを読んで、うちの学校も特別進学クラスを今年から始めました」という学校もありました。

佐渡島マンガの影響って、なかなか目に見えるものではありませんが、今春の東大の志願者数は増えているんです。こういう数字で表れると嬉しいですね。これだけいい情報を提供しているのですから、読んだことがきっかけになって、東大を受けようという子どもが出たということは嬉しいです。ただマンガとして読んで終わり、ではなかったということですから

プロ野球選手になるのと、東大に入るのと、どちらが可能性があるか?

学びの場.com『ドラゴン桜』の中では、「勝ちたかったら、俺より頭良くなるしかねんだよ」「企業収益、給与……社会はすべからく数字という結果を求めている。堂々と、数字と結果が好きと開き直っていいのだ」という刺激的な言葉が並んでいます。

三田よく何のために勉強するのかという問いがあります。『ドラゴン桜』の中でも、勉強するきっかけは必要で、そのきっかけを作るために、子どもがいままで聞いたことのない言葉、聞いたことのない視点を出したいと思いました。僕は、受験ってそんなに悪いものではないと思っています。解けるか解けないかはありますけれど、努力の量が計られているわけですから、公正で公平で納得がいくシステムですよ。因数分解がわからなかったから点数が悪かった、とか原因がはっきりしているじゃないですか。

佐渡島逆に面接で落とされたほうが、何を失敗したかわからないから、かえって落ち込むような気がします。就職や大学のAO入試(アドミッションズ・オフィス入試:ペーパーテストで学力を計るのではなく、面接、小論文などによって熱意・意欲、適正などを判定する)などで面接が重視されていますが、面接こそ、判断基準がわかりません。対処のしようがない。
その点、受験勉強は点数を取ればいいだけですから。たとえば、プロ野球選手などは、どんなに努力してもなれない、オリンピックでメダル取るのも同じで、努力だけではなく、天賦の才能が必要です。でも、東大に入るのは、高3のときに努力したほうがトク、と気づけるかどうかだけなんです。

学びの場.comいま学習マンガが増えてきています。マンガという媒体は、情報をわかりやすく伝えていくひとつの手段として注目される媒体なのかとも思います。

三田僕は基本的にはエンタテインメントのものを描いていますね。娯楽で、なおかつおトクな情報が得られれば一石二鳥。 いまの子どもたちは、生まれたときからマンガがありますが、もっと生活にマンガを溶け込ませたいと思っています。テレビをつければニュースやドラマをやっているように、本を開くとマンガがそこにある、というように。 マンガもこれだけ成熟していますし、だれでも気軽に手にとれます。マンガの世界のいいところは、いいものしか残らない世界ではないところ。B級、C級というものまで商業主義システムにのっているんです。純文学の世界とは違って、取るに足らないマンガまでお金をかけて作っているところが、懐が広いでしょう? サラリーマンを対象にした『ドラゴン桜』でしたが、いまは小中学生や、受験生の母親まで読んでいただいているようです。僕としては、もっともっと小学生に読んでもらいたいですね。これから受験を迎えるにあたって、どう問題を解いていくか、モチベーションをどう維持していくか、というテクニックを提供して、受験する子どもたちの心の支えになればいいと思います。

記者の目

お尋ねしたときは、テレビで野球をご覧になっていた三田さん。やっぱり野球が大好きなんですね。「サインをください!」とミーハーなお願いに、おもむろに仕事場へ。待つこと数分。いただいたサイン本には、直筆の絵まで描いてありました。感激!! みなさんのもちゃんといただいてきましたよ! プレゼントコーナーをぜひご覧ください(注:当プレゼント企画は終了しました)(高篠栄子)

三田 紀房(みた のりふさ)

1958年、岩手県北上市生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、西武百貨店へ就職。退社後、漫画家として独立。2005年『ドラゴン桜』で第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。ほかの作品に『クロカン』『スカウト誠四郎』『甲子園へ行こう!』『マネーの拳』など。

聞き手:高篠栄子/取材・構成・文:長橋由理/PHOTO:岩永憲俊

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