教育トレンド

教育インタビュー

2006.01.24
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妹尾堅一郎氏 【特別対談】秋葉原が変わる!先端技術の産直市場へ

秋葉原といえばパーツなどの部材が手に入る街、あるいは多くの外国人観光客が訪れる街として知られているが、その秋葉原に日本の先端技術を集約させ、世界的産業観光地に生まれ変わらせようというのが『秋葉原先端技術テーマパーク構想』。その計画を進めているNPO法人産学連携機構の理事長である妹尾堅一郎さんに、そのねらいはどこにあるのかうかがった。聞き手は内田洋行知的生産性研究所所長の平山信彦。

子どもと親がワクワク感を共有できる場に

平山

妹尾堅一郎氏

妹尾堅一郎氏

平山NPO法人産学連携推進機構 では、秋葉原先端技術テーマパーク 構想の一環として、アキバ・ロボット文化祭や、今回内田洋行もご協力させて頂いたアキバ・理科室2005といったイベントを主催されてきたわけですが、普段は主にどのような活動をされているのでしょうか

妹尾NPOの活動は大きく分けると3つありまして、官庁や自治体などと連携した『調査・研究活動』、先端的な技術や知識を持った人材を育成する『教育活動』、そして、秋葉原先端技術テーマパーク構想のような『実践的な活動』となります。その秋葉原先端技術テーマパーク構想の根底には日本の産業を秋葉原から活性化させていくという考えがあります

平山先端技術を一部の専門的な知識を持つ人だけでなく、誰でも分かるような身近なものとしてとらえてほしいという意図が、アキバ・ロボット文化祭などからうかがえます。そうしたことを秋葉原という街を舞台に広く呼びかけていくということでしょうか

妹尾先端技術を開発するにあたっては、企業内で進められることが多く、市場に出すと失敗するといったケースが見受けられます。これは一般の人に試してもらう機会が無いことが原因であることが多い。テストベットやテストマーケットが行われていれば、もっと社会の役に立つものが生み出されるようになるのではないでしょうか。そこで先端技術に一般の人が触れることができる場として、秋葉原という街が適していると思い至ったのです

平山信彦氏

平山信彦氏

平山秋葉原先端技術テーマパーク構想では、秋葉原をどのような街にしていこうとお考えですか

妹尾秋葉原先端技術テーマパーク構想は3本の柱から成り立っています。第1の柱は『インキュベーション』。これは秋葉原をテストベットやテストマーケットを行える、「実証フィールド」にして秋葉原で使えると判断された技術を、そこから広めていこうというものです。2つ目の柱は『プロモーション』で、秋葉原という街を「先端技術の産直市場」にしていこうという考えです。大学や企業で生み出された先端技術は、一般の人の目に触れる機会が少ないというのが現状ですが、それを解消するためには、作った人と使いたい人が出会う場を作るのが一番です。そして3本目の柱が『エデュケーション』となります。これは次の世代を担う若者を育成していくという意味もありますが、大人にも常に学ぶ気持ちを持ってもらいたいと考えています。そのエデュケーションの流れで生まれてきたのが、アキバ・ロボット文化祭やアキバ・理科室2005といったイベントです。子ども達がワクワクして、なぜだろうという気持ちになれるイベントを開催し、しかも、それが親と一緒にワクワク感を共有できるようなものとなるのが理想です

子どもの興味を引き出すには体験が大事

平山こうしたイベントを開催することは、子どもの理科ばなれを解決することにもつながると思いますが、子どもの理科ばなれの原因は、どこにあるのでしょうか

妹尾子どもに何かに興味を持たせたいと思ったら、理屈をこねるより、まずやらせてみることが大事ですね。子ども達は何かをやってみて、それがおもしろかったら、理屈を知りたがるものです。問題なのは日本の教育が知識伝授型になってしまっていること。『確かめられた知識であること』『体系立てられていること』『順序だてて教えること』の3点が大前提となっていますが、こんなことをやっていては理科がおもしろいわけがありません。これは理科に限ったことではなく、全てにあてはまるものです。山本五十六の言葉に『やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』というのがありますが、日本人は言って聞かせてばっかりで、やってみせることも、させてみることもしない傾向にありますね

平山今は学校の理科の授業でも実験が少なくなっていますね。かつて理科の授業といえば実験が、大きなウエイトを占めていたと思うのですが

妹尾子どもの理科ばなれというよりは、先生の実験ばなれが問題なのかも知れません。理科の実験を面倒だと考える先生も増えているのではないでしょうか。もう一言付け加えるならば、ただ実験を行っているだけではダメで、独自の工夫をこらしてほしいものです。教育は知識を教えることではなく、学習者を創造するものです。それと良い教師になる人は、知識を持っている人でも、話し方のうまい人でもなく、学ぶことのワクワクを求めている人です。自分がワクワクできないようでは、他人をワクワクさせることはできません

教師と生徒が互いに教えあう姿が理想

平山アキバ・理科室もそうですが、実際に何かに触れるというのが、子どもにとって、学びの喜びが起きることにつながるような気がします。そういう部分を、もっと増やしていくことが必要だと思うのですが

妹尾学びというのは自ら気づくことと連動していますよね。だから、そうした場が設定されないことには、子どもの学びたいという気持ちが生まれてきません。教育において理想的な学習モデルは互学互習と主張しているのですが、それは教師が一方的に教えるというのではなく、お互いに持っているものを教えあうという形です。教師というのは教える人ではなく、お互いに学びあうことができる場をプロデュースする人のことです

平山それは先ほどの話にも出た、自分がワクワクしたことを、他人に伝えることにもつながりますね。秋葉原に教師が足を運び、そこで先端技術を目にして、自分の好奇心にアクセルをかけていくような場になってもらいたいですね

妹尾さらに踏み込んで考えるなら、学生時代に書店で本を探していたら、先生と出会ったように、秋葉原でいろいろな部品などを探すうちに教師と生徒が出会うようなことがあれば、おもしろいですね。秋葉原をそうしたストーリーが生まれる街にしていけたらと思います

妹尾 堅一郎(せのお けんいちろう)

東京大学先端科学技術研究センター特任教授、NPO法人産学連携機構理事長。慶應義塾大学経済学部卒業後、大手化学メーカーを経て渡英。英国国立ランカスター大学博士課程修了。帰国後、産能大学助教授、慶應大学助教授、(株)慶應学術事業会代表取締役、慶應丸の内シティキャンパス初代校長、同大学院政策・メディア研究科教授、慶應義塾教養研究センター所員を経て、03年より現職。

平山信彦

内田洋行知的生産性研究所所長。学びの場.com事務局責任者。内田洋行は秋葉原先端技術テーマパーク構想の一環として開催された「アキバ・理科室2005」に、学校用教材・コンテンツ・理科機器の専門企業として協力している。

構成・文:田中雄一郎

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