教育トレンド

教育インタビュー

2005.05.10
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櫻井秀勲 子どもの個体運を見極め、最適な人生へと導くこと

学校を卒業しても定職に就かないフリーターや、仕事をしようとしないニートが増え話題になっている。今回はいつもとは少し指向を変え、女性心理の第一人者といわれる元カリスマ編集者、櫻井秀勲さんに最近の女子学生の就職感、独自の子育て論などを語っていただきました。

強くなった女性と働かないニート

学びの場.com櫻井さんは以前女子短大でも教鞭を取っておられますが、最近の若い女性を見て、仕事に対する考えが変わってきたと思われますか?

櫻井秀勲私は女性の社会進出を長年のテーマとしていて、OL(オフィスレディ)という言葉も私がつくりました。それ以前は、働く女性はBG(ビジネスガール)と呼ばれていて、「職場の花」的な存在でした。仕事ができることよりも、女らしく愛嬌のあることの方のみを求められていた。そこで、OLという言葉を作り、それではいけない、女性は単なるお手伝いではなく、キャリアを積むべきだと励ましてきました。近頃の学生を見て感じることですが、私が望んだ通り、女性は強くなってきたと思います。

学生というのは、社会の動向に動かされるものです。たとえばバブルの頃であれば、学生は「就職したらカッコいい会社に入れる」と思っていました。それがバブル後になると、会社に入るだけでも大変です。だから、とくに女性はフワフワしてはいられなくて精神的に強くなった。ただ、一生懸命になっても社会にはなかなか受け入れられない。そんなことから最近では、「就職できなくてもいい」という女性も増えてきました。仕事も好き嫌いで選んではいられないから、バイトだろうが夜の仕事だろうが気にしない。 銀座のクラブへ行くと、女子学生や卒業生のアルバイトがたくさんいます。体裁ばかり気にしている男性よりも逞しいと思います。そして、たとえ就職できなくてもあせらない。これは社会を厳しい目で見る、という点でとてもいいことだと思います。でも、2007年問題といって、団塊の世代がこれから大量に定年を迎えますから、就職環境もしばらくすれば良くなると思います。学生たちは、こういった情報にはものすごく敏感です。

学びの場.com一方、まったく仕事に就かないニートといわれる人も増えてきていますが、こちらに対してはどう思われますか?

櫻井秀勲今ニートが増えているのは、働きたくない人が増えたのではなくて、働かなくとも暮らしていける人が増えたからではないでしょうか。 ある統計によれば、東京では親が死ぬと遺産が平均6,000万ぐらいになるらしい。子どもが二人でも、ひとり3,000万円。それだけの遺産が入れば、働こうとしないのも無理はありません。だから、ニートを働かせようとするのはとてもむずかしいと思います。たとえば子どもにどうやって上昇志向を持たせるのか? 親の世代でまじめに働いてきた人間ほど、とっくにリストラされている。あるいは、早く上に昇った人ほど自殺してしまっている。そうなると、たとえばホリエモンのように「お金がすべて」と考える人や、働かない人が増えてもしょうがないでしょう。

耳・口・足を使わなければ、コミュニケーションはうまくいかない

学びの場.com近頃の若者については、コミュニケーションをとるのが下手になった、コミュニケーションをとりたがらない、ということをよく聞きますが、何が原因なのでしょう?

櫻井秀勲コミュニケーションが下手になった最大の原因は、意思疎通の手段がアナログからデジタルになったことです。パソコンにしろケータイにしろ、目と指先だけしか使いません。口も耳もほとんど使わない。現代のデジタル人間は、目と指だけが大きくなった人間なんです。口も耳も使わないから、話す、聞くというコミュニケーションがどんどん下手になってしまう。 だから教育の場では、口や耳を使わせることが大切です。たとえば今、音読が見直されていますが、「声に出して読む」とか「朗読を聞く」など、そういう方法でデジタル化した人間をアナログに戻す必要があります。目や口に加えて、足を使うことも大事です。最近、出版社では交通費が激減しているそうです。それは、最近の若い編集者が、著者とのやりとりをメールですませてしまうからです。 しかし本来は、足を使って、著者のもとを訪ね、実際に会話をすることで人間関係を作っていくべきなのです。メールだけでは、本当のコミュニケーションはとれません。家庭でも、なるべく子どもが小さいときから、親と一緒に外出する習慣をつくるべきです。足と耳と口を使うようになれば、コミュニケーションの能力は復活します。

個体運の見極めが将来を決める

学びの場.com公立学校での学力低下が叫ばれ、私立学校を受験する子どもが増えていますが、受験競争が激しくなることはいいことなんでしょうか?

櫻井秀勲人間には競争することが必要不可欠です。だから一度も入試を受けずに社会人になる人間はダメになります。また、悪平等教育で、自分の位置がわからないまま、社会に出てくる。ところが会社に入ったら競争は避けられません。そこで挫折してしまうのです。最近は人とコミュニケーションをとるのが嫌、競争をするのが嫌、という子どもが増えていますが、将来絶対困ります。そういう人は、恋愛でもパソコンやメールですまそうとする。これから子どもが減って大学にみんな入れるようになると、もっとダメな人間が増えると思いますね。親は、たとえばエスカレーター式の学校に入れて子どもに楽をさせてはいけないんです。 ただ、子どもには個体運がありますから、それを見極めて、正しい進路を導いてあげる必要があります。個体運を無視して、誤った方向で過剰な受験戦争を強いるのは間違いだと思います。親は中学受験まで。それ以上は本人に任せていいと思います。わが家では息子と娘とも本人任せでした。

学びの場.com櫻井さんの本の中にも「個体運」という言葉がよく出てきますね。それはどういうものだか説明していただけますか?

櫻井秀勲「個体運」というのは生まれや育ちで決まってくるもので、どんな子どもでも小学校一年生ぐらいになれば、将来どんな人間になるのかわかります。たとえば、「生まれ」ということでいえば、人間の素質に遺伝の要素はかならず入ってきます。ドイツの遺伝学研究所が調べたデータですが、親の学力を5段階に分けて、子どもの成績との関係を調べたそうです。その結果、親が5同士の子どもに3以下の成績の子はいないし、親が1同士の子で成績が3以上の子はいなかったそうです。だから生まれや育ちから子どもにはどんな能力があって、どんな能力がないのか見極めることが大事です。 まずその子に無理な選択肢は切り捨てること。たとえば体の小さな子なら、相撲取りにはまずなれません。サッカーをさせるのはかまわないでしょうが、プロのサッカー選手にするのは無理です。指が細長い人なら、農業を仕事に選んでもうまくいきません。そういうことを無視して仕事を選んでも絶対うまくはいきません。この世は、なにも頭がいいだけが能ではありません。肉体派もいれば、口先き人間で大成功する人もいるのです。仕事の選択肢はいくらでもあるので、まずはできないことから選択の幅を削っていけばいいと思います。 では親の成績がふたりとも1だったらどうするか? その場合、子どもの成績は1~3なのが普通なのですから、4以上にしようと思っても無理です。それを望むから子どもがおかしくなる。そうではなくて、成績が3以下でもやっていける職業はなにかを考えるべきなんです。これは一人ひとりが持つ固体運なのです。ただし、どんな職業でもうまくやっていけるのは、結局明るい人です。

競争の必要性、社会に出て成功するコツ

櫻井秀勲会社や学校に入ったら、最初の1年で運命が決まります。たとえば学校のクラスなら、できる学生は最初の1カ月くらいで頭角を現すものです。極端な話をしますと、会社に入って1日目に遅刻をしたら、その会社では一生出世できないと思って転職した方がいい。そのあといくら頑張っても「1日目に遅刻をしたやつ」という悪印象がついてまわるからです。逆に、最初の1年に「できる人」という印象をつけてしまうと、あとは、たまにミスをしようが、羽目をはずそうが、許されてしまうものなのです。 私自身、光文社に入って最初の1年目は休みをまったく取りませんでした。どうせ部屋でゴロゴロしているのですから、暇さえあれば作家のところに遊びに行っていました。松本清張さんはこれで、私に取り込まれたようなものです(笑)。 そうやって目立つことをした方が得なんです。講談社の創立者である野間省一の遺訓に、「雨の日、風の日、訪問日和」というのがあります。そうやって、誰も行かないような日に訪ねていくことで、相手に覚えてもらえるからです。それから、自分でできないことは無理して自分でやろうとせず、できる人に任せること。だから友人や先輩、後輩とのコミュニケーションが大切なのです。人の上に立つような仕事をしようと思ったら、絶対に必要な素質だと思います。

関連リンク

櫻井 秀勲(さくらい ひでのり)

1931年、東京都墨田区生まれ。東京外語大学ロシア語学科卒業。光文社に入社し、31歳で『女性自身』の編集長となり部数を147万部まで伸ばす。その後祥伝社を設立し、『微笑』編集長として部数80万部まで成長させる。現在はウーマンウェーブ代表取締役で、長年、共立女子短期大学の講師も務めた。著書は、『女がわからないでメシが食えるか』など130冊以上。

聞き手:高篠栄子/構成・文:堀内一秀/PHOTO:岩永憲俊

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