教育トレンド

教育インタビュー

2004.07.06
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川村卓正さん オヤジたちよ、子どもといっしょに旅に出よ!

子どもの教育というとどうしても母親の役割、という傾向が一般的だ。しかし、父親には父親ならではの役割があり、子どもの教育に積極的に関わることで母親では果たせない役割を果たすことができる。今回は、父親としてユニークな方法で子どもとのかかわりを実践している『おまかせ!教師のパソコン』編集長、川村卓正さんに話を伺った

オヤジは子どもを連れて旅に出る

学びの場.com川村家では子どもが大きくなるとお父さんが旅に連れ出すということですが、まずはその話から聞かせてください。

川村卓正さん川村家にはしきたりがありまして、それは「子どもは10歳になったら、オヤジと一緒に旅に出る」というものなんです。私はウイークデイは夜遅くまで仕事をしていますから、子どもと遊ぶ時間はほとんどありません。その代わり、休日には子どもたちを連れてキャンプによく行っていました。それで、子どもが10歳ぐらいになると親離れをする時期になります。だから子どもと一緒に旅に出るのは、子どもにとっては親離れの儀式であり、親にとっては子離れの儀式でもあるんです。  それでどんな旅に連れていくかというと、辛い目に遭うような旅。基本コンセプトはビンボー旅行です。限られたお金の中でどれだけ贅沢ができるか、という旅なんです。今中3の長女が10歳の時には、ふたりで予算12万円でマレーシアに行きました。それでマレーシアでもみんなが行かないような場所を探して、クアラルンプールからバスで移動したんですが、席が離れてしまってどうしようかと思っていたら、子どもは子どもで隣の外国人とコミュニケーションを取っていました。そんな不便な場所へ旅に連れて行くというと、子どもは初め抵抗します。でもいったん連れ出してしまえば外では第三者の目がありますから、意外と頑張るものです。

学びの場.com旅に連れていく目的は?

川村卓正さん旅に連れていく目的はいくつかありますが、子どもが一人になったとき判断できるだけの力をつけさせてやることは親の役目だと思うし、子どもが、自分は親よりもすごい、と思うような点を発見してほしかった。キャノピーウォークといって、高い木の上に渡した橋を渡るのは私よりも子どもの方が上手で、その発見はできたと思います。マレーシアはいろいろな民族がいて、多くの人が英語も中国語も普通に話しているので、国際感覚を身につけるのにも役立ったと思います。

学びの場.com非常におもしろいと思いますが、時間もお金もかかって大変そうですが?

川村卓正さんこんなふうに子どもを旅に連れて行った話をするとかならず、「でもうちは時間がない、お金がない」と言われます。でもそれは違うと思う。うちでは子どもは中学受験をさせるわけではないので、学習塾には行かせませんでした。学習塾に通わせる費用を考えたら、10歳の時に一度旅に連れていくほうがずっと安い。要はプライオリティーをどこに置くか、という問題なんです。勉強も大事だけれど、たまには自分の子どもの体力がどのくらいで限界になるのか試してみることも大事なことではないでしょうか。

子どもに関わると地域とのかかわりができる

学びの場.comお子さんが通っている学校の活動にも参加されているのですか?

川村卓正さん長男が通っている中学校に「おやじの会」というものがあって夜の見回りや校庭の掃除などをしています。休日に子どもたちがたむろしている場所でゴミ拾いなんかをするんですが、ゴミを拾っている姿を子どもたちに見せることでゴミを捨ててはいけない、と思わせることができるし、大人がいることで子どもがたむろしにくくなる、という抑止効果もあります。  そうやって親父が学校と関わることで見えてくるものがあります。普通、お父さんには学校の情報が直接伝わってきません。伝わっているのは、「お母さん」というフィルターを通した情報ばかりなんです。お母さん同士の会話だとどうしても「勝ち負け」をつくる傾向があるので、客観的な情報ではないことが多い。その点お父さん同士の会話には勝ち負けがありませんから、地元の情報が見えてくるんです。私自身参加するようになって、学校周辺の情報が入ってくるようになったと思います。  活動に参加してみると、いろんなことが見えてきます。学校の先生で休日も頑張っている先生がいたり、学校で遊んでいる子どもたちの顔が見えてくる。近所の子どもたちの顔がわかるようになると自然にコミュニケーションを取るようになって、フットサルに誘ったりします。子どもに関わるようになると、自然に地域とのかかわりが出てくるんです。

学びの場.com父親も積極的に子どもに関われ、ということですね。

川村卓正さんよく、親は自分の子どもに興味をもつように、といわれますが、子どもに興味をもつというと子ども自身に興味をもつのではなく、子どもの成績がどうかとか子どもが他人からどのように見られているかということについて興味をもつ親が増えているように感じます。でも実際に子どもに興味をもつということは、子ども自身が今どのような状態にあるのか気をつけて見ることではないでしょうか。子どもは状態の変化が激しいので、子どもに興味をもつにはその変化をとらえる観察眼が必要になってくるのだと思います。  そういう目で子どもに興味をもって見ていると、子どもがどんな人間になるのか、どう育てていったらいいのか、大変だと思うのではなく子どもの成長自体を楽しめるようになってきます。  子どもに「勉強をしなさい」ということが子どもの世話をすることだと思っている人がいますが、「勉強しなさい」というならば「何を勉強するべきか」をかならず言うべきです。教材の研究をずっとしているのでわかりますが、小学校6年生の勉強ならば、一年分の教科書の内容を大人なら一週間で終えることができます。親が子どもと一緒になって教えることができれば、子どもは楽しみながら勉強ができるし、親が勉強に関わることで子どもとの関係が違ってくるのではないでしょうか。  親が勉強と遊びを一緒にして教えることができれば、子どもたちの目は輝いてきます。そうやって取り組んでいけば、親がどこまで面倒を見なければならないのか、その境界線も見えてくるんです。

学びの場.comでは最後に、父親ならではの役割とは?

川村卓正さん一般的に母親は、子どもを安全な方向に導こうとする傾向があります。たとえば子どもをいい高校に入れて、いい大学に入れて、いい会社に入れれば幸せになるだろう、という。それに対して父親は子どもの実力を重視する傾向があると思います。いい学校からいい会社に入ったとしてもかならずしもうまくいくとは限らない。それよりは自分の好きな道を歩んで、幸せな人生を送ったほうが子どものためにはいいのではないか、と考えます。ある道を進んでいて挫折したときに、次の人生をすぐにやり直せるようでないと、これからの世の中やってはいけないのではないでしょうか。

川村 卓正(かわむら たくや)

『おまかせ!教師のパソコン』(株式会社インタープログ)編集長

1959年苫小牧市生まれ。大学卒業後、コンピューターのエンジニアを経て、学習塾を経営しながらテクニカルライターを。その後教材の開発に携わりインタープログに入社、現在に至る。中3の長女を筆頭に中1の長男、小4の次男の父。地域のパパさんフットサルチーム「ロコアミーゴ」主宰。フットサルを通して学校や地域との連携を図っている。

聞き手:高篠栄子 構成・執筆:堀内一秀

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