教育トレンド

教育インタビュー

2004.01.13
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和田秀樹さん 今、問われる!親の教育力

1987年に『受験は要領』を出版して以来、受験界のカリスマ、受験勉強法の神様と言われてきた和田さん。ここ数年、大学受験生の学力低下を痛感し、日本の教育、特に公教育のあり方について、疑問をもつようになったという... (PHOTO:岩永憲俊)

1987年に『受験は要領』を出版して以来、受験界のカリスマ、受験勉強法の神様と言われてきた和田さん。もともとは、大学受験の勉強法の提言を行っていた和田さんであるが、ここ数年、大学受験生の学力低下を痛感し、日本の教育、特に公教育のあり方について、疑問をもつようになったという。そして、2002年からの新指導要領に対しては、「中止を求める国民会議」の代表幹事として反対の署名活動を行ったり、近々「学力向上! 親の会」を立ち上げたり、その活発な活動が注目される。和田さんが考える公教育とは?そして、親は子どもをどう教育していけばいいのか。


ゆとり教育は、日本をだめにする!?

学びの場.com「ゆとり教育反対運動」を推進していらっしゃいますね?

和田秀樹さん私は大学受験生の受験勉強法の通信教育を行っているのですが、そのために現在の子どもたちの学力低下の問題をかなり早い時点で把握することができました。そして、日本の子どもたちの学力低下を憂い、文科省のゆとり教育路線と戦っています。  ご存じのことと思いますが、「生きる力をつける教育」ということを、文科省や教育学者たちがさかんに提言しています。「生きる力」とは、国際化の流れや激変する社会に対応できる柔軟性、コミュニケーション能力のことを言っているようです。
 しかし、授業数を減らしたり、大学受験を推薦による選抜に変えていくといった、競争回避型の安直な方法での受験制度改革が、彼らの言う「生きるカ」を育てるシステムになり得るかどうかは、はなはだ疑問です。  たとえば、受験競争のほとんどない自由教育型だった頃のアメリカ社会の現状を見てください。ハイスクールは荒廃し、学習意欲は低下していました。これが「生きる力」なのでしょうか。アメリカではこうした現状の反省から、自由化教育をやめ、校則を厳格に適用するゼロトレランス方式が盛んになり、また制服の復活運動が広範に行われています。それ以上に、個性化教育の方向性が生徒の成績をあげなかったということを重視し、授業時間数を増やし、科目教育や家庭学習、試験を重視した教育改革を行い、学力のかさあげに成功しました。イギリスも同様ですし、また北欧でも理数教育を重視しています。  これら世界の教育の流れに対し、日本の現在のゆとり教育は、完全に逆行しています。そして、その象徴が2002年からの新指導要領です。
 つい最近になって、文科省も「新指導要領は最低ラインを示したもの」とのコメントを発表していますが、始まる前からわかっていたことです。
 もちろん、「生きる力」そのものについては、これから先の日本ではますます必要になるでしょう。終身雇用制が崩れ、実際には弱肉強食の競争社会がやってきます。国際均な環境に対応するには、それなりの英語力や学力が必要になります。
 ただ、それが「ゆとり教育」ということでは実現できないのです。

「学校に任せておけば安心」からの方向転換

学びの場.com詰め込み教育ではなく、ゆとり教育でもない。それでは一体、どのような教育を考えていけばいいのでしょうか。

和田秀樹さん私は、ここ30年くらいにわたって非難され続けていた詰め込み教育が悪かったとは思いません。大学がそれを生かした教育をできなかっただけです。改革すべきは、初等教育ではなく、大学教育だったのです。
 大学の4年間も学びの場です。たとえ入学時の偏差値が低くても、4年間の大学教育で飛躍的に伸びて、入学時には思いもかけなかった進路を取る学生もいます。地方のそれほど有名ではないある大学から、日本の大企業が毎年、新卒者をよく採用していることは意外と知られていません。
 近年では、日本でもビジネススクールやロースクールが人気で、社会人の大学復帰も珍しいことではなくなりました。つまり、一生学び続ける能力が問われているのです。  70年代から約30年間にわたって、詰め込み教育が非難され、ゆとり教育を吹き込まれてきました。その結果、現在の日本の子どもたちの学力は落ち、メンタルヘルスも悪くなったのです。引きこもりや、少年犯罪が増えたのも、これに関連していると考えています。
 かつて、一部の教育ママが批判されていましたが、その方向性が変わってきたと思います。「教え込むコンテンツは何か」「ブレのない教育はどういうものか」を真剣に考えていかなければなりません。  これまでの日本では、親は教育ということに関し、あまりに楽観的だったと思います。「学校に任せておけば安心」という気持ちを抱いていた方が多いと思います。「勉強よりも大切なことがある」という思いもあったかたと思います。しかし、現時点では、親自身が「勉強が大事」だと納得し、方向転換をしなければなりません。

教育が「票」に結びつく国に

学びの場.com親のほうにも、教育に対する迷いがあるかと思いますが。

和田秀樹さん「教育は国家百年の大計」とはよくいわれるところです。 ところが、残念なことに近年の日本では、次の百年間の日本を脅かす、間違った教育政策が押し進められています。 この教育政策は「ゆとりの教育」という名前を与えられていますが、残念なことに、この「ゆとりの教育」は日本の子どもたちの学力を長い間にわたって少しずつむしばんで、いつの間にか日本の将来に不安を抱かせるものにしてしまっています。私たちが気がつかない間に、私たちの子どもや孫が間違った教育政策にさらされているのです。 今はちょうど過渡期、移行期にあたっているのです。5年後、10年後にはもっとまともな教育改革がなされることでしょう。 ですから、この期間は、とにかく親の教育力が試されます。 子どもにとっては機会不平等であるかもしれません。親がしっかりしている子どもはきちんとした教育を受けられるが、そうでないと国の定めた最低基準の教育しか受けられないということなのです。地方で教育資源を持たない人、親が教育についての意志を持たない子、誤解を恐れずにいえば、親が資力を持たない子。教育の機会均等が崩れ、こういった不平等が生まれてしまっているのです。 親の教育力が問われている、というのはこの点です。 幸いなことに、親の世代は高学歴化したおかげで、親がそこそこ自分の子どもを教育することができます。ただ、何を教育するのか、何を子どもに伝えたらいいのかがわからない。そこで、親に指針を示すことが必要になってきます。私が2004年の1月に立ち上げる「学力向上!親の会」は、全国の親が抱える子どもの悩みに対して、「学力向上のための情報」を届けようというものです。小・中学校、高校、大学受験を控えての悩み、ゆとり教育政策に対する疑問や不満、子どもの受験勉強、進路の不安、学校内や塾での人間関係についての不安……。 私には、本当の「生きる力」は、勉強を通じて身につけていけるものだという信念があります。たとえば、勉強に必要な自己分析や計画立案能力、情報処理能力、友人や教師たちとの人間関係のつくり方など、そのどれもが「生きる力」に関係してきます。 こうした信念のもと、私は「学力向上!親の会」を通して、親はもちろん、子どもたちにも社会に出てからの人生を豊かにする「生きる力」を与えていきたいと願っています。

和田 秀樹(わだ ひでき)

1960年生まれ、精神科医。東京大学医学部卒、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェロー。老年精神医学、精神分析学(特に自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。日本初の心理学ビジネスのシンクタンク、ヒデキ・ワダ・インスティテュートを設立し、代表に就任。著書は『学力をつける100のメソッド』(蔭山英男氏共著)『頭の引き出しが多い人の習慣』『大人の勉強法』『大人の勉強法 パワーアップ編』『医者を目指す君たちへ』『エリートの創造』などがある。

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