教育トレンド

教育インタビュー

2003.03.11
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フランコ=オボーニ博士 学校における危機管理のあり方とは

学校におけるセキュリティに関心が高まっている。先ごろ、文部科学省も侵入者にどう対応するかというマニュアルを作成し、各学校に配布した。学校のセキュリティは、本来どうあるべきなのか、世界的な危機管理の専門家であるフランコ・オボーニ博士が来日した折、話を聞かせてくれた。(2003/02/21取材)

何が起きるか想定するのが第一歩

学びの場.com学校における危機管理の基本を教えてください。

フランコ=オボーニ博士学校における危機管理は、企業の危機管理とはまったく別のものです。まず第一にすべきことは、シナリオ作りです。どんなおかしなこと、望ましくないことが起きる可能性があるか、考えられる可能性をすべてピックアップします。そしてそれらの対策を検討するのです。  学校の危機管理で大切なのは、一般的な危機管理の規範を個々の状況に合わせてどう適用させるか、ということです。それを徹底的に行い、たとえば机や椅子の配置に至るまで掘り下げる必要があります。  ところで、危機管理というと、外部からの侵入者に対する危機管理を真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかし欧米では、いじめや生徒同士の暴力事件、先生によるハラスメントの方が大きな問題になっています。地域によっては、人間が起こす災害より自然災害が重要なところもあります。スイスとイタリアで私が扱ったケースでは、自然災害に対する対策が大きな比重を占めていました。

学びの場.com欧米では、どこが中心になって危機管理体制の確立を進めているのですか?

フランコ=オボーニ博士体制の確立を進める母体はたくさんあります。まず学校自体、これは訴えられたくないという理由からです。それから子どもに不安を感じているPTA。最近では政府が主体になる例が増えてきています。コロンバインハイスクールで銃撃事件があったあと、コロラド州とネバダ州では法律で危機管理体制の確立を義務づけています。アメリカの教育省が予算を付けて、暴力と麻薬に対する対策を進めています。

日常的な訓練が不可欠

学びの場.comそうやって危機管理体制を作ったとして、それが正しく機能するかどうかはどうやって判定したらいいんでしょう?

フランコ=オボーニ博士それは実際に訓練をして試してみるしかありません。マニュアルというのは基本的な道具でしかありません。それを自分のケースに適応させ、試してみることです。それも日常的に訓練を行うことです。企業などでマニュアルを見せてもらって「メディア担当の方のお話を伺いたい」というと「ああ、去年退職しました」というんです。それではマニュアルがあっても何の役にも立ちません。  私が強調したいのは、日常的な訓練は絶対に必要だ、ということです。学校に侵入者があった場合を考えれば、子どもを安全な場所に避難させるか隔離することが必要です。保護者に通達するシステムを確立しておくことももちろん必要です。訓練には学校にいるスタッフ全員が参加することが大切ですし、近くの消防署、病院、警察などとも連携して行うことが必要です。外部組織との連携が訓練に入っていないと、実際になにか起こったときに危機管理のプログラムがうまく働かないからです。

学びの場.com連携の中心は学校ですか?

フランコ=オボーニ博士危機管理センターをどこに置くかということもプログラムの一部です。学校に置いてもいいし、学校外も考えられます。学校外というのは、たとえば近くのレストランでもいいし、病院でもいいし、神社でもいいかもしれません。  危機管理委員会にはディレクターとサブディレクターが必要です。それにいろいろな仕事を分担したメンバーが加わります。ディレクターとサブディレクターは、どちらかひとりが常にいることが大事です。それからメディアに対応する広報係がいります。学校が大きい場合には家族や病院とのコミュニケーションを図る連絡係も必要です。

コミュニケーションの重要性

学びの場.com家族やメディアとのコミュニケーションも大切だということですね。

フランコ=オボーニ博士京都大学の調査結果によると、「恐れ」は「知らない」ということと「予測できない」ということによって引き起こされます。ですから、地震とか学校内で何か災害が起こったとき、家族になにが起こっているかわからないことが恐怖につながります。フランスの工場で訓練をしたとき、みんな電話に殺到して通信システムが機能しなくなりました。訓練をしてみると、一番大事なのはコミュニケーションの問題だ、ということがよくわかります。  広報係はメディアに対してプレスリリースやメディアキットを提供します。なにか起こってからプレスリリースを作るのでは時間がかかりますから、あとで入れる情報、たとえば日付とか名前の部分を空欄にして、事前に作成しておくんです。

学びの場.com日本の場合、教師のほとんどはメディアリリースがどういうものか知らないのが現状です。

フランコ=オボーニ博士それで私の仕事が成り立つんです(笑)。私のところではいろいろな状況に応じたテンプレートを用意してあります。ただし、それをケースバイケースで適用させて使うことが必要ですが。

文化や生活様式に合った管理体制を

学びの場.com取材でよく学校に行く機会があるんですが、ほとんどの場合ノーチェックで中に入ることができます。このような状況をどうお考えになりますか?

フランコ=オボーニ博士予防策を考えるときには、まず、そこの文化がどんなものなのか、どんな生活様式なのかを知ることから始めます。ですから、日本の現状からマシンガンまで想定しなくてはならないアメリカのような対策を立てても無理があります。それよりも、現状から明日は1ステップでもいいほうに進む、ということの方が大切です。  私のクライアントである大きな宝飾メーカーがいます。その会社は昔から社員の持ち物検査や出入りのチェックをしませんでした。そこで問題になったのが、年間まとまった量の金がなくなってしまうということでした。私はプログラムを作り、監視カメラの設置や抜き打ちの検査を提案しました。ところが上層部は、「今の自由な会社の雰囲気を壊すぐらいなら、金がなくなったほうがいい」ということで提案を受け入れませんでした。日本の学校の場合も同じで、今の文化的背景や生活様式を考慮した体制を作っていくことだと思います。

フランコ=オボーニ博士(Dr. Franco Oboni)

1953年イタリアトリノ生まれ、土木工学を基本とする国際的な危機管理専門家。1988年にスイスのエコーレ ポリテクニック フェデラーレ(EPFL)より、土木工学において博士号を取得する。現在は危機管理の専門家として世界中の大企業や行政をクライアントに仕事をしている。
 語学も堪能でイタリア・フランス・英語に堪能、スペイン・ドイツ語も解し、ポルトガル・日本語を勉強中。

取材・構成 /堀内一秀フランコ=オボーニ博士

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