教育トレンド

教育インタビュー

2002.12.03
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藤原和博さん 公立を変えなければ、日本の教育は変わらない!

「1個のハンバーガーから世界が見える」「自分の家の窓から日本が見える」「少年事件の模擬審判廷」......。これらが足立十一中や杉並区立向陽中で実践する選択社会科の授業だ。生徒たちは身近なものから「よのなか」との関わり方を学んでいく。ゲストティーチャーとして、さまざまな職業のプロたちの生の声を聞かせることで、多様な仕事、さまざまな生き甲斐の持ち方に触れる機会を作る。すでに全国の中学や高校で、この藤原さんの「よのなか」科の実践が拡がっている。「よのなか」科の次に来るのは何だろうか。

公立中学校で初の民間人校長に

学びの場.com2003年の4月から、公立中学校で初の民間人校長に就任なさるそうですね?

藤原和博さんまだ予定です。僕が今こうしているのは、自分が住んでいる杉並区の「21世紀ビジョン」を作った委員の1人だったからですが、その関係で実際のアクションプランが必要だと思いました。だから杉並区教育委員会のアクションプランづくりにも参加しました。「学校を開く」ということをお題目にしないように、非常に激しい案になっています。たとえば、数学に関しては、教師が足りなければ塾の先生を入れてもいい、場合によっては塾の教材を利用するとか。  もうひとつ、若いフレッシュな感覚を持つ先生を入れることもできます。いま学校の先生の平均年齢は48歳です。10年、20年、同じ授業をしている先生がたくさんいる。しかし、東京都では子どもの数が減っているので、新しい先生をそうは採用できません。それなら、若手の講師をプールして、派遣する。こういう機能を杉並区の教育委員会が持つのです。民間人校長も一人で終わらせるつもりはないようです。

公立の中学を変える!

学びの場.com校長として、その学校をどう変えるおつもりですか?

藤原和博さん僕は足立十一中で1年間、社会科の杉浦先生と「よのなか」科という授業をしてきました。いま、それをさらにブラッシュアップした形で、杉並区立の向陽中学校と、「よのなか国語」という形で私立の品川女子学院で授業をしています。ただ、それでは、「ゲストティーチャーにすぎないだろう」「担任ももったことがないだろう」「地域社会とのやり取りも知らないだろう」ということになってしまいます。これではだめ。やはり現場を知らないと。 いちばんいいのは、どこかの公立の中学校でやってみせて、「できるじゃない」と言わせること。そうすれば、次は、「なぜほかの中学でできないのか」が問題になります。私立は東京でさえ2割しかありませんから、公立の小・中学校を変えなければ、日本の教育を変えたことにはなりません。公立を変えなければ、日本の底支えにはならないのです。 東京の中学校は、民間企業のいい方で言えば、「300人くらいのクライアント(生徒)に対して、15人くらいの営業マン(教師)を使って、サービスをする」営業所のようなもの。校長はその営業所長のようなものです。ところが恐ろしいことに、この営業所長には、人事権も予算権もない。それでマネジメントをしなければならないというのは、民間企業にいた人間にとっては、信じられない話です。 唯一できるのが、コミュニケーションをマネジメントすることだけ。コミュニケーションだけで、先生をよくしようとするなら、徹底的に現場を知らないとできないと思う。

21世紀の校長の仕事とは

学びの場.com実際にはどのようなことを考えているのでしょうか?

藤原和博さんふつうのマネジメントを考えています。ふつうの企業と同じように、マンネリ化している先生には、プレゼンテーション力をブラッシュアップする研修を受けてもらったり、自分の授業をビデオに撮ったものを見てもらったり。  10年前から教え方に変化のない教師が教壇に立つのはマズイですから。これだけ世の中が激しく変化しているのに、5年前、10年前と同じ考え方をしていたら世の中についていけません。教育の世界だけが不変というわけにはいかない。古い知識だけを詰め込んで、最新の情報を持たない人が教えるのは厳しいと思います。  やる気のない大人、向上心のない大人、好奇心のない大人。これらは普通の企業にもいます。ただ、対するのが大人であれば、その人を選ばない、という選択ができます。しかし、子どもは教師を選べません。そういう人には子どもの前に立って欲しくないのです。優秀な人材で固めようというのではありません。最低限、やる気や向上心、好奇心は持っていてほしい。知らないことがあってもいいのです。もしも子どもにわからないことを聞かれたら、一緒に調べればいいのですから。  実際に杉並区の中学校の校長先生の中には、「アクションプランは無視してもいいんだ」と公言されている方もいます。教育委員会がここまで進んでいるのに。そうした場合、被害者は子どもたちです。子どもの未来を考えたとき、アクションプランは大事な改革の道標です。いま、誰かがやってみせなければ、ものすごく遅れてしまう。  公立のよさは、地元がある、ということです。それは地域の人材を動員できるということ。生徒の父母、そのOB、OG、さらに地域の人々。お金ではなく「人」という財産がある。これらの人々の経験や技術や知識をうまく掘り起こしてコーディネートする、これが新しい時代の校長の仕事ではないかと思っています。

藤原 和博(ふじはら かずはら)

1955年生まれ。「シミュレーション」や「ロールプレイング」などのゲーム手法を大胆に取り入れた総合的な学習「よのなか」科の提唱者。東京都足立区にある足立区立第十一中学校で、社会科の杉浦元一教諭と協力して、中学3年生に生きた社会科を学んでもらうためのユニークな授業を実践。それを収録したのが『世界でいちばん受けたい授業』(第1集・第2集)である。ほかにも『中学改造』『情報編集力』『対人関係』など著書多数。ビジネスマン。3児の父。

取材・構成 /長橋由理

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