教育トレンド

教育インタビュー

2002.11.05
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中川一史さん 「情報教育=パソコンの活用」の誤解

中川先生は小学校における情報教育をテーマに、長年実践的な研究をしてきた。「最近は情報教育に関する仕事より、総合的な学習の時間になにをするか、というテーマで話をさせられることが多いのですが」と苦笑しながらも、最近発表したという資料を基に、現在の学校と情報教育の問題点をまとめて説明してくれた。

あるけど使わない、がインターネットの実態

学びの場.comまず、学校におけるインターネット利用の現状からお聞かせください。

中川一史さん現在、学校のインターネットを巡る実状を調べてみると、ネットに接続しているというところは全体の81.1%もあります。しかし、それでは利用しているところはというと22.7%になってしまう。つまり現在の学校におけるインターネットは「あるけど使わない」というのが現状なのです。では実際に使っているところはどうかというと、使っている先生はほんの数人というところです。

学びの場.comつまりインフラとしてはある程度整備されているけれど、実際にはほとんど使われていないということですね。では、どうしたらもっと活用できるようになるのでしょう?

中川一史さん3つの課題があると思います。ひとつは行政の課題、次に学校の課題、そして教師の課題です。まず行政の問題点ですが、今、2005年までに各教室にパソコンを2台設置するという目標があって、そのためのインフラ整備に終始しています。そして教師に対しては技術教育研修をしているのですが、この点に関しては先生自身が使う気にならなければダメ。つまり長期に渡る活用のビジョンがないのです。  それに対しての解決策はなにか。まずインフラ整備に関してはハードを充実させるだけでなく、使いたくなるような魅力的なコンテンツを充実させること。そして、活用に関してきちんと人的な予算をつけることです。研修にしても、パソコンを使うための技術研修に終始するのではなく、パソコンを使った学習に関する研修を行う必要があります。研修の方法にしても先生たちを一カ所に集めてやるのではなく、学校にあるパソコンを使う出張研修でないと、研修でできたことが学校ではできない、ということも起きかねません。

パソコンを使ってなにをするのか

学びの場.comでは、パソコンを使う現場である学校の問題は?

中川一史さん学校の問題点ですが、パソコンを使った学習環境を考えていません。といっても、特別にお金をかけて新しい環境を整備しようと言っているわけではありません。フリースペースを豊富にとって資料を置いたり作業しやすくしたり、図書館にパソコンを置いてすぐ本を調べられるようにするだけで十分なのです。それから、企業に門戸を開くことも必要だと思います。保護者の中にはパソコンを活用するノウハウをもった企業で仕事をしている人がいるはずですから、そういうアプローチを活用しない手はありません。

学びの場.comそして最後が教師の問題ですね。

中川一史さん教師が抱きやすい誤解に「情報教育=パソコンの活用」というものがあります。ですから、情報教育の授業といいながら、内容を見てみるとパソコンの操作スキルの修得に終始することになってしまいます。そうではなくて、情報教育の中で、パソコンはあくまでたくさんある手段のうちのひとつに過ぎないのです。ですから、情報を扱う学習活動の中に、いかにパソコンの利用を上手に埋め込むことができるかどうかがカギになると思います。  そうやって学習の中でパソコンを活用するためには、パソコンを使う必然性を理解して活用場面をイメージする必要があります。たとえば、学習指導要領の中では「調べて、まとめて、伝える」ということが重視されています。その活動の中で、小学校低学年なら自信をもって楽しく伝えるだけでよいが、高学年なら調べたことについてしっかりと理由が言えて、効果的に発表できるところまでできる。その中でどんな有効な活用場面をイメージすることができるか、ということです。

学びの場.com現在、学校ではインターネットを利用するほかにも、パソコンを使った教育ソフトがたくさん出回っています。こういってはなんですが、たくさん出ているものの中にはずいぶん質的に問題のあるものも多いような気がするのですが……。

中川一史さんいろいろな会社から教育用のソフトが出ていますが、本当にいいものはあまりありません。値段の問題もあるのでしょうが、使わないような機能が多すぎて、便利になるのではなくかえって使いにくくなっているからです。それに、実際に使ってみると作る側の独りよがりで作っているソフトが多いような気がします。試作のα版かβ版の時に現場のフィードバックをかけて、必要なものに的を絞ったソフトにする必要があるのではないでしょうか。

学びの場.comでは最後に、情報教育の問題から離れて、総合的な学習の時間についてご意見を伺えますか。

中川一史さん総合的な学習については、それによってどんな力が身につくのか教師がしっかり理解する必要があります。そして、ほかの教科との横のつながりも考慮すること。たとえば総合的学習の時間で「見つめ直そう、日本の主食、お米」というテーマで生徒に調べて発表させると、お米の収穫できる場所や時期、稲の性質なども調べなくてはなりませんから、自然に理科や社会の内容が入ってきます。こんなふうに内容を組み立てればほかの教科とも有機的につながった総合的な学習になるのではないでしょうか。

中川 一史(なかがわ ひとし)

1959年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒業後、横浜市立美しが丘小学校教諭。横浜市立中川西小学校、横浜市教育委員会情報教育課を経て、1999年10月より金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授。総合的な学習のカリキュラム、情報教育における学校環境、小学校のネットワーク上の交流などをテーマに研究をしている。パソコンと教育に関する著書多数。

取材・構成 / 堀内一秀

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