教育トレンド

教育インタビュー

2002.10.01
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古賀良子さん ものの見方を変えることで学習意欲がわいてくる

言葉やシンボルに強い左脳のスイッチを切ることで、「ありのままに見る」ことが得意な右脳が働き始め、誰にでも絵が描けるようになるというメソッド『脳の右側で描け』。アメリカで確立されたこのメソッドを日本に広めようとしているのが古賀良子さんである。ものの見方を変えることによって観察力がつけば、学習意欲も高まる・・・。古賀さんにこのメソッドの持つ可能性を伺った。

不公平なことではあるけれど、学校の教科には努力をすればある程度できるようになるものと、そうでないものがあるような気がする。漢字の書き取りなどは前者だが、算数の応用問題となると後者になるのではないだろうか。 では、絵を描くことはどうだろう。図工、それもとくに絵を描くことには特別な才能がいるような気がしてならない。私事ながら筆者も、小学校の図工の時間は苦痛でしかなかった。真っ白い画用紙を前にして、早く終わりの時間が来ないかとそればかり考えていた。 だから、「誰でも絵を描くことはできる」といい、それを実践してきた「脳の右側で描く」ワークショップなるものがあることを知ったときには本当に驚いた。


左脳が絵を描くじゃまをする

学びの場.com本当に誰でも絵を描けるようになるのでしょうか?

古賀良子さん私自身「自分は絵を描けない」と思っていたのに描けるようになりましたし、ワークショップに参加した人たちは、みんな自分で描いた絵を見て信じられないといっています。

学びの場.comでは、絵が描けないと思っていた人が描けるようになる秘密はどこにあるのでしょうか?

古賀良子さん絵を描くには才能や特殊な技術が必要だと思っている人が多いようですが、そうではありません。自分の名前を書けるぐらいの器用さがあれば、誰でも絵を描けるんです。でも、多くの人が絵を描けないのは、ものの見方を知らないからなんです。よく教室では「見たままを描きましょう」といいますが、ものの見方を知らないとその「見たまま」をとらえることができません。 私たちが「画家の目」でものを見ることができないのは、左脳がじゃまをしているからなんです。目を開けてものを見ているつもりでも「本当にものを見ているか」というとそうではありません。例えば顔を描く時、眉をスーと弓形に描いていませんか。左脳はシンボルで物を見てしまいます。ですから見たものより知っているものを描いてしまいがちです。 言葉やシンボルに強い左脳のスイッチを切ることによって、「ありのままに見る」ことが得意な右脳が働き始めるのです。

学びの場.comつまり、なにか特殊な技術を教えるということではなく、その人が本来もっている能力を引き出すということですね?

古賀良子さん私はいつも、自分のことを「先生」とは呼ばないでほしい、といっています。私がやっているのは、たとえていえばドアをノックするようなものなんです。だから先生というより、ガイドというのが正しいと思います。誰でも「画家の目」でものを見ることができるはずなのにできない。それを適切な方法を使って、本当にものが見られるようにし、絵に描くよう導くガイドなんです。

右脳を活性化させる効果

学びの場.com右脳を使えば絵が描けるようになるのはわかりました。ただ、今の学校教育は基本的に左脳重視だと思います。右脳を上手に使えるようになって、たとえば学校の勉強に役立つこともあるのでしょうか?

古賀良子さん確かに直接学校の勉強には関係ないように見えるかもしれません。でも、右脳の上手な使い方をマスターすることで、絵を描くこと以外にもいろいろな効果が現れます。たとえば、ものの見方がわかって本当にものを見られるようになると観察力がついてこれまで気がつかなかったいろいろなものが見えてきます。そうするとそれまで当たり前に思っていたことが、見方を変えることで次々に疑問がわいてきます。疑問がわけば、どうしてなのか知りたいという欲求が出てきます。ですからものの見方を変えることで学習意欲がわいてくるんです。 ワークショップを受けた人からは、いろいろな報告が来ます。音楽をやっていて音がよく聞こえるようになったという人もいれば、ギターを弾くのがうまくなったという人もいます。演劇をやっている人は、自分の演技が変わったと言います。みんな答えは自分の中にもっているのです。ですから私が答えを教えなくても、右脳の使い方を教えるだけで皆さんが自分で答えを見つけだします。

学びの場.com絵を描くこと以外にも、この方法が広い範囲に適用できる、ということなのでしょうか?

古賀良子さん私は昔、英語を生徒に教えていて、どうしたら英語が学びやすくなるかずっと考えていました。それで、子供たちを連れて街を歩き、どんな所に英語が書かれているか探す授業をやった事があります。子供たちは街でいろいろな英語をメモしてきます。そうすると、メモしたものは自分たちが見つけてきたものですから、後はほおっておいても自分から進んで辞書を引いて意味を調べます。そんなふうに、気づきが多くなると学習意欲が高まるのです。 今は、「森の国語・算数・理科・社会」のような授業ができないか考えています。たとえば「森の国語」では、まずみんなで森に出ていろんなものを拾ってきてもらいます。そして拾ってきたものの色や匂い、触感などを言葉で表してもらうんです。そうして出てきた言葉をシャッフルして5行詩を作ると、格好をつけて理屈で考えたのでは絶対出てこないような、すばらしい言葉が並ぶのです。


学校の先生がワークショップに参加することもあるが、図工の先生がほとんどだという。しかし、ワークショップに参加した人は、皆それぞれ自分なりの発見をし、新しい世界が開けることが多いそうだ。自分が絶対に描けないと思っていた絵が描けるようになるのも魅力だが、これからもっと多くの先生、あるいは子供がこのワークショップに参加するようになれば、学校の教育もずいぶんいい方向に変わっていくのではないか、話を聞いていてそんな気がしてならなかった。

古賀 良子(こが よしこ)

梅光女学院英文科卒業後、長く教育分野に携わる。カリフォルニア州立ロングビーチ大学にて「脳の右側で描け」の講師養成講座を受講。1997年、ライトブレインリサーチの運営に参加。1999年より、国立少年の家の「子どもの感性と創造性についての研究調査」に協力している。現在は、朝日カルチャー、NHK文化センター、インターナショナルスクール、公立小学校、公立中学での総合学習、各地の芸術祭、企業研修、アメリカ、バリ、香港、北京などで講師を務める。国立那須甲子少年の家事業運営委員。「絵を右脳で描く」 著者。創教育デザイン所主宰。

取材・構成 / 堀内一秀

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