教育トレンド

教育インタビュー

2013.03.19
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藤川大祐 中高生のスマホ利用の課題を語る。

遊びではなく、社会のために使いこなせる能力を高めることが重要です。

藤川大祐氏は文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員等を務められ、メディアリテラシー研究の第一人者です。昨今、急速に普及が進むスマートフォンは中高生の利用も増加傾向にあり、使い方を間違えれば子どもの安全を脅かす危険性も指摘されています。では、学校は子どもたちをトラブルからどう守り、有効利用へと導けばいいのでしょうか。藤川氏に中高生のスマホ利用の現状と課題、学校がとるべき対策について伺いました。

アプリ、セキュリティ、課金、依存――中高生のスマホ利用の課題

学びの場.com藤川さんが中高生のスマートフォン利用について最も問題視されている点は何でしょうか。

藤川大祐フィーチャーフォン(従来型携帯電話)とは異なり、多様なアプリを自由に使えるスマートフォンならではの課題は格段に増えています。主なものを四つ挙げますと、まず、若年層に大変人気がある、「LINE(※注)」などのコミュニケーション系アプリの普及に伴う問題があります。LINEは2013年1月に登録ユーザー数が世界で1億人を突破し、日本でもスマートフォンを持っている中高生の大半が使っていますが、LINE非公認のサービス、いわゆる出会い系の掲示板なども登場し、子どもが犯罪被害に遭う新しいルートになる危険性があります。
次にセキュリティの問題があります。例えば、iPhoneやAndroidスマートフォンの場合、初期状態ではGPSの位置情報サービスが有効になっているものがあります。それを無効にせずに撮影した写真には地理情報が自動的に入るので、その写真をブログなどで公開すると、第三者に撮影場所が簡単に特定されてしまいます。それが自宅の写真であれば、全世界に自宅の住所を公開してしまっていることになるのです。また最近では、アプリを提供する会社が利用者の許諾を得てスマートフォン内にある個人情報を利用するケースも増加しています。集めた個人情報は主に広告に使われるのですが、裏では個人情報の売買が行われる可能性も否定できません。子どもがアプリをインストールする際、よくわからないままに許諾してしまい、個人情報が不当に使用されるなどのトラブルが起こる可能性も十分に考えられます。
課金や決済に関する問題も懸念されます。「コンプガチャ」と呼ばれるソーシャルゲームの課金システムが社会問題になりましたが、その後も有料コンテンツで利用料金が高額になりすぎるという問題や端末を使った決済についてのトラブルが複数、報告されています。
あとは依存の問題です。ソーシャルゲーム、アプリやメールなどでのコミュニケーション、コンテンツの閲覧など、スマートフォンにはできることがたくさんあるので、利用していると時間がどんどん経ってしまう。フィーチャーフォン以上に長時間利用の心配がありますね。

(※注)LINE 
ユーザー同士が24時間無料で音声通話やメッセージ交換を楽しめるアプリケーション。友人・知人等とコミュニティを作りたい時は、登録者はIDを作成し、LINEを使っている相手に自分のIDを教え、それをID検索で見つけてもらうことで、LINE上で簡単につながることができる。

トラブル防止にはネットとリアルの両面から取り組むことが重要

学びの場.com中高生のスマートフォン利用における課題について、国や企業レベルで具体的な対策はとられているのでしょうか?

藤川大祐LINEなどのアプリについては、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)がアプリに対応したフィルタリング・サービスの提供を開始しました。また、LINEを提供するNHN Japan株式会社は、18歳未満のユーザーのID検索ができないようにしたり、携帯電話会社と連携した年齢確認を始めたりといった対策を講じています。
ただ、現時点では「どのようなものが青少年の使うアプリとしてふさわしいか」という、利用の是非を判断する根本的な基準づくりについては試行錯誤の段階です。2012年に総務省がインターネットリテラシーの基準を実験的に作成していますが、まだ実用化には至っていません。

学びの場.com学校側がすべき対応にはどのようなものがありますか?

藤川大祐地域によってスマートフォンも含めた携帯電話の普及率が違うので、その学校に合った情報モラル教育や事件・トラブルの防止策を考え、進めていく必要がありますね。
まずは、どういったトラブルが起きているかを子どもたちに紹介し、そういうことが起らないよう、物事を落ち着いて考えられるように指導することが必要です。「ちょっと待てよ」と立ち止まって考える習慣がつくだけで、無防備な行動はかなり抑えられます。トラブルをパターンとして覚えさせる方法では、新しい手口が出てきた時に対処できませんから、子どもたち自身に考えさせることが大事です。
また、事件やトラブルを未然に防ぐには、本当の原因はどこにあるかを踏まえて生徒を指導することが重要です。というのも、その生徒の家庭環境、あるいは学級経営に何か問題がある場合、事件やトラブルに発展する確率が高まるからです。きっかけは携帯電話の交流であっても、実際に子どもが家出をして、そこで性犯罪に遭遇するケースもあります。ネット上のいじめについても、ネットの世界だけで行われているわけではなく、リアルの世界でいじめがあり、そこにネットが使われている、という風に考えてほしいですね。ネット上のいじめは進行のスピードが早く、動画や写真の公開による名誉毀損など被害の規模も大きくなりがちなので、早期に発見・対応するためのスピード感も重要になります。

学びの場.com日々、子どもたちの兆候を見逃さず、本質的な原因を見つけることが大事なのですね。

藤川大祐そうです。実際、教師が休み時間などに子どもたちの話を小耳に挟んだり、体調不良を訴えて保健室に来た子どもから話を聞いたりして、事件やトラブルを未然に防いだケースは多いのです。
もちろん、自治体などが行っているネットパトロールは意味のある活動ですし、そこで問題が発見され、学校に連絡が届く場合もあります。ただ、ネット上で起こっていることを、すべて監視することは非常に困難なので、ネットとリアルの両面から子どもたちの様子を見ていくことが必要です。

学びの場.comそのためには、教師はどのようなスキルを上げていけばよいでしょうか。

藤川大祐教師の中でも、リーダーシップを取って学校の情報教育を引っ張っておられるような方は、自分でも様々な端末やネットサービスを利用して子どもたちへの理解を深めると共に、トラブルに関する相談にもきちんと答えられるようにしておくこと。その上で、警察などとも連携しながら生徒指導上の問題に対処することが求められるでしょう。
情報教育においてリーダー的な役割を担っていない教師の方でも、課金の問題やLINEで発生した出会い系サイト事件など、新聞等で大きく報じられている社会問題については、最低限、知識を身に付けておいてほしいですね。

子どもたちがスマホをポジティブに使いこなせるような社会へ

学びの場.com中高生のスマートフォン利用については、その危険性ばかりが取り上げられがちですが、本来は有益なものでもありますよね。

藤川大祐そうなのですが、現時点では、子どもたちの大部分は自分の趣味や交流のためだけにスマートフォンやネットを使っています。もったいないですよね。もっと社会的意義のあることに使えばよいのにと思います。情報端末を利用すれば、中学生が経済学を学びたいと思えば、大学の経済学者とつながることも可能でしょう。部活動の宣伝に情報ツールを活用することもできます。社会的目的のために情報を収集し、知識を得、仲間とつながる。子どもにもできることはたくさんあるのです。
このように目的を持った使い方ができるよう、学校でも指導することが求められるでしょう。目的のために情報端末を利用し、情報を取得するという、これからの時代に合った教育に取り組んでいく必要があると考えます。きちんとした目的があれば、大人が仕事を通してメールのマナーやトラブルの対処法を学ぶように、子どもたちも経験を積み、トラブルに対応できるようになっていくと思います。そういう子どもが増えていくことは、社会にとっても有益です。

学びの場.com子どもたちがスマートフォンをポジティブに使いこなせるようになれば、すばらしいですね。

藤川大祐そのために、安心ネットづくり促進協議会などが中心となり、2010年より「ケータイ甲子園」というイベントを開催しています。全国の高校生が明るく前向きな携帯電話やスマートフォンの活用法について競い合うコンクールで、私も審査員として参加しているのですが、よい取り組みが多いです。
第1回大会のコミュニケーション部門でグランプリを受賞した愛媛県の弓削商船高専の例をご紹介すると、この学校は瀬戸内海の島にあり、船で通学しているため早く帰らなくてはならず、友だちと交流する時間がない。それで、クラス全員がSNSを使ってコミュニケーション不足を解消している、といった使い方です。
ネットの活用が、ちょっと発想を変えただけで、自分たちの周りにある問題を解決するツールになった好例だと思います。この生徒たちのように、一人ひとりが考えていることをクラス全員で共有できたら、いじめの問題も解決できるかもしれません。ポジティブなネットの使い方を広げて、地域や社会の問題解決に役立てようという意識を、大人も子どもも持たなくてはいけないでしょう。

学びの場.com今後は、危機管理と共に、子どもたちの自主性を伸ばす取り組みが求められるということですね。

藤川大祐そうです。子どもたちの保護はもちろんしっかり行わなくてはいけませんが、これからは子どもたちのスマートフォンのリテラシーを高めていくことが今まで以上に重要になります。まずは国がリテラシーの基準を明確にし、子どもたちがそれに向かって力を付けていく、という状態に持っていく。その上で、キャリア教育などと重ね合わせ、実社会で役立つような使い方を学校で学ばせていくことが目標だと思います。

藤川 大祐(ふじかわ だいすけ)

1965年、東京生まれ。千葉大学教育学部教授・生涯教育課程長。日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)理事長をはじめ、多くのメディア・教育関連委員会で理事・委員を歴任。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学後、金城学院大学助教授などを経て、2001年より千葉大学に勤務。2010年より同校の教授を務め、メディアリテラシーやディベート、企業との連携授業など、新しい授業づくりに取り組んでいる。『学校・家庭でできるメディアリテラシー教育』(金子書房)、『いじめで子どもが壊れる前に』(角川oneテーマ21)など著書多数。

インタビュー・文:吉田秀道/写真:言美 歩

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