教育トレンド

教育インタビュー

2002.09.03
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大平光代さん 本当は学校で子どもたちを救ってほしいのです

自らの体験から、少年事件を扱うつもりで弁護士になった大平さんは、その根っこは 「不登校」にあると言います。この時期に大人は子どもたちにどう関わっていけばいい のか、親は、そして先生は? 大平さんがなりたいという「心」の教師とはどういったものなのでしょうか。10代の子どもに関わる方は必読です。

先生がわかってくれる…、それだけで子どもは救われる

学びの場.com大平さんは著書の中で、中学校のときに登校拒否をされていて、そのときの先生への怒り、悲しみを如実に書いていらっしゃいます。現在、不登校の子どもの相談に乗ることが多いと聞きますが、それはどういう経緯なのでしょうか。

大平光代さんもともとは少年事件を扱うつもりで弁護士になりました。でも事件を犯してから立ち直るのはなかなか難しいでしょう?なんぼ立ち直っても、過去は消せません。そういう子どもたちを見ていると、かならず不登校の時期を経験しているのですよ。もちろん、不登校の子がかならず事件を起こすという意味ではありません。不登校の段階でもっと真剣に関わっていた大人がいれば、おそらくこの子はこんなふうになっていなかったと思うことが多かった。それからですね、不登校の子と関わるようになったのは。

 いま1日50通くらい子どもたちからメールが来ます。それに返事を返すだけでもけっこう時間がかかりますね。その子たちは、全員、一応会っていて、顔も知らない子というのはいません。そうでなければ相談にはのれないでしょう?

不登校の原因は、ほとんど学校でのいじめです。いじめがあった時点で、大人が、つまりこの場合は、学校の先生がきちんと対応してくれればいいのですが、それを間違えると取り返しがつきません。私が相談にのっている子の多くは、「教師はなにもしてくれない」といいます。

 たとえば、いじめのグループがいて、いじめられている子が先生に相談します。そうすると先生は一応、注意します。ところが、いじめっ子が「いじめていない」と否定すると、そこで終わり。いじめられている事実をいくら言っても、こちらが入っても、学校は「注意はしたし、本人は否定している。学校としては対応した。いじめている子にも人権はありますから、これ以上警察のようなことはできません」と言うのです。

 でも、これはおかしいでしょう? いじめた本人が「はい、自分がいじめました」なんて言うわけはないのですから。警察みたいなことをしろと言っているわけではなく、いじめられている側に耳を傾けてください、と言っているのです。

 先生が自分のことをわかってくれるかどうかで、その子たちは救われるのです。学校にも行けるのです。それがいじめられている子の、最大の関心なのです。

学びの場.com先生からすれば対応しているつもりなのではないかと思いますが、そこにずれがあるということなのでしょうか。

大平光代さんかなりのずれがあると思いますね。そのずれを理解しないと。

 先生がいじめの事実に目をつぶると、いじめっ子は増長します。いじめがエスカレートしてしまうのです。これはどちらにとっても不幸だと思います。また現状をきちんと把握しないと適切な対応もできません。
 先生の事情もわからなくはないんです。1クラス多いところで40人近い子どもを受け持っているのですから。勉強も教えなければならない、ほかのことも見てあげなければならない。

 先生の中には、クラス全体が大切、という先生もいます。クラスの成績を上げたい、自分の教えているクラスをよく見せたい、伸びている子の方に目を向けたい、ということがついついあるのですよ。残念ながら。いじめや不登校のシグナルを見ようとも思わない先生がいる。
 でも、苦しんでいる子どもにとっては、先生がたったひとりの先生なのです。全面的な解決をしてほしいと言っているわけではありませんよ。その子の立場に立ってくれるだけでいいのです。
 不登校になるまでには段階があります。いじめられている子の言い分を聞いてあげる、その子の居場所をつくってあげることが大切だと思います。

先生がその子に寄り添ってくれたら、その段階で手を打ってくれたら、と思うことはよくあります。完全に引きこもってからでは誰が行こうが遅いんです。心を閉ざしてしまっていますから。

勉強を教える先生と「心」を教える先生が必要

学びの場.com引きこもってしまった子どもに対して、何か解決方法はあるのでしょうか。

大平光代さん小学校でいじめにあうと、子どもは恐怖でしかありません。学校の門すらくぐれない。そういう子に、無理に学校に行けというのは、死ねというのと同じなんですよ。最近は親御さんのほうでも「そんなにいやなら、学校に行かなくてもいいよ」という方も増えました。少なくとも泣き叫ぶ子をムリヤリ引きずっていくということはあまりなくなりました。ただ、だからといって、解決したとはいえないところが、この問題の難しいところなんです。
 日本の社会では、いい成績をとって、いい学校を卒業して……というのが前提になっています。子ども達にとっては、将来はどうするか、というのが共通の悩みです。

 私が担当している子どもたちの中で、いま海外に12人が出ています。海外を進めているわけではないですし、もちろん、海外にもいじめはありますし、人種差別もあります。海外にさえ行けばいい、という安易な考え方で行くと、必ず失敗します。幸い、12人の子たちは、親が行けといったわけではなく、自分から言い出して、親子で十分話し合って決めたので、いまのところはうまくいっています。当時の学校の担任の先生がものすごく協力してくれた例もあります。情報もない所だったので、いろいろ情報を集め、相談にのってくれて、親御さんと先生とその子とで、アメリカのフリースクールに行くことを決めたのです。ですから、その子は先生にすごく感謝していますよ。将来は教師になりたいとさえ言っています。学校でいじめを受けていた時には、残念ながら解決できませんでしたけれど、そのあとも担任の先生が一生懸命対応してくれた。子どもはちゃんとそういうのを見ているんですよ。

学びの場.comそれでも、まだ学校で救えないものかと思ってしまうのですが。

大平光代さん本当は学校で、子どもたちを救ってほしい。学校がいろいろな子を受け入れられるように体制を整えてくれないかな、とも思います。学校だけが悪いというだけではなく、受験制度がある以上、詰め込みの授業をしなければならない、先生にも余裕がなくなります。いまの先生には負担が大きすぎます。その体制を全部変えないと。

 本当は、勉強を教える先生と、「心」を教える先生の2人が必要なのだと思います。
 私は学校に行かなくてもいい、と言いますけれど、なにも学校否定をしているわけではありません。行けるにこしたことはない。ただ、それを言ってしまうと、行けない子を追いつめてしまうことになりますから、あえて言わないだけです。

 学校は必要です。そこにはいろいろな子どもたちがいて、いつもいつも自分の意見が通るわけではない。それを学ぶ場でもあるわけです。
 いま少子化になっていますから、この時期に学校の統廃合などしないで、逆に先生を増やしてくれれば、もっといい教育ができると思うんです。学校に予算をあげて、先生をやりがいのある仕事にすることが大切ですね。

大人が真剣に関われば、子どもはまだまだやり直せる

学びの場.comそのうちに、今度は教師になりたいとお考えになるのではありませんか。

大平光代さんなれるものなら、教師になりたいと思いますよ。でも勉強を教えるのはむずかしいですから、「心」を教える教師のほうでしょうか。
 子どもたちと関わっていくのは、自分自身の体験も大きいですね。私自身、立ち直れたのは運が良かっただけと思っていますから。自殺未遂したときも、同じようにして死んでしまう子たちもたくさんいるわけでしょう?だけど自分は生き残った。そのあと非行に走っても立ち直れない子はいっぱいいる。でも、たまたま自分は養父と出会い、たまたま勉強する機会に恵まれたから、いまの自分がある。
そうであっても、過去は消せない。いまの自分に全部反映してきますからね。
子どもたちにはそんな想いはさせたくない。10代ってまだどうにでもなりますもの。いまならわかることでも子どもの時代ではわからない。
私ももう一度10代に戻してくれるなら、ぜったいもう一度やり直したいと思います。

大平 光代(おおひら みつよ)

自殺未遂、非行、極道の妻、そして弁護士、という経歴を『だからあなたも生き抜いて』(講談社)にまとめ、大きな反響を呼ぶ。現在、非行少年の更生に努める弁護士として東奔西走し、また教育関係者からの公演の依頼も続々と舞い込んでいる。

取材・構成 / 長橋由理

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