教育トレンド

教育インタビュー

2002.07.02
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さん 必要な学力を自分で探して身につける、インディペンデント・ラーニングを日本で推進

学校の役割は「教育」ではなく「学習支援」、学校の主役は教師ではなく学生である、という理念のもと、アットマーク・インターハイスクールは設立された。学習内容については学習者自身が自己決定をする。教室の中ではなく、生活の場すべてが学びの場である。 そんなことが実際に可能なのか。理事長の日野公三氏にお話をうかがった。

学びの場.com社会の価値観が多様化するにつれ、大学でもただ勉強ができるだけではなく、これ からの社会で役立つ人材が求められている。そしてそれに対応するように、高校でも いかに自分たちの個性をアピールするか、生き残りをかけた模索が続いている。そのような状況の中で登場した「新しい学校」が、今回紹介するアットマーク・インター ハイスクールだ。  生徒はサポートティーチャーと呼ばれるスタッフの指導のもと、自分で学習目標や教材を決め、インターネットを通じて学校と連絡を取り合う。終了すればアメリカの高校を卒業した資格が得られるが、日本の大学でも、私立を中心に歓迎する動きが出 てきている。この通信制サポート校でもない、フリースクールでもない新しい学校はどのようなもので、これからどこへ向かおうとしているのだろうか。

自分で学ぶ必要のあることを学ぶ、セルフラーニングが基本

学びの場.comセルフラーニング(自己学習)が基本だということですが、これまで日本の教育 に慣れてきた、つまり課題を与えられることに慣れていた子どもたちにとっては、と ても難しいような気がするのですが?

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さん初めからできる子はほとんどいません。ここの教育では、コントラクト、アチーブメント、ポートフォリオの3点セットで単位が取れるようになっています。このうちのコントラクト(学習計画)では、「いついつまでに何をしたいのか」ということを明らかにします。成績目標の基準も自分で決めます。このコントラクトが決まらない と前に進めないので、この作成には十分時間をかけます。
 特に入学したてのころは「どこから、何に手を付けていいのかわからない」という場合がほとんどですので、どこで達成感を味わってもらうかエネルギーを使います。 生徒によっては、たった0.5単位分のコントラクトを作るのに3カ月かかることもあります。それがひとつ達成するとペースが見えて、自分が学びたいこともわかってき ます。そうなってくると、次に何を学びたいのか自己決定ができるようになります。  次のアチーブメントは時間記録です。最初に立てた計画に従ってどのように時間を使ったか、ということです。ホームスクール(在宅学習)が合法化されているアメリカでも、このアチーブメントがしっかりしていないと大学の入試担当者は認めてくれ ません。しっかり書き込まれていて、信憑性のあるアチーブメントであればあるほど、 自己学習能力が認められるわけです。 3つ目が学習履歴(学習成果物)のポートフォリオです。生徒によっては論文やホームページであったり、ファインアートであれば作品であったりします。このアチーブメントとポートフォリオがあれば、ハーバードでもスタンフォードでも、入試担当者 はきちんと評価してくれます。改めてペーパーテストを受けなくても、合否判定をし てくれるわけです。  日本でも慶應SFCあたりはこの感覚にきわめて近いですね。アチーブメントとポートフォリオ、それからサポートティーチャーの推薦状と本人のエッセイがこれからのAO入試のキーポイントになります。制限時間付きのペーパーテストで計れる学力は 学力の一部でしかありません。3年分のアチーブメントとポートフォリオを見せれば、相手はたちどころにその生徒の学力を見抜きます。そしてそれが私たちの考える「学び」なのです。

学びの場.comつまり、これまでの日本の教育のように、「先生は教える人」「生徒はいわれた勉強をする人」という関係とはまったく違うということですね。

日々、生徒たちとインターネット上でやり取りをしているサポートティーチャー

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さん基本的には「ティーチング」ではなく「コーチング」なんです。「ティーチング (=教える)」という場合には、生徒は教えてくれる人に頼る心が生まれます。「あ の先生に聞けば答えを教えてくれる」「いろいろなヒントをくれる」というふうになっ て「ディペンダント」な態度が生まれます。「コーチング」の場合には、本人がどうしたい、どういったことを身につけたいという気持ちがないと先に進めません。
 私たちの学びではPlan(計画)→Do(実行)→See(評価)という過程を経ます。 まず最初に学習計画を立てる。その時に、どんな教材を使うのか、どこまで到達した いのか、ということを自分で決めます。  ですから、自分がやりたい勉強のためにほかの学校に通っている生徒もいますし、専門学校に通ったり、アメリカでホームステイをしている生徒もいます。教科書もいろいろな教科書を使い、映画のDVDを英語を学ぶための教材にしたりしています。つまり、自分に一番合った教材探しから始まるわけです。

増える選択肢と親の責任

学びの場.comこのような新しい形の高校がどんどん出てくるのは、やはりそれを求める社会的 な背景があるからなのでしょうか。

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さんこの10年の動きで言うと、教育に関しても官から民へ、という動きが出てきている と思います。大学も民営化しようとしていますし、内閣府が主導する経済改革会議か らも大学や大学院の経営に、株式会社が参入できるようにすべきだという答申をして います。大学も、国の助成金や補助金に頼った経営から脱皮しろと国が公然と言い出 しています。大学がそうなれば、次は高校をどうするか、という問題になってくると 思います。高校においても、最近では通信制サポート校や大検予備校といった「もう ひとつの学校群」が非常に増えてきています。

学びの場.comこれまでは高校といえば公立か私立か、といった選択肢しかありませんでしたが、このような形の学校がどんどん出てくると、親としては子供をどこに入れたらいいのかますますわからなくなってきます。

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さん選択肢はこれからどんどん増えていくと思います。そうやって選択肢が増えていく と、親の価値観自体が問われることになります。どうしてそうなっているかというと、 大学の入試自体が変わっているからなのです。大学には民営化の波が押し寄せて、淘 汰の時代を迎えています。それによって、様々な形の入試が始まり、これまでいわれ ていた受験戦争の色は薄くなっています。それに対応して、高校も個性的なものが出 てきて、その個性をアピールできないと学校自体の存在価値が薄れてしまいます。親 にとっては、本当に困った時代です。  慶應のSFCや立命館アジア太平洋大学や上智大学が真っ先に受験資格として認めて くださったのですが、これらの大学に共通するのは、大学とは過去の英知を学ぶ場所 ではなく、これからの社会問題を解決するための人材を養成するところだ、というこ とです。そのことは慶應のSFCができたときのコンセプトである「未来からの留学 生」という言葉によく表れています。このように環境情報学部とか総合政策学部のよ うな未来学力を問うような大学からは、私どもの卒業生を歓迎してくださるムードが あります。それにはやはり期待感があると思います。そういった学校は、目的を持っ た学び、動機を持った学びをきちっとこなして、自己学習能力を持った人材が必要だ、 という問題意識をもっています。つまり、ずっと勉強をやらされ続けた人ではなく、 自ら学ぶ姿勢をもった人がほしい、とはっきりおっしゃいます。

大学のブランドは年々変わるでしょう。今年は立命館がトップで、来年は早稲田で、 早稲田でもどの学部で、といった具合に、価値基準が目まぐるしく変わっていくと思 います。言ってみれば、歌謡曲のランキングのようなものです。これまでのように、 「早稲田・慶應」というブランドが確立すればそれが10年もつ、というようなことは もうないでしょう。

本来あるべき私立学校を目指す

サポートティーチャーに直接アドバイスを受けることも・・・

学びの場.comこのようなインターネットを使った通信制の教育を、ご自分ではどんなジャンル に入ると考えていますか。

アットマーク・インターハイスクール理事長 日野公三さん私たちの場合は、一般的なフリースクールとは違い、アメリカのハイスクールとい う裏付けがありますし、指導要領を用いて学ぶ、ということで完全なフリーというわ けではありません。ジャンル分けをすると非常に難しいのですが、ネットスクールと か、ウェブスクールとか、大学によってはインターナショナルスクールに入れる、と いうところもあります。海外の通信制学校、という見方もできますが、新しくできた ばかりのジャンルですから厳密に分けるのは難しいかもしれません。周りからはいろ いろな評価を受けています。
 本音を言わせていただければ、戦前の日本にあったような、国からの助成金や補助 金をもらわない形の私立学校だと思っています。学費と、卒業生からの寄付金だけで 運営するのが、厳密な意味での私立学校なのです。ですからそのような私立学校とし て見ていただけるといいと思います。独自の学風と教育方針と教科書をもって、教員 の資格も自分たちで決める。日本の教育界には三種の神器というものがあって、「学 習指導要領」「検定教科書」「教職免許」の3つがそろわないと学校法人として認め られません。しかし、認められると同時に学校の特色は失われてしまうのです。です から現在の日本では、私立といわれている学校でも、本質的には私立ではないのです。

正直なところ、現状では運営は決して楽ではありません。しかし、新しいものを生 徒や保護者たちと一緒に作り上げる喜びはなにごとにも替えがたいものです。社会を 変えよう、時代を変えようという意識のある方々からの評価を勝ち得ると確信してい ます。妥協せず前進していきたいですね。

日野 公三(ひの こうぞう)

1982年、岡山大学法文学部経済学科卒業。(株)リクルート広告事業部、住宅情報オンライン事業部、人事測定事業部で営業担当。1988年より(株)オウトゥー・ジャパン代表取締役として新規事業コンサルティングを推進。1994年よりケイネット取締役としてパソコンスクール事業、インターネットを使った通信教育の商品化を推進。2000年アットマーク・インターハイスクールを設立。

取材/構成 堀内一秀

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop