教育トレンド

教育インタビュー

2010.11.16
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平松政次 野球と子どもの成長について語る。 私には「努力=成果」だという信念があります。

平松政次さんは高校野球選抜甲子園大会優勝投手でプロ野球でも大活躍された名選手。子どもたちが"プロ野球への夢"という目標を身近に持てるようにと企画され、今年で6回目を迎える『NPB 12球団ジュニアトーナメント ENEOS CUP 2010』に参加する横浜ベイスターズジュニアチームの監督を務めています。プロ野球の視点から、野球と子どもの育ち、子どもの野球上達に必要なこと、野球の教育効果などについてお聞きしました。

目標を持つことで、上手になろうという意欲が生まれる

学びの場.com12球団のジュニアチームによる対抗戦『NPB 12球団ジュニアトーナメント ENEOS CUP 2010』がもうすぐ開催されます。小学校5、6年生のジュニアとはいえ勝負へのこだわりはかなりあるのではないでしょうか。

平松政次私の場合、勝つことが前提ではなく、よい思い出作りが基本にあります。選手全員が試合に出て、全国大会で野球をするという体験が、子どもの成長に大いに役立つと思います。それが一番の目的です。  今年の横浜ベイスターズジュニアチームの選手選考会には810人の応募があり、18人が選ばれました。落選した子どもたちはがっかりしたと思いますが、私はいつも「みんな差がない。残念ながら外れた人たちはその悔しさをバネにしてがんばってほしい。選ばれた人は外れた人の代表なのだから思い切り試合を戦ってほしい」と話します。  メンバーから外れた子はこれを機に次のステップに進んでほしいし、選ばれた子は「勝ちたい」という強い気持ちで練習や試合に励んでほしい。この選考会だけでも、子どもたちにとって非常に意義のある体験になります。  また今年は、去年の第5期の子どもたちが選考会のお手伝いにきてくれました。後輩にもがんばってほしいという思いがあるからでしょう。これがまたうれしいですね。

学びの場.comこのトーナメントで子どもたちはどのように変わっていきますか。

平松政次10月初めにメンバーが決まり、12月のグループリーグが始まるまで10回ぐらい練習や試合を行い、選手たちはプロの監督、コーチに野球の基本を教わり、アドバイスを受けます。すると急速に野球を覚え、技術的には数段成長しますね。  私は子どもたちに「甲子園に行きたい、大学で野球をやりたい、あるいはプロ野球選手になりたいという大きな夢、目標をずっと持ち続けてほしい。われわれも応援する」という話を必ずします。将来、甲子園に行き、プロ野球選手をめざすという目標を持って練習や試合に臨むと、上手くなろうという意識・意欲が生まれ、どんどん上手になるのです。

学びの場.com平松さんご自身は少年時代、野球をする中で感動されたことはありますか。また、どのような練習をし、努力されてきたのでしょうか。

平松政次子どものころ、よく「大人になったら何になるの?」と聞かれますが、昔はほとんどの子どもが野球選手を挙げ、私も「プロ野球選手」と答えたものです。しかし、私の田舎でプロ野球選手になったのは私一人で、とてつもなく大きな夢でした。  甲子園で優勝したときの喜びは何物にも代え難かったですねぇ。苦労して私を育ててくれた母親に恩返しができた、甲子園のために猛練習をした成果が出た、という思いで本当に感動しました。

私の高校時代は「甲子園に出て日本一になるため、日本一の練習をやろう!」を合い言葉に朝5時から夜12時まで練習しました。監督から「ここまで練習するチームは、これまでいなかった」と言われたほど、本当に練習、練習でした。  また、高校時代は監督から「下手だ」とか「力がない」と言われたことがありません。監督は高校の保健体育の先生で、教育大出身の方でした。彼は、試合に負けると「練習が足りないからだ」と言いました。「下手だ」「君は力がない」と言われると子どもは大きなショックを受けますが、「練習が足りないからだ」と言われると、「よし、練習をして上手くなってやろう」という気が起きます。それで練習量がすごく増えたのです。  1年生のときには一日に600球~700球、投げていました。監督やコーチから特に指示されたわけではありませんが、その結果、野球が上手になって甲子園で優勝し、プロ野球にも入れたのでしょう。やはり猛練習のおかげだったと思います。このような体験から私には、「努力=成果」だという信念があります。これは、子どもの野球だけでなくプロ野球においても同じ。努力をすれば、必ず成果は表れるものです。

野球から学んだこと、教えられること

学びの場.com子どもたちに野球を指導する上でコツなどはありますか?

平松政次センスがあり野球選手に向いている、運動能力がある子は見ただけでわかります。ただし、大事なのは素直さです。監督やコーチの「こうやってみなさ い」というアドバイスを、「はい」と素直に聞いて努力をしてくれる子は、どんどん伸びていきます。「それは知っています」「それはもう聞きました」という 子どもはなかなか伸びません。知っていても「はい、わかりました」と、もう一回やってみること。それが、技術的にも伸びていく早道だと思います。  いろいろな年代の野球教室の指導に行きますが、アドバイスをすごく集中して聞く子、聞かない子、聞いても忘れる子、素直に受け入れられない子、受 け入れてなおかつその上の努力をする子とさまざまです。私も、現役時代にいろいろなコーチの指導を受けましたが、あるコーチから「平松は、教えると2、3 日後には教えた以上のことをやってきていた」と言っていただいたことがあります。あまり自覚はなかったのですが(笑)、常に上手くなりたいと努力していた ことは事実です。

学びの場.com野球をやってこられて、教育上よかったことはありましたか。

平松政次私が野球を始めたのは、いい子になるためにとか、教育によいからなどではなく、本当に野球が好きだから、もうそれだけですよ。先輩によく怒られて野球をやめたくなったことも、また夏休みに毎日練習をしていると、野球をやっていない子どもたちが泳ぎに行ったり、家族で遊びに行ったりするのを見て、羨ましいなあと思ったこともありましたが。でも、野球を好きだからやり続ける、何があってもやり続けるという気持ちでいました。これも一つの教育じゃないかな。

また、好きなことを一生懸命にやってきたためによけいなことをする時間がなく、他の悪いことをしなくてもすんだのでしょう。それも野球の教育効果の一つなのかもしれませんね。  高校時代の監督からは練習以外の場でも指導されました。遠征先の旅館での食事のとき、チームメイトに早食いでおかわりを何杯もする者がおり、監督から「おかわりをするときはお櫃の中を見て、これを自分が食べたら後の人が食べられないなと、そこまで考えなさい」と言われました。また、玄関のスリッパがきちんと揃っていなかったりすると夜中に叩き起こされて、揃えさせられました。朝起きると掃除はもちろん、たたんだ布団の四隅が揃っていないのに押し入れに入れると、これも叱られました。とても厳しかったですが、それは本当に大事なことだなと思いました。当時、遠征先の旅館では私たちが来ると仲居さんのすることがなくなるといわれたほどです(笑)。

野球経験のないアマチュア指導者への技術指導が急務

学びの場.comプロ野球経験者から指導を受けると、やはり違いますか? 子どもやアマチュア指導者にとって必要なことでしょうか。

平松政次必要だと思います。いまの子どもたちは、野球教室などでプロ野球経験者から技術をはじめいろいろなことを教わっていますが、私たちの子どものころはそういうことはありませんでした。ほぼ我流です。私の中学時代の野球部の監督は、ノックで空振りしていました。そういう野球経験のない人が指導するのですから、技術を教わることはまず無理でしょう。私も、いまの子どもたちのように早めにプロ野球経験者に投げ方を教わっていたら、もう少し上手くなったかなという気がします。

 また、基本的なボールの投げ方、打ち方、捕り方などを早くから身につけておかないと、癖がつきます。一度癖がつくとなかなか直りません。癖は将来的に大きなけがにつながります。野球センス、運動神経があり、すばらしい選手がけがでやめていく例が多くありますが、そういう選手はたいてい悪い癖がついています。ですから、早めに経験豊富な人に教わるということが、子どもたちの将来の夢実現に大切なことだと思います。  私も少年野球チームの監督やコーチを指導することがあり、そのとき「学生時代に野球をやっていましたか?」と聞くと、半分ぐらいは未経験。その人たちが毎日子どもたちを指導しています。本来は、その人たちに技術指導を覚えていただかないといけないのです。これは本当に急がなくてはいけないことだと思います。

平松 政次(ひらまつ まさじ)

野球解説者。1947年岡山県生まれ。1965年選抜高等学校野球大会(甲子園)に出場し、投手として39イニング連続無失点の大会新記録を樹立して優勝。社会人野球日本石油を経てプロ野球大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)に入団。エースとして活躍。リーグ最多勝、沢村賞などの数々のタイトルを獲得し、通算201勝をあげる。1984年に現役を引退。現在、野球解説のかたわら横浜ベイスターズジュニアチームの監督を務め、子どもたちのプロ野球選手への夢を育て、野球の底辺拡大に力を注いでいる。

インタビュー・文:矢崎栄司/写真:言美 歩/撮影協力:軽喫茶エコーナイン

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