教育トレンド

教育インタビュー

2009.09.15
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千石正一 環境教育と生物観察のコツを語る 体験を通じての理解は、感動と知識欲を呼び起こします。

千石正一さんはテレビ番組『わくわく動物ランド』『どうぶつ奇想天外!』で"千石先生"として知られる動物学者。本職は、(財)自然環境研究センターの研究主幹であり、爬虫類・両生類の世界的な専門家。大学や地域の講習会で自然環境の保全や野生生物の保護についてわかりやすく解説する千石さんに今回、学校や家庭における環境教育や生物観察のコツなどを教えていただきました。

知識と体験は車の両輪のようなもの

学びの場.com千石さんは、生き物や自然環境に直接接することをとても大事にされていますよね。

千石正一実物が与える感動はとても大きいからです。たとえば、自然観察会で子どもたちは、見つけたのが小さいコクワガタでもものすごく喜びます。今どきのお店には海外から輸入した大きくてかっこいいクワガタも売っていますけれど、子どもたちにとっては、小さくても自然の中で、実際にそこに棲んでいる虫を自分で見つけるほうが意味があるのです。体験を通じての理解は感動を呼び起こします。

学びの場.comそれは千石さんご自身が身をもって感じていることなのですか。

千石正一そうです。ただ、自然が豊かなところに住んでいれば毎日感動するかというと、そういうわけでもありません。昔、奄美大島でトカゲを捕っていたら、島の子どもたちが寄ってきて「それは何だ」と聞いてきました。「その辺にたくさんいるじゃないか」といっても、きょとんとしている。自然が豊かすぎると、住んでいる人たちにとってはありふれていて、そこにいる生き物を観察しようという気持ちが起こらないんですね。かといって、まったく土のない都心などではそもそも自然を観察すること自体、難しい。
 子どもが自然に興味を持つには、ほどよく土もあって、人が住んでいるような、中くらいのところがちょうどいいようです。現に僕は小さい頃、東京都世田谷区に住んでいたのですが、ここには適当に自然が残っていました。ちょっと歩けばヘビやカエルに出くわした。そうすると面白くてよく見るわけです。見ているともっとその生き物のことが知りたくなって、図鑑で調べる。おかげで本からの知識も身につきました。

学びの場.com実物を見るだけではなく、知識も大切なのですね。

千石正一体験と知識は、車の両輪のようなものだと思います。どちらかだけではなく、両方あることで、より深く知ることができますから。
 たとえばこんなことがありました。1980年代のこと、テレビ番組のディレクターが「今度、オーストラリアに行ってコアラを取材してくる」というので、僕は「コアラは当り前すぎるだろう」と(笑)。「オーストラリアにはエリマキトカゲという面白いトカゲがいて、こいつはびっくりすると首のまわりの襞を傘みたいに広げるんだぞ。それを撮ってきたらいい」とアドバイスしたんです。すると、そのディレクターはオーストラリアで現地の案内人に聞いて、本当にエリマキトカゲを撮影してきたのです。いっとき、あのトカゲがブームになったのにはそんな経緯があったんですよ。
 でも当時、僕はオーストラリアに行ったことがありませんでした。ただ、そういうトカゲがいることを本からの知識で知っていました。このように知識があれば、実際に海外に行ったときに、本物との照合ができるから面白いし、また新しい発見もできるわけです。
 ものを見るためには、知識と経験を積み重ねていくことが大切です。実物だけで何かやりなさいといわれても、初めて接した生き物が学問体系の中でどの位置づけかを知らなければ、それはただ「見る」だけで終わってしまいます。

学びの場.comなるほど。事前に知識を持ち、さらに経験を積んでいけば、会いたい生物にも会えるということですね。

千石正一ものは知らないと見えないのですよ。以前トルコに行って、現地の研究者たちと一緒に調査をしたときのこと、同行したテレビクルーの人たちが僕らを見て笑うんです。「国籍が違うのに、千石先生もトルコの研究者もまったく同じ動きをしている」と。
 つまり、みんな道をジグザグに歩いて、草むらに足を踏み入れ、倒木があれば必ず持ち上げてみる。国が違っても僕らは、そこに相手がよく潜んでいることを知っていますから、全員がそういう行動をとるわけです。カンは経験の総和ですね。
 逆に、知らないと相手がいても見えない。ケニアに駐在中の日本人の家に招待されて、そこの庭を見たときに「ずいぶんたくさんカメレオンがいますねぇ」といったら家人が驚いて「どこに?」と聞くんです。「ほら、あそこにもここにもいるじゃないですか」と教えると、「初めて見た」といっていました。知らなければ、また、興味を持っていなければ見えないものなのです。

大人がおもしろがってやることに子どもは興味を持つ

学びの場.com千石さんは子どもたちとのフィールドワークを積極的に行っていますが、子どもたちに自然や生物に興味を持たせる何かコツはありますか。

千石正一まずは大人自身が興味を持つことです。大人が自然に接し、感動していれば、それが子どもたちに伝ぱします。たとえば、空き地で誰かが嬉々として野球をやっていれば、何もいわれなくても「自分もやってみたい」と思うでしょ。それと同じ。僕が自然観察会などで生き物を探していると、興味のある子は僕の行動をじっと観察しているよね。そういう子は質問もしてきます。
 だから学校の先生たちもまずはやってみる、見てみるのがいいと思いますよ。べつに遠くまで行かなくても、部屋の隅にはオオヒメグモというクモがよくいますし、その巣がないかな、校庭には虫や鳥、トカゲやカエルはいないかな、と。それで大体のあたりをつけておいて、実際の授業では子どもと一緒に探してみる。子どもは大人より視線が低いので、興味を持てば大人よりもたくさんの生物を探し当てますよ。

学びの場.com大人がおもしろそうにやっていれば、子どもも興味を持つようになるのですね。

千石正一科学者だっておもしろいから研究しているのですよ。だから押しつけは絶対にだめ。子どもに無理矢理やらせた結果、かえって、そのことを嫌いになる場合もありますから。

チンパンジーでもサルでも、親は子どもにとりたてて何かを教えることはしていません。子どもは親のすることをじっと見ている。それを真似て覚えていくわけです。「お母さんがあの草食べているから、僕も食べてみよう」という感じにね。最初、子どもはその草を全部食べてみる。すると苦い部分があり「ペッ」と吐きだす。で、お母さんをもっとよく見てみると、太い茎は残しているなというふうに、だんだん学んでいくわけです。これが本当に子どもの血肉となる学びの基本姿勢なのかもしれません。
 押しつけの逆で、親自身が苦手なものだからといって、子どもにも体験させないというのもよくない。以前、上野動物園の爬虫類館に行ったところ、3階の踊り場でアメリカ人の女性が真っ青になってうずくまっていたんです。心配になって声をかけたら、彼女は「大丈夫です。私は小さい頃、テキサスで部屋にガラガラヘビが入ってきて以来、爬虫類はまったくダメなんですが、子どもたちには見せたいと思ってここに来ました」というんです。すごいなあと思いましたよ。親が苦手でも、子どもには教育上見るチャンスを与えてあげたい、ということですから。そういう姿勢は大事だと思います。

いのちはみんなつながっている

学びの場.com今の子どもたちにとって環境教育は欠かせないものですが、「CO2削減が必要だ」と教えても、どこかよそ事のように感じると思います。何かよい方法はあるでしょうか。

なんでもいい、実際に身近に見えるものから連想していくことですね。たとえば草むらにジュースの空き缶が捨てられていたとします。その中をのぞいてみるでしょ。そうすると糖分を多く含む飲み残しがあって、キイロスズメバチが来てそれを吸っています。これによりキイロスズメバチは栄養過多になって増殖する。結果的にそのあたりの生態系は変化しますよね。実害としては、近所に住む人がそのハチに刺されるとか、このハチが増えることで、餌となるコオロギなどの虫が激減するとか。「ハチに刺されたくなかったら、空き缶はゴミ箱へ」ともいえる。そうやって近くの事例から考えていくといいのではないですか。

学びの場.comそれは、千石さんの著書やブログのタイトルでもある「いのちはみんなつながっている」というメッセージにもつながりますね。この言葉はどのようなきっかけで出てきたのですか。

千石正一いろんな場所に調査に出かけると、ヒトも含めた生物の関係性が見えてきて面白いんです。熱帯雨林に行ったとき、大きな木々の間をぬって、上の光を求めて伸びている植物がありました。その場で動いているわけではないのに、あたかも動いているかのような錯覚に陥りました。つまり、すべてが動的に見えたのです。そのとき「ああ、生き物ってみんなつながっているのかな」と思えて、自然と「いのちはみんなつながっている」という言葉を思いつきました。
 日本でこうした生態系のすべてがあるのは西表島だと思います。何度も通ううちにそう思えてきました。昔、僕もこの島に2か月くらい住んだことがあり、その頃はヒトもその生態系の中に組み込まれた暮らし、つまりほかの生き物との棲み分けや共生がきちんと成された暮らしをしていました。ところが、今は外からさまざまな政治や経済活動が流入し、観光地化などにより生態系が壊されている。とんでもないことですよ。ヒトは、必要以上のものを求めようとすると自然を壊します。

学びの場.comヒトが何者よりも優位であると、錯覚している人がいるからでしょうか。

千石正一そうですね。僕は小さい頃から、誰かに命令されたり、上からものをいわれたりするのが嫌でした。人と人との間でもそうだけれど、何かを順序づけするようなことが許せないのです。だから生き物の中でヒトが一番偉いだなんてとんでもないこと。子どもたちも小さいときから自然や生き物たちに多く接していれば、そんな風な考え方の大人にはならないと思いますよ。

千石 正一(せんごく しょういち)

(財)自然環境研究センター研究主幹。1949年東京生まれ。東京農工大学卒業。幼少時から生物に興味を持ち、中学生ころからはとくに爬虫類・両生類に興味を持つ。20代で(財)日本野生生物研究センター(現・自然環境研究センター)を設立。図鑑・学術論文などの幅広い執筆活動に加え、JICA専門家としての海外派遣、講演会、『どうぶつ奇想天外!』等のテレビ番組の監修などでも活躍。著書に『いのちはみんなつながっているー西表生態学』(朝日新聞社)、『こっちみんなよ!』(集英社)、『最後のゾウガメを探しに』(丸善)、『世界のネコの世界』(海竜社)など。とくに好きな動物はネコ。

インタビュー・文:菅原然子/写真:言美歩

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