教育トレンド

教育インタビュー

2009.05.11
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【学びの場.com特別企画】 小学校 外国語活動の開始に向けて 文部科学省 教科調査官に聞く

平成20年3月28日に小学校学習指導要領の改訂が告示され、授業時数の拡大と並んで大きな話題となった、小学校における「外国語活動」の必須化。4月には教材として「英語ノート」が全国の小学校に配布され、平成23年度の本格実施に先駆けて「外国語活動」をスタートする学校もある一方、どのように指導をしたらいいのか戸惑う学校も多いようです。「外国語活動」は何を目的とし、どのように指導をすればいいのでしょうか。前文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官の菅正隆氏と今年度より着任された直山木綿子氏にお聞きしました。

前教科調査官 菅正隆氏に聞く

前教科調査官 菅正隆氏に聞く

菅正隆(かんまさたか)

菅正隆(かんまさたか)

小学校での英語活動は、これまでも各学校の裁量で総合的な学習の「国際理解」の中で実施したり、各自治体が特区申請をして、独自の方針のもとに行われてきました。そろそろ国として、共通の目標や教材、指導指針を出すべきではないか、ということで、新学習指導要領に目標を明記し、教材として「英語ノート」を作ったのです。「英語ノート」を作るにあたっては、十数年取り組んできた研究開発校のデータ等を活用しながら検討してきました。いわば現場の先生方が苦労して積み上げた実践に基づくプログラムなのです。

ねらいは国際理解とコミュニケーション能力向上

「外国語活動」の大きなねらいは、国際理解とコミュニケーション能力の向上です。それはつまり、自国の文化を理解すること、外国の文化を理解すること、そのうえで英語をツールとして使いながら、いろんな人とコミュニケーションできる子を育てるということです。
誤解しないでいただきたいのは、われわれが考えている外国語活動は、文法などの知識理解や、英会話のスキル向上を、目的としたものではないということ。それらは中学校以降で学べばいいことで、小学校の外国語活動は、中学校で英語を学ぶ前段階として、英語を使うって楽しい、外国人と話ができてうれしいという体験を通じて、コミュニケーションの素地を作る場だと考えています。

英語ノートをどう活用するか

教材として用意した「英語ノート」には、外国語活動と銘打っているとおり、英語だけでなく、さまざまな国の言葉が出てきますし、国際理解のための話題もたくさん盛り込んでいます。ゲームや歌など楽しい要素もたくさん仕込まれています。
また中学校の教科書は文法シラバスといって、文法を一つ一つ理解してステップアップしていく構成になっているため順番通り学習しなければなりませんが、「英語ノート」は買い物、自己紹介、といった場面ごとのシラバスになっているので、子ども達が興味を持ちそうな場面を選んで、順不同に学習してもいいのです。いろいろな場面の活動を通して、まず会話を楽しむ。間違ってもいいから積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てることが大切なのです。

「英語ノート」が日本の教育を変える

「英語ノート」の最大の特徴は、音声教材が付いていることです。いろいろな言語を早い段階から聞くことの大切さは言うまでもないでしょう。さらに、電子黒板で使うことを前提としたデジタル教材も付いています。
小学校の先生方の中には英語の指導が苦手、発音に自信がない、という方も多いと思います。そんな時に、先生の苦手なところを補完してくれるのがこうしたツールです。デジタル教材を使えば、電子ペンで画面をタッチするだけで音声が流れますし、さまざまな会話の場面も、動画を見せることで瞬時に伝わります。
 実は、私は「英語ノート」によって、外国語活動だけでなく、他の授業も大きく変わるのではないかと思っています。これまで教育の情報化ということがずっと言われてきましたが、なかなか普及には至っていません。ところが、英語ノートによって、デジタル教材を使わざるを得なくなる。使ってみると、意外に簡単で、しかも子どもたちの興味関心がすごく高まる。理解も深まる。そういうことを実感すると他の教科でも使ってみたくなるはずです。「英語ノート」は、日本の教育を変えると思いますよ。

新教科調査官 直山木綿子氏に聞く

条件はそろった。今必要な支援は「ハート」

直山木綿子(なおやま ゆうこ)

直山木綿子(なおやま ゆうこ)

私は、京都市で中学校の英語教師を務めたのち、教育委員会で指導主事として、小学校の英語活動のカリキュラム開発に携わってきました。京都市は外国人観光客や在日外国人が多いため、もともと小学校英語活動や国際理解教育に熱心な地域として知られていましたが、教育委員会から指導計画だけ渡し、教材づくりは現場の先生にお任せというのでは、先生の負担が大きすぎて受け入れられない、ということを経験しました。
今回の小学校での「外国語活動」については、菅先生の尽力によって、条件整備はかなりできたのではないかと思います。新学習指導要領によって目標が明確になりましたし、年間35時間×2年間という枠組みもできました。「英語ノート」という教材もできた。音声教材や、電子黒板ソフト、絵カードもできた。ご周知のとおり、「英語ノート」は教科書ではないので、必ず使わなくてはならないものではありません。学校が独自に作った教材を使って自由にやってもいい。でも、これだけあればスタートできるという材料は、とにかく揃いましたというのが今の状況です。
それでも、先生方は「さあ始めてください」と言われるとまだ不安があると思うのです。どうやって進めたらいいのだろう、本当にうまくできるだろうかと。
ですから、これから必要なのは、「もの」ではなく、「ハート」の部分ではないかと思っています。小学校の先生になるために、外国語活動の指導をする必要はなかったし、その指導法も習っていない、もちろんこれまで教えたことはない。イメージすらわかない外国語活動というものをどうやって進めたらいいのだろう。英語は苦手だし、発音にも自信がない。多くの先生は、英語活動の指導をすることに対して苦手意識がある。その不安を取り除くのが私の仕事だと思っています。

授業が変わる、先生が変わる。この経験を全国に広げたい

これから全国行脚をして、「英語ノート」を使ってこういうふうに授業をしてはいかがですか、ということを具体的にお見せしていくつもりです。全国を回りながら、指導主事や先生方といっしょに授業を作っていく、そういうことをしようと思っています。
家庭訪問と同じだと思うんですよ。電話ですませてはいけない。顔を見て、対面して、いっしょにやってみる。それこそがコミュニケーションだと思います。
私も、ついこの間まで学校現場で試行錯誤しながら、小学校の英語活動を作ってきたのです。そんな私がこのお役目をいただいたのは、「あの人でもできるんだ」と安心していただくためでもあると思うし、文部科学省も先生方といっしょに考えようとしているんだ、ということの表れでもあると思うのです。
京都市の指導主事時代の最初の失敗のあと、計画を出すだけではだめだと、教材開発に携わりました。現場の先生方といっしょに英語の授業を作ったとき、確かな手ごたえを感じました。先生方が、授業が、ガラっと変わるのを目の当たりにしたのです。それが波及効果を生んで、他の教科の授業も変わっていきました。先生方が、授業の在り方を根底から見直すきっかけになったのです。年齢なんて関係ないです。前向きな先生は変わる。私がこの目で見た変化を、他のところにも広げていきたいのです。いろいろな授業を見て、全国のたくさんの先生方にお会いして、広げていきたい。それが私の役目だと思っています。

菅正隆(かんまさたか)

大阪樟蔭女子大学 児童学部児童学科教授。高等学校英語教諭を10数年務めた後、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事を経て文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官に。新指導要領における外国語活動の検討実現にあたり中心的役割を果たす。平成21年4月1日より現職。



直山木綿子(なおやま ゆうこ)

文部科学省初等中等教育局 教育課程課 国際教育課 教科調査官。京都市の中学校で英語教諭を務めたのち、京都市教育委員会指導主事となり、小学校の英語活動のカリキュラム開発に携わる。平成21年4月1日より現職。

取材協力:いしぷろ

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