教育トレンド

教育インタビュー

2008.07.01
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北原照久 よこはま教師塾「塾長」として語る 地域独自の力で理想の教師を育てていきたい。

北原照久さんは「よこはま教師塾」の新塾長に今年4月、就任されました。同塾は2007年1月に開校した横浜市独自の教師養成施設。ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として知られる北原さんが、この任務にどのような意気込みで臨まれ、またどんな教師を育てていきたいか、理想の教師像や教育などについて語っていただきます。

塾生には“言葉の力”を伝えていきたい。

学びの場.com横浜市独自の教師養成施設である「よこはま教師塾」の二代目塾長に北原さんが就任されたと聞き、正直申しまして意外な感じがしたのですが?

北原照久そう? ほら、初代がヤンキー先生で知られる義家弘介さんだったでしょ。僕も15歳まで結構ワルかったから、そのつながりじゃないですか(笑)。
 冗談はさておき、僕はこれまでアップダウンの激しい人生を送ってきたので、教育の大切さは身に染みて感じているのです。だから、横浜市教育委員会から要請があったとき、一も二もなくお引受けしました。

学びの場.com北原さんは見た目の印象から、苦労知らずのお坊ちゃまかと思っていました!

北原照久僕は小学校、中学校と体育は5、他の教科はオール1という成績を貫きましたから。しかも義務教育である中学を一度退学になっているのです。やっと入った高校でも、最初はアルファベットさえも読めないし、書けないし。
 そんな僕がある先生の一言をきっかけに一念発起して猛勉強を始め、高校卒業時にはついに総代を務めるところまでになったのです。

学びの場.com総代……卒業生代表、つまり学年トップということですね。そのきっかけとなった一言とは?

北原照久1年生の中間試験の時、それまでなら白紙で提出していた答案用紙だったのですが、丸を付けるだけの選択問題だったので適当に解答したところ、奇跡の60点を取ったのです。すると、担任の沢辺利夫先生が「北原、すごいじゃないか! おまえはやればできる奴なんだよ。みんな、見てみろ。北原が60点取ったぞ!」と、ものすごく喜んでくれました。先生は感動・感激型の方で、これは本当に心の底から言ってくれたようです。
 僕はそれまで人から褒められたことがあまりなかったので、もう嬉しくて、嬉しくて。先生の「やればできる」という言葉が心の中に強く響き渡りましたね。

学びの場.comその言葉が勉強を始めるきっかけになったのですね。

北原照久そうです。もう一度、沢辺先生の喜ぶ顔が見たいと思い、その日から勉強を始め、頑張る→褒められる→頑張る→褒められる……を繰り返すようになりました。まずクラスで1番になった時は「ああ、俺だってやればできるんだ」と自信が付きました。そうなると今度は「来年も1番になりたい」という欲が出てきて、どんどんいい波に乗っていったのです。  学校時代に聞く先生の言葉って、本当に大きいと思いますよ。中学生の時、悪いスパイラルにどんどん陥るきっかけになったのも、その時の先生の言葉でした。そこは大変な進学校だったため、成績の悪い僕らは「他のクラスの邪魔はするな」と言われたのです。その言葉にひどく傷つき、勉強する意欲を一気に失いましたね。
 そうなると、何かやればトラブルを起こす→ケンカになる→怪我をする・させる→補導される……この繰り返しです。  だから、教師は子どもたちそれぞれのウィークポイントとチャームポイントをしっかりキャッチして、その子に合った“いい言葉”を与えてあげてほしいですね。教師塾では毎月、僕も講義を行いますので、「言葉の力」についても伝えていくつもりです。

夢を見つけ、実現できる子どもを育ててほしい。

学びの場.com塾では他にはどんなことを話されるご予定ですか?

北原照久「夢の実現」について。僕はこれまでの人生経験から「夢は実現する」という確信があります。先程の高校時代のエピソードのような小さな成功体験も多くありますし。  僕は「いつか自分で集めたおもちゃを飾る博物館を開きたい」という夢を諦めきれず、37歳の時に実家のスポーツ店を退職し、人脈もノウハウもお金もない状態で、妻と息子の3人で横浜に来ました。初めての借金は店の開店資金にあっという間に消え、住居には暖房器具がなく、ガスレンジの火で暖を取っていたほど。でも毎日、自分の夢を実現させた充実感に溢れていましたよ。  その後、タイミングとツキにも恵まれ、追い風に乗って今に至っています。結局僕は、目の前の自分の興味を追っていただけなのですが、それが自分の目標や夢を見つけ、実現することにつながったのです。

学びの場.com「夢は実現できる」という教えを、子どもたちの教育にどう生かせばよいですか?

北原照久実は「夢の実現」は「なぜ子どもは勉強しなければならないのか」の答えにもつながります。受験戦争に勝つこと、一流の会社に就職すること、それも勉強の目標の一つでしょうが、それが大きな目標であってはいけないと思います。  勉強することは正しい判断力や価値観を身に付け、自分にとって本当に大切なもの、好きなものを見つけるために行うことです。つまり「夢を持つためには勉強をしなければならない」、「勉強すればするほど、夢や目標の選択の幅が広がっていくよ」と、教師は子どもたちにぜひ教えてあげてほしい。僕は自分の実体験からそう思います。

学びの場.com夢を持って勉強する理由が定まれば、子どもたちも意欲が湧きますね。

北原コレクションの一部。ただの可愛い人形と思いきや、実はすべて鉛筆削り。しかも9割が戦前の日本製。「これだけ集めるのに40年以上かかりましたよ」と北原照久氏。

北原照久ええ、さらに子どもたちにやる気を出させるには、「褒める」ことです。二宮尊徳の教えと言われる「可愛くば 五つ教えて 三つほめ 二つ叱って 良き人にせよ」、あるいは山本五十六の「やってみせ 言って聞かせて させて見せ ほめてやらねば 人は動かじ」という語録があるでしょ? 教師はその子のいい所を見て、評価してあげなくては。僕だって、沢辺先生に褒められたから、勉強する気になったのですから。もちろん、悪いことをした時はその場で叱ることも大事ですよ。

学びの場.comでは、塾長として、どんな教師を養成したいですか?

北原照久 ホンダ創始者の本田宗一郎氏は「人生の最後に満点を取れる人になれ」と言っています。その人の人生が成功かどうかというのは、人生の最後に決まるということですね。それにはやはり自分の夢を見つけて実現できるような子どもを、これからの教師のみなさんは育ててほしい。  また、歴史小説家の巨匠、司馬遼太郎氏が子ども向けに書かれた『二十一世紀に生きる君たちへ』で、「いたわり、他人の痛みを感じること、やさしさ」、この3つの感情がしっかり根付いた人間になってほしい、そうすれば「二十一世紀は人類が仲良しで暮らせる時代になるにちがいない」と言っています。まさにその通りですね。
 このような、自ら実践し確かな足跡を遺した先人たちのいい言葉を、子どもたちに教えることのできる教師であってほしいと、僕は願います。

地域みんなの力で教師と教育を支えよう!

学びの場.com塾の活動内容やカリキュラムなどを見ますと、よこはま教師塾とは横浜という地域が主体となって教師を、そして教育を支えていこうという取り組みに思えますが。

北原照久そうですね。講師には地元の研究者や企業人、保護者などの地域人材が起用され、横浜の地域性を学ぶ機会も多く設定されています。そういう方々の話を聞くことで、特色ある横浜の教育について学び、考え、人間力や社会性などの向上を図ろうとしています。
 講義の後にはいつも、塾生たちは班に分かれてミーティングを行い、その講義から自分たちは何を学んだかを班ごとに発表しています。非常に身に成るいい試みですよ。  横浜ってせいぜい150年の歴史しかない街ですが、ビール、アイスクリーム、クリーニング……など多くのものの発祥の地であるし、いろいろなことをやってきていますね。新しいものが入ってきても、それを消化できる地域性がある街。だから、よこはま教師塾という横浜独自の教師養成組織も、きっと地元に根付いていくことでしょう。

学びの場.com地元の教育に力を入れることは、ゆくゆくは地域の活性化にもつながりますね。

北原照久そうですよ。自治体独自の教師養成組織は横浜市だけではなく、東京の杉並区や滋賀県、大阪市なども始めていますし、いい先進例として他の地域にも広まればいいと思います。

学びの場.comそのほか特徴的だなと思うのは、塾生同士の絆を深める活動が組まれている点ですね。

北原照久そうそう、夏季合宿などがあってね。卒塾して教師になってからも横のつながりができるでしょう。そうすれば、教育現場で何か困難に直面してもお互いに情報交換したり、相談相手になって支え合ったりしていけます。別々の学校に勤務しても、同じ2008年度教師塾の塾生104人は仲間なんだ、と。この塾を出たことを誇りに思って、教育という大きな仕事に当たってほしい、そう僕は塾生たちに話しています。 最近は、子どもたちのコミュニケーション力が不足していると言われています。それは子どもだけではないですね。教師も親もそれぞれ十分にコミュニケーションをとれていません。携帯電話のメール、あれはコミュニケーションではありませんから。本物のコミュニケーションは実際に人と向き合って、フェイス・トゥ・フェイスで話すこと。それを親と子ども、教師と子ども、子ども同士、教師同士が常にできなければいけません。教師塾では実践や交流・体験活動などを通して対人対応力を磨いていきますよ。

学びの場.com将来的には、よこはま教師塾出身の教師を増やす予定なのでしょうか?

北原照久実際の運営は横浜市教委が行っているので、僕の立場では何とも言えませんが、まだ第二期目ですし、第一期の塾生たちの活躍も見えない段階ですから。これからでしょ。彼らが教育者としてどれだけのことをやってくれるか、それ次第ですよ。塾で学び、身に付けたことを発揮し、さらに伸びていける教師になってくれたら、塾は続くでしょう。僕は期待していますよ!

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北原 照久(きたはら てるひさ)

株式会社トーイズ代表取締役・横浜ブリキのおもちゃ博物館館長・横浜人形の家プロデューサー。1948年東京都出身。青山学院大学経済学部卒。世界的に知られるブリキのおもちゃコレクター。’86年横浜山手に「ブリキのおもちゃ博物館」を開館。第56回横浜文化賞(平成19年度)受賞。テレビ・CM・出版・講演など多方面で活躍中。『勉強がキライな子供たちへ 勉強がキライだった大人たちへ』(ネコ・パブリッシング)、『珠玉の日本語・辞世の句』(PHP研究所)、『夢の実現 ツキの10カ条』(アーティストハウス)など著書多数。

写真:言美歩/インタビュー・文:宝子山真紀

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