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教育インタビュー

2023.05.15
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大沼みずほ 子どもを政策のど真ん中に

「こども家庭庁」に期待される役割とは?

首相の直属機関として、202341日に発足した「こども家庭庁」。少子化対策を含め、これまで厚生労働省や内閣府などが担当してきた子ども政策に一元的に対応する。およそ400人の体制で、児童手当の支給や妊娠から出産、子育てまでの一貫した支援、いじめ、貧困対策などの業務を担う。"子ども政策の司令塔"となる新しい省庁の誕生により、日本の子育てを取り巻く環境はどう変わるのだろうか。

2013年から2019年にかけて参議院議員として少子化対策や女性活躍推進に取り組んだ、大正大学社会共生学部 公共政策学科准教授、大沼みずほ氏に同庁に期待される役割、さらに国会議員の仕事などについて伺った。

行政の縦割りを排し、子ども政策に一元的に取り組む司令塔

学びの場.com

「こども家庭庁」に期待される役割について、大沼氏のご見解をお聞かせください。

大沼みずほ(敬称略 以下、大沼)

これまで日本で行われてきた社会保障は、医療、福祉、介護の3つが柱とされており、子どもに目が向けられたのは2012年の子ども・子育て関連三法成立以降のことでした。そういった意味で、子どもに焦点をあてた役所の誕生は大きな意義があると言えます。こども家庭庁に関連する予算は約5兆円。つい数年前の子ども政策における予算が1兆円規模だったことを考えれば、国の相当な意気込みがうかがえますね。

少子高齢化が問題視されるのは、単に日本の人口が減ってしまうことだけではありません。人口減により経済や防衛、行政サービスの担い手の確保が困難になれば、豊かな生活を維持できなくなることが確実だからです。少子化対策の一環として、児童手当の所得制限撤廃が検討されていますが、住居手当の拡充についても期待したいところです。

近年では、ひと昔前の日本に根付いていた「結婚したら女性は家を守る」という価値観は失われつつあります。共働き家庭はもはや当たり前で、シングルマザー、シングルファザー家庭など、子どものいる家族や同性パートナーによるカップルなど家族の形も多様化しています。従来の日本の家族像に当てはまらない家族のあり方が増えつつある一方で、社会や法制度はひと昔前の家族像をベースとしているのが現状です。「こども家庭庁」の設立によって、多様な家族像を視野に入れた制度や法律の見直しについても期待しています。

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同庁の発足において、「異次元の少子化対策」と掲げてられていますが、この「異次元」とはどのような意味を持つのでしょうか。

大沼

国の重要政策はそのときの内閣によって大きく異なります。例えば、安倍政権では大胆な金融政策「アベノミクス」が経済に大きな影響を与えました。少子化対策を軸に置くという岸田政権の政策は、今までの内閣では初めてのこと。「異次元」にはそういった意味が含まれていると思います。

また、先ほどもお話しした通り、「こども家庭庁」に関連する予算がおよそ5兆円という規模で計上されたこと自体、異次元である証だと言えるでしょう。

少子化対策で最も大事なのは、子どもを持ちたいと望む女性の「仕事」「家事」「育児」の三重苦をいかに解決できるかどうかだと思います。少子化対策は、男女共同参画社会の実現や働き方改革とセットであり、「異次元の少子化対策」がこの課題解決につながることがとても重要だと思っています。

全国一律に生まれる前からの「子ども支援」を

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少子化対策が成功している自治体の特徴について教えてください。

大沼

大正大学に来てから、各地域を見て回りましたが、少子化対策がうまくいっている自治体は数十年前から地道に様々な施策に取り組んでいるところが多いですね。変わるには時間がかかります。2、3年前からという時間軸ではなく、長期的な積み重ねが功を奏しているという印象です。例えば、長野県南箕輪村は約20年前から保育料の引き下げなど女性が働きながら子育てできる環境の整備に取り組んできました。子育て先進国といわれるスウェーデンも1974年に父親の育児休業制度を導入したころは、家事育児は主に女性の役割でした。

また、少子化対策に成功している自治体には、子どもだけでなく、障がい者やLGBTQ、外国籍といった方々への支援も手厚く、移住者にオープンという傾向がありますね。兵庫県明石市や岡山県総社市は、他自治体に先駆けて同性カップル、事実婚等のためのパートナーシップ・ファミリーシップ制度をスタートさせるなど、多様性を尊重した取り組みが全国から注目を集めています。

とはいえ私としては、少子化対策は国単位で行うべきだと考えています。なぜなら、自治体で対策を行うと、やがて自治体間での住民の取り合いになってしまうからです。例えば、A市が「18歳以下の子どもがいる家庭は家賃が無料」という支援策を打ち出した場合、その手厚さに惹かれ、多くの方々がA市へ引っ越すわけです。A市の人口は増えますが、その分、他の市の人口は減ってしまいます。自治体間での競争は本質的な課題の解決にならないので、やはり国が思い切った政策を行って、全国一律の支援を行うべきだと思うのです。

「子ども支援」の前段階の、結婚や不妊治療、出産などからトータルで支援することにも意味があると思っています。法改正により2023年4月から出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられましたが、それでも多くの家庭で出産費用が負担となっています。不妊治療の保険適用が実施されたように、出産費用についても保険適用されるべきという議論も進んでいます。この出産費用の保険適用の実現は、今後の少子化対策を進めるにあたり大きな分岐点/パラダイムシフトとなると言えるでしょう。なぜなら、これまで「出産」は「医療」ではないという考えでした。多くの方々が自宅ではなく、医療機関で出産する時代にもかかわらず、です。出産を保険という制度で支えていくことは、初期検診や妊娠中にかかる費用についても保険制度が支えていくということにつながっていくことが期待できるからです。さらに、医療アクセスの課題もあります。妊婦健診や不妊治療に遠くまで通わずに済むようにすることも必要です。

国会議員ならではの仕事

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「国会議員だから実現できること」にはどんなものがあるでしょうか。

大沼

社会課題を主体的に解決していけることです。もちろん一人では行えず、同じ志を持つ仲間を募る必要がありますが、それでも制度や法律を改正できるチャンスは大きいです。

企業や研究団体は社会課題を解決してほしいと、国や自治体にさまざまな働きかけを行なっています。テーマにもよりますが、何十年も実現に時間がかかることがあります。私は議員になる前、マスコミやシンクタンクで「日本社会をどう変えるか」という視点で政策提言してきましたが、様々な政策の実現までのハードルはかなり高いと感じました。

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厚生労働大臣政務官として取り組んだことを教えてください。

大沼

私自身が経験した子育てと女性にかかわる課題を基に取り組みを行いました。その一つが乳児用液体ミルクの製造解禁です。当選した2013年の厚生労働委員会での問題提起から始まり、乳業メーカーや消費者庁と規制緩和に向けた議論を重ね、2018年に製造解禁、2019年に発売となりました。反響は大きく、「液体ミルクのおかげで、第一子のときよりも第二子の子育てがとても楽になった」という同級生からの声もあり、実行して本当によかったなと感じましたね。

また、インターネット上に流布された個人的な動画や写真を取り締まるリベンジポルノ法案という議員立法を自民党女性局の議員と手がけ、これは実現までに3年かかりませんでした。

国会議員になるには

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大沼氏が国会議員になられた背景について教えてください。

大沼

内閣府で上席政策調査員を務めていたときに、加藤紘一先生からお声がけいただいたのがきっかけです。政権奪還のためにも若い女性候補者を探していたようです。法学者だった私の父と知り合いだったこと、内閣府の調査員では当時、唯一の女性だったことがスカウトの理由だと思っています。もともと議員を目指していたわけではなく、政治は別世界だったので、当時は本当に驚きました。「私にできるの?」と思ったほどです。実は一度お断りしたのですが、父が加藤先生に説得されて、私も私でできるならと出馬に踏み切りました。

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国会議員の多くは世襲と聞きますが、一般の人が議員になりたい場合はどうすればよいのでしょうか。

大沼

最近ですと、まずは政治塾に入り人脈を作るという方が多いようです。また、官僚も議員になる有力なルートの一つ。官僚は政策を国会議員と一緒に作ったりするため、そこでスカウトされるという人も目立ちます。

さらに公募に応募する、国会議員や地方議員の秘書になるという方法もあります。区議会議員や市議会議員、県議会議員、首長を経験した後に国会議員になる人も多いですね。

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どのような選挙活動をされたか教えてください。

大沼

私の場合は公募だったので党員選挙からのスタートでした。党員選挙を勝ち抜き、自民党の山形県代表に決定した後は各地域の支部での集まりに出て地域の方々と触れ合ったり、政見放送で政策を訴えました。選挙戦が始まってからは、選挙カーで県内を周り、さらに駅前で総理や大臣とともに街頭演説も行いました。また、参議院選挙は全県区なので、TwitterやFacebookなどのSNSで政策を発信して、支持を訴えました。

女性参画推進と「ゼロ歳児からの子どもの権利」

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今後の活動予定について、お聞かせください。

大沼

今後は、「WPS」に関する取り組みを日本に普及させていきたいと考えています。WPSとは「Women, Peace and Security」の頭文字をとった略語で、紛争予防や平和構築といった政策に女性の参加を促進させるという考え方です。

さまざまな研究で、和平合意に女性が参画すると平和が持続するというデータが出されています。これを受けて、安全保障関連政策に女性をコミットメントさせる動きが世界各地で広まっているのです。日本にもこのWPSを積極的に浸透させていきたいと思っております。

また、「ゼロ歳児からの子どもの権利」をテーマとした取り組みにも力を注いでいく予定です。その一つが「産みたいと思ったときに、どの病院でも産める」といった法整備です。望まない妊娠をした女性の中には、中絶するお金がなかったり、相手や保護者に話せずに同意書を得られなかったりして、中絶可能な期間を過ぎてしまい、産んだその日に子どもを遺棄して死なさせてしまうというケースが珍しくありません。実は虐待死は生まれた当日が最も多いのです。

現在、日本で内密出産を行えるのは熊本の慈恵病院のみ。内密出産にかかる法制度はなくガイドラインがあるだけです。もし国内各地に内密出産が可能な病院があれば、ゼロ歳児の虐待死は激減すると言えるでしょう。これまで、政策で内密出産に関する課題はあまり取り上げられてきませんでした。現在、仲間とともに勉強会を立ち上げており、困難な状況に置かれた女性の力になれる策を模索しています。

記者の目

少子化対策のみならず、妊娠期からの支援や家庭での虐待、いじめ、不登校など子どもが抱える問題も担当する「こども家庭庁」。大沼氏曰く、日本に住むすべての子どもの権利を保障する、大きなファーストステップになると期待できると言う。子ども政策を一元的に担う“司令塔”の取り組みがどのように社会へインパクトを与えるのか、国内外から注目を集めるに違いない。

大沼 瑞穂(おおぬま みずほ)

1979年生まれ。NHK報道記者、外務省専門調査員、内閣府上席政策調査員などを経て、参議院議員。元厚生労働大臣政務官、元自民党副幹事長。現在、大正大学地域構想研究所/社会共生学部公共政策学科 准教授。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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