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教育インタビュー

2014.05.20
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直山 木綿子 英語教育改革を語る。

3年間の外国語活動、その成果と課題を踏まえた改革です。

直山木綿子氏は文部科学省初等中等教育局の教科調査官として、英語教育の充実と推進のため日々、全国の教育現場を飛び回っています。昨年12月に同省が発表した「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」には、小学校3年生からの外国語活動の必修化や、5年生からの英語教育教科化等の改革案が盛り込まれ、現場教員からは不安や疑問の声も聞こえてきます。そこで今回、新たな英語教育の推進にも携わる直山氏に、同計画が取組む改革内容について具体的に解説いただきました。

3年間の外国語活動、その成果と課題

学びの場.com今回の英語教育改革は、教育界だけでなく一般社会からも大きな反響を呼びました。「2020年の東京五輪に向けて、子どもの英語力を高めるのだ」と報じる新聞もありました。

直山 木綿子東京五輪のため、というのは後付けです。東京五輪開催が決まる前から、英語教育改革は議論されていました。昨年5月に「教育再生実行会議」が、小学校での英語教育の早期化、教科化、時間増、そして外部人材の活用を提言したのを受けて、文部科学省内で検討を開始し、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を発表したのです。

学びの場.com教育現場からは「せっかく外国語活動が軌道に乗ってきたのに、これまでの実践を否定するのか?」といった不安の声も聞こえてきます。

直山 木綿子それも誤解です。これまでの外国語活動を否定していません。むしろ、今までの外国語活動の成果と課題を踏まえた改革です。

学びの場.com「成果」と「課題」とは?

直山 木綿子まず成果からお話しましょう。最大の成果は、英語に肯定感を持つ子どもが多いということです。昨年4月に実施した「全国学力・学習状況調査」での質問紙調査で、「英語の学習は好きですか」との問いに、小学6年生の約76%が「好き」と答えました。さらに平成23年度末に文部科学省が実施した「外国語活動実施状況調査」では、「外国語を使ってどんなことをしたいか」との問いに、「外国の人と友達になりたい」と回答した子どもが約8割もいました。単に英語を話せるようになるのではなく、英語を使って友達をつくりたい、自分の世界を広げたいと、子どもたちは思っているのです。
また、文部科学省が外国語活動を経験した中学1年生を対象に実施した調査では、「小学校の外国語活動で学んだことで、中学校の英語の授業で役に立ったこと」については、7割以上の生徒が「簡単な会話や発音、英語の聞き取り」と答えました。さらに中学校英語科教員対象の調査では、「外国語活動導入前に比べ、中学1年生に成果や変容が見られる」と答えた中学校の英語科教員は、約8割。英語の基本的な表現に慣れ親しんでいることや、英語で積極的にコミュニケーションを取ろうとする点などを、変容として挙げています。中学校も外国語活動の成果を評価しているということです。
外国語活動が全面実施されてわずか3年ですが、このような成果が出始めています。

学びの場.com一方で、どのような課題が出始めているのですか?

直山 木綿子第一の課題は小中連携です。つまり、外国語活動の経験が中学校英語科にうまく引き継がれていなかったり、外国語活動の指導においても、小学校教員が中学校英語科につながることを意識していなかったりすることです。例えば、先ほどの調査で、中学1年生対象の「小学校の外国語活動でもっとやっておきたかったことは何か」という設問で、最も多かった回答は何だと思います? 実は、「もっと『読み・書き』を勉強しておきたかった」だったのです。外国語活動は音声中心ですが、それが中学校英語でスムーズに読み・書きの活動につながっていないことが課題のようです。

学びの場.com驚きですね。小学生に「読み・書き」はまだ早いということで、「聞く・話す」を中心にした外国語活動となったはずですが。

直山 木綿子約8割の生徒がそう答えたのです。これは、中学校英語の「読み・書き」に苦労している生徒が、それだけ多いということでもあります。私が中学校で英語の指導に当たっていたときも、「読み・書き」でつまずく生徒は多くいました。小学校で外国語活動が始まったことで、その傾向はさらに強まったと感じています。

学びの場.comなぜでしょう?

直山 木綿子小学校で2年間音声中心の外国語活動を経験した子どもは、読み・書きに憧れを持って中学校に進むことが多いのですが、音声中心の活動から、急な読み・書きの活動には戸惑うのではないでしょうか。なまじ音声中心にやってきた分、小学校の外国語活動とのギャップに苦しんでいるように思います。中学校英語では、外国語活動導入以前よりもより丁寧に読み、書きの導入を行い、読むこと、書くことに必然性のある活動、読んだり書いたりしたことが生かされる活動を次に設定することが大切です。
また、子どもたちの中には、外国語活動に物足りなさを感じ始めている子どもも散見されます。外国語(英語)がまだ目新しいうちはよいのですが、6年生になってくると、「外国語活動で何が身につくの?」「体験しているだけでは?」と疑問が芽生えてきます。学んでいる、成長しているという実感を得られない子が少なくないのです。つまり「あやふやなまま」活動が進んでいくことに不安を感じていることがあります。例えば、正確には“I like dogs.”なのに、“I like dog.”でも訂正されない。どのようなときにdogsでどのようなときにdogなのかがわからないまま進んでいく。そのようなことに不安を感じる子どももいるようです。算数や国語だったら、学習内容が細かく積み上げられていき、その一つ一つがきちんと定着することが求められるため、子ども自身も成長を感じることができます。しかし、外国語活動の場合、定着が第一のねらいとされておらず、しかも週1コマということもあり、きちんと積み上げられていかないことがあります。6年生ともなると、自分は何がわかって、何がわかっていないのか、そして、きちんとわかりたいという思いがより強くなってくるのではないでしょうか。

課題解決のための改革、中学校英語の前倒しはしない

直山 木綿子様々な教科では、体験からスタートすることが多いようです。例えば、小学1年生の算数は、いきなり「1+1」を勉強するのではなく、数という概念を身につけ、やがておはじきや、積み木を使って「数える」ことを体験しながら学びます。外国語活動導入前の外国語(英語)教育には、この体験が十分設定されていなかったのではないでしょうか。中学1年生で、いきなり単語の読みや綴り、教科書を使って学習が始まることも多かったようです。そこで、小学校外国語活動で、まず音声中心で外国語(英語)を使ったコミュニケーションを体験し、外国語(英語)への興味を持たせ、その結果として、中学校で英語教育をスタートしやすくしたのです。
しかし、体験だけでは高学年、特に6年生には物足りず、先述のような課題が見えてきました。そこで、今回の英語教育改革実施計画には、これらの解決策を盛り込んだのです。具体的には、小学校高学年で外国語を教科とし、体系的に学ぶこととする。散発的な体験ではなく、段階的に積み上げていくということです。そして、体験中心の外国語活動を小学校中学年から始める。

学びの場.comそうなると、現場教員にとって気になるのが「中学校英語が小学校高学年に前倒しされるのか」という点です。

直山 木綿子中学校英語の前倒しはしません。中学の1・2年生で扱っている初歩的な語彙や表現は、今の外国語活動でも扱っています。ここでいうのは、中学校英語の指導法の前倒しはしませんということです。中学校英語の指導法は、中学生の発達段階に合わせてなされるものですから、それをそのまま小学校高学年に実施するには、無理があります。

学びの場.comでは、小学校高学年の外国語科では、どんな指導がされるのでしょうか?

直山 木綿子それは今後有識者会議や中央教育審議会で議論していくのですが、私自身は「文字指導はしないが、文字は扱いたい」と考えています。『Hi, friends!』を作ったときは、「単語や文が記載されている」ことに対して批判がありました。しかし実際、ファストフード店やコンビニエンスストアの名前など日常、英語を目にすることはとても多い。子どもたちも普段からそれらを目にしています。ですから、「小学生にアルファベット文字を触れさせるのは早い」などとタブー視せず、英語の単語などをビジュアルとしてとらえる機会を多く持ってもよいのではないでしょうか。
例えば、りんごの絵カードには、イラストの下に「apple」と書いてあるものをいつも提示する。発音とつづりの関係を指導するのではなく、子どもが「アップルって、こんなふうに書くんだ」と文字に興味を持たせる程度でよいのです。英語の単語などをビジュアルとしてとらえる時期を経験しておくことが、中学校での「読み・書き」の活動にスムーズにつながるのではないでしょうか。
また、中学校英語につまずいている生徒の共通点に、「単語と単語の間に、スペースを入れずに続けて書いてしまう」ということが挙げられます。いくら口頭で「英語は単語ごとに区切って書くのです」と指導しても、なかなか理解できません。もしも小学生の段階で英語の単語などを自然と目にする機会があれば、感覚的に「英語って、単語で一つの塊なんだ」とわかるでしょうし、何となく文字と音の関係に気付くことも期待されます。
さらに、語順への気付きも促したいと思います。先ほどの中学1年生対象の調査で、多くの生徒が小学校で「英語の文を書くことをしたかった」と答えていますが、英語の文を書けるようになるには、単語を知る、その綴りがわかる、語順がわかることなどが必要です。日本語とずいぶん違うこの語順に生徒は苦労しているようです。そこで、語順への気付きを起こさせるような指導も行いたいと思います。これは、中学校のように構文を教えることとは違います。あくまでも「気付き」です。
ただ、先ほどの文字にしても、語順にしても、散発的な体験では積み上がりません。系統立てて、積み上げていくことが求められます。このように、外国語活動ではできなかった、教科だからこそできる指導法を考えたいと思います。

気になる指導体制の整備、どう進める?

学びの場.comここで確認しておきたいのですが、今発表されている英語教育改革実施計画はまだ案の段階であって、決定ではないのですね?

直山 木綿子はい。もう正式決定されたと誤解されている方が多いようですが、まだ計画です。例えば、小学校高学年の授業時数は週3コマ程度と書いていますが、これも決まりではありませんし、高学年は「教科」と決まったわけではありません。また、教科になると評価をどうするのかと気をもむ方もいらっしゃると思いますが、たとえ教科になっても、中学や高校の英語のように数値で評価するとは限りません。この計画をもとに、有識者会議や中央教育審議会で、今後議論と検討を進めていきます。

学びの場.comでは現時点で、どんな動きがあるのでしょうか?

直山 木綿子この4月から大きな二つの事業をスタートさせました。一つ目の事業が、モデル校における研究開発事業。現段階の計画に沿って、小学校中学年では外国語活動を、高学年では教科としての外国語の授業を行い、この実証結果を今後の議論に反映していきます。
同時に、モデル校で使ってもらうための教材も開発予定です。詳細は未定ですが、先程述べたような、単語などをビジュアルとして見る内容等を盛り込みたいと私は考えています。それらはICT教材の形にして、音声もふんだんに盛り込み、教員の英語力やALTの数・来校頻度で子どもの学びに格差が生まれないよう、これでネイティブの発音を届けたいと思います。
二つ目の事業が、「英語教育推進リーダー」を育てる研修です。外部専門機関と連携し、小中高合わせて500人程度の教員に1年間かけて研修に参加いただきます。小学校については、この「英語教育推進リーダー」が、自身の自治体での集合研修で講師役となり、各校から1名の参加者対象に研修を行います。そして、集合研修の参加者が自分の学校に戻って講師等になり校内研修を展開するという、3段階の研修を考えています。

他教科と連動した外国語活動なら、今すぐできる

学びの場.com英語で会話ができるようになると言っても、内容のある会話でなければ意味がないという指摘もあります。今回の英語教育改革実施計画では、日本の伝統文化や歴史など日本人としてのアイデンティティ教育にも力を入れるとされていますが、内容の充実をねらってのことでしょうか。

直山 木綿子単に外国語の技能が身についただけでは、意味がありません。伝えたい内容がなければなりません。外国語は、自身の思いや考えがあって、それを表現するための一手段です。外国語を使って自身の国の文化や地域のこと、自分の考えを語れる必要があります。現在の外国語活動でも、子どもが自分の思いを持ち、それらを外国語を使って何とか表現しようとすることをとても大切にしています。例えば、他教科の学習内容や活動を外国語活動に取り入れる授業を考えてみるのです。
『Hi, friends!』のLesson 9にある「ランチメニューを作ろう」という単元を例に挙げてみましょう。これを家庭科で習った「赤・緑・黄」の食品群(肉・魚、野菜・果物、ご飯・パンなど、栄養的に似た特徴を持つ食品を3分類したもの)の学習とリンクさせるのです。
まず、にんじんの絵を見せて、“What color is this?”と、子どもたちに聞く。当然子どもは“Orange.”と答えるでしょうが、そこで“Orange!? Sorry, it’s not orange. It's green!”と言うと、子どもたちは騒然となります。さらに、ご飯の絵を見せて“This is yellow.”とヒントを出していくと、勘のよい子は、「赤・緑・黄の食品群を聞かれているのだ!」と気付き、興味を持って答え出します。見たままの色を答えるなんてつまらない。頭を使うから面白いのです。
そして、赤・緑・黄の食品群の栄養素が入ったヘルシーなランチメニューを考えて、そのメニューを三つの色と素材をヒントに当てるクイズにすると、格段に面白くなります。ちょっとやってみましょうか。What is my healthy menu? Hint, please?

学びの場.comYes, hint, please.

直山 木綿子What color?

学びの場.comじゃあgreenで。

直山 木綿子Onion. Hint, please? What color?

学びの場.comRed.

直山 木綿子Chicken.

学びの場.comタマネギと鶏肉ですか……うーん、Hint, please. Green.

直山 木綿子Tomato.

学びの場.com何だろう……Hamburger steak?

直山 木綿子No! chickenが入っているのにハンバーガーじゃありませんよ。

学びの場.comですよね。Hint, please. Yellow.

直山 木綿子Rice.

学びの場.comタマネギ、鶏肉、トマトにご飯……。

直山 木綿子子どもが好きなメニューですよ。

学びの場.comうう……Hint, please. Red

直山 木綿子Egg.

学びの場.comわかった! オムライス?

直山 木綿子Yes! That's right!

学びの場.com面白いですね、これ!

直山 木綿子でしょう? 聞く方も考えながら聞くし、説明する方も難しさを調節しながらヒントを出せる。単に自分の好きなランチメニューを作るよりも、この方がずっと子どもにとって面白いですよ。
外国語活動で道案内する単元も、生活科の町探検や総合的な学習の時間における地域学習とリンクさせるとよいでしょう。まず出題者が“Where is my nice spot?”と質問し、“Go straight.”“Turn right.”とヒントも出していきます。回答者は地図を見ながらヒント通りに道をたどり、出題者のお薦めの場所を探っていくのです。正解が出たら出題者は、“Beautiful flowers in the park.”とか“I can play soccer in the park.”などと、お薦めの理由を説明します。すると、同じ場所でも、一人ひとり薦める理由が違うことを実感できるはず。こういう外国語教育を通じて、子ども達が言葉とは人を理解するためにあり、自分を理解してもらうためにあること、そして自分の思いを相手にうまく伝えることの大切さを感じるのではないかと考えています。

学びの場.com英語教育改革を待たずとも、これなら今すぐできますね。

直山 木綿子小学校と中学校のつながりを意識した指導も“今すぐ”やってほしいものです。小学校教員は、外国語活動が中学校の英語とどうつながるかを、子どもたちに伝えてほしい。例えば、『Hi, friends!』の6年生最後の単元では、自分の夢を英語でスピーチしますが、現段階の英語力では思っていることの1割も語れません。そこで、教員が「中学校で英語を勉強したら、全部英語で言えるようになるよ」と声をかけることで、子どものモチベーションは違ってきます。中学校英語への憧れを抱くでしょう。
中学校英語科教員は、子どもたちが外国語活動でどんなことを学んできたか、どんな活動をしてきたかを知った上で、授業計画を立て、指導する。小学校と中学校がつながりを意識するだけで、中学校英語でつまずく子どもを減らし、英語への学習意欲を高く保つことができると思います。

学びの場.com最後に、学校現場や保護者の方々へメッセージをお願いします。

直山 木綿子先生方には、どうぞ心配しないでほしいと思います。冒頭に申し上げた通り、今の外国語活動の成果の上に今後の小学校における外国語教育があります。今の外国語活動の充実がまず先です。そして、文部科学省では、新たな英語教育に向けてきちんと環境整備をしていきます。英語が苦手な方もいるでしょうが、「英語って楽しい!」ということを研修などを通じてお伝えしていきます。今の外国語活動でも言えることですが、先生ご本人が英語に向かっていかなければ、子どもも影響され英語に向かっていかなくなります。
保護者の方々は、学校を信用して下さい。そして、子どもの成長を温かく見守ってほしい。親がうるさく口を挟むと、子どもが英語嫌いになってしまうかもしれません。実は、私の娘も小学生のとき、私がうるさく言ったのが原因で英語嫌いになってしまって……。毎日娘が帰宅する度に、「今日、外国語活動やった? 何を習った?」と問い詰め、発音を教えたりしていたら、そのうち娘は「今日は外国語活動なかった」と嘘をつくようになってしまいました(苦笑)。友達と一緒に、先生と一緒に、学校で学ぶからこそ、子どもは外国語(英語)を楽しめるのです。学習内容だけを取り出して、家庭で練習させようとしてもうまくいかないでしょう。それより、親も子どもの視点に立って一緒に勉強するようなスタンスがよいと思います。
日本の英語教育の未来は明るいと、私は確信しています。先生方と一緒に、小学校の外国語教育を創っていきたいと思います。よろしくお願いします。

直山 木綿子(なおやま ゆうこ)

文部科学省初等中等教育局 教育課程課・国際教育課 教科調査官。京都市の中学校で英語科教諭を務めた後、京都市教育委員会指導主事として小学校外国語活動のカリキュラム開発に携わる。平成21年4月1日より現職。以来、『英語ノート』『Hi, friends!』の開発や活用を始め、全国各地での研修や講演など、日本の英語教育の充実と推進に日々奔走する。

インタビュー・文:長井 寛/写真:言美 歩

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