教育トレンド

教育インタビュー

2009.05.05
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊 団塊世代の生き方を語る 定年後、別の人生をもう一回楽しもう!

中村雅俊さんは、定年を迎えた団塊世代のこれからの生き方や、夫婦・家族の在り方を描いた映画『60歳のラブレター』に主演されています。離婚、娘との亀裂、再就職先でのトラブル......と、さまざまな問題を抱えながら第二の人生を歩み始める主人公。役作りを通して、団塊世代の生き方について語っていただきました。

夫婦で築き上げる家庭、子どもへの影響

学びの場.com今回主演された映画『60歳のラブレター』は、実際のご夫婦が交わされたラブレターに着想を得た作品だそうですね。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊そうです。住友信託銀行が一般から募集した「60歳のラブレター」という企画があって、2000年から毎年続いています。妻から夫、夫から妻へ、普段言えない互いへの感謝の言葉を綴ったラブレターで、これまでに日本中からおよそ9万通が寄せられています。  実際、このラブレターというのは、はがき1枚に書かれた短いものなのですが、その中に夫婦間の強い絆が読み取れる感動的な内容なのです。これらラブレターの想いをもとに製作された本作は、もう台本の段階から非常に充実していて、「なんていい本だ!」と思わず感動の涙が出たほど。その分、プレッシャーを感じながら演じましたね。

学びの場.com中村さんが演じられた橘孝平は自分の家庭をまったく顧みない企業戦士。映画を観られた方の反応はいかがでしたか。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊孝平は、現役時代は野心家のエリートとして大手建設会社の重役にまで上り詰め、家庭がありながら若い恋人もいる男。定年退職を機に、その恋人が経営する事務所に再就職し、妻とは離婚します。ところが、会社を離れてからさまざまな壁に直面し、自分にとっての妻の存在の大きさに改めて気づいていきます。ラストシーンで、他の男と旅に出た妻を取り返しに行くのですが、そのシーンに共鳴してもらえるようにと思って演じました。  ですが、女性からは「なんてわがままな男なんだ」と言われました(笑)。男性からは「よくぞ奪いに行った!」と言われたのですが。男女でとらえ方も違うんですね。本作は、そうやって観た人の論議を醸し出す点も面白いんじゃないかと思っています。

学びの場.com映画『60歳のラブレター』の中で、孝平の娘が両親を見て「結婚に意味を見いだせない」と言うシーンが印象的でした。留守がちな孝平が30年以上も子育てを妻任せにしていた結果、娘にも影響が出たということでしょうか。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊これはね、どうしようもないことじゃないかと思いますよ。両親は娘に24時間監視されているようなものですから、急に父親がカッコイイことを言っても、娘にとっては「普段はああなのに、こういう時ばかり偉そうに」と映ってしまうわけです。父や母の人格や二人の関係、空気を全部見ているから、それがそのまま娘の価値観に影響してしまうのです。そこから親は逃げられないし、それが親の責任と言えるでしょう。  ただ、映画の中で孝平夫婦の娘は、最初は反発しながらも、両親が30年間かけて築き上げてきたお互いを支えあう絆を理解し、最終的には自分も結婚を選択しました。それが救いです。子どもというのは、こうして夫婦が大事にしてきた“確かなもの”を確実に読み取ってくれる。そういうものだと思います。  夫婦は他人同士ですが、お互いにきちんと向き合っていきたいですよね。夫婦喧嘩も子どもに目を注ぐことで、何となくごまかしてしまうことがありますが、そういう時こそ子どもに逃げず、きちんと二人で話し合って解決していくことが大事だと思います。そうしたことの積み重ねが、それぞれの夫婦の“確かなもの”を築いていく土台になるはずです。

ずっと現役、まだまだ青春の団塊世代

学びの場.com中村さんがかつて主演されたテレビドラマ『俺たちの旅』を観ていた人たちは、映画『60歳のラブレター』を観たらきっと「あのカースケたちがこんなに歳を取ったのか!」と、感慨深いのではないかと思います。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊あれはもう30年以上も前のドラマですよ! 観ていた人たちも演じたこちらももう、最近の言葉でいう“アラ還世代”ですね(笑)。

学びの場.com中村さんもですが、皆さんお若い。“還暦”という言葉が似合わないと思いますが。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊そうですね。昔60歳といえば、すごいお年寄りという感じがしましたが、今は60歳でも若い方って多いじゃないですか。俺もあと2年で還暦ですけど、自分ではまだ40代くらいの感覚なんですよ。恐らく、他の人たちもそうだと思います。  映画『60歳のラブレター』でもその部分がよく表現されていると思います。団塊世代の人々は体力・気力共に充実していて、ずっと現役のままだという意識が強い。だから、たとえ今の仕事を定年退職しても、別の人生をもう一回楽しもう、と思うくらいがちょうどいいのではないでしょうか。

学びの場.com本作のように、そこで妻との関係を見直したり、家庭の環境を見直したりというのも重要でしょうか。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊そうだと思います。夫婦って結構、ダラっと甘えて生きていることが多いじゃないですか(笑)。改めて「夫婦とは?」なんて考える機会、ほとんどありませんよね。だから、たとえば定年退職のような自分の環境が変わる時、お互いを見つめ合うことは大事だと思います。夫が退職して、四六時中家にいることで妻がストレスを感じることも多いでしょうし、第二の人生を始めるに当たり、お互いの関係をとことん考えたほうがいいですよね。  映画『60歳のラブレター』は、ただ感動的なだけではなくて、見終わった時に「じゃあ自分たちはどうなんだろう」と考えさせるきっかけをくれる作品になっていると思います。だからぜひご夫婦で観て、映画館で“夫婦再生”のきっかけをつかんでいただきたいものです。  ただその際、他の夫婦や家族を見本にしてはだめですよ。俺はいつも言うんですが、100組夫婦がいたら、100組の夫婦の形がある。気持ちの表現の仕方はみんなそれぞれ。自分たちの家族や夫婦間で合うコミュニケーションの仕方というのは、長年培った中にこそあるのです。どうぞ自分たちのパターンで解決してくださいね。

情熱、愛情、信念を持つ教師を応援!

学びの場.com学びの場.com読者の中には、中村さん主演ドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』を観て、教師を目指した人もいると思います。その方たちは今、ちょうど管理職くらいでしょうか。多忙で悩まれている方も多いのですが、何か応援メッセージをいただけますか。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊教育の現場を見ると、いろんなものが複雑になりすぎているように感じます。子どもたちを教育するとか、引っ張っていくことについて、昔は教師に一任されていましたが、今は親や教育委員会からかなり口出しされてしまう。だから加減が難しいですよね。もし現在、俺があのドラマでやっていたようなことを現場でやったら、教育委員会やPTAなど各方面から「何ですか!」と反感を買いますよ。  俺が「教師という職は難しいんだな」と思ったのは、大学を卒業してまだ20代前半なのに、教師として赴任すると、いきなり親たちからヨイショヨイショと持ち上げられてしまうこと。つまり「自分は偉いのかな」と勘違いしてしまう人がいるんです。本当はまだまだ成長過程であるにもかかわらず、「自分は結構できるのかな」と思い上がってしまうと、謙虚な姿勢で学び、伸びていく機会を自ら失ってしまうことになりかねません。  若いうちはこうした環境にも戦っていかなくてはならないし、教師になるということは本当に大変なことだと思います。でもそれだけ、やりがいのある職業だと思いますよ。俺はドラマの中だけでしたが、実際に子どもの成長に寄り添える職業なんて、そうたくさんはありませんから。周りがいろいろ口うるさいことを言っても、信念を持って仕事に当たれば、きっと生徒たちは教師の一生懸命な姿勢を理解してくれると思います。この点は、『ゆうひが丘の総理大臣』の教師像と共通するかな(笑)。

学びの場.com信念を持って仕事をしている教師はやはり輝いていますね。

『60歳のラブレター』主演・中村雅俊そうですね。あとは、人によって表現方法は違っていても、愛情を持って怒る、情熱を持って注意する、であればいいと思います。昨今、友達みたいな教師が多いようですが、教師も“ご機嫌うかがい”みたいに、変に生徒たちに気を使っていてはだめですよ。叱るってすごいエネルギーがいるし、一瞬お互いにいやな気分になるでしょうが、そこに愛情があれば必ずや伝わるはずです。[2009年2月24日取材]

関連情報
『60歳のラブレター』 大手建設会社の定年退職を機に、長年連れ添った妻との離婚を決めた孝平。互いの道を歩み始めた時、新婚当初に妻が書いた手紙が孝平に届けられる――。他に、独身の翻訳家の女性と愛妻に先立たれた医師、妻が病魔に襲われた魚屋夫婦という、個性的な団塊世代カップル3組が織り成す、パートナーとのかけがえのない人生。 監督:深川栄洋/脚本:古沢良太/出演:中村雅俊 原田美枝子、井上順、戸田恵子、イッセー尾形、綾戸智恵ほか 配給:松竹

中村 雅俊(なかむら まさとし)

1951年宮城県生まれ。慶應義塾大学在学中に文学座研究所に入所。74年テレビドラマ『われら青春!』の主役に抜擢されデビュー、同年のエランドール賞を受賞。以後『俺たちの旅』、『ゆうひが丘の総理大臣』など青春ドラマの主人公を演じ、人気俳優に。映画でも『ふれあい』でデビュー以降、『夜逃げ屋本舗』、『HINOKIO』、『アメリカンパスタイム 俺たちの星条旗』など、数多くの作品に出演。また、ラジオのパーソナリティーや歌手としても活躍中。

インタビュー・文:菅原然子/写真:言美歩/スタイリスト:奥田ひろ子(ルプル)/メイク:鈴木佐知(アートメイク・トキ)/衣装協力:Ermenegildo Zegna ゼニア ジャパン(株)

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop