2007.10.09
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子どもの携帯電話利用とトラブル

子どもの携帯電話保有が、小学生32%、中学生68%、高校生96%(警視庁HP「携帯電話と子どもたち」より)と増え、携帯電話を教育現場で有効活用しようと模索する学校や教育関連機関がある一方で、携帯電話によるトラブルも急増しています。今回は、携帯電話の教育利用を試みている一つの事例と、急増する携帯電話トラブルの実態を探りました。

自然観察授業に携帯電話の機能を活用

 茨城県板東市にあるミュージアムパーク茨城県自然博物館は、茨城県内の5つの小学校(筑西市立関城西小学校、下妻市立大形小学校、つくば市立二の宮小学校、古河市立水海小学校、美浦村立大谷小学校)と共同で、学校内の余裕スペースを利用してスクールミュージアム(学校博物館)をつくりました。そして、身近な生き物の標本を展示し、学芸員を講師として派遣し、子どもたちが採った植物や動物の標本づくり講座や自然観察授業を行ってきました。

 そして2005年に、このスクールミュージアム事業の中で、携帯電話の機能(テレビ電話機能)を活用して、昆虫や植物に関する子どもたちからの相談や質問に、同館の学芸員がテレビ電話を使って直接アドバイスや回答をしたり、授業をするというシステムを導入しました。

 従来のパソコンのテレビ会議では、屋外にいる子どもたちとリアルタイムにコミュニケーションができませんでした。また、自然観察等の授業のたびに学芸員が学校まで出向いていましたが、学校まで出張すると、半日から1日の時間がかかり、稼働が困難になっていました。

 ところが、携帯電話の機能を使うことで、子どもたちの様子を確認しながら標本づくりや動植物の育て方を適切にアドバイスできるようになり、学芸員が学校へと出張しなくてもすむようになり、時間的な余裕ができました。
 将来は、採集活動の中で子どもたちに携帯電話を持たせて、野外活動の遠隔サポートも行う予定です。

 子どもたちが採集活動に携帯電話を持っていけば、その場で植物や昆虫などの種類や特徴を解説し、適切な採集方法や自然環境の保全方法を指導することができます。
 将来的には学校だけでなく、地域の植物や昆虫に詳しい人、興味のある人にも参加してもらい、地域全体で人材育成をして子どもたちの教育に役立てたいとのことです。

 同館教育課課長の高野修一さんは、「携帯電話を利用したシステムを導入して3年目を迎え、前記の5校は地域の動植物に詳しい人たちとともに学校独自の展開も始めています。地域の人材を育成し、子どもたちの教育に活用しようという当初の目標に向かって展開しているのです。そして、今年度から新たに3校(日立市立会瀬小学校、東海村立村松小学校、行方市立麻生小学校)に携帯電話を活用したシステムを設置しました。これからは、この新設校との取り組みが始まります」と、新たな展開について説明します。

 携帯電話からアクセスしてその場でリアルタイムに学芸員から解説、指導を受けられるのは、今のところ、スクールミュージアムにシステムを設置している上記8校の子どもたちですが、一般の子どもたちでも、観察中にその場から携帯電話を使って自然博物館のホームページにアクセスし、野草や昆虫などの種類や特徴を検索して調べることができます。
 また、携帯電話で撮った写真を自然博物館へメールで送り、後で学芸員から解説や資料をメールで自分の携帯電話まで返信してもらうことも、一般の子どもたちが利用できるサービスです。

 こうした携帯電話の機能を使った授業では、総合学習の時間などで、農家が携帯電話を持って畑や納屋に行き、野菜が育っている様子や農作業の様子、農機具などを教室のテレビ電話に送り、それを見て、子どもたちが農家に質問し、農家がそれに答えるなどの授業を行う学校もあります。
 つまり、携帯電話を使うことで、リアルタイムにコミュニケーションができ、教室にいながらにして農業体験が可能ということです。
 また、子どもたちが農家の畑にまいた野菜の種から芽が出て、葉を伸ばすなどの生育過程も、農家に携帯電話写真を撮って送ってもらえば、学校でその過程を常時見ることができるようになります。

 携帯電話は、パソコンに比べて移動性に優れ、しかも様々な機能を持ちながら安価で手軽なツールです。今後、教育現場、とくに授業実践等で、さまざまな有効利用の方法が出てくるのではないでしょうか。

携帯電話によるネット利用でトラブルも

 一方、こうした教育現場での携帯電話の有効利用に対して、子どもたちの携帯電話保有によるトラブルも多発しています。
財団法人インターネット協会主任研究員の大久保貴世さん

財団法人インターネット協会主任研究員の大久保貴世さん

 財団法人インターネット協会主任研究員で、東京都の「インターネット・ゲームに関する家庭のルール作りプロジェクトチーム」の「ファミリeルール」の作成に当たった、携帯電話やインターネットのトラブル相談(インターネットホットライン連絡協議会)も行っている大久保貴世さん は、「大人と子どもでは携帯電話の使い方が違います。一般的に大人は通話とメール機能が主になりますが、多くの子どもたちは携帯電話をメールと、インターネットにつなぐ道具として使っています。しかし、インターネットが使い方によってはどれだけ危険かということまでは考えが及んでいません」と指摘します。

 神奈川県横浜市の、中学1年生の子どもを持つ父親は、子どもが元気なく、朝から学校を休んで部屋に閉じこもっているのが心配になって、自分も1日仕事を休んで子どもにつきあい、事情を聞きました。
「子どもの悩みは、携帯電話で『得する情報がいっぱいあるよ。すぐクリックしてみて!』という誘いの言葉に誘われてURLをクリックしたところ、料金5万円を請求されたのですが、お金がないので払わずにいたら、さらに追加料金を含めて10万円の請求メールがしつこく送られてきて、『払わないなら、親に代わりに払ってもらうぞ』『学校や家まで取りにいくぞ。大変なことになるぞ』と脅されており、それを親に打ち明けられずに悩んでいたのです」
 
 子どもから事情を聞いた父親が、学校を通じて警察に相談したところ、「これは詐欺で、ワンクリックしただけでは料金は発生しない。送られてきたメールに返答せずに、無視すればよい」とのアドバイスを受けました。

 筆者の知る例では、子どもから相談を受けた親が、あわててお金を払ってしまったり、親に相談できない子どもが友人からお金を借りて払ったりするケースも多く、子どもはその返済のために親や学校に隠れてアルバイトをするというケースもありました。

集会や総合の授業で、携帯電話の使い方を根気よく話す

 茨城県古河市の公立中学校教員は、「当校でも、携帯電話からブログに悪口を書いたり、相手の携帯電話に嫌がらせのメールを送るなどの行為がいじめに発展したり、ワンクリック詐欺、不当な高額料金請求などの金銭関係の事件に巻き込まれるトラブルが実際に起きています。

 また、学校に携帯電話を持ってくることを禁止していますが、隠し持ってきて、授業中や休み時間に使っていることもあります。今の学校では、人権への配慮から持ち物検査をすることは困難です。携帯電話を持つことで、人とのコミュニケーションが取れない、授業に集中できないという弊害も出ています」と、実態を語ります。

 同校では、集会で子どもたちに携帯電話についてのアンケートをしたり、携帯電話の知識や掲示板への書き込みのマナーなどについて話していますので、子どもたちは、危険があることは分かっています。
 「それでも、子どもたちは携帯電話からブログや掲示板に、人前では言えないことを書き込むことでストレスを解消しています。
 学校としても、『携帯電話を持たせるのは保護者の問題』だからと、関知しないというわけにはいきません。集会や総合の授業などで、根気よく子どもたちに携帯電話の正しい使い方について話しています」と述べています。

専門の教員による、教科としての指導が必要

 東京都町田市立南中学校では、急増する携帯電話のトラブルに対応するために、前出の大久保さんを招いてその実態や被害防止策についての勉強会や教室を開きました。

 南中学校副校長の守屋裕一さんは、「携帯電話を通じてインターネット上に子どもたちの個人情報や写真、誹謗・中傷などいじめにつながる情報が流れています。悪徳業者による架空請求、詐欺、出会い系サイトへのアクセスなどさまざまなトラブルに巻き込まれることも考えられますが、保護者はその実態についてよく知りません。保護者や教員の見えないところで子どもたちが動いています。
 その問題をPTAに投げかけたところ、家庭でも困っているということから、緊急に専門家である大久保さんを招いて、勉強会や授業で実態を語っていただくことなりました」と、取り組みについて語ります。

 勉強会で、保護者は大久保さんの話に驚くと同時に、初めて子どもたちの携帯利用の実態を知りました。
 子どもたちは、普段何気なく携帯電話を使って送っているメールや掲示板への書き込みが他人をひどく傷つけていること、軽い気持ちで広告サイトや出会い系サイトにアクセスすることが、実はとんでもない被害を招くことになりかねないことを知り「携帯の使い方やマナーについて、より真剣に考えるようになった」という声がたくさん出ているそうです。

 「勉強会や教室を開いたからといって、すぐにトラブルがなくなるわけではありません。本校ではすでに3回、大久保さんを招いて勉強会や授業を行いました。定期的に勉強会や授業を行うことで、保護者や子どもたちの意識も高まり、携帯電話の正しい使い方を身につけていけるようになるでしょう」と守屋さんは言います。

 この町田市立南中学校の取り組みをきっかけに、同じ悩みを抱える町田市内の他の中学校も大久保さんを招いて、携帯電話のトラブルとその防止策についての勉強会を開く動きが広がっています。

 南中学校校長の加島俊博さんは、「大人は携帯電話の機能を昔の電話機能と同じように考えていますが、それは一部の機能であって、携帯会社やプロバイダーなどのネットビジネス会社は、携帯電話に別の機能やコンテンツを付けることで収益を上げています。また、子どもたちを狙って、不正な方法や犯罪紛いの行為でお金を稼ごうとする悪質業者もいるようです。携帯電話やインターネットを悪用する大人に、子どもたちがだまされているのです。

 ですから、不正なことから子どもが身を守る方法を、大人の責任として教えていかなければなりません。
 そのためには、不正を取り締まる法的な体制を整えるとともに、携帯電話やインターネットの使い方、実態を踏まえたマナーやルールをきちんと教えられる教員を養成し、学校教育の中で教科として子どもたちを指導していく必要があると思います」と指摘しています。

学校裏サイトやプロフ等の悪質な利用には罰則もある

 最近では、中高生を中心とした「学校裏サイト」での誹謗・中傷の書き込みがいじめの温床になっていると指摘されています。また、友だちづくりや交際相手を見つける目的で自分のプロフィール(自己紹介)を掲載する「プロフ」(プロフィール・ページ)が、個人情報の悪用やストーカー行為を招いたり、出会い系サイト化しているといわれます。

「プロフ」サイトは、2002年頃に楽天が「前略プロフィール」を始めたのが最初と言われています。昨年夏頃から中高生の間に爆発的に広がりました。niftyなどの大手プロバイダー、mixiやGREEなどの大手ネット企業が管理者のサイトもありますが、若年層を狙ったサイトが多く見受けられます。
 
 また、「学校裏サイト」も、管理者が専門の掲示板サイト(BBS-学校裏サイトなど)を立ち上げて、そこに中学や高校の在校生、OB、あるいは部外者(第3者)がページを開設して書き込みをします。管理者には大手ネット企業やプロバイダー関連企業もあるようですが、怪しげな業者も多いようです。

 いずれも開設や書き込み無料のサイトがほとんどで、管理者の多くは商品販売などを目的とした企業・業者から広告を取り収入源としています。こうしたサイトへの登録や書き込み、写真掲載の大半に携帯電話が使われており、小学生にも広がっているといわれています。

 前出の大久保さんは、「プロフに携帯電話で撮った写真をアップして、みんなで見せ合って面白がっている子どもたちもいますが、携帯電話はインターネットにつながっていますので、パソコンで見ると携帯の画面より画像サイズが大きくなり、顔を隠していても輪郭や特徴がはっきり分かります。制服からも学校が特定され、写真の背景から住んでいる地域などが分かり、本人が特定されてしまいます。

 携帯電話とそれにつながるインターネットを悪用する人たちが、メール友だちやゲーム仲間づくりを装ったサイトで子どもを狙っているという現実があり、軽い気持ちでたった一度個人情報の書き込みをしただけでも事故や被害を招くことがあります」と、大久保さんは注意を促しています。

 プロフを安全に使うためには、(1) 住所やよく遊ぶ場所、学校名の掲載はやめる、(2)名前は、本名をやめてあだ名やハンドルネームなどにする、(3)顔がはっきり分かるような写真はやめる、(4)友だちのリンクもハンドルネームかあだ名にするなどの工夫が必要で、個人情報ができるだけ分からないようにする、(5)必要以上に自分をアピールしないことと、他人を傷つけるようなことをしないことが大事です。

 保護者は、子どもたちが携帯電話を使ってどんなサイトやページに夢中になっているかを子ども自身に教えてもらい、実際に自分で見て実態を知ることが大切です。そして子どもにコミュニケーションの上手な取り方や役立つ情報の選び方などを教えてあげることが大事です。

 教員は、子どもたちに「へんな書き込みをされた」と相談されたら、なかなか難しいことですが、サイト管理者に連絡をして書き込みの削除を申し込みます。その一方で子どもたちには、悪質な書き込みに対しては罰則があることを教える必要があります。

「携帯電話やインターネットサイトは匿名で書き込んでも、それぞれ個人に特定のIPログファイルがあり、プロバイダーの協力で、いつ、どのページのどの画像を見たかという記録が残りますので、書き込んだ本人を特定できることもあるのです」と、大久保さんは指摘します。

携帯電話の使い方を小学校低学年から教える必要

 小学校でパソコンの操作方法やインターネットの検索方法を教えていますが、携帯電話の使い方は教えていません。子どもたちはおもちゃのように携帯電話を使ってインターネットにつなぎます。しかし、インターネットは使い方を間違えるととても怖いもの です。

 「携帯電話やそれにつながるインターネットを正しく使うには、初めにそのマイナス面を学ぶ必要があります。携帯電話はあくまで道具であって、トラブルがあるから『持たせなくていい』『使わせなければいい』というのではなく、正しく、上手に使えるように学校で指導すれば、素晴らしい教育ツールになると思います」と大久保さんは言います。

 不正アクセス禁止法、出会い系サイト規制法など、法制度によって携帯電話やインターネットへの規制をもっと広げようという動きもあります。
 その一方で、数年のうちに小学校高学年の大半が携帯電話を持つようになると予測されています。また、情報収集や検索、野外授業のツールなどとして授業に携帯電話を使おうという試みも広がっています。
 しかし、携帯電話利用に必要な知識、ルールやマナーをきちんと教えられていない子どもたちが携帯電話を手にすることでトラブルに巻き込まれることがますます増加するとも考えられます。

 IT化社会はますます進み、携帯電話は最も手軽で使いやすい、安価なツールの一つです。子どもたちが携帯を手にする前の小学校低学年から、学校教育の中で携帯電話利用の方法を教えていく必要があるのではないしょうか。

構成・文:矢崎栄司 イラスト:あべゆきえ

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