2007.03.13
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学力偏重への回帰の中で、注目されるシュタイナー教育とは

政府の教育改革によって、ゆとり教育の見直し、学力重視へと再び舵が切られました。「それで、いじめや登校拒否、校内暴力などが解消し、子どもたちの創造性や人間性を育むことにつながるのだろうか?」という疑問の声も聞かれます。一方、教科書を使わず、テストや競争がなく、授業の中に音楽や絵や詩がある芸術的なカリキュラムを実践するシュタイナー教育に関心が高まっています。各地でシュタイナー教育の考え方を取り入れた幼稚園・保育園が増え、学校法人として認可を受けたシュタイナー学校も開校。今回はその特徴と影響を探ってみました。

2008年に、新たに2校の認可を受けたシュタイナー学校が開校予定

 シュタイナーの幼児教育を実践したり、その考え方を取り入れている幼稚園・保育園が増えています。また、シュタイナー教育に関する本や絵本、おもちゃなどを専門的に扱う店も各地にできています。
 2005年には神奈川県藤野町に、構造改革特区(藤野『教育芸術』特区)による学校法人として認可された「学校法人シュタイナー学園」(初等部・中等部)が開校しています。学校法人シュタイナー学園は、現在約160名の児童・生徒が在籍し、子ども数が減少して小中学校の廃統合が進む同地域にあって、最大規模の学校となっています。

 このほかにも北海道伊達市、栃木県那須町、千葉県長南町、東京都立川市、神奈川県横浜市、愛知県名古屋市、京都府京田辺市などで、NPO法人の運営によるシュタイナー学校(無認可学校)が開設されており、2008年には千葉県長南町、北海道豊浦町で学校法人として認可された小中学校の開校が予定されています。他のNPO法人も学校法人としての認可・開校を目指して活動を進めています。

 こうした動きについて、シュタイナー教育に関する著作物を数多く編集している戸矢晃一さんは、「シュタイナー教育は、『人間は本来どのような存在で、どのように生きるべきなのか』について考え、アントロポゾフィー(人智学)という一つの世界観を構築した哲学者ルドルフ・シュタイナーの思想から導き出された教育理念です。
 受験戦争の中で偏差値教育や競争に疑問や矛盾を感じてきた親が、子どもには『自分で自分の道、やりたいことを見つけて行動することができるように育ってほしい』と考えてシュタイナー教育に関心を持ったのでしょう」と語っています。

シュタイナー教育とは?‥‥シュタイナー教育8つの特徴

 戸矢さんによると、シュタイナー教育には以下のような特徴があるそうです。

(1)子どもの発達段階に適した教育
 シュタイナーは人間の成長を7年ごとの周期でとらえています。子どもの教育においても、各年齢期の心身の発達に即した芸術的なカリキュラムによって、子どもが本当の自分を知り、知・情・意(知性、感情、意思)の調和した人間に育つことを目的にしています。
 シュタイナーは人間として調和を持って発達するためには、(1)0歳~7歳頃までに体の基礎ができて、大人の真似から何かしらをやろうという意志、共感のもとが育ち、(2)7歳~14歳頃までに呼吸器系・循環器系が発達して、感情(人を敬ったり、自分と他人をはっきり識別すること)のもとが育つことで、(3)14歳~21歳頃(思春期以降)に思考力と判断力が育つと考えていました。
 まず「意志の基礎」をつくり、次に「感情の基礎」をつくり、その上で初めて知識や論理を学ぶと、本当の思考力になるというわけです。大事なことは、この3つを順番に育てることでバランスがとれるといいます。
 こうした意志・感情・思考のバランスがとれた人を、シュタイナーは「自由を獲得した人間」と呼んでいます。子どもの時期に、意志・感情・思考の順番に成長することが、やがて成人したときに、自分がどう行動すべきかを自分で考え実践できる人、自分で自分の道を見つけることができる人(自由を獲得した人間)になることができるというのです。
 ちなみに、大人になってからも、21歳~28歳、28歳~35歳、35歳~42歳、42歳~49歳、49歳~56歳、56歳~63歳‥‥と7年周期は続き、それぞれの年齢期に応じて人間としての役割や使命があるとされています(シュタイナーの7年周期説)。

(2)12年間の一貫教育・8年間の担任持ち上がり
 シュタイナー学校では、小学校に入学してから高校を卒業するまでの12年間を一貫教育としています。そして、小中学の8年間(小学1年生から中学2年生まで)は同じまとまりと考え、クラス替えもなく、1人の教員が持ち上がりで担任することが望ましいとされています。というのは、1人ひとりの子どもの学齢の始まりから思春期までの成長の全体を見守り、それぞれの子どもに必要な手助けを行うためには、1人の教員が長期に渡って子どもと接し、導き続けることが必要だと考えるからです。

子ども自ら木を切り、家を造ります。実習的な体験を通して、生きる力を培っていきます。

子ども自ら木を切り、家を造ります。実習的な体験を通して、生きる力を培っていきます。

(3)エポック授業
 シュタイナー学校では、国語、社会(歴史、地理)、理科(化学、物理、生物、気象)、算数(代数、幾何)などの主要科目の授業を、子どもたちの集中力が最も高い朝の最初の2時間(学校によって多少の長短がある)に行います。そして、同じ科目を3週間から4週間にわたって集中的に学びます。
 この授業はエポック(ブロック)授業といわれ、その他の英語、水彩画、音楽、体育、園芸、手芸、木工、読書や作文、フォルメン線描(ものの形を理解するために、波形や渦巻き型などの図形を、色を使って描く)、オイリュトミー(音楽あるいは詩や文章などの言葉を、目に見えるように身体で表現する運動芸術)などの専科と呼ばれる授業もエポック授業に沿って行われます。
 例えば、理科(気象)の授業で「古代人は、配置した石に当たる太陽の光と影の関係で春分の日や秋分の日を正確に知ることができた」ということを学ぶと、英語の授業では気象(天候)を表す言葉を学んだり、粘土の授業ではストーンヘンジをつくったり、水彩画の授業では石と石の間を朝日が昇る様子を描いたりします。

(4)教科書がない
  シュタイナー学校では、一般の小中学校のような教科書は使いません。そのかわりに、児童・生徒は授業のときに教員が話したことや黒板に描いた絵などの学んだことをノートに書き込み、クレヨンや色鉛筆を使って絵や図を描いたりします。自らつくったこのノートが教科書がわりとなります。(エポック授業のときにつくったノートをエポックノートといいます)

(5)テストがなく、点数による評価がない
  シュタイナー学校ではテストがありません。ですから点数をつけるということがありませんので、成績(点数)によるランクづけや競争がありません。通信簿は学年の終わりに、教員による子どもの成長の記録として、教科ごとの評価やその子の人物描写などが手書きの文章の形で渡されます。

「手の仕事」の編み物作品。想像力によってさまざまなイメージが生まれます。

「手の仕事」の編み物作品。想像力によってさまざまなイメージが生まれます。

(6)芸術としての授業
  シュタイナー教育では、あらゆる授業が音楽や体の動き、色彩の要素を取り入れた芸術的な時間となることを目指します。芸術に接することで、子どもたちが心を動かす体験をします。
 例えば、授業の始まりや合間、あるいは終了時に合唱をしたり、詩を唱えたりします。また、算数の授業などで5つという数を理解するために5角形の星を描いたり、教室の中で5角形の星形に歩いたりします。3の段の掛け算(九九)を理解するために、「トン、トン、パン」と、3拍子のリズムに従って3の段の九九を唱えて、自分の体の中にリズムを感じるようにします。
 1年生から12年生までを通して、オイリュトミー、コーラス、リコーダー、水彩画などの芸術表現の授業が行われます。

(7)多様な体験をする実習授業
  小学3年生ぐらいになると、家造りが始まります。子どもたちがそれぞれに木を切りだし、組み合わせて家を造ります。また、手の仕事として編み物や皿作りなどの手芸や木工、園芸、畑の仕事として作物の栽培など、多様な体験をする実習授業を通して行動する力を育てます。

(8)1年生から外国語を学ぶ
  シュタイナー教育では、小学1年生から外国語を学びます。単に文字や言葉を覚えるのではなく、歌を歌い、劇で演じ、文章を書く中でその国の文化を感じます。外国の地理や歴史を学ぶ中で、合わせて言語を学ぶこともあります。

 これらの特徴の他に、「あらゆる子どもに開かれた学校であること」、「男女共学」、「特定の宗教や思想を学校教育に持ち込まない」などがシュタイナー学校の方針とされています。

本当の学力(思考力・判断力)を育む

 こうしたシュタイナー教育の特徴を見て、「子どもの学力に及ぼす影響はどうなのか?」「学力の低下や進学するに当たって不利はないのか?」と心配する親もいるようです。 学校法人シュタイナー学園校長の秦理絵子さんは、「『学力や進学についてどう思われますか?』という質問はよく受けます。私たちも学力を大事にとらえています。しかし、学力のとらえ方が、一般に考えられている学力とは違います。
10月に行われる運動会のオープニングの集い。一般の学校と異なり、父兄も一緒に楽しみます。

10月に行われる運動会のオープニングの集い。一般の学校と異なり、父兄も一緒に楽しみます。

 幼児期は生きる力(感覚)を育てますので、知育(知識を教える教育)は行いません。その後、7歳から14歳までの小中学生の時期も、感じる心(感情)が育って初めて健全な思考力が育ってくると考えていますので、国語や理科、算数などの授業があり勉強はしますが、思春期(14歳ぐらい以降)になるまでは本格的な知育を行っていません。7歳から14歳までは、子どもの心と体の基盤が築かれる時期とされており、本当の学力(健全な思考力・判断力)を育てるために、遠回りをしている段階ですから、すぐに効果が現れないように見えるということでしょう」と、学力の意味について述べます。

 ドイツ在住で、子どもをシュタイナー幼稚園・小学校で学ばせた経験のある母親は、「日本の幼稚園では先生があれこれと指示をして子どもたちに絵を描かせたり、文字を教えていたのに、シュタイナー幼稚園では、先生は子どもたちを自由に遊ばせて、そばで見守っているだけで文字も教えていませんでした。また、小学校1年でも積極的に文字を覚えさせているようには見えませんでした。幼稚園から受験競争が始まる日本の教育状況を見てきただけに、正直言って『これで大丈夫かな?』と、最初は不安に思いました」と、初めてシュタイナー教育に触れたときの印象を振り返ります。しかし、実際に子どもがシュタイナー学校に入って、学年が進んでみると先輩たちは落ちこぼれることなく、一般の大学進学希望者が通う学校よりも高い合格率で大学に進学している例もあるそうです。

 前出の秦さんは、「親は、自分の子どもが『その子らしく』あってほしいと思っていても、社会に適応できないと困るという恐れを持っています。また、教員も理想の教育観を持ち、やってみたいことがあるはずですが、業務の中で達成しなければならないことがあり、進学率も高めなくてはならないという現実があります。
 しかし、それをひとまず後回しにして、それぞれの子どもの『その子らしさ』をじっくりと引き出していく場が、学校として成り立てばよいと思います。
 シュタイナー教育は『物事を全体的にとらえること』『心と体のバランスや自分と他者とのバランス』『人間同士、人と動物、自然と人間などのつながり』を考える過程を大事にします。
 今、環境破壊、貧富の差(南北問題)、戦争、人口問題、食料やエネルギーの問題など、地球上ではさまざまな問題が起きていますが、これらは、これまでの学力偏重がもたらした現代文明の弊害だと考えて差し支えないと思います。 
 地球上のさまざまなもののバランスやつながりを考えることで、人間も含めて地球を一つの有機体と見る思考方法が必要になってくると思います。地球上のいろいろな不都合をゆっくりと直していく本当の意味での学力が必要になっていくのではないでしょうか。シュタイナー教育で、その学力を育んでいくことができればと思います」といいます。

学校法人設立の前にある大きなハードル

 シュタイナー教育に関心が高まってはいますが、実際にシュタイナー教育に触れたり、シュタイナー学校の授業を受けている子どもたちはごく少数で、まだまだ日本の社会の中で認知されているとはいえません。
 そのため、「狭い社会に閉じこもり、社会的な対応ができなくなるのでは?」「一般の学校に通っていた人とうまく調和できるのか?」といった懸念の声もあります。
 また、これまでの日本の学校の授業では見られない、授業の中で音楽や合唱、詩を唱えることやオイリュトミーなどの芸術表現に違和感を持つ人がいたり、シュタイナー思想を紹介する書物に使われる言葉(例えば「霊的」「霊性」などと翻訳された言葉)などから、宗教的、カルト的な印象を持ったという声もあったりして、「よく分からない学校」「不思議な学校」といわれたりすることもあるようです。
オイリュトミーの発表会。その学期に学んだことを、学期の終わりに発表します。

オイリュトミーの発表会。その学期に学んだことを、学期の終わりに発表します。

 親が安心して子どもの教育を託すためには、学校の安定した経営基盤と教員が働きやすく、子どもたちが快適に学べる教育環境が大切です。そのためには、フリースクール(無認可校)という形もありますが、学校法人として認可された「正規の学校」(私立学校)として社会に根づくことが大切です。
 しかし、学校法人の設立にはハードルがあります。

 その1つ目が教育内容(教育課程)の問題です。公立校、私立校ともに文部科学省の学習指導要領の内容に沿って組み立てられます。学習指導要領は学校教育法施行規則の規定を根拠に定められており、公立校の場合は厳しく遵守することを求められ、私立校はその学校独自の教育理念が尊重されるため、ある程度弾力的に運用されているといわれています。
 シュタイナー学校が、学校法人として認可された学校(私立学校)となるには、授業内容が学校教育法に盛り込まれた教育目標の各項目に合致し、学習指導要領との整合性がとれていることが認められなければなりません。
 しかし、シュタイナー教育の目的を達成するには、その独自の芸術的なカリキュラムを大きく変更することはできませんので、学習指導要領との整合性をはかることは難しいとされていました。

 2つ目が、学校教育法、学校教育施行規則に定められている小中学校の設置基準を満たさなければならないことです。その基準には、教員数などの他に、1クラス当たりの児童・生徒数、校地や校舎などの施設及び設備等の認可基準が定められており、公立小中学校の認可は文部科学大臣、私立小中学校の認可は各都道府県知事が行います。私立小中学校の場合は地域の実情に合わせてそれぞれ各県で補助基準がつくられています。その基準には、教員数、1クラス当たりの児童・生徒数、校舎や校庭などの施設及び設備などの基準とともに、学校を運営する学校法人の保有資産、校地や校舎の自己保有の割合などが決められています。
 これまでの日本のシュタイナー学校は、子どものために新しい教育を求める親と教員など数人のグループから始まった市民団体がほとんどで、運営資金は親や教員自身とその周囲の人からの寄付や授業料などで、決して潤沢ではなく、自前の校舎や校地などの施設はとても持てませんし、運営資金以外の資産などありません。まずこの点が、学校法人としての認可を申請する前に、厚く大きな壁となって立ちはだかっていました。

地域活性化と教育が一体化した教育芸術特区での開校

 こうしたハードルはどうして越えられるのでしょうか。学校法人シュタイナー学園(前身はNPO法人東京シュタイナーシューレ)の例を取り上げてみましょう。 日本で最初のシュタイナー教育のクラス(東京シュタイナーシューレ)は、1987年、都心(東京・新宿)のビルの1室で小学1年生の1クラス8人からスタートしました。翌年から新しい子どもたちが入って、少しずつクラスが増え、7年後の1993年には5年生までの4クラスになり、東京・三鷹市に場所を借りて移転しました。

 ようやく1年生から6年生までの教育が継続してできるようになりましたが、無認可校のために子どもたちの学籍を置くことはできません。そこで、地元の公立小中学校に子どもたちの学籍を置かしてもらい、授業は東京シュタイナーシューレで行っていました(二重構造)。 その間、法人格のない任意団体で社会的な信用が得にくく、教室などの賃貸が難しいなどの事情もあり、NPO法が制定されたのを機に、2001年にNPO法人の認可を受けて法人格を持ちました(NPO法人東京シュタイナーシューレ)。

 しかし、NPO法人は学校法人ではありませんので、子どもたちの学籍を置くことはできません。引き続き公立小中学校に子どもたちの学籍を置いてもらい、公立学校の教員に関係書類を作ってもらうなど、公立学校の教員にも大きな負担をかけていたそうです。

 当時は中等部の授業も始まっており、生徒数が100名以上になって教室が足りなくなっていました。市民団体が毎日100名以上の生徒の授業を行うことができる建物を借りることや、その規模の土地を買うことは容易ではありません。また、無認可校には私学助成金がありませんので学校の経済的負担も大きく、施設や教職員の待遇も一向に改善されない厳しい状況が続いていました。

 そうした中で「構造改革特区」という新しい制度ができ、教育特区として認められればNPO法人であっても「学校法人」と認められる可能性や、自治体の要請があれば私立学校の認可基準が緩和される可能性があり、自治体が施設や設備を提供し、学校法人が運営する公設民営の認可された学校への道があることも分かりました。

 そんな時に神奈川県の藤野町との出会いがありました。藤野町は東京から車で1時間ほどしか離れていませんが、少子化で子どもの数が減り、学校の統廃合によって廃校舎がいくつも出ていました。また、芸術による町起こしも推進しており、シュタイナー教育にも関心を持ちました。

 藤野町は「藤野『教育芸術』特区」を国に申請をして認可され、2004年11月にNPO法人東京シュタイナーシューレが「学校法人シュタイナー学園」(初等部・中等部)を設立して、藤野町から校地、校舎の貸与を受け、シュタイナー教育を実践する小中一貫校を開校することになりました。これによって校地や校舎の要件が緩和され、学習指導要領の弾力的な運用により整合性が認められてシュタイナー教育のカリキュラムを変えることなく実践できるようになったのです。

 藤野町の資料(構造改革特別区域計画)によれば、シュタイナー学園の設置で、NPO法人東京シュタイナーシューレに在籍した生徒のうち70名がシュタイナー学園に通うことになり、約30家族が藤野町に移住しました。
 開校の2005年4月には中等部、新入生合わせて約120名の児童・生徒でスタート。学校法人設立から2年後の現在は160人を超える児童・生徒数となり、2007年4月の新学期には180名を超える児童・生徒数になる予定です。それにともない、学齢児童を子どもに持つ若い家族、これから子どもを持つ予定のある若い夫婦の移住もさらに増えてくるものと予測されています。

 学校法人シュタイナー学園の認可によって、地域活性化と教育が一体化した自治体運営の新しい形が見えてきたのと同時に、この事例が実績となって、各地でシュタイナー学校の誘致が広がる可能性もあります。2008年に開校予定の認可校も学校を中心とした街づくりの核となっています。

教育の多様性の中の一つの選択肢としての役割を担う

 シュタイナー教育は、日本の教育にどのような影響を与え、受け入れられていくでしょうか。
 政府の教育改革は、学力重視と規範遵守を厳しくする方向に転換しつつあります。日本の行政のクセ・特徴として、前例のないことや前任者が決めたことを変更することは避けるという傾向があり、組織の決定となると、個人の考えは意識下に潜ってしまうようです。
 しかしその中でも、一部の教育関係者からは「教育行政に携わる人たちや教員も含めて、詰め込み・管理教育が本当によいと思っている人はほとんどいないでしょう。本当は、もっと多様性のある教育が必要だと思っています。その一つとして、シュタイナー教育のようなものを取り入れてみたいという声もあります」という指摘もあります。

 今後、公立学校の学力重視と管理強化が進めば、公立学校の中で強者と弱者に二極化し、私立学校や人口減少が進む地方の自治体は特色ある学校づくりの動きを加速させるでしょう。その特色ある学校づくりの一環として、一部の学校にシュタイナー教育のカリキュラムや考え方が取り入れられていくことは十分に考えられます。
 前出の、学校法人シュタイナー学園校長の秦さんは「多様な教育のある中で、こういう(シュタイナー教育という)選択肢もあるというふうになりたい」と述べています。
 さまざまな特徴ある教育を実践する学校で学んだ人たちが社会に出てくることによって、これまでの受験競争や詰め込み主義の教育では測ることができない資質や才能、創造性を持った人たちが現れることでしょう。多様な教育の実践があって、多様な人々が育つことこそ教育の本来の姿ではないでしょうか。

構成・文:矢崎栄司 イラスト:あべゆきえ

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