2007.02.12
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ストップ言葉の暴力 子どもをやる気にさせる言葉・傷つける言葉とコミュニケーション力

教育再生会議の教育改革に対する提言(第一次報告)が出ました。教員は子どもたちを厳しく管理し、教員自らもますます厳しく管理されることになりそうです。そのため、子どもに対する厳しい叱責やきつい言葉などが増えることも懸念されます。では、子どもはどんな言葉に傷つき、どんな言葉に勇気づけられるのでしょうか。今回は、これから教員となる人や若い教員、あるいは子どもとのコミュニケーションに悩む親に、ぜひ心得ておいてほしい「言葉遣い」の基本とコミュニケーション力を高める方法を紹介します。

教育改革で画一的対応を迫られる教員、厳しく管理される子どもたち

 2007年1月24日に発表された教育再生会議の第一次報告では、「社会総がかりで教育再生を」というタイトルで、当面の取組として、7つの提言と、これに関わる4つの緊急対応が盛り込まれています。その提言の第1に「ゆとり教育の見直し、学力の向上」をあげ、「塾に頼らなくても学力がつく」をスローガンに、基礎学力強化プログラムとして授業時間の10%増などが記載されています。

 この教育再生会議の報告に対して、「かつての詰め込み教育の弊害がまったく考慮されていない」「学校教育の塾化によって、子どもの個性や豊かな発想力、創造性がますます育たなくなっていく」「個々の子どもの置かれた状況や内面に応じた生活指導がしにくくなり、型にはまった画一的発言や対処しかできなくなる」「教育技術が、学力テストの点を取らせるハウツウ、子どもたちに問題を起こさせない管理技術という面だけになってしまう」という指摘もあり、学校が子どもたちに成績を上げることや規範遵守を厳しく求めることから、子どもたちに対する教員の発言が、これまで以上に一方的できついものとなり、子どもの心を傷つける不適切な発言や暴言、叱責が増えるのではないかという懸念もあるようです。

 教員の言動に敏感な子どもは、教員自身は子どもを傷つけるつもりはなくても、その教員が発する言葉によって、心がチクチクと突き刺されるような痛みを感じることがあります。そして、その痛みは次第に大きな心の傷となっていきます。また、家庭環境や家族関係、性格など子どもの置かれた状況によって、同じ言葉でも受け止め方が異なり、心の痛み、受ける傷の大きさが違います。だからこそ、言葉の持つ影響を、もう一度見つめ直す必要があります。そして、教育改革が進むに連れて、ますます教員自身のコミュニケーション力、コミュニケーション技術も問われるようになるでしょう。

<いじめ自殺の発端は教員の暴言>
 テレビや新聞など、多くのメディアで報道されましたが、2006年10月、福岡県筑前町の中学2年の男子生徒がいじめを苦に首吊り自殺した問題で、校長、教育長、学年主任ら学校側は、男子生徒の1年時の担任を務めた学年主任教員がいじめ発言を繰り返し、それが発端となって他の生徒にまでいじめ行動が広がったことを認めました。

 この教員は、生徒をイチゴやジャムに例えてランク付けするなどの人格無視発言を繰り返したり、男子生徒がケガをしているのに仮病よばわりやうそつき、偽善者扱いし、「(男子生徒が)からかいやすかったから」と、いじめ発言を繰り返していたことを認めました。

 さらに、母親が男子生徒のインターネット利用について、この教員に相談したところ、その内容を他の生徒たちに明かしてしまい、同級生たちがそれにからめたあだ名で男子生徒を呼ぶなど、いじめを誘発していました。男子生徒はこの後に、「学校に行きたくない」と言うようになったようです。

 校長は当初、「目に見えるいじめがあったということはない」として、いじめそのもがなかったと主張していましたが、生徒の両親が、教員のそれらの言動がいじめ助長につながったのではないかと迫ると、校長は「そう思います」と答え、教育長は「校長から(1年時の担任教員の)発言内容を聞いた。教員によるいじめがあったと判断している」と前言を翻しています。 こうした学校、教育委員会の対応に対して、「言葉の暴力についての理解が浅いと言わざるを得ない」という厳しい指摘があります。

<生徒に対する暴言で書類送検>
 もう一つ、教員の言葉の暴力にかかわる問題では、東京足立区の中学校の理科教員が、理科の授業中に、1年生の男子生徒に対して「死ね」「殺すぞ」などという言葉で脅したという事例があります。(1999年 5月)この教員は授業中に男子生徒が質問に答えられなかったことに腹をたて、「何をぼんやりしているんだ」「ふざけるな」「殺すぞ」「やる気がないなら出て行け、死ね」などという言葉を投げかけて生徒を脅したといいます。

 生徒は大きなショックを受け、「学校に行きたくない」「死にたい」などともらすようになり、一時登校拒否になったそうで、教師は、2000年1月に警視庁に書類送検されました。

 この警察の厳しい処置には異論もあるようですが、教育の本来の目的を逸脱する重大な結果を招いたことの責任の大きさを警察も重視したようです。

<教員の暴言・威嚇に悩む子どもたち>
 いじめや体罰などで苦しんでいる子どもの権利が守られる環境づくりを支援する「子どもの権利支援センター」(長野県教育委員会事務局こども支援課内 2005年5月設置)が作成した「平成17年度こどもの権利支援センター活動報告書」(2006年6月作成)によると、平成17年度に、同センターにのべ110件の相談(小学生40%、中学生31%、高校生12%ほか)が寄せられました。

 その相談内容は、第1位が「教師の指導上の問題」41.8%、第2位が「いじめ」30.9%、第3位が「教師の暴言・威嚇」21.6%、第4位が「不登校」11.8%、第5位が「教師の暴力」10.9%で、特に年齢の低い小学生では「教師の暴言・威嚇」が34%になっており、低学年の子どもたちの多くが「教師の暴言・威嚇」に悩まされていることがわかります。

言葉の暴力は、身体的暴力よりも大きな痛みを与えることがある

 教員が「生徒を思いやっての激励」あるいは「子どもの将来を考えての叱咤」のつもりで、よかれと思って発した言葉であっても、その言葉が「きつい言葉」や「強い言葉」だと、浴びせられた子どものほうは自分の人格や存在、可能性を否定されたと受け取り、「自分はいないほうがよいと思われている」「理解されていない」「自分はだめな人間だと思われている」などと思い込んでしまうことが多くあるようです。

 言葉の暴力は、身体的な暴力に比べて見逃されやすい傾向があり、暴力を加える(暴言を発する)側も加害者意識をあまり感じないところがあります。言葉の暴力は、場合によっては身体的な暴力よりも大きな痛みを被害者に与えることがあります。心配されるのは、それが大きな心の傷となって、その後の子どもの人格形成に悪影響を及ぼしてしまうことです。

 教員は毎日、子どもたちの前でさまざまな言葉を発しています。感じやすい子どもたちは、教員の一言一言に反応して、喜んだり悲しんだりします。しかし、教員は慣れで、自分の言葉のひとつ一つが子どもたちの心に大きな影響を与えているという意識が薄れがちになり、ときには不用意に言ってはいけない言葉(暴言)を遣ってしまうということもあるようです。
 教員自身が、自分が発する言葉の重みや影響の大きさを知って、子どもに対する言葉遣いを、教育の中のコミュニケーション技術として身につける必要があるでしょう。

教員が、子どもに言ってはいけない言葉

 群馬県大泉町立東小学校の4年1組の担任教員で、クラスぐるみで、人を傷つける、言われていやな「チクチク言葉」を封印して、人に言ってもらえるとうれしい「あったか言葉」を増やそうという試み(後述)を始めた市川昭彦さんは、これまでの経験から、教員が子どもに言ってはいけない言葉(教員のチクチク言葉)として、子どもの人格を否定するような言葉や、からかうような言葉をあげています。

 市川さんは、「子どもは、家庭での生活や家族関係、性格などによってそれぞれ考え方や感受性が違いますので、同じ言葉でも受け止め方が変わります。教員は、ひとりひとりの子どものことをできるだけ知ってコミュニケーションをはかる必要があります。 中学生や高校生になれば、ある程度教員の心の内を推し量ることができるようになりますが、小学生はまだそこまでできませんので、よりていねいな対応が必要でしょう」と指摘しています。
 そして、子どもとの間で言葉の行き違いが生じると、信頼関係が損なわれます。その誤った認識を打ち消し、信頼関係を取り戻すまでには長い時間がかかります。

<教員に言われた、いやな言葉>
 筆者が小中学生に取材した中で聞いた「教員に言われた、いやな言葉」には、

(1) 「バカ」「お前はだめだ」「やっても無駄だ」「死んだほうがいい」など人格や能力を否定する言葉
(2) 「のろま」「デブ」「やせ」など子どもの動作や身体的な面を否定する言葉
(3) 「親がしっかりしていない」「家庭のしつけがなっていない」「お姉ちゃん(お兄ちゃん)と同じで、できが悪い」など親・兄弟など家族や家庭を否定する言葉
(4) 「○○と比べて、お前は……」など、他の生徒と比較する言葉
(5) 「へえ、あなたにしては上出来だね」など皮肉やからかいの言葉
などがあります。

 子どもは教員に、自分がいやな部分をあえて言われたり、自分が大切にしていることを否定されたり、からかわれたりすることで、教員に対して敵対心や嫌悪感を持ち、他の生徒に対して引け目を感じたり、劣等感を持たされてしまうこともあります。また、こうした教員の言葉が、他の生徒からのいじめにつながるおそれもあります。

 市川さんは、「私も、うっかりして子どもの心を傷つけるような言葉を遣ってしまった経験があります。そんなときには、その場ですぐにその言葉を撤回し、きちんと謝罪して訂正します。それがないと、子どもの心の傷はさらに広がり、信頼関係の修復が困難になります」と、即座の対応の大切さを指摘しています。

 教員が、不用意にも子どもの心を傷つけてしまう言葉を発してしまうのは、多忙ゆえの精神的なゆとりのなさ、体調不良、言葉の弾み、子どもに対する思い込みや先入観などがあげられます。今後、教育改革によって「授業時間の増加」「生活指導の強化」「書類作成や事務処理の増加」など、教員の負担がますます大きくなることも予測されており、教員の子どもに対する、より細やかな対応が課題となってきそうです。

<子どもを、やる気にさせる教員の言葉>
 一方、小中学生の「教員から聞いてうれしかった・元気づけられた言葉」には、

「ありがとう」、「よくやったね」、「よくできたね」、「がんばれよ!」、「おかげで助かったよ」、「さすがだね」、「やればできるよ」、「君なら大丈夫」、「こうしたら、もっといいよ」
などがあります。

 子どもたちにとって、教員の一言がその後の人生の支えとなることもあれば、逆に心に一生残る傷をつけてしまうこともあります。教員は、子どもたちを健全に育てるプロの教育者ですから、どのような状況に置かれたとしても子どもの心を傷つけるような言葉遣いは控え、話す言葉によって子どもに希望と勇気を持たせ、やる気を起こさせることができるコミュニケーション技術の向上が必要とされるでしょう。

子どもの人格形成、将来の健康にも影響を与える親の暴言

 家庭は子どもが最も安心できる居場所で、親は子どもにとって最大の心のよりどころです。ところが、親の不用意な暴言、心ない言葉によって傷つき、自分の居場所を見失っている子どもたちが増えているようです。親から受けた言葉の暴力による苦痛は、その後の子どもの人格形成にも影響を与えます。

<親に言われた、いやな言葉>
 小中学生の「親に言われた、いやな言葉」には、

(1) 「バカ」「クズ」「役立たず」「わがまま」「ひねくれ者」など人格、性格を否定する言葉
(2) 「無理だ」「やめろ」「能なし」「知恵が足りない」など能力や可能性を否定する言葉
(3) 「あなたにやってもらわなくてもいい」「お前の話を聞く必要はない」など善意を否定する言葉
(4) 「お前のことなんか知らない」「もう子どもと思わない」「あなたにお金をかけたくない」など冷淡な言葉
(5) 「出て行け」「顔も見たくない」「死んでしまえ」など怒りにまかせた感情的な言葉
(6) 「みっともない」「恥さらし」「親のことも考えろ」など世間体を気にした言葉
(7) 「お前のために我慢している」「親は苦労しているのに」など恩着せがましい言葉
(8) 「妹(弟)に比べてだめだ」「できそこない」など姉妹(兄弟)と比較して劣等感を感じさせる言葉
(9) 「お前は捨てられていた子だった」など族・親子としての存在を否定する言葉
などがあります。

 親は、毎日の生活の中で受けるさまざまなストレスで感情(気持ち)が不安定になったり、神経がいらだったりすることがあり、子どもに愛情を持っていても、そのいらだちを配慮に欠けた言葉で子どもにぶつけてしまうことがあります。それが度重なると、子どもの心の傷が広がって、親に対する信頼が薄れ、心を閉ざしてしまいます。

 世界の主要な医学誌、医学会、医学機関などをニュースソースにインターネットでコンテンツサービス(ニュース配信)を行っている『ヘルスデーニュース』(2006年6月1日号)は、子どもを「小ばかにする」「恥ずかしい思いをさせる」「脅かす」などの親の言動は、身体的、性的暴力と同様に、子どもに悪影響を及ぼすことが明らかになったという、アメリカの医学誌「Journal of Affective Disorders」に掲載されたアメリカ・フロリダ州立大学の研究を紹介しています。

 記事によれば、言葉の虐待を受けた人は抑うつ(気分が沈み晴れ晴れしない、重い気分など)や不安が1.6倍多く、気分障害や不安障害は2倍も多く、その症状は成人してからも続くということです。
 親の不用意な言葉や無神経な言葉、感情にまかせた発言が、子どもの心を傷つけ、将来の人生をも左右してしまっているのです。

<親から聞いた、うれしかった言葉>
 一方、「親から聞いた、うれしかった・元気づけられた言葉」には、

「よかったね」、「ありがとう」、「がんばれ」、「きっとできるよ」、「それでいいじゃない」、「もう一息だね」、「焦らず、がんばれ」、「お父さん(お母さん)もうれしいよ」、「よくやったね」
などがあります。

 親は、つい子どもを叱りたくなったときに、一呼吸おいて、ゆっくりと心を落ち着かせて、子どもを励ます言葉を返してあげることが大切です。

「チクチク言葉」封印、「あったか言葉」でコミュニケーション力を高める

 前出、大泉町立東小学校教員の市川さんは、2006年4月に、クラスで生徒に「言葉を大事にしていくよ」と宣言。クラスの人間関係ができ始め、仲良しができ、ケンカも起こる6月半ばから、生徒たちに、言われていやな「チクチク言葉」を紙に書き出してもらい、それを封筒に入れ、もう遣わないように封印して教室の壁に貼り付けました。

 そして、聞いてうれしくなる「あったか言葉」を増やそうと、クラス全員が「あったか言葉」を書き出し、それを壁に貼るようにしました。壁に貼ってある「あったか言葉」には、「ありがとう」「サンキュー」「すごいじゃん」「上手だね」「よくがんばったね」「えらいね」などがあり、一番うれしい「言葉」を前に出しています。

 10月からは、
(1)朝の会で、あったか言葉を5つ(現在は10)元気に唱える
(2)「あったかノート」を作り、あったか言葉を記録する
(3)「あったか あったか」の合い言葉をクラスの宝物にする
(4)帰りの会で、その日にクラスの友達からもらったあったか言葉を紹介しあう

という「あったか言葉プロジェクト」を始めました。


 市川さんが、「言葉」にこだわるのは、「いのちを大切にできる子は、言葉も大切にできる」という思いがあるからです。
 テレビやゲームなどの影響もあるかもしれませんが、大人も含めて、多くの子どもたちが「きつい言葉」や「強い言葉」に慣らされて、相手のことを思いやる気持ちや感謝の気持ちを表す言葉を知りません。こうしたコミュニケーション力の不足が、ひとりひとり違いのある子どもたちの心の通じ合いや理解し合うことを妨げているのではないでしょうか。

 クラスでは、「あったか言葉」を遣うのと同時に、それぞれが向かい合って手の平をくっつかない程度に合わせて、それぞれ相手の手の動きに合わせて手を動かすという「手の平会話」を行ったり、「チクチク言葉」と「あったか言葉」についてのアンケートや作文を行いました。

 「手の平会話」では、子どもたちが向き合って両手を差しだし、くっつかない程度に手の平を合わせて、一方の手の動きに合わせて動かします。子どもによって動かし方が違い、多くの子どもが「手を早く動かす人や遅く動かす人、大きく動かす人などみんなが違う動きをして、人はみんな違うんだということが分かった」と感想を述べています。

 また、「チクチク言葉」と「あったか言葉」についての作文には、「あったか言葉を使うと、初めて会った人でもすぐに友だちになれます」「あったか言葉を使うと心がほかほかして、逆にチクチク言葉を使うと最初は平気だけど、後でいやな気持ちになってきます。チクチク言葉を使われるといやです」「いじめをする人は、あったか言葉を使えない人だと思いました」などの感想が記されています。

 市川さんは、「『あったかプロジェクト』をやったからといって、実際にクラスの中でケンカや言い合いがなくなるわけではありませんが、今は言葉を大事にする意識・言葉の種をまいているところです。中学、高校の多感な思春期のときにその種から芽が出て、育てばよいと考えています」といいます。

 子どもたちが、学校で「あったか言葉」を遣うようになって、「家庭でも、子どもの言葉遣いや親に接する態度が変わってきた」「子どもの影響を受けて、言葉の遣い方が変わった」という親もいるようです。
 学校や家庭で、「チクチク言葉」がなくなり、「あったか言葉」 を増やすことができれば、いじめや虐待を減らす手だてにもなるはずです。

 日本人は、欧米人に比べてコミュニケーションが上手ではないと言われていますが、最近ではさらに若い人たちのコミュニケーション力の低下が心配されています。小中学校のカリキュラムの一環として、いのちの授業や言葉の学習の中で、「チクチク言葉」を封印して「あったか言葉」を増やす授業を取り入れることによって、子どもたちだけでなく、教員自身のコミュニケーション力の向上にも役立つのではないでしょうか。

構成・文:矢崎栄司

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