2006.05.16
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子どもケータイ事情、実例から追う

「gooリサーチ」の調べによると子どもの携帯電話(PHSを含む)保有率は、高校生94.2%、中学生49.5%、小学高学年21.1%、小学低学年11.2%。ケータイの危険性や有害性については数年来論じられているが、ケータイは子どもたちのコミュニケーションツールとして不可欠となりつつあるし、小学生向けには、防犯目的としてのケータイも注目され始めている。ケータイ普及の勢いは止められそうにない。安心して子どもにケータイを与えるために、まずはケータイの利用実態を知り、子どもとケータイのあり方について考えてみたい。

防犯目的、便利性、親のケータイへの意識が変わってきた?!

まずは学びの場で「子どもと携帯電話」に関するWEBアンケートを行なったところ興味深い結果が出た。「お子さんに携帯電話を何歳から持たせますか(持たせましたか?)」の問いに102件のうち、41件が小学生または中学生の間は不要と答えたものの、残りの6割は必要性をある程度感じている。しかし積極的に肯定するのではなく、「防犯の目的で必要」、「時代の流れだから」仕方ないといった意見が目立つ。きっかけとしては「塾に通うようになった」、「子どもの(遊び場所など)行動範囲が広くなってきた」が大半を占める。

この春、auからジュニアケータイ、NTTドコモからキッズケータイ、という名で相次いで子ども向け携帯電話が発売された。6月には玩具メーカのバンダイとウィルコムが同市場に参入する。新学期を前に注目を集め、NTTドコモによればキッズケータイは、発売からわずか一ヶ月の3月末時点で契約者数8万弱に上ったという。これら子ども向け携帯電話で親が注目するのは、防犯ブザーや位置情報などの"防犯機能"だ。知人が子ども向け携帯電話を使わせているというので、その第一日目の様子を聞いた。

CASE1 子ども用のケータイを買ってはみたものの・・・(Yさんの場合) ~事件か? 事故か? 初日のドタバタ劇~

行動範囲の広くなってきた子どもたちに持たせたいと、この春から小学5年生の息子と2年生の娘にと2台購入。注目していたのはやはり防犯機能だ。さっそく、夫と共に緊急時に自動発信する相手の登録を行なった。ママの携帯電話、自宅、同居の祖父母の電話の3件だ。日曜日、息子のH君がお友達と遊びに行くというのでさっそく持たせた。H君の行く先は「公園をブラブラ」、門限は5時!
4時をまわった頃、Yさんの携帯電話が鳴った。「緊急通話です!緊急通話です!」と女の人の声。最初は「ブザーが誤作動したのかな?」と思っていた。と言うのも電話は通話状態になっていて子どもたちの遊び声が聞こえるからだ。「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と呼びかけても遊びに夢中なのか聞こえないようだ。

これからが大変だった。ケータイを切ると、今度はH君の現在地情報が送られてきた。前後して、家の電話が鳴り「緊急通話です!緊急通話です!」と再び同じ声。その電話を切ると今度は祖父母たちの部屋の電話が鳴り、おじいちゃんたちはビックリ仰天! 地図上の現在位置は、地下鉄でひと駅以上遠い繁華街を指している。電話を鳴らしても出ない。「友人のT君がいっしょだから?」、「それとも、誰かに連れて行かれた?」と驚きが心配へと変わった。

YさんがT君宅へ自転車で駆けつけ尋ねるとやはり、そんな場所へは1人で行ったことがないという。10分ごとにブザーが鳴り、刻々と現在地情報が送られてくる。3回目位の検索結果で自宅に近くなっていた。「あれ、今度は××にいるよ!」。その後も「緊急通話です!」と電話が入る。きっと、家の方の電話も鳴っているのだろう。

ようやくH君から電話が! 5時は過ぎていた。「今から、帰るから」。「今どこにいるの?」。「・・・・・・」電話の向こうでゴニョゴニョと電話が切れた。誰かに連れて行かれたわけではないことということは分かってちょっと安心、と同時にとても腹が立ったYさん。「勝手に校区外に行ったこと」、「約束の時間をやぶったこと」についてH君はYさん夫婦からこってりとお説教となった。後からH君に聞くと屋内の商業施設にいたらしいのだが、電波の調子か何かで、正確な位置が表示されなかったのだろうか、とYさん。ブザーの作動は何かの拍子にストラップが抜けてしまったためで、遊びに夢中なH君は親からの電話にも気がつかなかったのである。

ケータイのメリット、デメリットをよく検討して

"ケータイで子どもの居場所が分かって安心"のはずが逆にケータイに振り回される羽目になってしまったわけだ。Yさんは、再度、親子でケータイについての勉強会を開き使い方を確認した。Yさんは「持たせたから安心ということではない。持つことに対する子ども自身の自覚、持たせることへの親の意識が重要だと学んだ。実際持たせてみると、その台数分、親側の管理が増えることにもなることも実感した」と話す。Yさんが今後検討されている方へのアドバイスとして、親の意識すべき点を挙げてくれた。

持たせるケータイの、機能、使い方を熟知すること
・特に注意事項について確認
・誤作動の時の対処法など

携帯電話をいつも使えるような状態にしておくこと
・子どもが出かける時には、毎回「ケータイ持った?」と聞く
・事前に充電を確認する(いざ出かけるときに気づいて慌てても簡単に充電できない!)
・ストラップや金具部分なども含めて機器の点検をまめにする

子どもたちとの勉強会を行なうこと
・なぜケータイを持つのかの話し合い
・子どもたちと一緒にケータイの使い方を練習する
・どういった時にケータイで連絡するかなど、シチュエーションを想定したルールを決める

Yさんは「もしケータイがなければ、子どもたちは親も知らない間にちょっと自転車で遠出して何食わぬ顔して帰ってきたのかもしれない。自分の昔を考えればちょっと気の毒とも思う。それでも今の世の中の子どもをとりまく犯罪事情を見れば、やはり持たせたいのが親心」と話す。「我が家の子どもたちを見ていると、男の子と女の子で行動パターンは異なるし、低学年と高学年などで説明の理解度も異なる。その辺を考慮しながらそれぞれの使い方や持たせ方を考える必要があると感じた。使い方を決めさえすれば、塾の帰りの連絡用として、また家族で出かけて人ごみで待ち合わせする時など、やはり便利に感じている」。

これはあくまで一例に過ぎない。我が子に持たせるかどうかの判断は、通学時間や手段、子どもの性格なども考慮し、それぞれの家庭でメリットとデメリットの両方を考え、検討すべきである。

巧妙化するチェーンメール、悪質サイトなどの問題。 大人も十分な知識が必要

WEBアンケートでは、「携帯電話を持たせて困っていることは?電話やメールの相手を知っていますか?履歴などは気にしていますか?」についても尋ねた。親たちの心配事項としては、「子どもの料金に対する価値観」、「出会い系サイト、ワンクリック詐欺など」、「遊び感覚で使われるのではないか」、「落としたり、失くしたり(個人情報の心配)」などが上げられた。ルール決めについては「使いすぎ禁止、食事時の使用禁止」、「履歴チェックを一緒に」、「通話、発信制限」、「料金制限」、「着うた、画像のダウンロードは報告すること」など。履歴チェックについては「全く気にしていない」、「子どもがかわいそう」とする意見もあった。

身近な中学生たちに使っていて困ったことを尋ねた。「チェーンメール」、「仲良くない子からのメールの返事をどうするか」、「嫌がらせメール」、「勝手にメールアドレスを他の子に教えられた」、「変な画像を送りつけられた」など。チェーンメールや変な画像を送られても、男子は比較的問題視せず、反対に遊び半分で友達に回してしまうという声も多い。

昔から、「このメールを送らないと不幸になる」といった類の不幸の手紙が存在していたが、そのメール版がチェーンメールだ。そんなものは無視すればいいのだが、最近出回っているチェーンメールは手の込んだ悪質なものだ。中学2年生の2人の会話から得たごく最近の実話を紹介する。

CASE2 大人にとってはありえない話でも・・・最新チェーンメール事情

「Mちゃんのところにも来た? オムライスメール」
「うん、どうしようか」
「だいじょうぶだと思うけれど、送っちゃう?」
「怖いよね。でも誰に送る?」

見せてもらった。まず「オムライスを食べたくなったと言う病気の妻の要望を聞くため、夫が卵を買いに行き通り魔に殺された。その敵討ちを打つために暴力団に依頼した」といった前置きとなるストーリーが長々と続く。その後で「犯人を捕まえるために暴力団が流しているチェーンメールなので止めると仕返しにくる。○○さん(15歳)は殺害されました」と続く。最後に携帯電話の機能で、さも個人情報が判ってしまうように思わせる文面を入れ、「このメールを10人に送らないと暴力団の組員が殺す」といった卑劣な脅しで締めくくられている。全部で400文字詰め9枚分相当の文字数である。

それを受け取っただけで気味が悪いといった感じだ。大人が見れば、矛盾のある文章ではあるが、携帯電話の機能やしくみに詳しくなければ、大人でさえこちらの情報が漏れてしまうのかな? と不安になる人もいるだろう。この2人もチェーンメールについては学校からも注意を受けているものの、かなり不安がっていた。

チェーンメールはスクロールを何度も行なって読まなければならないほどの長文のストーリー。子どもたちは、送られてくれば読んでしまうと言う。

チェーンメールはスクロールを何度も行なって読まなければならないほどの長文のストーリー。子どもたちは、送られてくれば読んでしまうと言う。

「ここに書いてあるような事件があれば、大きなニュースになっている。この場合は絶対、受け取った人の情報は登録されないからだいじょうぶ。とにかく無視すること」としくみなども含めて説明するとやっと安心したようだった。それにしてもこの長いメールを受信するにも通信料がかかっているのだ。「お母さんには相談しないの?」と聞くと「しないなあ」と二人。また、親の方からもこういった問題に対して問いかけることはないという。

ただ不安がるだけではダメ

他の子たちにも実際に受信したことのある画像を見せてもらうとアダルト系や殺人サイトなどのかなり悪質なものも見られた。自分が持たなくとも友達のケータイで、こうしたサイトを見たことがあるという話もでた。「出会い系サイト」や「ワンクリック詐欺」などはパソコンよりもケータイ上での問題が頻繁化している。これらの問題は深刻であり、難しい。

携帯電話を持たせた親たち数人に尋ねたところ、料金設定や通話制限などは行なっていても携帯電話からのネットへのアクセス制限の利用はなかった。そのサービスについて知らない人もいた。携帯電話やインターネットの細かい機能に苦手意識を持つ人も多く、不安はあるが、何をどう教えていいか分からないとも言う。しかし、まずは「親が子どもの行動を真に気にかけているか?」である。子どもたちが誰とどんな話をしているのか。どんな風に使っているのか。どんな問題が起こっているのか。子どもへの問いかけ、保護者会での提案、普段の親同士の情報交換や勉強会などの試みで解決できることも多いのではないだろうか。こうした情報や対応策を提供するサイトもある。携帯電話を持たせることに不安がるだけではなく、教育現場や家庭においてできる取り組みから始めていただきたいと思う。

ケータイと上手につきあうための情報提供サイト
<子ども(小学生)と一緒にケータイについて学ぶことのできるサイト>
「キッズ・パトロール(警視庁)」- "携帯電話メール編"

<子ども向け携帯電話比較サイト>
『子供ケータイ』徹底チェック!(All about内子どもと遊ぶ・学ぶ)

中高生向け、保護者向けの情報提供サイト
「あぶない出会い系サイト~その手口を知り、危険を避けるために(警視庁)」
「モバイル社会研究所(株式会社NTTドコモ)」
「子どもたちとモバイル社会を考える」では、有識者のコメントや、さまざまな事例・報告が掲載されている。「子ども会議室」には、ネットワークに潜む危険を疑似的に体験ができる「ケータイサイト」も。

ITジャーナリスト/遠竹智寿子

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