2006.03.14
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子どもとゲームの付き合いを考える

学力低下や進学など、小中学生の子どもを持つ親にとって悩みの種は尽きない。そうした悩みの種のうち、現代の親が避けて通れないもののひとつが「ゲーム」だ。子どもにねだられて買ったのはいいが、暇を見てはゲームをしたがる、一度始めるとなかなかやめない、というのは、どこの家庭でも経験していることではないだろうか。今回はこの、ゲームと子どもの付き合いについて考えてみたい。

ゲーム機やソフトの数は?

 今回、子どもとゲームの付き合いについて現状を知るため、オンラインでアンケートを実施した。質問は、「お子さんは週に何時間くらいゲームをしますか? ゲーム機、ソフトを何点ぐらい持っていますか? ゲームについて、家庭でどんなルールを設けていますか? ゲームに関して、子どもとけんかをしたことがありますか? ゲームのいい点、悪い点はどのようなことだと思いますか? そのほか、子どもとゲームの付き合いについて、感じていることがあったら教えてください」というもので、ただちに100件を超える回答が寄せられた。まずはこのアンケート結果について紹介したい。

 ちなみに、私事で恐縮だがうちには中2と小1の男の子がいる。もしこのアンケートに答えるとしたら、「週1時間(建前)。ゲーム機3台(パソコンを含む)、ソフトは10ぐらい。やっていいのは火曜と土曜日に30分だけ(ただし守られないことが多い)。時間を守らないので親とけんかすることは日常茶飯事。いい点は兄弟仲よく遊ぶこと。悪い点は白熱しすぎて騒がしいこと。日常会話でもゲームの用語ばかり出てくること」となると思う。

 アンケートではまず、所有しているゲーム機の数(パソコンも含む)、ソフト数について尋ねた。ゲーム機の数は最低0(所有していない)から最高が11台(小学校3年、5年男子)で、平均すると2.9台となった。ただし、回答中の「携帯ゲーム機」がどこまでのものを指すのか不明なので、「たまごっち」などが含まれている可能性もある。
 ソフト数は最低0から最高が100(小学校5年男子、3人兄弟)、100以上(3人姉弟)、また「パソコンのゲームのみだが数え切れないくらい」(小学5年女子)という回答もあった。ソフトの数は平均すると16.1となった。ゲーム機の世界は進化が速いので、ゲーム機平均3台にソフト16というのはそれほど多い数ではないと思われる。

 1日の平均ゲーム時間(週の時間を1日平均に換算)では、最低0時間から最大は4時間半(小学4年男子)、平均すると0.94時間で、ほぼ1日1時間という結果になった。これは「1日1時間まで」というルールを設けている家庭が多いことからもうなずける結果だ。ただし、休みの日には3時間程度という回答もいくつか見られた。また、「お正月など平気で5時間くらいやって注意も聞かない」(小学校4年男子)という回答もあった。いずれにせよ、ほおっておけばいつまでもゲームをしてしまうのは、子どもなら仕方のないことかもしれない。そのため、後で出てくるようにほとんどの家庭でルールを設けている。

 ただ、ここでひとつ興味深いのは、ゲームに対する興味で男女の差があるように思われること。「あまり熱中せず、休みの日にするくらいなので、ルールも口論もありません」(中学生女子)、「女の子のせいかゲームに興味がないので買っていません」(小学生女子)、という回答が寄せられた一方、男子で興味がない、あまり熱中しない、という回答はなかった。

1日1時間が標準?

 次に、「家庭でどんなルールを設けていますか?」という質問に対する回答は、大きくふたつにまとめられる。ひとつは「宿題や翌日の用意をしてから」というもので、30件の回答があった。もうひとつは1回当たりの時間を制限するもので「1日1時間まで」という回答が多かった(18件)。時間に関しては1日30分、週1回1時間、土日のみ2、3時間、などバリエーションがあり、中には「1回40分以内で、半分の時間を筋トレに充てる」(小学校3年生)というものもあった。これは、ゲームのしすぎによる体力低下を心配してのものだと思われる。また、「部屋を明るくする」「近づきすぎない」などは視力低下を心配しての配慮だろう。さらに、「ポイント制で、勉強したら1点、習いごとで1点、3点貯まったらゲーム30分、時間を守らないと減点」(小学3年男子)というものもあった。

 ルールではないが、子どもが遊ぶゲームの種類について「あまり暴力的なものはやらせたくないです」(小学校2、4年男子)、「ソフト購入時は話し合って買っています」(小学校3年)、「野蛮なゲームは買わないよう気をつけています」(中学校)など、ゲームの内容にも注意を払っていることがうかがえる。これは、最近増えている凶悪な少年犯罪の遠因がゲームにある、と考えてのことだろう。確かに、人間をバリバリ銃で撃ち殺すようなゲームが子どもにいい影響を与えるとは思えない。このあたりの点については、神奈川、埼玉県で一部ソフトを有害指定しているほか、業界でも年齢にしたがって販売禁止にするなどの自主規制を進めている。今後も、本やビデオ、DVDと同じような規制が求められるだろう。

意外にあるゲームの利点

 さて、質問を出した側として意外だったのが、「ゲームのいい点」に対しての回答だった。「いい点はひとつもなし」や「いい点はなく悪い点ばかり」という当然予想された回答も多かったが、ゲームの利点を挙げた回答がいくつもあった。

 まずその代表的な回答は、「友だちと遊べる」「友だちと共通の話題がもてる」というもので、どちらも多数寄せられた。このあたりは利点であるとともに、ゲームがないと友だち付き合いができない、という現代の子どもが置かれた状況を反映している。「男の子はゲームを中心に友だちの輪が広がる。娘にとっては友だちの接待用みたいな感じです」(中学校1年男子、小学校4年女子)というコメントを読むと、ここでも男女間でゲームに対する態度が微妙に違っていることを伺わせる。また「親子で遊べる」という回答も多い。これについては、親がゲームをするかどうかで反応が分かれるところだろう。そのほか「暇つぶしになる」「気分転換になる」という意見も多い。

 さらに、もっと積極的にゲームの利点を評価する意見も少なからずあった。いくつか挙げると、「ゲームをやるようになって、頭の回転が速くなっているのがわかる」(小学校5年女子)、「未知の世界が体験できる」(小学校1年)、「ゲームから学ぶこともたくさんある」(小学校1年)、「練習すれば達成できることを知る」(小学校5年女子)、「脳を鍛えるゲームもある」(中学校)、「漢字や言葉の意味を早く覚えた」(中学校男子)、「歴史物のゲームをすると時代背景や人物名を覚える」(中学生)などだ。確かにゲームを攻略するには、思考力や推理力、判断力、反射神経などが要求されるから、それらの能力が向上することは予想できる。

 反対に、「悪い点」では圧倒的に「視力が低下する」が多く、60%以上の親が欠点として挙げている。実際、視力低下はかなりの心配事項らしく、「メガネをかけたのでゲームは一切禁止にした」(小学校6年女子)、「視力が低下したら即禁止にする」(小学校3、5年男子)、といった徹底した回答もある。次いで多いのが「熱中しすぎる」「時間が守れない」だ。さらに「姿勢が悪くなる」「体力が低下する」「外で遊ばない」などと続いている。親子で口論になるのも、こうしたゲームの欠点が原因となっていることがほとんどだ。

 精神的な面では、「他人との交流やコミュニケーションが苦手にならないか心配」(小学校1年)、「バーチャルな世界に浸って、友だちとのかかわりをきちんとできるか心配です」(小学校1年)、「ゲームを現実と錯覚しなければいいと思う」(中学生)、「何でもリセットできると思わないでほしい」(学年不明)、など、ゲームにのめり込みすぎて、現実社会での対応を心配する声が多い。また、「ゲーム脳にならないか心配」という回答もいくつかあった。(「ゲーム脳」という言葉は一時期もてはやされたが、現在では根拠を疑問視する意見も見られる)

勉強ができるようになるゲームソフトがあったら

 このような欠点や利点から、質問では問わなかったが、「ゲーム感覚で勉強できるソフトがあったらうれしい」「疲れたときに目をいやすことのできる画面があったらと思います」のような回答もあった。勉強もしないでゲームにばかり熱中している子どもを見ている親としては、当然の欲求だろう。ゲームに夢中になるように子どもが勉強に熱中したら、親としては願ってもない。実際、こうした要求に応えるように勉強になるゲーム形式のソフトはいくつも出されている。ただし、こうしたソフトで、商業的にゲームほど成功したものは数少ない。

 どうしてなのかその理由は定かではないが、こうした「勉強になるソフト」は、実際にやってみてゲームほどおもしろくない。子どもにプレイさせてみても、子どもは結果が欲しいだけなので、そのための手段として勉強するよりは、答えを直接大人に聞いてしまう。ただし、ゲームを作る側は子どもを夢中にするためのノウハウを熟知しているから、本気になって勉強になるソフトを作れば純粋なゲームに負けないものが作れるのかもしれない。最近、大人向けに「脳を鍛える」ソフトの販売が好調なことから、今後は状況が変わっていくことも大いに期待できる。

娯楽として付き合うことが必要

 科学技術の進歩に伴って、子どもを取り巻く娯楽もものすごいスピードで進化を続けている。そもそも、今の親が子どもだった時代、ゲームセンターにしかないような(あるいはもっとすごい)ゲームが家庭に進出してくるなど、予想できただろうか。

 以前、当サイト記事「子どもたちが考える「TVゲーム」との付き合い方~千葉市立弁天小学校教育
で紹介したように、子どもを取り巻く娯楽は本、マンガ、アニメ、映画、テレビと進化してきた(「エンターブレイン」社長)。進化とともに刺激が強くなれば、子どもたちがその虜となってしまうのは当然の結果だ。ゲームメーカーにとって子どもをゲームにはまらせることなど、文字通り赤子の手をひねるようにたやすい。

 たぶん重要なのは、「ゲームはあくまで娯楽」ということではないだろうか。つまり、生活にとってある程度必要なものかもしれないが、あくまで生活全体の中では「従」の立場にある、ということだ。大人にも読書や映画、テレビといった娯楽が必要なように、子どもにも娯楽は必要だ。ただし、娯楽はあくまで「従」の立場だから、それにのめり込んで「主」(例えば子どもなら勉強)の立場を脅かすようになってしまっては、単なる「娯楽」としては行き過ぎている。ゲームは子どもがのめり込みやすい娯楽である以上、親が子どもとよく話し合ってルールなり制限なりを設けることはどうしても必要だろう。

 また、ゲームが子どもに与える影響については、各方面で研究が進められている。テーマが「脳」という未知の領域に関わるものだけに難しいが、暴力的なゲームをしているうちに暴力を是認する傾向が子どもに現れる(東京大学ゲーム研究プロジェクト)、などの結果が報告されている。今後研究が進めば、校内暴力や引きこもり、凶悪犯罪などとの因果関係が明らかになってくるかもしれない。保護者としては、このような研究結果の動向に注意し、子どもが「娯楽」から誤った方向に向かわないように気を配っていく必要があるだろう。

文:堀内一秀

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