2005.12.13
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子ども、教師、保護者たちは教育改革をどう見ている? ~文部科学省「義務教育に関する意識調査」結果を読む~

平成17年11月、文部科学省は平成17年3から4月に実施した「義務教育に関する意識調査」結果を発表した。9月に速報が出ているので、ご覧になった方も多いだろう。これは、小・中学生、保護者、教員、教育長など7種類の立場の人約36,000人を対象としたもので、それぞれの立場からの義務教育に対する意識が浮き彫りにされている。特徴的な部分を抜き出して、義務教育の問題点を概観してみよう。

調査の概要

義務教育に関する意識調査」結果について、は文部科学省のホームページからダウンロードすることができる。

 調査の対象は約36,000人で、小学生(4~6年生)、中学生、保護者(小1~中3)、学校評議員(小・中学校)、教員(小中の校長・教頭・教員)、教育長(都道府県・市区町村)、首長(都道府県・市区町村)を対象に7種類の調査が実施された。

 対象によって調査内容が微妙に異なるが、共通な項目も多く、各立場の違いが鮮明に表れる結果となった。以下、主だった項目について、特徴的な数字を拾いながら義務教育についての立場別の意識を見ていきたい。

学校教育に何を求めているか

 まず、「学校教育に何を求めているか」という問いへの答えについて。これについては、小・中学生とそれ以外の保護者、教員、教育長などの大人ではっきり結果が別れた。小・中学生側は1位が「よいことと悪いことを区別する力」(小学生74.1%、中学生64.7%)で、2位が「まわりの人と仲よくつきあう力」。これに対して大人側では、1位はダントツで「教科の基礎的な学力」(小学生保護者77.2%、中学校担任88%、首長87.8%)となっている。小・中学生と大人で調査方法が違うことは考慮しなければならないが、それにしても、「あくまで勉強重視の大人」と「社会性重視の子ども」の姿が浮かび上がり興味深い。

「授業中の態度、授業に関する意識」では、予想通り、小学生に比べて中学生のほうが「授業を楽しいと思う」割合が減り、逆に「授業の内容が難しすぎると思う」「授業の進み方が速すぎて、内容がわからない」の割合が増えている。

「勉強をする理由」を見ると、「新しいことを知るのが楽しいから」が小学生79%に対し中学生は53.3%、「勉強しないと家の人に怒られるから」が小学生36.2%に対し中学生48.4%と、学年が上がるにつれ勉強本来の楽しさが薄れ、親に言われて嫌々、という傾向が増えている。この傾向は、高校受験が近づき嫌でも勉強しなければならない、という事情も大きく影響しているだろう。(グラフ1:文部科学省「義務教育に関する意識調査」速報より)

-- グラフ1 --

効果が見えない「総合的な学習の時間」

 次にいろいろな背景が見えてくるのが、「総合的な学習の時間」についてのいくつかの質問に対する答えだ。「総合的な学習の時間」の好き嫌いに関しては、「とても好き」と「まあ好き」を合わせると小学生60%、中学生46.2%でいずれも嫌いを大きく上回っている。全学年を通していちばん好きなのは「体育、保健体育」だが、全般的な傾向として、学年が上がるにつれて「とても好き」と「まあ好き」を合わせた数字が下がっている。おもしろいのが社会で、わずかではあるが学年が上がるにつれて人気が高くなっている。小学生の段階では余りよくわからなかった社会の仕組みが、学年が上がるにつれてだんだんわかるようになり、興味が増した、ということなのだろう。(グラフ2:文部科学省「義務教育に関する意識調査」速報より)
-- グラフ2 --

 どうして「総合的な学習の時間」が好きなのかについては、いちばんの理由は「ふだん体験できないようなことが体験できる」(小学生77.8%、中学生72.1%)。「学校の勉強がふだんの自分の生活や将来の進路にも関係があるとわかる」(小学生76.4%、中学生69.6%)などは、総合的な学習の時間がいい影響を与えていると評価できる。ただその一方で、「国語や算数など教科の授業をやった方がよい」(小学生49.8%、中学生34.9%)、「自分の興味・関心のある内容とは異なることが多い」(小学生46.9%、中学生54.3%)という否定的な回答も少なくない。また、「自分で考えなければいけないので、何を調べたり勉強したりしてよいかわからない」(小学生34.4%、中学生49.3%)という回答も気になるところだ。日頃から、自分で調べたり、学習の進め方を自分で考えたりする経験が不足している、教師の適切な指導がなされていないなどの問題が潜んでいそうだ。

大人による「総合的な学習の時間」に対する評価も、立場によってばらつきがある。保護者を見てみると、「とてもよい」「まあよい」を合わせると小学生保護者73.2%、中学生保護者62.9%で保護者の評価は高い。一方現場の教師の評価は、全体で52.5%(とてもよい+まあよい)だが、中学校担任になると43.5%と評価は低くなる。さらに付け加えると、学校評議員は75%、教育長は80.9%と高い評価を与えていて、「総合的な学習の時間」は、教育の現場から離れるほど評価が高い、と見るのは意地の悪い見方だろうか。(グラフ3:文部科学省「義務教育に関する意識調査」速報より)

-- グラフ3 --

 また、「総合的な学習の時間」を子どもがどのようにとらえているか、保護者と教員とでは見方が違うようだ。大人から見て子どもが「総合的な学習の時間を楽しみにしている」と答えたのは、保護者で45.2%(小学生)、21.9%(中学生)だが、同じ質問に対し教員は70.7%(小学生)、38.3%(中学生)となっている。これは、実際に毎日子どもと接し、直接反応を見ている教師のほうが評価が高くなったと考えられる。また、保護者の評価が教師より辛くなっているのは、マスコミによる、総合的な学習に対する批判的な報道も無縁とは言えないだろう。

 「総合的な学習の時間による子どもの変化」については、保護者では、「今のところ、余り変化は見られない」が最も多く60%以上、以下、「総合的な学習の時間の内容などを家で話すようになった」、「総合的な学習の時間を楽しみにしている」と続く。
教員では、小中で意見が分かれている。小学校では、「総合的な学習の時間を楽しみにしている」が最も多く70.7%、次いで「今のところ、余り変化は見られない」46.3%となっている。中学校では1位2位が逆転し、「今のところ、余り変化は見られない」が66.4%、次いで「総合的な学習の時間を楽しみにしている」38.3%となっている。
中学校での評価がやや低くなってはいるが、全体的に見て、否定的な評価、好意的な評価いずれも高い割合を占めており、一概に「良い」「悪い」とは言い切れない。(グラフ4:文部科学省「義務教育に関する意識調査」速報より)

-- グラフ4 --
今後のあり方については、保護者・教員とも、「もっと充実すべき」より、「なくした方がよい」「もっと国語や算数・数学などの教科の学習を重視すべき」などの意見が、「このままでよい」と答えた割合を大きく上回っている。
これらの結果からすると、「総合的な学習の時間」を残すにしても、現状のままではなく、本格的な見直しが必要と言っていいだろう。

学校外での生活

 学校以外での生活については、就寝時間や朝食、学習時間などについて調査が行われた。就寝時間については当然ながら、学年が上になるほど遅くなっている。24時以降に就寝する生徒の割合は、中2で半数以上、中3では6割以上となっている。

 気になったのは朝食についての調査結果。「週に1~2日食べない日がある」が、小学生で8.5%、中学生で9.9%いる。さらに朝食を「親と一緒に」取る割合は、小学生で46.4%、中学生では32%しかいない。そのほかは「子どもだけで(兄弟と一緒)」「自分ひとりで」で、寂しい朝食の姿が浮かび上がってくる。その理由については調査項目に入っていないが、中学生で親と一緒に朝食を取る子どもが3分の1しかいないのは何とも寂しい限りだ。

 通塾状況では、小学生で35.6%(4年生)、36.3%(5年生)、38.9%(6年生)と3分の1強の子どもが塾に通っている。学年による数字の変化が少ないことから、中学受験を目指す子どもの多くは4年生の時期から塾に通い始めているとわかる。一方中学生では47%(1年生)、57.1%(2年生)、45.6%(3年生)で、ほぼ半数の生徒が塾に通っている。3年生の数字が低いのは、調査時期が3月中旬~下旬であったためと考えられる。大まかにいって、小学生の約3分の1、中学生の約半数が塾に通っている。

教員が反対する教育改革

 教育改革の方策についてどのように考えているか、を問う調査結果は興味深い。全体として、教育改革の案として出されているもののほとんどすべてについて、教員の「賛成」がほかの立場に比べていちばん少なく、「反対」が多い、という結果が出ている。
 いくつか例を見てみよう。「習熟度別の授業を増やす」については、「賛成」と「まあ賛成」を合わせると、保護者が57.7%、教育長が最も高く75.3%だが、教員は54.7%にとどまる。「年間の授業時間を増やす」については、保護者67%に対し教員は36.3%、「教科書に盛り込む内容を増やす」については、保護者54.3%に対し教員は40.8%、「放課後や土曜日、夏休みなどに補習授業を行う」に至っては保護者61.4%に対し教員の賛成は13.8%しかない。「小学校から英語活動を必修にする」は保護者66.8%に対し教員29.3%。これらの数字を見る限り、教育についてより高いサービスを求める保護者と、それを歓迎しない教員という図式が浮かんでくる。

しかし、だからといって、教員は力を惜しんで楽をしようとしている、との判断は性急である。「教員の勤務の状況」という調査を見てみよう。一般教員の6割強が職務について「常に忙しい」と答えている。何が多忙感を募らせているのだろうか。教員が「勤務について感じること」を聞いた結果を見てみると、小・中とも「一人ひとりに応じた学習指導が以前よりも求められるようになった」が第1位、次いで「授業の工夫が以前よりも求められるようになった」で、どちらも「とても感じる」「まあ感じる」合わせて9割を超えている。また、「作成しなければならない事務関係の書類が増えた」と「児童生徒の学習評価に費やす時間が増えた」も7、8割おり、教員の忙しさを印象づける。(グラフ5:文部科学省「義務教育に関する意識調査」速報より)

-- グラフ5 --

評価に対して否定的な教員

 「学校評価や教員等に関する改革についての考え方」という質問群に対する答えを見てみよう。ここでも、教員は改革に対し否定的な意見が多いようだ。「保護者や地域住民が学校や教員を評価する」「第三者が学校を評価する」「全国学力テストを実施する」「教員免許の更新制を導入する」「社会人経験のある教員を増やす」などの問いに対して、教員の「賛成」はほかの保護者、教育長などに比べてはるかに少ない。現場をよく知らない保護者や地域住民から評価をされたり、全国テストで自分の指導力が白日のもとにさらされる制度の導入が受け入れがたいのはわからなくもない。しかし、「優れた実践を行った教員を優遇する制度を導入する」対しても賛成が少ないのはどういうことだろうか。自分に自信があれば、きちんと評価をしてもらって高い対価を得るほうがいい、と考える教師がもっといてもいいのではないだろうか。

 以上、文部科学省の行った調査について、ざっと見てみたが、今回取り上げられなかったデータも多数ある。ぜひ、興味のある方は、文部科学省のホームページで全文をご覧いただきたい。
 今回の調査結果を見て、義務教育を受けている子どもの親として残念に思ったのは、教育改革に対する教員の否定的な態度だ。このところ、文部科学省の方針が二転三転し、教員たちが改革に対して不信感を抱くのもわからなくもないが、企業も生き残りのために、否応なく変革が迫られている時代である。教員たちも、それがよりよい教育につながるのであれば、改革に対してもう少し前向きな態度を示してはいただけないものか。

いずれにせよ、文部科学省が、このような大規模な意識調査を行ったことは評価に値するのではないだろうか。保護者や現場の教師たち、子どもたちの意見が、今後どのような形で教育改革に反映されるのか。これからも注目していきたいと思う。

文:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka

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