2005.10.11
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アスベスト問題を考える

最近、学校に限らず一般社会で問題になっているアスベストに関して調べてみた。そもそも、アスベストとは何なのか? アスベスト(石綿)のなにが問題なのか? なぜ今になって問題となっているのか?

■アスベストとはなにか?

ある年齢以上の人は、理科の実験の時、ビーカーを「石綿金網」の上に載せて、下からアルコールランプで熱した経験があるだろう。この「石綿金網」の「石綿」がアスベストである(現在は石綿ではなく、セラミックになっている)。

アスベスト(石綿)は、漢字の表記からもわかるように繊維性鉱物の総称で、主に角閃石系のものと蛇門石系の2種類に分かれる。特徴は、鉱物ではあるものの細かい繊維の集合で、世界保健機構(WHO)では、長さが5μm以上、幅が3μm以下で、長さと幅の比が3対1以下のもの、と定義している。実際の大きさは、長さが数μmから数十μm、幅が0.02~0.03μmとなっている。実際にアスベストを見ると繊維が絡まっているように見えるが、これはミクロン単位の細い繊維が縒り合わさっているものだと思っていいだろう。

原料が石であるにも関わらず、繊維が細く綿のように扱えることがアスベストの最大の特徴だ。この形状のため、吸音や吸着性に優れて強度も高く、耐熱性、電気絶縁性にも優れている上加工しやすい。鉱物の性質と扱いやすさを併せ持つアスベストは、その特性のため、いろいろな分野で断熱材や吸音材として多用された。

しかしこの、目に見えないほど細い繊維の集まり、というアスベストの特性は、逆に欠点にもなった。つまり、繊維が細いために建築物の解体時などに飛散しやすい、ということだ。だから、アスベストの断熱材や吸音材を使った建物を、何の予防策も講じずに解体すれば、使われていたアスベストは細かい繊維に分解して空気中を漂うことになる。

アスベストが空気中に飛散するとどうなるか? アスベストの繊維はミクロン以下の大きさなので、飛散したアスベストは空気中に漂い、呼吸によって人間の肺に入り込む。アスベストは、いわば細い鉱物の繊維なので、痰に混じって体外に出ることはあっても、なくなることはない。そのため、アスベストを吸った人間の健康に悪影響を与えることになる。

■アスベストを吸うとどうなるのか?

では具体的に、飛散したアスベストを大量に吸うとどうなるのか。アスベストの吸入で起こる病気としては、石綿肺、石綿肺ガン、悪性中皮腫などが知られている。これらの病気で特徴的なのは潜伏期が非常に長く、最初にアスベストを吸入してから平均して40年前後たってから発病することだ。そのため、アスベストを吸入して20年たって検査をしても何の異常も見つからなかったのに、その後発病する、ということもありえる。

また、石綿肺(じん肺の一種)は10年以上アスベストの飛散している職場などで仕事をしなければ発病しないのに対し、石綿肺がんや悪性中皮腫は低濃度・短期間の吸入でも発病するといわれている。

悪性中皮腫という病名はあまり聞き慣れない名前で、今回のアスベスト騒ぎで初めて耳にした方も多いだろう。実際、悪性中皮腫と診断された人の多くも、その病名がなにを意味するのかわからない人が多かった。人の体は、発生時に上皮、中皮、内皮に分かれる時期があって、上皮は皮膚や呼吸器、中皮は胸膜や腹膜、内皮は血管や筋肉になる。上皮からできた部分の疾患が皮膚ガンや胃ガンで、中皮の疾患が悪性中皮腫になる。

アスベストの怖さとは、たとえ飛散しても目に見えることなく知らないうちに肺の中にたまってしまい、長い潜伏期を経て発症したときにはほとんど手遅れになっている、という点にある。

■なぜ学校のアスベストが今頃騒がれているのか?

アスベストが健康に障害をもたらすことは、20世紀の初めから報告されている。日本でも、アスベストの危険性が社会的な問題として何度か取り上げられている。1987年には吹きつけアスベストの危険が大きく報道され、文部省(当時)は全国的な実態調査を実施し、撤去に対して補助金を出すなどの対策を行った。ところがこの際、文部省が配布した「吹きつけ石綿の判定方法」の中で、15製品を対象から除外するように指示した。しかしこのうち10製品には1980年頃まで5%程度のアスベストが使われており、その後もこの10製品に対しては撤去などの指導はなされなかった。

今回のアスベスト騒ぎで文部科学省は当初、「学校内の対策はおおむね完了」としてきたが、読売新聞などの調査では全国500校以上でアスベストの使用が確認された。こうしたことから文部科学省では今年7月末から11月15日にかけて全国の学校を対象にアスベスト使用の実態調査を行い、11月末を目処に発表することにしている。

そして現在までに、全国の学校でアスベストの使用が判明し、教室を使用禁止にしたり、学校を閉鎖する、などの例が出てきている。

現にいくつかの学校ではアスベストを使用していることから、アスベストの影響を軽く見ることは危険かもしれないが、なにかさわっただけですぐ死んでしまうような毒物扱いするのは過剰反応だろう。アスベストの性質とそれによって引き起こされる病気のところで見たように、建物にアスベストが使われているだけでは直接害はない。それが劣化してきたり、解体するときに適切な処置を講じない場合のみ空気中に飛散し、肺の中に入り込み、病気を引き起こす。こうした基本的な性質をしっかりおさえた上で、文部科学省の調査がどのような結果を出すのか冷静に見守っていたい。

文:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka

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