2005.04.12
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

中高生にしのび寄るドラッグの悲劇 薬物依存とどううつきあっていくか

覚醒剤に代表される麻薬というと、昔は一部の人たちだけが使うもので、中学生や高校生にはほとんど縁のないものだった。しかし、日本における覚醒剤の歴史を見てみると何度か大きな山があり、最近では中学生や高校生が使用したり、さらには売人になっているケースが見られるようになってきた。こうしたことから、広い意味での薬物依存について調べたのだが、調べれば調べるほど、予想していた以上に問題が深刻なことがわかってきた。

薬物依存について語ろうとすれば、通常のこのスペースでは全く不可能なことを十分承知の上、是非知ってもらいたいことのダイジェストをお伝えしたい。

■無視できない数の薬物依存者

警察庁発表の『警察白書』を見ると、薬物犯罪のここ数年の動きを知ることができる。細かい数字は『警察白書』を見ていただくとして、
おおまかな特徴を挙げると次のようになる。

ではその中で中高生が関わっている割合だが、覚醒剤に限って検挙者数を見てみると、平成8、9年あたりをピークに減少傾向にある。
http://www.dapc.or.jp/data/kaku/6.htm
しかし、ここに表れているのはあくまで検挙者数なので、使用者数ではないことに注意をする必要がある。

実際、高校生の薬物使用に関しては、全国平均で覚醒剤が0.24%、大麻が0.64%という数字がある。これは全国平均の話で、神奈川県教育庁の調査によれば神奈川県では覚醒剤の使用が1.8%、大麻3.4%という数字が出ている。覚醒剤の使用が1.8%ということは、1クラス30人とすると、神奈川県では2クラスに一人は覚醒剤使用者がいるということだ。この数字はけっして小さくない。また、覚醒剤に関しては女子のほうが男子より使用率が高いこともわかっている。

■アルコールやニコチンも依存性薬物

生徒や教師や保護者は、このような薬物に対してどのように行動したらいいのだろうか? それを説明する前に、まずは「薬物依存」というものを理解しておきたい。

合法、非合法を問わず、人間の精神に影響を与える薬物は多い。薬物の種類によって効果は様々だが、これらの薬物を使用すると、精神的・肉体的に「もう一度使用したい」と思うようになる。こうして薬物の使用を続けていくと、自分一人の力では、薬物の使用をやめられなくなってしまう。これが「薬物依存」だ。依存を起こす薬物には、日本では合法となっているニコチンやアルコールも含まれている。大人には耳の痛い話かもしれないが、「タバコをやめられない」「酒をやめられない」は立派な薬物依存なのだ。

さらに重要なのは、「薬物依存は病気である」ということ。よく「依存症は精神力の弱いやつがなるものだ」という人がいるけれど、これは間違っている。薬物依存は病気なので誰もがかかる可能性があるし、病気なので適切な処置を施せば治療も可能なのだ。

そして依存症のたちの悪いところは、生涯治療が必要な病気でもある、という点だ。たとえばアルコール依存で体をこわした人が断酒できたとしても、それで完全に依存症から抜け出せたわけではない。ほんのちょっとしたきっかけで飲んだビールの一杯から、元の依存症に逆戻りすることも十分にあり得る。こうした意味から、依存症にかかった人は、生涯にわたって治療を続ける必要がある。

さらに付け加えると、薬物依存が進むとその人の人生はだんだんその薬物を中心に回るようになる。例を挙げると、ある生徒の人生における優先順位が生命、食事、家族、友人、学校、趣味、だったとしよう。薬物、たとえば覚醒剤を使い始めた時点では、薬物は趣味と並ぶ程度の優先順位だったかもしれない。しかし時間が経つにつれ、学校よりは薬物、友人よりは薬物、家族よりは薬物、食事よりは薬物、と優先順位が上がっていく。そして最後には、「生命よりも薬物」といった状態になる。昔「覚醒剤やめますか、人間やめますか」という覚醒剤防止のコピーがあったが、依存の進んでしまった人にとっては、「覚醒剤やめるくらいなら人間やめる」となってしまうのだ。

■予防よりも再発防止

依存症がどういうものかわかったところで、次にこの依存症にどのようにつきあえばいいのかを考えてみたい。とはいえここは問題が問題なので、その道の専門家にお話を伺うことにした。

近藤さんは、青少年の薬物依存について、まず次のような危険性を指摘した。
「薬物依存の治療をやっていると、順調に回復していく人間と、なかなか回復できないで元に戻ってしまう人間がいる。その違いは何かというと、どの年齢で薬物依存が始まったのか、という点。少年期にクスリに手を出した人間は、なかなか依存から回復することができない。だから、少年期に依存にならないようにすることが大切なのです」。

ただし、予防にいくら力を入れても、それだけで問題は解決しない、とも。
「こういったら変だけれど、いくら子供がクスリに手を出さないように親や教師が努力したとしても、クスリに手を出す子はいつかはやるし、手を出さない子はやらない。だから、予防が無駄だとはいわないが、クスリに手を出してしまった子にどう対処していくか、ということの方がずっと大切です。ところが日本では予防には力を入れるけれど、依存症にかかってしまった人の面倒を見る組織や施設がない。子供の将来を考えたら、国ももっと後の面倒を見るべきだと思う」。

薬物依存にかかりやすい子供については、「学校でいじめられたり、心に痛みを持った子供が多い。その痛みを表現する方法がわからず、痛みを解決するためにクスリに手を出す。そして優しい子供が多いから、人からすすめられたときに『ノー!』ということができない。でも、心の痛みを解決するのは教師の役目ではないか。それを痛みからの逃避として片づけてしまっては、何の解決にもならない」。

それでは最近、中高生にまで薬物依存が広がっているのはなぜなのだろうか。「ひとつの理由は、昔に比べて薬物が簡単に手に入る、ということ。試しに、インターネットで検索をしてみればいい。『シャブシャブクラブ。スピード配達します』なんていう情報が簡単に見つかる。そしてもうひとつは、クスリがファッションになっていること。『シャブを打つ』なんていえば青少年はなかなか手を出さないが、『スピードをキメる』というと、何かかっこいいものと誤解してしまう。それに家庭で薬に頼りすぎている。最近は学校でもすぐに保健室に薬をもらいに来る子供が増えていて、子供は薬に頼るのが当然だと考えている」。

■自分で解決できなければ専門家に頼る

では、教師や親は、子供が依存症になった場合にどうすればいいのか。この質問に対する近藤さんの意見はかなり悲観的なものだった。「薬物依存に対して、教師は親ができることはほとんどない。たとえば教師は、薬物を使った気持ちよさとか、やめるための苦しみをまったく知らない。だから生徒が薬物に手を出しても『ダメ』としか言えない。それから教師は、問題を学校の中だけで解決しようとするが、それは無理。問題が起こったら、専門家に任せるのがいちばんいい。自分の力だけでは不十分なら、外に助けを求める必要がある。でも、教師には自分で学ぼうとせず、人の話も聞けない人が多い。本当に子供の将来を考えるなら、どういうネットワークを作れるか考えることが必要で、もしそれが自分にはできないのであれば、どうしたらいいか真剣に考えることだと思う」。

近藤さんの言う、薬物に対して子供が知っておくべきこと、基本的な考え方は次の3点だ。

■気持ちがいいのは初めだけ。あとは使わずにはいられなくなった

続いてダルクで、現在リハビリ中のふたりの若者の話を聞くことができた。どちらの話も実体験を伴っているだけに説得力があり、薬物依存の恐ろしさ、依存から抜け出すための苦労をヒシヒシと感じることができた。長い話なので、ここでは要点だけをお伝えする。

Tさんは高校1年の時、興味本位でシンナーを始め、すぐに大麻と覚醒剤を使い始めた。
「でも、覚醒剤を使って楽しかったのは最初だけで、だんだんオドオドした気分になったりして楽しくなくなってきました。でも、そのころには一人でやめられなくなって、クスリのない毎日は耐えられなかったんです」。

Hさんは中2の時にシンナーを吸ったが、そのときはすぐにやめた。しかし高校進学で親ともめるようになり、そのイライラからまたシンナーに手を出す。定時制の高校に進学するがお金が入ると遊んでしまい学校に行かなくなった。家を追い出され、隣に住んでいたやくざのところで覚醒剤を打たれる。
「『腕出せ!』といわれたときはさすがにビビったけど、打ってもらったらものすごく気持ちよくて思わず『ありがとうございました』といってました。それでシンナーはすぐやめて、覚醒剤を使うようになったんです。初めのうちは打ってもらうだけだったのに、そのうち自分で打つようになり、1日1回がすぐに7、8回になってしまいました」。

その後Hさんは彼女ができ、まともな仕事をするようになって覚醒剤をやめた。しかし結婚して彼女とのけんかが絶えなくなり、彼女が子供を連れて出て行ってしまい、その日のうちにクスリに手を出す。.

「自分の中では家庭、彼女、友達、クスリの順で大切に思っていたのに、いつの間にかクスリの順位が上がって、下から順にいらなくなってしまいました」。

こうしてふたりが入れられたのが精神病院だった。ふたりとも、精神病院に入れば依存症が治ると思っていたという。
「依存症を治す薬とか、ニコチンパッチみたいなものがあって、医者の言うとおり治療を受ければ治ると思っていたんです。でも実際にはそうじゃなかった。鎮静剤を打たれて気持ち悪くなったり、一緒に入院している仲間とも、どこへ行ったらいいブツが手に入るとかそんな話ばかりで、退院しても何も変わっていなかった。一緒にやめようとする仲間がいないと、根本的な解決にはならないんです」。
つまり精神病院では、隔離してクスリを使わさないようにすることはできるが、依存の根本にある「クスリを使いたい」という欲求をコントロールすることに関してはなにひとつしてくれない、ということだ。

■クスリを使わない毎日の積み重ね

こうした紆余曲折を経て、ふたりとも現在はダルクに通っている。ふたりの話を聞いて特に恐ろしいと思ったのは、ふたりとも現在の状態を「止まっている」と表現することだ。依存症に「完治した」という状態はない。ただ、クスリを使わない一日一日を積み重ねていくだけだ。これは逆に、何かきっかけがあればいつまた元に戻るかわからない、ということでもある。依存症には生涯治療が必要というのは、依存症にはこうした特徴があるからだ。

ふたりに、ダルクにいる感想を聞いてみた。
「周りに一緒に頑張ってくれる仲間がいることが、何よりも助けになります。あきらめないで、続けていく、それがいちばん大事だと思います」(T)
「クスリをやめて楽しいかと言えば、けっして楽しくはありません。3年前からクリーンな状態が続いていますが、ここ1年ほど、物事に対して敏感になってきました。たとえば季節の移り変わりなどです。クスリをやっているときは頭の中はクスリのことばかりで、季節にも気がつかなかったんです。やっと人間的な感情が戻ってきました」。(H)

Hは高校などに呼ばれて、自分の体験談を生徒に話すことがある。生徒からは、生の話を聞けてとてもよかったという感想が寄せられるという。そんなときHは必ず最後にこういう。「クスリを使って得られたものは、最終的には何もなかった。その代わり、かけがえのない大切なものをいくつも失ってしまった」と。

薬物依存に関してはネット上にもたくさん情報があるので、詳しく知りたい方は以下の URLを参考にしていただきたい。

薬物乱用に直面する、親と教師のためのページ
(タイトル通り、多方面からの有意義な情報を掲載している)
http://www2u.biglobe.ne.jp/~skomori/


今回お話を伺った近藤さんは、「やるやつはどうせやる」とおっしゃっていたが、実際に体験者の話や近藤さんの話を聞くことは、大きな予防効果があると感じた。実際Hさんなどが学校で話をすると、それまで騒いでいた生徒たちが、物音ひとつ立てず真剣に聞き入る、ということだ。今回の記事をお読みになって、講演をお願いしたいという教育関係者の方は、各地のダルク、あるいは日本ダルク本部に連絡してみてほしい。警察のパンフレットや話よりも生徒たちにインパクトを与えることは間違いない。

文:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop