2004.12.24
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数字で見る教育

今回はいつもとは少し趣向を変えて、最近の教育に関するニュースから、いくつか数字を拾って紹介しよう。これらの数字が今後の教育の動向を正確に示しているかどうかはわからないが、時代の流れを象徴しているものも少なくないだろう。

■小学生の42% 「太陽が地球の周りを回っている」

---国立天文台の縣助教授は全国8都道府県の小学4~6年生を対象に理科の好き嫌いや天文の知識をアンケート調査した。そのうち4道府県の公立小学校4校の生徒、348人に太陽と地球の関係を二社択一で尋ねたところ、「地球は太陽の周りを回っている」と答えた児童は56%で、42%は「太陽が地球の周りを回っている」と答えた。
縣助教授はこの結果について、2002年施行の学習指導要領では地上から見た太陽、月、星の動きの観察しか扱ってない点に問題があると指摘している。

理系離れが叫ばれる昨今だが、この結果が全国的に見て平均的なものだとしたら、かなりショッキングな内容だ。そもそも、地球と太陽のどちらがどちらの周りを回っているかというのは天文の知識でも非常に基礎的な内容で、この問いを半数近くが間違えるとしたら、指摘にもあるとおり、学習指導要領の内容に問題があるといわざるをえないだろう。

理系離れを持ち出すまでもなく、子供に限らず日本人の科学に対する理解は欧米などに比べるとかなり遅れている。文部科学省が2001年に行った、「科学技術に関する意識調査」の中の、日本と欧米15カ国を対象にした科学技術の基礎的な概念に関する理解度を調査によると、日本は15カ国中スペインに次いで13位、10問の平均正答率が、一位のデンマーク64%に対し、50%だったという(ちなみにアメリカは3位で61%、最下位はポルトガルで43%)。

たとえば、「遺伝子とは何か」という最近の科学では欠かせない知識にしても、正確に答えることのできる大人の比率は、欧米などに比べて日本はかなり低いのが実状だ。そのため、遺伝子組み換え食品を食べると、自分の遺伝子が組み替えられるのでは、と起こりえない不安を抱いている日本人も少なくない。

アメリカでは文系の学生でも生物が必修なのに対し、日本では医学部ですら生物の試験を受けなくても入学できる、という制度の問題も大きい。話をもとにもどすと、歴史的に見ても、コペルニクスが「地動説」を言い始める前は「天動説」が常識で、それより前には地球が丸いことさえ知っている人は少なかった。

もし子供が何も知らないで太陽や月や星を眺めていただけだったら、地球が宇宙の中心にあって太陽や月や星が地球の周りを回っていると考えるのはむしろ自然なことだ。子供が実際に体験し、知識として知っていることだけを使って、地球が丸いことや地球が太陽の周りを回っていることを理解させるのはかなり難しい作業だ。

「地動説」が当たり前、と思っている人も、時間があったら説明の方法を考えてみてほしい。自分が信じている「地動説」の根拠が、実はかなりあやふやなことに気がつくだろう。

■498点 1997-98年の日本人のTOEFL平均スコア

---TOEFL (Test of English as Foreign Langeage=第二外国語としての英語のテスト)のスコア。同じ年、中国、韓国の平均点はそれぞれ、560点、522点だった。

ここで重要なのはまず、日本、中国、韓国というのは、英語学習の面で考えてると、自国語と英語の構造が違うため、長時間の学習が必要だと考えられている点。しかし、同じように英語学習が難しい地域にありながら、日本人の英語能力は近隣の中国や韓国よりも低い、ということ。

さらに1987-89年の得点を見てみると、日本485点、中国509点、韓国505点となっている。つまりこの10年間での伸びはそれぞれ日本13点、中国51点、韓国17点となり、伸びだけを取ってみても日本人の英語力が中国や韓国に遅れをとっていることを明瞭に示している。

そこで中国、韓国の英語教育の実状を見てみると、中国の場合「英語ができる=高収入を得られる」ということが大きなモチベーションになっている。中国の人材情報サイトの調査によれば、北京、上海などで働く外国語上級者の平均年収が53378元であるのに対し、中級者は31211元と大きな開きがある。日本のように「受験」という曖昧な目標ではなく、「高収入」という明確な目標が中国の英語力を高めていると言えそうだ。

一方韓国では、1997年に小学校で英語教育が導入され、「会話教育」を中心に授業が進められている。2004年までにはすべてのクラスで英語だけの授業を行うようになっているように、日本に比べて会話能力の育成に力を入れている。こうした英語教育を進める上で能力を持った教師の不足が指摘されてはいるが、国民にもこの教育方針は高く評価されている。

それに対して日本でも、文部科学省が中心になり「英語が使える日本人の育成」のため、教育の改善プランを示している。これらはまだプランの段階だが、これがうまくいけば、大きく水を空けられた中国や韓国に追いつくことも可能かもしれない。

ただし、個人的な感想をいわせてもらうならば、日本人の英語力は低いと長年言われていながらも、外国人臆することなく会話ができ、発音もネイティブに近い若者の数は確実に増えているように感じる。TOEFLのようなテストでは計ることのできない英語力は、実は伸びているのでは、と思うのだが、どうだろうか?

■短大生の35% 留学生以下の国語力

---独立行政法人「メディア教育開発センター」の小野博教授らの調査によると、中学生レベルの国語力しかない学生が国立大で6%、4年制私大で20%、短大では35%にも上ることがわかった。これは留学生の日本語力にも劣るレベルで同教授は、「入学後の日本語のやり直し教育が必要」だと指摘する。

この調査は5年前にも行われており、その時中学生レベルと判定された学生は国立大で0.3%、私立大6.8%、短大18.7%だった。今回の調査ではいずれも倍以上に増えており、大学生の日本語能力の低下に拍車のかかっていることがわかる。

大学生の国語力が低下している理由としては、「少子化のため試験を受ける必要のない大学が増えていること」が挙げられているが、これでは授業に支障をきたすことも心配される。そのかわり、「中学生クラス」と判定されても再教育を受ければ理解力は大きく伸びると言うことなので、これからの大学は新入生に対してまずは国語の授業をすることが必要になりそうだ。

確かに最近の大学生と話をしていると、驚くほど語彙の少ない学生が少なくない。最近効いた笑い話を紹介すると、今の大学生と会話をするにはふたつの語彙だけ覚えておけばいい。それは「マジっすか?」と「ヤバイっすよ」。相手が何を言ってもこのふたつのうちどちらかで受け答えをしておけば自然に会話が進む、とか。

■新入社員の31.3% 「今後フリーターになるかも」

---財団法人社会経済生産性本部と財団法人日本経済青年協議会が平成16年度に入社した新入社員3800人を対象にした調査によると、「今後フリーターになる可能性がある」と回答したのは全体の31.3%だった。また進路を決めるに当たっては、全体の35.5%が「フリーターになってしまうかもしれないと思った」と回答している。

定職に就かないフリーター人口が増えていることは、日本経済停滞の原因のひとつとされている。企業としては安い労働力を気軽に使えるメリットはあるが、フリーター自体スキルが身につくわけでもなく、就職に際してもフリーター歴はほとんど評価されない。

とはいえ、新入社員の3分の1以上が「今後フリーターになる可能性がある」と考える背景には、フリーターを志向する若者が増えている、ということの他に、終身雇用制が崩壊し、会社の業績が悪くなればいつリストラされるかわからない、さらには、会社そのものが存続できなくなる可能性が高い、という社会的要因も無視できない。

同じ調査の企業を選ぶ基準では「自分の能力、個性が生かせるから」がトップで32%、就労意欲については「仕事を通じて人間関係を広げていきたい」が96%もありきわめて健全な回答でもある。子供が仕事を選ぶ際の意識がどうであるかについては、大人も責任の一端を担っていることを自覚しておく必要があると思う。

執筆:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka

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