2004.08.10
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子どもとインターネットの付き合いを考える

佐世保市で起こった小学生による女児殺害事件から、子どもにインターネットをどう使わせるかが、大きな問題となっている。計り知れないメリットもある反面、ひとつ間違えれば容易に犯罪への入り口となる危険性もはらむインターネット。大人たちは子どもをどう導いていけばいいのだろうか。

 6月2日、長崎県佐世保市の大久保小学校で起こった小学生の同級生による女児殺害は、小学生の子どもを持つ親、教師などに大きな衝撃を与えた。殺人事件の低年齢化には今さらながらに驚かされるが、今回はさらに、加害者と被害者がインターネット上でトラブルを起こしていたことが原因と見られ、子どもとインターネットの付き合い方などがいろいろな方面で問題視されている。

 殺害に至った経緯には様々な要因が考えられ、詳細に至っては今後の調査を待つしかないし、「子どもを無防備にインターネットに触れさせたために事件が起こった」式の考え方は短絡的で前向きな対策にはつながらない。しかし、今回の事件を契機として、子どもたちとインターネットの付き合い方を考えてみることはけっしてムダではないだろう。実際、事件後発表されたいくつかの調査を見てみると、「大人の予想以上にインターネットを利用している子どもの姿」と「インターネットに潜む危険を知らず、子どもたちをほとんど野放し状態にしている大人の姿」が見えてくる。

●約2割の子どもがインターネットで、メール・チャット・掲示板を利用

 まず、子どもたちのインターネット利用の実態について、日本PTA全国協議会の調べによれば、小学校5年と中学2年の子どものうち、自宅にパソコンのある子どもは全体の84.8%、さらに自分専用のパソコンを持っている子どもは8.7%となっている。そして約2割の子どもがインターネットで、メール・チャット・掲示板の利用をしていた。この数字から、実際にはかなりの数の小中学生がインターネットを積極的に利用していることがわかる。

 では、保護者はどのくらい子どものインターネット利用の実態を理解しているのか。子どもがインターネットを使う際「一緒にいる」と答えた保護者は約35%で、「内容をチェックする」が約7%となっているが、子どもに同じ質問をすると「一緒にいる」が約14%、「チェックされている」が約3%で親の意識とはかなりのズレがある。ネットに関する知識に関しては小学5年生の保護者の約4分の1、中学2年生の保護者の半数弱が「子どもの方が詳しい」と答えている。

 これらの数字を見てみると、自分が自由に使えるパソコンが身近にあり、保護者は目を光らせているつもりでも、比較的自由にインターネットを使っている子どもたちの姿が浮き彫りになってくる。

 さて、小学校中学校とも学校へのパソコン普及率は増加し、文部科学省も2005年度までにはすべての公立学校で高速インターネット接続実現を目標としている。親が子どもの教育に期待する内容でも、「英語」と「コンピュータ(IT)」は常に並んでトップを占めるように、これからの学校教育でコンピュータやインターネットは避けて通ることができない。

 そこで問題となるのは、子どもをいわば野放し状態でインターネットを使わせていいのか、ということだろう。インターネットの利用には、教育にプラスになる面がたくさんある。どんな調べ物をするにしても情報を提供してくれるサイトには事欠かないし、地方や海外の人ともメールで簡単に連絡を取ることができる。学習プログラムを用意しているサイトもあるので、家にいながら効率的に勉強ができる……などなど。

 このようにプラスの面が多い反面、子どもに悪影響を与える可能性もかなり大きい。ポルノや暴力的な映像や情報を提供するサイト、出会い系のサイトなどをはじめとして、子どもにはアクセスさせたくない情報もすぐ手の届くところにある。サイト閲覧に限ってみれば、インターネットはチャンネルが何億とあるテレビのようなものだ。そしてその内容は、テレビと違って何の規制も受けない。試しに検索サイトで「売春」「ドラッグ」など犯罪に結びつきそうな言葉を適当に入れて検索してみれば、危険なサイトがいくらでもあることがわかるだろう。

 つまり、親の目の届かないところで子どもにインターネットを使わせるのは、こうした無法地帯の入り口に子どもを無防備に立たせていることに等しい。親や教師は、インターネットのこうしたマイナス面をまずよく認識しておくことが必要だろう。インターネットに関する危険や対策ついては、http://www.iajapan.org/rule/rule4child/main.html などを参考にするといい。

●フィルタリングソフトは有効か

 では、どうしたらいいのだろうか? まず、物理的に危ないサイトへのアクセスを遮断してしまう、という方法がある。「フィルタリングソフト」という種類のソフトをインストールすると、アダルト系や暴力系などのカテゴリーに応じて、子どもに見せたくないサイトに接続できないようにすることができる。また、掲示板などへの書き込みを制限できるソフトもある。わざわざソフトを導入しなくても、Internet Exploreなどのブラウザで設定できるものもあるので、まずはそれを試してみたい。また、(財)インターネット協会のサイトには、市販のフィルタリングソフト一覧も載っている。 http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html

 フィルタリングソフトは、事前に登録されたアドレスや、サイトに含まれるキーワードを元に判断して接続を遮断するのだが、完全にすべての危険なサイトを遮断できるとは限らないし、逆に何の害もないサイトへの接続を遮断してしまう可能性もある。また、フィルタリングソフトを使うことは、子どもの判断力を育てる機会を奪ってしまうのではないか、という指摘もある。いずれ社会人になれば自由にインターネットを使うようになるのだから、その前にどんなサイトにアクセスしてはいけないか、自分で判断する力を養う方が大切ではないか、という意見だ。

●疑似掲示板を利用しての指導

 学校での対応はどうかというと、東京都北区赤羽台西小学校主幹で『親と子のインターネット&ケータイ安心教室』(日経BP社刊)という著書もある野間俊彦さんによると「対応は自治体によって違います。サーバー自体にソフトを導入しているところもあれば、敢えて入れていないところもあるし、そういうソフトがあること自体知らないところもあります」ということだ。

 いずれにせよ、ただ物理的に危険なサイトへの接続を遮断するだけではなく、子どもにインターネットを使うことの危険を良く理解させ、自分で判断できるだけの知識をもたせることは最低限必要だろう。その前に、親や教師がインターネットの危険な側面についてよく認識しておくべき事は言うまでもない。そして、家庭でインターネットを使わせるならば、使う時間などについてよく話し合い、子どもがインターネットを使う際の決まりを決めておくのがいいだろう。

 今回の事件で話題になった、チャットや掲示板についても付き合い方をよく考える必要がある。よくいわれるように、こうしたメディアは人と対面せず文字のみのやり取りになることから、面と向かって口には出さないような感情が出てしまい、悪口の応酬に陥りやすい。

 野間さんの学校では、「疑似掲示板で、教師同士のやり取りを生徒に見せます。わざと悪口を書き込んだりして子どもに普段の会話とは違うことを理解させます」という。また他の学校では、パソコン室のLAN内のみで生徒に疑似チャットを体験させる取り組みをしている。「ある程度時間が経つと『ばーか』と書く児童が必ず出てきます。そこで教師が匿名で煽るような書き込みをすると、完全にバトル状態になる」。そのあと、小さなすれ違いが大きなトラブルになることを説明するのだという。

「佐世保の事件があってから、他の学校や教育委員会からたくさん見学の申し込みがあります」と野間さん。「事件は不幸なことでしたが、情報モラルという言葉が広がり、教師も保護者がきちんとした認識をもつきっかけになったかもしれません」という。

 文部科学省では2005年度末まで公立学校の教員全員がITを活用した授業ができることを目標としているが、最近の調査によればまだ60%にしか達していない。教師や親自身がインターネットを活用することができなければ、その危険性について子どもに説明することは難しいだろう。子どもとインターネットの付き合いを考えるためには、まず親や教師がインターネットについて良く理解することが現状ではまず必要だ、といえるだろう。

執筆:堀内一秀 イラスト:Yoko Tanaka

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